第二十八章 深田の過去
哲太は、もう一度、深田源一郎のもとを訪れた。今度は、深田自身の過去について、詳しく尋ねるためだった。
「あなたは、なぜ、裏社会の仕事に足を踏み入れたんですか」
深田は、しばらく黙って、窓の外を見つめていた。
「若い頃、俺自身も、あの病院に近い場所にいたことがある」
「それは、どういう意味ですか」
「俺の兄が、かつて、聖嶺会メンタルセンターに入れられていた。労働運動をしていた友人を庇っただけで、『問題のある人物』とされてな」
「それは……」
「兄は、結局、その病院で亡くなった。俺はその時、まだ若く、無力だった。金も、権力も、何もなかった。だから、俺は、力を持つことにした。どんな手段を使ってでも」
「それで、裏社会に」
「ああ。そして、皮肉なことに、力を持ってからも、俺は、あの病院のシステムを、完全には壊せなかった。むしろ、その一部として、利用する側に回った時期もある」
「なぜ、修司さんに協力したんですか」
「修司と出会ったとき、俺は、初めて、自分と同じ怒りを抱えている人間に会った気がした。あいつは、俺と違って、暴力じゃなく、記録と証言で、システムを崩そうとしていた」
深田は、遠くを見つめるような目をした。
「俺は、修司のやり方に、賭けてみたくなった。俺自身がやれなかったことを、あいつなら、やれるかもしれないと思って」
「今も、その気持ちは」
「変わらない」深田は、はっきりと言った。「だから、お前が来たとき、俺は、迷わず本当のことを話した。修司の息子になら、賭けてもいいと思ったからだ」




