第二十五章 病院の外の患者
富山との面談を終えたあと、哲太のもとに、思いがけない連絡が入った。かつてこの病院に入院していたという、一人の女性からだった。
「山本さんですね。少しだけ、お話しできますか」
都内の喫茶店で待っていたのは、五十代半ばの、落ち着いた雰囲気の女性だった。
「私は、十年前まで、聖嶺会メンタルセンターにいました。今は、退院して、外で暮らしています」
「今回の件について、何かご存知なんですか」
「私たち、退院した元患者の何人かで、緩やかに連絡を取り合っているんです。中にいる人たちを、外から支える形で」
「外から、というのは」
「弁護士への連絡、報道機関への情報提供、そして――今回のことが起きる前から、ある準備をしていました」
「準備、とは」
「山本修司さんが遺した記録を、いつか正式に公開するための、法的な下準備です。証拠の保全、証言者の確保、そして、しかるべきタイミングで、外部に発信するための体制」
哲太は、驚きを隠せなかった。
「では、今回のクーデターは、あなた方が計画したものなんですか」
「いいえ」女性は、はっきりと首を振った。「私たちは、中の人たちが動くとは、正直、思っていませんでした。今回のことは、私たちにとっても、想定外です」
「じゃあ、誰が、きっかけを」
「分かりません。でも――」女性は、少し声を落とした。「最近、私たちのグループに、一人、若い人が加わりました。名前は明かせませんが、とても熱心で、修司さんの記録に強い関心を持っていました」
「その人が」
「断定はできません。でも、もし、中の患者さんたちに何かを伝える手段があったとすれば、その人物が、一番怪しいと思います」




