第二十三章 富山紘一
哲太は、政治部の元同僚を通じて、富山紘一への単独インタビューを申し込んだ。異例なタイミングでの申し込みだったが、驚いたことに、富山の事務所は、迅速に応じた。
都内のホテルの一室で、哲太は富山と対面した。六十七歳という年齢を感じさせない、鋭い眼光の持ち主だった。
「聖嶺会メンタルセンターの件について、伺いたいことがあります」
哲太が切り出すと、富山は、わずかに口元を歪めた。
「山本修司くんの、息子さんか」
「父をご存知なんですか」
「もちろんだ。優秀な記者だった。惜しい男を亡くした」
「父が調べていたことについて、何かご存知ですか」
富山は、しばらく黙って哲太を見つめたあと、静かに言った。
「君は、この事件の黒幕が誰だと思っている?」
「まだ、分かりません。でも、あなたが、二十年前のある会議に出席していた記録があります」
富山の表情は、変わらなかった。だが、その沈黙の質が、わずかに変化した。
「私が、この件の黒幕だと?」
「違うんですか」
「違う」富山は、はっきりと言った。「私は、確かに、あの病院の一部の人間と、関わりがあった。だが、私が全てを仕組んでいたわけじゃない」
「では、誰が」
「それが、この件の一番厄介なところだ」富山は、窓の外に目をやった。「誰か一人が、糸を引いていたわけじゃない。政治家、行政、病院、裏社会――それぞれが、自分たちの都合で、あのシステムを利用していただけだ」
「あなたも、その一人だった、ということですか」
富山は、否定しなかった。
「私は、当時、まだ若手の議員だった。この病院がある地域が、私の選挙区だった。地元の有力者から、ある人物を『処理』してほしいと頼まれた。そのとき、あのシステムの存在を知り、利用した。それだけのことだ」
「その『ある人物』とは」
「今は言えない」富山は、静かに言った。「だが一つ、忠告しておく」




