第十七章 深田の「逃がした」
「じゃあ、父が死んだ十五年前は」哲太は、震える声で尋ねた。「あなたは、その時、何をしていたんですか」
深田は、深く息を吐いた。
「あの時も、俺は修司から連絡を受けていた。『今度こそ、本当に危ない』と」
「本当に危ない、というのは」
「修司は、二十年前の一件のあと、調査をやめなかった。むしろ、より慎重に、証拠を集め続けていた。そして十五年前、その証拠が、ある一線を超えるところまで来ていた」
「どんな証拠ですか」
「P-0というシステムに関わった人間の、完全なリストだ。政治家、行政、病院、そして俺たちの側の人間まで、全部含めた名簿」
哲太は、息を呑んだ。
「そのリストは、今」
「分からない。修司は、俺に助けを求めてきた。もう一度、お前を、今度は完全に安全な場所へ逃がしてほしい、と」
「僕を?」
「お前は、当時すでに大人になっていた。記者として働き始めていた。だから、今度は『逃がす』というのは、物理的な意味じゃない。修司は、お前を、この事件そのものから遠ざけたかった」
「それで、どうなったんですか」
深田は、苦い顔をした。
「俺が動く前に、修司は死んだ。心不全と発表された。だが、俺は今でも、それが自然死だとは思っていない」
哲太は、拳を握りしめた。
「じゃあ、父は」
「殺されたのか、と聞かれれば、俺には分からないとしか言えない。だが、あの死に方は、あまりにタイミングが良すぎた」
深田は、煙草を消しながら、低く付け加えた。
「一つだけ、確かなことがある。修司は、最後まで、お前にこの件を知らせたくなかった。お前を巻き込みたくなかった」
「それなのに、今、僕はここにいる」
「ああ」深田は、皮肉げに笑った。「皮肉なものだな。守ろうとすればするほど、真実は、いつか本人のところに戻ってくる」




