第十五章 患者になる予定だった少年
その日の夕方、哲太は再びビデオテープを見返した。今度は、映像に映っていた白衣の男の顔を、可能な限り拡大し、静止画として書き出す作業を、波多野と共に行った。
「この解像度では、断定は難しいですが」波多野が、慎重に言葉を選んだ。「体格と、白衣の着方の癖から見て、僕の父である可能性が、ないとは言えません」
「波多野先生のお父様が、僕を……」
「まだ断定はできません。でも、可能性としては」
波多野の表情は、苦しげだった。哲太は、その様子を見て、あえてそれ以上は追及しなかった。
映像の中の少年――かつての自分は、白衣の男と何かを話したあと、ふいに立ち上がり、中庭の奥へと歩いていった。カメラの画角の外へ消える、その直前、少年は一瞬だけ振り返った。
その表情は、怯えているようにも、何かを覚悟しているようにも見えた。
「僕は、この時、何を分かっていたんでしょうか」
「おそらく」陽子が言った。「あなたは、自分が『患者』にされようとしていることを、うっすらと察していました」
「察していた、けれど……忘れた」
「忘れさせられた、が正確な言い方かもしれません」
哲太は、その言葉に、鈍い痛みを感じた。
「誰が、僕の記憶を?」
「それも、まだ分かりません。でも」陽子は言った。「一つだけ、はっきりしていることがあります。あなたのお父さんは、あなたが正式に『P-0』として記録される前に、あなたをこの病院から連れ出した」
「連れ出した、先は」
「そこで、深田源一郎の名前が出てきます」




