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患者たちは逃げなかった  作者: キロヒカ.オツマ―


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第十四章 P-0候補

「P-0候補、という言葉の意味を、もう少し詳しく説明します」


 波多野が同席する中、陽子は資料室の机に、数枚の書類を並べた。


「P-0という符牒は、先ほど話した通り、患者というカテゴリーに人間を押し込める仕組み全体を指します。そして『P-0候補』というのは、その仕組みに巻き込まれかけている段階の人間を指す言葉でした」


「巻き込まれかけている、というのは」


「正式に入院措置が取られる前段階、ということです。まだ書類上の手続きは完了していない。でも、いつでも完了させられる状態にある――そういう人間に、この符牒が付けられました」


 波多野が、書類の一枚を手に取った。


「これは……病院の内部会議の議事録の一部ですね」


「はい。二十年前の、六月の会議」


 議事録には、出席者の名前が並んでいた。ほとんどが黒く塗りつぶされている。だが、一箇所だけ、塗りつぶしが薄く、うっすらと文字が透けて見える箇所があった。


 哲太は、その部分に顔を近づけた。


「……ト、ミ、ヤマ?」


「富山紘一」陽子が、代わりに読み上げた。「今、政治家として名の知れた人物です」


「なぜ、政治家がこの会議に」


「それは、まだ話せません」陽子は言葉を選ぶように言った。「今分かっているのは、あなたが『P-0候補』として名前を挙げられ、正式な患者にされる寸前だった、という事実だけです」


 哲太は、拳を握りしめた。


「なぜ、僕なんですか。まだ十代だった僕を、なぜ」


 陽子は、静かに、しかしはっきりと答えた。


「あなたを人質にすれば、お父さんは調査をやめる。そう考えた人間がいたからです」

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