第二部 哲太の過去 第十一章 少年時代の映像
地下保管庫の奥、他の棚とは別に鍵のかかった小さなロッカーがあった。陽子はその鍵を、自分の首から下げていた紐から取り出した。
「これも、まだ見せるべきか迷ったものです」
ロッカーの中には、古いビデオテープが数本、ラベルも貼られずに並んでいた。波多野が、施設に唯一残っていたという旧式のデッキを地下の資料室に運び込み、その一本を再生した。
ノイズ混じりの画面に映し出されたのは、この病院の中庭だった。今よりずっと若い木々、今はもう撤去された古い噴水。そして、そのベンチに座る、一人の少年。
哲太は、息を呑んだ。
顔立ちはまだ若いが、間違いない。あれは自分だ。十七歳か、十八歳の頃の自分。
「これは……いつの映像ですか」
「二十年前の、六月」陽子は静かに言った。「この病院の防犯カメラの映像です」
映像の中の少年は、誰かと話しているようだった。カメラは音を拾っていない。だが、少年の隣には、白衣を着た男が座っていた。その顔は、映像の粗さのせいで判然としない。だが、体格や仕草に、見覚えがある気がした。
「隣にいるのは」
「分かりません。この映像だけでは」波多野が眉をひそめた。「でも、記録によれば、この時期、この病院に出入りしていた白衣の人間は限られています」
哲太は、画面の中の少年――かつての自分――を見つめ続けた。記憶にはまったくない光景だった。だが、映像の中の少年の表情には、奇妙な既視感があった。怯えているのでも、楽しんでいるのでもない。ただ、何かを、じっと待っているような顔。
「私は、なぜこの病院にいたんですか」
陽子は、答える代わりに、テープを止めた。
「答えは、まだ他の記録の中にあります。焦らないでください」
だが哲太の頭の中では、もう歯止めが利かなくなっていた。二十年前、自分はこの病院にいた。そして、その記憶が、綺麗に消えている。
これは、単なる忘却ではない。
何者かが、意図的に消したものだ。




