表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

魔法はある!!

俺はいま、牢屋にいる。

でも不思議と、そこまで絶望していなかった。

むしろ、少しだけテンションが上がっている。


魔法を見た。

あれは本物だった。


それだけで頭の中がいっぱいだった。


でも、それだけじゃない。

あの時、俺は助けてもらった。


あのままなら死んでいた。

何も分からないまま、あの森で終わっていた。


それなのに今、生きている。


その事実が、遅れて胸に来ていた。


(助けられたんだ……俺)


魔法への興奮と、よく分からない感謝が、同時に残っていた。


少し前のことを思い出す。


俺はすごい広い王宮みたいな場所で、すごい数の騎士に囲まれていた。

その中心には、偉そうな男がいた。


多分あれが王だ。

騎士の数的にも、空気的にも、それで間違いないと思う。


俺はとりあえず何か言おうとした。

助けてくれたことへのお礼くらいは言うべきだと思ったからだ。


でもその時には、体はとっくに限界を迎えていた。


足の痛みと熱っぽさが一気に戻ってきて、視界が揺れた。


「……っ」


そのまま王の前で倒れた。


次に目を開けた時、誰かに体を触られていた気がする。

何か苦いものを飲まされたような記憶もある。


正直、その辺は曖昧だ。


そしてもう一度目を開けた時には、ここにいた。


牢屋。


でも体の調子は明らかに良くなっていた。

あれほど痛かった足も、今は普通に動く。


(治ってる……?)


少し怖くなって、無理に動くのはやめた。


しばらくして看守らしき人がやってきて、俺を見たあと、何かを別の人に伝えた。

その時点で、少し違和感はあった。


(ん……?)


嫌な予感というほどではない。

でも、何か噛み合っていない感じ。


気づけばいつの間にか、食事が置かれていた。

パンだ。


食べてみると、普通にうまい。


それから俺はもう一度、王の前に連れて行かれた。


今度こそちゃんとお礼を言おうと思った。


「た、助けていただいて……ありがとうございます!」


言えているかどうかも分からない。

でも精一杯だった。


あの小さい子供ではなかったが、雰囲気的にその親だろう。


この人たちに助けられたのは間違いない。

体調も足も、ちゃんと戻っている。


でも、返事がない。


周りの騎士たちは少し戸惑ったような顔をしている。


王は表情を変えないまま、何かを言った。

言葉はまったく分からなかった。


(そうか……異世界の言葉が分かる特典とかはないのか)


そんなことをぼんやり思う。


すると王は小さくため息をつき、もう一度何かを言った。

そして――


俺は連れて行かれた。


牢屋に戻されるのかと思った。


だが違った。


連れて行かれたのは、拷問部屋のような場所だった。


壁には古い血の跡。

工具のようなもの。

空気が重い。


(……え?)


俺は固まった。


助けてもらったはずだよな?

ここで死ぬのか?


そんな考えが頭をよぎる。


そこへ、拷問官らしき男が入ってきた。

何かを言っている。当然分からない。


俺は必死に伝えようとした。


「た、助けてくれてありがとうございます!」

「俺、何もしてないです!」

「本当に何もやってなくて……!」


言い訳なのか感謝なのか分からないことを口にしていた。


そして――


拷問が始まった。


最初は痛みだった。

だがそれより先に、別のものが頭に入ってきた。


(……魔法?)


拷問官の手の先で、火が生まれた。

俺の指が焼かれる。


「っ……あああっ!」


痛い。

めちゃくちゃ痛い。


それなのに――気づいたら、俺は笑っていた。


指は痛い。

体も痛い。


でもそれ以上に、興奮が勝っていた。


(魔法はある)

(この世界、本当にある)


その様子に気づいた拷問官は、少しだけ目を細めた。

何かを考えるような顔をしたあと、俺は何も言われないまま牢へ戻された。


それからしばらく、俺は牢の中でぼんやり過ごしていた。


痛みはある。

空腹もある。

状況は最悪のままだ。


それでも頭の中は別のことでいっぱいだった。


(もう一回見たい)


あの火。

あの現象。


魔法。


気づけば、意味も分からない言葉を小さく口にしていた。


当然、何も起きない。


それでもやめなかった。


そんな時だった。


足音がした。


顔を上げる。


あの時の子供が立っていた。


息を切らしている。

肩が上下している。


俺は反射的に立ち上がろうとして――


「っ……!」


痛みで膝をついた。


それでも、伝えたかった。


「……あ、ありがとございます!」


言葉は通じない。

それでも、それだけは言いたかった。


何度も頭を下げる。


「助けてもらって……ほんとに……」


相手は少し困った顔をしていた。


やっぱり伝わっていない。


それでも、何かを言い残してそのまま去っていく。


俺は一人、牢の中に残された。


(まあ……そうか)


でも、不思議と嫌な気持ちはなかった。


その日も、俺は意味のない呪文みたいなものを口にしていた。


今日も魔法、見れるかな。

そう思った。


あの痛みのことは、不思議とあまり気になっていなかった。



それから数日。


時間の感覚はもう曖昧だった。

朝も夜もはっきりしない。


ある日、またあの子供が来た。


今度は一人じゃない。


誰かを連れている。


騎士とは違う。


(魔法使い……?)


そんな期待が一瞬だけ浮かぶ。


その人物は、懐から何かを取り出した。


小さな虫のようなもの。


俺は少し身構える。


(また拷問か?)


だが違った。


その人物は、壁に毛皮のようなものを貼りつける。

そして虫のようなものを押し当てた。


すると黒い線が描かれていく。


(ボールペンみたいなものか?)


だが違う。


インクでも、筆でもない。


それなのに、はっきりと形が生まれていく。


見たことのない模様。


でもただの模様じゃない。


(これ……意味がある)


やがてそれが「並び」だと気づく。


文字だ。


そこでようやく理解した。


(ああ、そういうことか)


拷問じゃない。

殺すためでもない。

試しているわけでもない。


これは――


俺にこの世界の言葉を教えようとしている。


今までの違和感が、少しだけつながった気がした。


(言葉が通じないからか……)


この世界の中で、俺という存在をどう扱うか決めかねている。


そんな気配もあった。


俺は壁に浮かぶ線を見つめる。


分からない。

でも、目を離せなかった。


ここから何かが始まる気がした。

ご覧いただきありがとうございます。少しでも続きが気になったら、ブックマークや下の☆から評価をいただけると嬉しいです。執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ