表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

洗礼

俺はウェルのことを考えていた。


なぜ助けたのか。


なぜ庇ったのか。


何を考えているのか。


考えれば考えるほど分からなくなる。


気付けば少しのぼせていた。


「……出るか」


俺は湯船から上がった。


さて、体を拭こう。


そう思って周囲を見る。


――ない。


拭くものがない。


俺が首を傾げていると、近くで一人の中年男が風呂から上がった。


男は濡れたまま服を着る。


そしてそのまま去っていった。


「えぇ……」


思わず声が漏れる。


服から水が垂れている。


びしゃびしゃだ。


体は洗わない。


濡れた体も拭かない。


そういう文化なのか?


異世界、思ったよりワイルドだった。


「まあ、俺もこれから住むんだしな……」


慣れなければならない。


そう思いながら自分の籠へ向かった。


そして固まる。


「……あれ?」


服がない。


もう一度確認する。


やっぱりない。


俺の制服が消えていた。


「え?」


思考が止まる。


なぜ?


別に高価な服じゃない。


だが街を歩いていた時を思い出す。


革の服。


布の服。


そんなものばかりだった。


俺の制服はかなり珍しかった気がする。


だから盗まれたのか?


俺は慌てた。


とりあえず何か着なければ。


近くにあった服を手に取る。


着てみる。


小さい。


めちゃくちゃ小さい。


無理やり着たせいで濡れた体の水が移った。


俺は何事もなかったように、そっと元へ戻した。


「よし」


よくない。


全然よくない。


俺は急いで入口近くにいた護衛を呼んだ。


監視役の騎士だ。


「おい!」


騎士が近付いてくる。


「どうした?」


俺は裸のまま言った。


「服が盗まれた」


数秒の沈黙。


そして騎士の肩が震えた。


笑いを堪えている。


絶対笑ってる。


「……着る物を買ってきてやる」


そう言い残して騎士は去っていった。


「いや、監視役なのに離れるのかよ」


思わずツッコむ。


だが考えてみれば当然だった。


裸の俺はどこにも逃げられない。


監視する必要すらない。


そういう判断なのだろう。


納得はしたくないが納得した。


しばらくして体が乾いてきた。


その頃になって気付く。


普通にタオルはあった。


後から出てきた客達がタオルで体を拭いている。


「……」


さっきのおっさんが変だっただけか。


俺は遠い目をした。


どの世界にも変な人間はいるらしい。


まあ今の俺も裸で椅子に座っている。


十分変な人間だった。


そんなことを考えていると、護衛が戻ってきた。


服を抱えている。


「ほら」


投げ渡された服を受け取る。


少し小さい。


だが着られないほどではない。


「ありがとう」


素直に礼を言う。


服を着終えたあと、俺は気になっていたことを聞いた。


「なあ、黒い制服見てないか?」


「制服?」


「俺が着てたやつ」


護衛は首を振った。


その時だった。


近くで話を聞いていた、服の胸元が少し濡れた男が口を挟んできた。


「それなら子供が持っていったの見たぞ」


「え?」


「貴重品でも入ってたんじゃねぇか?」


男は笑う。


「この辺じゃよくあるから気を付けなきゃ駄目だぞ」


俺は呆然とした。


そして思い出す。


ウェルから貰った金だ。


温泉代として渡された小さな袋。


あれも制服のポケットに入れたままだった。


「……マジか」


服だけじゃない。


金まで消えている。


異世界に来て初めて貰った金だ。


本当に盗まれているらしい。


隠されたとか、そういうレベルじゃない。


盗難だ。


前の世界で靴をゴミ箱に隠されたことはある。


だが盗まれたことはない。


地味にショックだった。


「探してくる」


俺は立ち上がる。


だが護衛が止めた。


「待て」


「ウェルライト様がもうすぐ戻る」


「それまでここにいろ」


「でも服と金が――」


「待て」


有無を言わせない声だった。


俺は渋々座り直す。


早く探したい。


だが探せない。


妙にもどかしい。


結局、諦めるしかなかった。


暇になった俺は護衛へ視線を向ける。


「そういえばさ」


「お前、名前なんて言うんだ?」


護衛は少し考えた。


「俺か?」


数秒迷ったあと答える。


「レオン・バルカン・フォン」


「長いな」


「バルカンでいい」


案外あっさり教えてくれた。


まだ怪しまれていると思っていたのだが。


もしかすると服を盗まれたせいで、少し警戒が下がったのかもしれない。


「ありがとう」


俺は頷いた。


「俺の名はデス・ジェネシスだ」


「知ってる」


即答だった。


「王の前で堂々と言ってただろ」


それもそうだった。


そんな馬鹿みたいな話をしていると。


温泉の入口からウェルが戻ってきた。


両手いっぱいに紙袋を抱えている。


中には食べ物が入っているらしい。


いい匂いが漂ってきた。


腹が鳴る。


ウェルはそんな俺を見て笑った。


そして袋の中から一本取り出す。


「一個食べる?」


いい匂いがする。


腹も減っている。


普通なら飛びついていた。


だが俺は少しだけ警戒した。


(いや待て)


(異世界だぞ)


(変な薬とか入ってないよな?)


さっきまで少しだけ信用しかけていた。


だが、それとこれとは別だ。


ウェルは不思議そうな顔をしている。


俺は数秒悩んだ末に口を開いた。


「……毒とか入ってないよな?」

ご覧いただきありがとうございます。少しでも続きが気になったら、ブックマークや下の☆から評価をいただけると嬉しいです。執筆の大きな励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ