21話 下山
「? 何だこれ? 」
零は今、竜の肉を食べてる途中だった。
竜の肉は鬼の肉の何倍も柔らかくて食べやすい。しかも、空気が薄いせいか、腐る気配が全くない。
もしかしたら零の味覚がおかしいだけでとっくに腐っているかもしれないが、今の零にはそんな事はどうでもよかった。
それで零は竜の肉をどんどん食べ進めていった。
そして、竜の肉を半分程食べ終わった頃だろうか、竜の心臓辺りから赤くて大きな石が出てきた。
大きさはだいたい50センチ程だ。
「これはもしかして魔石ってやつか? 」
よく知らないがこの世界の魔物の体内には石があり、その石は魔石と呼ばれていると本で読んだ記憶がある。
もっと詳しく言えば魔石には魔力が詰まっており、そこに人間の魔力を注入すれば魔力が暴発し、その魔石が持ってる属性の魔法が発動する仕組みになっており、威力は魔石の大きさに比例する。
言わば魔法版グレネードみたいな物だ。
「まぁ、ここで魔力を注入しても大爆発を起こすだけだからほっといていいか」
零は魔石に全く興味が無いらしい。
何週間かが経ち、竜は骨と魔石だけになっていた。
「さて、食料もなくなったし、そろそろ移動するか」
零は山を下ろうとするが、狐に道をはばまれた。
「? どうしたんだ? 」
そう聞くと狐は零の向かおうとしていた反対方向を向いて鼻をひくひくさせる。
「こっちに行けって言ってんのか? 」
狐は零の言葉に頷く。
前々から思っていたが、この狐は強すぎるし、人間の言葉を理解している様に感じる。
明らかに普通の狐とは違うところが多すぎる。
その事を零はずっと考えていたが、別に自分に害になることはして来ないし、むしろ何度も助けてもらっている。
なので結構この狐には仲間意識ではないが、そう言うものが零の中では芽生えている。
「よし、お前の名前は狐盂だ」
「…………? 」
何故か名前を付けたくなった。
これは一人暮らしの人がぬいぐるみとかに名前を付ける心情と同じ様な気がする。ーーこの場わいはペットに名前を付ける方があっているが。
零は何となく狐盂の頭を撫でてみる。
「クゥ………… 」
すると、気持ちよさそうに目を細め、吐息をこぼす。
零は照れ隠しのつもりか、勢いよく立ち上がると、狐盂が行けと言った方向へ向かった。
山を下るのは山登りよりも楽だった。
この山は普通の山よりも急斜面なので、思いっきり前方へジャンプするとそれだけで100メートルは進める。
それを何十回か何百回繰り返せばそれだけであっという間に山のふもとだ。
山を下り終わって休憩をしていると、気配探知に何かが引っかかった。
数は14で大きさは1.5メートル位だ。
その奥からまた1つ一際大きな気配が近づいてきた。きっとコイツが群れの長だろうが、これで数が15になった。
零は気配がある方向を慎重に見ると、犬がいた。もちろん額には角が生えている。
だが、その鬼はどこかで見覚えがあった。
(あぁ、思い出した)
思い出した。あの鬼犬は零が洞窟に入る前に狐盂が一瞬で肉塊にした鬼だ。
この鬼犬は本来群れで行動するのだろうが、あの時は運悪く仲間とはぐれたのか、それとも捨てられたのか分からないが、あの鬼犬は不運としか言いようがない。
どっちみち、鬼犬は群れる事で本来の力を発揮するのだろうから、警戒するに越したことはない。
だが、数が数だけにまともに戦ったら勝機は薄そうだ。
(だったらこれでどうだ? )
零は黒刀に黒炎を木刀に紫雷を纏わせーーここでも得体の知れない違和感があるーー気配殺しを発動する。
そして、音も立てずに飛び出すと、鬼犬の脊髄にぷすりと黒刀を一刺し。
零は刀を抜く時間も忌々しそうに、素早く木刀を他の鬼犬に押し当て感電させ、そのうちに抜いた刀を勢いに任せて振りかぶり、鬼犬の頭と胴を離れ離れにする。
鬼犬は仲間が突然死んでいくのにも気が付いていないようだ。
そんな事には目もくれず、今さっき鬼犬の頭と胴を離れ離れにした刀を地面に突き刺し、突き刺した刀をぐっ、と自分の体に引き付ける様に力を入れ、短時間で加速すると、その先に居る鬼犬に向かって木刀を思いっきり叩きつける。
ゴキッと木を折った様な音が響き、鬼犬の首がありえない方向に折れ曲がる。
零は地面に突き刺さった刀を逆手で抜き、思いっきり跳ぶ。
狙いは鬼犬の長だ。
数十メートルからの自由落下により、速度と勢いが増していき、あと少しで鬼犬の長を倒せると思ったら、別の鬼犬が鬼犬の長に体当たりをする。
(リーダー思いな奴だなぁ)
体当たりをした鬼犬はそのまま黒刀によって心臓を穿たれたが、鬼犬の長はまだ生き残っている。
(もうちょっと倒せると思ったんだが、これが限界か…… )
ともかく、これで敵の数が10になった。
やっと零を認識出来た鬼犬は零の周りをぐるりと囲む。
「バウッ 」
鬼犬の長が吠えると3匹の鬼犬がタイミングを少しずらして襲いかかってきた。
「はっ」
零はそれを鼻で笑いながら蹂躙する。
鬼犬の長は忌々しそうに零を見ると、またバウッと吠える。
今度は3匹同時に襲いかかってくるが、零は黒刀を両手で持ち、1回転。
額に深い傷を負った鬼犬は黒炎により灰と化す。
これで残るは4。
残る4匹はどう攻めれば良いのか考えているのか全く動かない。
「だったらこっちから行くぞ」
零は縮地を使い、寸分の狂いも無く鬼犬を斬り裂く。
数週間前に鬼熊と戦った時より縮地の使い方が格段に上手くなっている。
零とてこの数週間、ただ竜の肉を食べていた訳ではない。
これまでに取得した能力をできる限り使いこなそうと努力していた。
その結果がここでも実を結んでいる。
つまり、何が言いたいかと言うと、努力は大事と言う事だ。
零は続け様に縮地を使い、2匹の鬼犬を葬る。
「あとはお前だけだ」
残った鬼犬の長は零を殺せそうな程鋭く睨みつけ、ワオォォンと遠吠えを1つ。
零はその遠吠えを聞きもせず、最後の鬼犬を灰にした。




