20話 竜退治
10メートルはあろうかと言う黒竜はどうやら眠っているらしい。
零はそれを起こさないように近づきながら、どう倒せばいいか観察する。
黒竜の肌は大きな鱗で覆われており、零の持っている刀では斬れそうに無い。
と、なれば、生物の一番柔らかい所は粘膜と言われてるので、口の中か、目を攻撃する事になるが、竜といえば息吹を吐くと相場が決まっている。口を攻撃するのはやめた方がいいだろう。
「………… 」
ある程度まで近づくと、むくっと竜が起き上がった。
そして、黄金の眼で零を確認すると、黒竜に似合わない「キャウーーーーーーーーー!!! 」という女性の悲鳴と黒板に爪を立てる音を混ぜた様な、鼓膜が破れるほど高い鳴き声を出す。
「う!? 」
零の鼓膜が破れたが、不死の能力ですぐさま鼓膜が張り替えられる。
だが、大気が耳の奥を撫でる不快感に零は顔をしかめる。
黒竜はそれを待っていたと言わんばかりに炎の息吹を吐く。
「危ねぇなぁ」
零は息吹を縮地で避けると、余裕の表情でこう言った。「結構簡単に避けられるな」
息吹が当たった場所を見てみると、岩や土が溶けて溶岩の様に赤くなっている。
たとえ炎無効がある零でも、当たったらひとたまりもないだろう。
だが、それは当たればの話だ。今の様に零は息吹を簡単に避けることが出来る。つまり、当たらなければどうということはないと言う事だ。
黒竜は、獲物が自分の息吹を避けたと認識すると、また、間髪入れずに息吹を吐く。
「はッ 」
零はそれを鼻で笑いながら黒竜の背後へ縮地で移動する。
そして、身流を使い、10メートルはあろうかと言う高さを軽々と跳び、黒竜の頭の上に乗る。
黒竜は何かが頭の上に乗っていると、頭を振って落とそうとするが、なかなか落ちない。
もどかしいと、頭を地面に擦りつけ突然右目に激痛が走る。
「キャウーーーーーーーーーー! 」
大声を出してもその激痛は無くならない。
しかも、時間が経つにつれて痛みは大きくなる。
黒竜は何もかもが痛みに塗り替えられ、今自分がされている事も、自分がこれからどうなるかも分からなくなる。
「キャ…………ゥゥ…………………… 」
やがて、黒竜は弱々しい声をあげて地面に倒れ込んだ。
そして、最後に残ったのは黒竜の死骸の上に乗っている白髪頭の少年と、それをずっと見ていた赤目の狐だった。
「はッ 」
白髪頭の少年、宮本零は自分が倒した黒竜の死骸を見てこう吐き捨てた。
「強いのは息吹と見た目だけかよ」
零は今、黒竜をどう食べればいいか考えていた。
体全体は黒い鱗で覆われている。見た目的には俺はすげぇ硬いぞッ!みたいな顔をしているが、案外柔らかいかもしれない。
試しに蒼いナイフを鱗に刺してみる。
このナイフはどうせ髪を切るのにしか使わないし、刃こぼれが酷い。つまりは使えない子だ。
今頃どうなろうと関係ない。
だが、多少の愛着があるので、出来れば壊れて欲しくない。
滅茶苦茶考えが矛盾しているが、人間はそう言うものだろう。
零は身流を使い蒼いナイフに魔力をガチガチに纏わせて、ついでに腕にも魔力を流しておく。
そこで零はある違和感を覚えた。鬼豹と戦った時、空中を蹴った時に感じた違和感と同じ、魔力とは違うものを使っている感覚だ。
「はッ! 」
そんな違和感をよそに、零は勢いよく蒼いナイフを振り下ろした。
すると、音も立てず蒼いナイフが黒い鱗に刺さった。
「はぁ!? 」
「…………! 」
まさか刃こぼれしているナイフが俺はすげぇ硬いぞッ!みたいな顔をしている鱗をいとも簡単に刺さるとは思ってなかったので、変な声が出てしまった。
どうやら狐も驚いているようだ。
とりあえず、この鱗は見た目よりも柔らかい事が分かったので、黙々と鱗を剥いでいく。
十分に鱗を剥いだら肉を適当な大きさに切り、いつも通り生のままで食べる。
身流を解いたら何故か物凄い脱力感があった。
『能力《炎無効》が《炎無効・極》に強化されました』
頭の中で無機質な声が響く。
「炎無効・極か、なんか凄そうだな」
零は適当な感想を言って、腕に黒炎を纏わせる。
「これでまた腕が焼けるとかは無いよな」
そんな零の心配は杞憂に終わった。黒炎を10分間纏わせても腕は焼けなかった。
零はこれで遠慮なく黒炎を使えると上機嫌になりながら黒竜の死骸を見る。
「それにしてもデカイな、こいつ。これなら数週間分の食事はまかなえるかな」
零は当分ここで暮らすことを決めた。




