12話 鬼蛇
「ぐッ…… !? 」
零は締め付ける様な痛みにより、強制的に意識を覚醒させられた。
目を開けると、真っ暗な森が広がっていた。そして、目の前には黄色く光る爬虫類の眼が2つ。
その黄色い眼の下には細く二股に分かれた舌がチロチロと動いている。
二股に分かれた舌からはシャー、と生臭く鋭い息が吐き出される。
その黄色い眼の持ち主の体は物凄く細長いーー細長いと言っても胴の直径は50センチ程ーー全長20メートルはありそうだ。
そう、蛇だ。
だが、その蛇には額には角が1本。
そう、鬼だ。鬼蛇だ。
その鬼蛇は、零の体に巻き付いており、ギリギリと零を引きちぎらんとばかりに締め付ける力を強めて来る。
そして、零の体からボキボキッと嫌な音が響く。
「くそがッーーーー! 」
零は鬼蛇を認識すると、すかさず悪態を吐きながら紫雷を暴発させる。自分にも即死級のダメージを負うがそんな事は関係ない。今はこの鬼蛇を倒す事が最優先だ。
「グシャーーーーーー!? 」
鬼蛇は白い煙出しながら叫び声を上げる。そしてーーーー黄色い眼を細め、ニタァと笑った。
「ッ! 効いてない……? 」
そう、零の怠惰の雷が全くと言っていいほど効いていないのだ。
これは、鬼蛇に雷耐性の能力があったからではないだろう。
少し考えればわかる事だ。最初に食べた鬼、鬼狼の肉は紫雷で焼ききるのに20分は掛かった。だが、その肉を食べても何の能力も取得しなかった。即ち、零の考察が正しければ鬼狼は何の能力も取得して無かった事になる。
ということは、鬼は雷耐性が無くても20分とは言わずとも10分程は怠惰の雷を耐えられるということだ。
ニタァと笑った鬼蛇は毒牙の付いた大きな口を開け、これでトドメだと言わんばかりに零の首筋にガブリと噛み付いた。
「ぐぅッ………… 」
すると、噛み付かれた部分が紫に変色し、血管が浮き出て来た。
それが首筋から全身にジワジワと広がり、耐え難い苦痛に襲われる。そして、10秒もしないうちに体が自由に動かせなくなり、指先や足先といった体の先端がボロボロと崩れ落ちて来た。
だが、崩れ落ちた先から再生していく。しかし、再生と言っても強力な毒が回っているせいか、またボロボロと崩れ落ちる。
つまり、崩れる→再生する→崩れる→再生するの無限ループと言う事だ。
その間にも鬼蛇の締め付ける力は強くなる一方で、零の体からはバキバキッミシミシッと鳴ってはいけない凄い音が鳴っている。
「し………… ねッ……! 」
零がそう呟いた途端、黒い炎が零もろとも鬼蛇を包み込んだ。
「「ーーーーッーー! 」」
零と鬼蛇は身を焼かれるあまりの痛さに声にならない声を上げてのたうち回る。
零は必死に黒炎を消そうとするが、やはり、炎の魔法を扱い慣れていないのか、それとも憤怒の炎による効果なのかは分からないが、黒炎は消える気配が無い。
そして、自分もあの鬼熊の腕の様に灰も残らず焼き消えるのかと思った瞬間、零の意識と共に黒炎が消え去った。
零は意識を失った。だが、勿論死んだ訳では無い。何せ不死なのだから。では、何故意識を失ったかと言うと、耐え難い激痛と魔力枯渇が原因だろう。
人間は命に関わる痛みを感じると、自身を守る為、意識を失う事がある。
それと、この世界で魔力は生きていくうえで無くてはならないもの、言わば日本で言う生命力と言うものだ。それが完全になくなると最悪死ぬことがある。
この2つが合わさったのだ。普通なら死んでいる。だが、零は不死身だ。だから意識を失う程度で済んだのだろう。
そして、零は激痛により手放した意識を激痛により覚醒させられた。
零はまだ鬼蛇の毒に蝕まれていた。
今もボロボロと指先や足先が崩れ落ちている。心なしか再生の速度が遅くなっているが、それよりも。
(はやく、鬼蛇を喰わないと、死ぬ…… )
そう思い、零は腰のベルトに挟んでいた蒼いナイフを探す。
ベルトに挟んでいたはずの蒼いナイフは、ベルトが黒炎により灰になっている為、もう無いかもしれないが、
「……あっ…………た、ぁ……………… 」
どうやらあったらしい。
零は震える手でナイフを手に取り、匍匐前進で既に骸になった鬼蛇の下に行く。
そして、力を振り絞って鬼蛇の肉を数ミリの大きさに切り分ける。
幸い鬼蛇の鱗は全て灰になっていた為、比較的簡単に切ることが出来た。
零は数ミリの肉片を口に含み、やっとのことで飲み込む。
『能力〈毒無効〉を取得しました』
すると、鋭い痛みと共に頭の中で無機質な声が響いた。
「ぁ………… 」
すると、紫になっていた肌の色が正常に戻り、浮き出ていた血管が消えていき、体が崩れ落ちなくなる。
「あ゛ぁ……凄い楽だ…… 」
だが、再生にはこれまでに無い程ーーそう言っても再生したのは4回程だがーー時間が掛かっている。
(再生に時間が掛かるという事は再生には魔力を使うのか? )
そう思いながら周りを見る。空はまだ暗い。そして、狐がジッとこちらを見ている。
(何なんだよ、あの狐は…… )
零は狐に近づき、頭を撫でてみる。すると、気持ち良さそうに赤い目を細める。
(ホントに何なんだよコイツ)
そして、ふと思った事とを口にする。
「これからどこに行けばいいんだ? 」




