10話 異能②
「そう言えば、半日位何も食べてなかったな」
と、零は腹の虫が鳴いてから気づく。とは言っても、ここには食料になりそうなものは何もない。あの、胴だけの鬼熊を除いては。
すると、零に頬ずりをしていた狐が鬼熊のあるところへ歩いていく。そして、2mはありそうな鬼熊の腕を銜えて、零の前へ、その腕を置いた。まるで、これを食べろと言っているようだ。
「これを食うのか…… 」
少し迷って。
「せめて焼いてから食うか」
そういって、腰のベルトに挟めていた蒼いナイフを手に取り、鬼熊の皮を慣れないながらもはいでいく。
そして、皮をはぎ、その腕に炎を纏わせようとしたその瞬間、黒炎が零の腕を骨も残らず焼き尽くした。
「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーー!!!」
零は余りの痛さに今日何度目かの叫び声を上げる。
零は今、右腕が無い。
だが、不思議なことに、肩から腕が生えてきた。
「ふーッ! ふーッ! 」
粗い息をした後。
「な、何で、うでが、生えて、くるんだ…… 」
全くもって気持ち悪い。こんなの、人間じゃないじゃないか。そう思いながらも鬼熊だった肉の方を見る。
その肉は、黒炎によって今、灰も残らず焼き尽くされたところだった。
零は驚愕のあまり目を見開いた。
零は二日前に炎を纏わせる練習を始めた。その為、威力は全然無かった。恐らく温度は百度程しかなかっただろう。その炎が黒くなり、鬼の肉を焼き尽くしたのだ。驚くのもしょうがないだろう。
話は変わるが、鬼は食料には向いていない。
その理由にもいろいろあるが、第一の理由は肉が焼けないからだ。
鬼の肉を焼くには、金属を溶かす程の熱を与える必要がある。だが、それでも生焼けだったという事は少なからずある。
その鬼の肉を灰も残らず焼き尽くすのだ。この黒炎は相当の威力があるだろう。少なくとも5千度はあると思われる。
しかも、不思議なことに、鬼熊の肉しか灰になっていない。周りにある木々などには燃え移っていないのだ。流石に下敷きになっていた草は燃えているが、それも少しだけだ。
そして、狐を見ると、とても残念そうにしていた。
「クーン…… 」
……とても残念そうにしている。
だが、それも一瞬のこと。狐の目つきが変わったかと思うと、どこかに走り出して行った。
あっ、と零からか弱い声が漏れた。その声を狐は気にした様子も無く、もしくは聞こえなかったのか、うっそうとした森の中を走っていき、やがて、見えなくなった。
それに対して零は、自分から出た声に酷い嫌悪感を抱いた。なんだこの声は、まるで寄り添い所を失った子供の様ではないか。そんなに自分はあの得体のしれない狐を頼っていたのか。
そんな自己嫌悪を感じていると、狐が戻って来た。口には狼の様な魔物――否、角がは生えているので鬼だ――を銜えている。
それを零の前に置く。
「今度はこれを食えってか? 」
さっきの自己嫌悪はどこへ行ったのか、零は前に置かれた鬼の皮をはいでいく。
そして、肉と骨だけになった鬼狼を柴雷を暴発させながら焼いていく。
雷で鬼の肉が焼けるか不安だったが、案外焼けている。
だが、暴発させているので、零も柴雷によるダメージを受けている。
実際、零と鬼狼からは白い煙が出ている。
零は柴雷による激痛に耐え、途切れ途切れながらも鬼狼を焼いていく。
焼き始めてから20分程経っただろうか、鬼狼の肉に焼き目が付いてきた。
零は柴雷を出すのを止め、蒼いナイフで肉を食べれる大きさに切り分ける。
そして、鬼の肉を食べた。
「うッ――――ぇッ!?」
すると、猛烈の吐き気とともに激しい腹痛が襲ってきた。それに、体が妙に熱いし、気持ち悪い。
鬼が食料に向かない第二の理由は中毒を起こすことだ。
中毒といっても食中毒などとは比べ物にならない程に強力だ。
中毒の症状は鬼を食べてから数秒で現れる。その症状は食中毒に似ているが苦しさは食中毒の数倍、数十倍はあると言われている。だが、それは推測でしかない。それは、鬼を食べた者の大体は1分以内に死ぬからだ。
「うッ………… ぁ」
鬼を食べてから5分程経っただろうか、それでも零は死んでいなかった。
零はそれから何度も嘔吐し、下痢をし、出すものは出し切った。だが症状は消えない
それからどれだけの時間が経ったのか分からない。それは零にとってどうでもいいことだった。零はただ、苦しみしか感じていなかった。
「ぅぅ…………? 」
不意に、何かの液体が口に入って来た。その液体はとても苦く、青臭かった。それも零にはどうでもいいことだ。
零はその液体を飲み込んだ。すると、頭を突き刺す様な鋭い痛みが走り。
『能力《中毒無効》を取得しました』
頭の中で無機質な声が響いた。
「ぇ………… ぁ? 」
すると、さっきまでの苦痛が嘘の様に消え去った。
(なんで急に痛みが無くなったんだ? まぁ、中毒無効のおかげだろうけど、なんで今取得した? それに、なんで炎と雷が制御できない? 色も違うし…… まぁ、それはいいとして、)
零は今まで仰向けになっていた体を起こす。そして、周りを見渡すと、零の周りには嘔吐物などが散らばっている。これは全て零が出した物だろう。この量を出していたのかと自分でもぞっとする程の量だ。
その嘔吐物から目を離すように顔を上げると、それほど遠くない所で狐がこちらをじっと見つめていた。
狐のすぐそばにはすり潰されたと思われる、原型をとどめていない植物がいくつかと、大きな葉1枚
があった。その大きな葉には緑の液体が少量残っていた。
そして、零は、
「何故死なない? 」
と小さな声で呟いた。
それが今、一番疑問に思っていることだ。
心臓に剣を刺されても死なない。高所から落下しても死なない。鬼熊に胸を貫かれても死なない。鬼を灰にする炎に焼かれても死なない。それどころか腕が生えてきた。普通は死ぬほどの超高圧電流を20分間受け続けても死なない。しかも、鬼を食べると現れる中毒でも死なないときた。
これまでに6回程死んでもおかしくないダメージを負っている。だが、全く死なない。それどかろか普通は再生しない腕でさえ再生した。
「多分、最初に取得した五5つの能力が関係しているのか……? 鬼神の使徒、強欲の不死、憤怒の炎、怠惰の雷、それに暴食の強化、か…… 死なないのは十中八九強欲の不死だろうな。炎と雷の色が違うのは憤怒の炎と怠惰の雷のせいか?」
零は今、持ちうる情報で零の異常な現象について考える。
「だが、鬼神の使徒と暴食の強化はなんだ? 今のところはその2つについて、何も分からないが…… いや、急に取得した中毒無効が関係しているのか……? 」
その後も、零の考察は夜になるまで続いた。




