9話 異能
今、クリフォードは心臓に穴を空けた状態で宙を舞っている。
心臓に穴が空いているので、出血が酷く意識が朦朧としていて、力が入らない。だが、木刀は手放さない。
(何でこんな事になったんだよ。あぁ、本当にクソみたいな世界だ。神が望んだから人殺しをするだと? 理不尽すぎるだろ。神なんて存在しないのに何でこんな事するんだ。狂信すぎる。しかも、脅威となり得るから殺すってなんだよ。まだ確定してないだろ。まぁ、逃亡するつもりだったのは事実どけど。酷すぎるだろ。…………あぁ、何も見えない、苦しい、耳鳴りが酷い、頭が痛い、気持ち悪い。最悪な気分だ。なにもかもが嫌になる。あれもこれも全部インデュラとか言う神のせいだ)
憎悪や憤怒やら、色々な負の感情がこれでもかというほどに湧き上がってくる。
「ガハッッ――――――― 」
と、その時背中から死にそうな程の激痛と衝撃が襲ってきた。多分、地面に激突したのだろう。重度の貧血で目の前が真っ暗だから何も見えないので、何もわからないが。
今のクリフォードは何も感じなくなっている。意識だけがある状態だ。
(ハハッ、こんなにズタボロにされてまだ生きてんのかよ俺、さっさと死んじまえよ。その方がカミサマが喜ぶんだろ? はぁ、また死ぬのか、もっと生きたかったが、しょうがねぇか)
そこで、最後にムワナに言われた事を思い出す。
(ハッ、何がクリフォード・クルニスの名を名乗るなだ。こんな名前なんか捨ててやるよ。俺は、宮本武蔵の子孫、宮本宏人の息子、二天一流の継承者、宮本零だよ。クリフォードなんて名前クソくらえだ)
『名前 《クリフォード・クルニス》 を破棄し、名前 《宮本零》 を取得しました』
すると、頭の中で無機質な声が響いた。
(この声は、転生した時に一度聞いた事があるな。まぁ、どうでもいいけど)
『能力 《鬼神の使徒》 を取得しました。」
「うっ…………? 」
と、その時、零の中に何かが入ってきた。何かと言っても物質的なものではない。目に見えない何かが入って来たのだ。
そして、零の瞳の色が茶色からルビーの様に透き通る赤色に変わった。
「ぐあっ――――! 」
突然、頭を突き刺す様な鋭い痛みが走る。
『能力 《強欲の不死》 《憤怒の炎》 《怠惰の雷》 《暴食の強化》 を取得しました』
また、頭の中で無機質な声が聞こえた。すると、急速に意識が覚醒していく。視界も真っ暗だったが回復していき、世界が色づいていく。耳鳴りも無くなり、体の不快感が無くなっていく。突き刺す様な痛みも無くなる。
(な、何が起きた? )
零は起き上がり、自分の体を見る。
「は? 傷がない? 」
そう、ムワナに与えられたはずの胸の傷が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。
「どうなってんだ? さっき取得した能力が関係しているのか? それにしても、鬼神の使徒ってなんなんだ?」
「グルァー…… 」
と、その時、獣の唸り声が聞こえた。
「!―――――― 」
咄嗟にその獣から距離を取り、振り向くと、そこには額に角を生やした5m程の熊が居た。
(鬼!? 何でこんなところに! 鬼はチェワンドの森にしかいないはずだろ! もしかして、ここがチェワンドの森なのか? )
そんな考察をしながら2本の木刀を手に取り、身流で身体強化と装備強化を施し、木刀に雷を纏わせる。
「ぐああぁぁ―――――― 」
だが、纏わせようとした雷が暴発し、全身に激痛が走る。それだけではない、雷の色が紫に変わっていたのだ。
零は感電して体が硬直し、動けない。
それを最強種族の鬼が見逃すわけがない。鬼熊は後ろ足で立ち上がり零の方へ向かってくる。そして、鬼熊は手を振り上げ、零の胸を一突きした。
「あっ…………うっ………… 」
今、零は鬼熊の腕に串刺し状態にされている。
そして、鬼熊は零の刺さっている腕を口へ運んでいき、口を開け、零の肩をかみ切った。支えを失った腕が地面へ落ちた。
「うあぁぁぁ――――――――」
零は今まで味わったことのない激痛に悲鳴を上げる。
鬼熊は一口、また一口と零を喰っていく。そして、零の頭を喰おうとしたとき、鬼熊の腕が刃物に切られた様にスパッと落ちた。
「グルァァァーー!? 」
鬼熊は何が起きたか分からず暴れ狂う。その衝撃で零は数メートル先に飛ばされる。
気づけば鬼熊に食べられたはずの部分が何もなかったかのようにある。肩も、地面へ落ちたはずの腕も。
そして、鬼熊の方を見てみると、そこには、片腕を失った鬼熊と、狐がいた。
片腕を失った鬼熊は目の前にいる狐を親の仇の様に睨みつける。
だが、狐は微動だにしない。ただ、鬼熊を見つめている。
鬼熊は残っている腕を狐に向かって思いっきり振り下ろす。
次の瞬間、鬼熊の首が宙を舞った。
零も、首が無くなった鬼熊も何が起こったのか理解できなかった。ただ、鬼熊の胴が力なく倒れた。
(は? 首が飛んだ? あの狐は動いていないはずだ。少なくとも、動いているようには見えなかったぞ)
狐は何事もなかったかのように鬼熊の胴へ近づき、それを食べ始めた。
零はその様子を呆然と見ている事しかできなかった。といっても、獣の死骸をそのまま食べている光景は見ていて気持ちのいいものではない。
すると、狐は思い出したかのように零の方を見る。
その時、初めて狐の顔が見えた。そして、零は思わず息を飲んだ。
狐のは瞳の色がルビーの様に透き通った赤色だったのだ。思わず見とれてしまう。
零がはっ、とした頃には狐は零の目の前にいた。
狐はそのまま零をじっと見ている。
その時、零はこれまでにない恐怖を覚えた。自分もあの鬼熊のようになってしまうのだろうか、もしそうなったら自分はどうなってしまうのだろうか。そんなことが頭の中を埋め尽くす。
そうしている間にも狐は零へ近づいてくる。
そして、狐は零へ頬ずりをしてきた。
「へ…………? 」
零はこの一日、驚かされてばっかりだ。急に殺すと言われて殺される。謎の能力を手に入れる。鬼に喰われる。喰われたはずのところが回復している。そしてこれだ。
(もう、どうなってるんだよこれ)
そうしている間も狐は頬ずりをやめない。
そして、ぐうぅ~~と零の腹の虫が鳴いたのは、この森に落ちてから10分も経たない頃だった。




