表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/394

47・バードラットとの会食

前回のあらすじ


モンスター襲撃事件を切っ掛けに各々(それぞれ)思うところがあったのか、自分のあるべき姿を模索している様子だ。

 鳥の(さえず)りが澄んだ空気に響き渡る早朝、僕は窓辺から(わず)かに射し込む日の光の暖かさを肌で感じて目が覚めた。


 まだ寝ている家族を起こさないようソッと家を出ると日課の運動でコドリン洞穴まで駆ける。町もまだ寝ている時間帯を走るのは目の見えない僕に違う雰囲気を与えてくれて新鮮な気持ちになる。



「あっ やっと来たわね おはよう アネット 盲目さん」

『はよ~』

『よ~』


「マルティナ? お おはよう・・・」

『おはよ~』


「うん! 私が居なくても鍛練は欠かさなかったようね 感心感心!」


「マルティナは大丈夫なの? ギルド抜け出して来ちゃって 子供達不安にならない?」


「流石にこの時間には起きないわよ 私が朝外に出る時もソフィリア全然起きないし それじゃ とっとと走るわよっ」



 そう言うとマルティナは変わらず元気な仕草で僕の手を引いた。


 しかしこうして誰かと一緒に道を駆けると襲撃があった時と気持ちが重なってしまう。今走ってるこの場所でももしかして・・・と思うと清々しい気持ちにはなれない。



「ただいま」


「お帰りなさい もうちょっとで朝食出来ますからね」



 朝の運動も終わってマルティナと別れた後、家に戻るとオフェリナ叔母さんはいつもの調子で朝食を作っていた。貴族であるミストリアもこっちの生活に慣れたのか家の手伝いをしている。



「いただきます」


「いただきます」


〔──・・・・─〕



 普段の食事風景はソフィリアがこぼしてマルティナが注意してオフェリナ叔母さんが片付ける。ちょっと騒がしい音が食卓を賑わせていたけど、今はとても静かだ。


 こうなると僕も「何か話さなきゃ」って気持ちになるけれど、いざ何か話そうとすると何を話していいのか分からない。



〔・・・───・・────〕


「あらそう? フフフ」



 こう言う時に話題を振れる人は凄い。たぶん何気ない会話なんだろうけど僕はちょっと委縮してしまう。この差は何処から生まれてくるんだろう・・・


 食事を終えると叔母さんは仕事へ、僕とミストリアはギルドへ向かう事にした。本当は薪割り場に行ってもいいんだけど、家族との団欒に懐かしさを感じたのはあんな出来事があったからだろうか。


 








 朝のギルドは混む。


 それは生活の糧である報酬を得る為の仕事の依頼書が、時間と共に掲示板へと張り出されるのを今か今かと待ち構えてるからだ。


 そしてギルド職員が依頼書を掲示板に張り終えたと同時に争奪戦の火蓋が切って落とされる・・・


 そんな争いとは無縁な僕はカウンターに居るだろうポリアンナさんの元へ向かった。ところがその途中で僕は1人の男性から声を掛けられる事となる。



「アネット様 ですね?」


「? は はい・・・そうですけど」



 雑多な音にかき消されて気配は分からなかったけど、その口調には品があって明らかに冒険者のものではなかった。


 僅かに香る香水の匂い・・・ギルド職員のものでもない。誰だろう。



「えぇと あなたは?」


「申し遅れました 私はカストラ商会でコンシェルジュを勤める マデランと申します 今日此方にお伺いしましたのは 主バードラットより言伝てを預かっているからに御座います」



 バードラットさんが・・・何の用だろう。僕が疑問に思ってるとギルドホールの空気は徐々に静かになっていく。そして妙に此方を意識するような雰囲気が僕の緊張感をノックした。



「・・・分かりました お話を伺います」


「そう込み入った話では御座いません 折を見ての会食のお誘いにあがった次第です つきましてはアネット様のご都合の良い日時などお教え頂ければ幸いなのですが」


「予定・・・会食 ですか・・・ 日中は仕事がありますので 夕方以降なら此方(こちら)はいつでも構いません」


「左様ですか 主人からは出来るだけ早い時期にと(うけたまわ)っておりますので 差し支えなければ今夜辺り お時間をいただいても宜しいでしょうか」


「僕は構いませんが 正装とかの用意が・・・」


「いえ そこまで(かしこ)まった席で御座いませんので 普段通りの格好で構いませんよ」


「そうですか 分かりました ちなみに会食の場所は以前僕がお伺いした食事処で宜しいのでしょうか そこしか場所が分からないのですが・・・」


「はい そこで間違い御座いませんが・・・

 そうですね お仕事が片付き次第ギルドに立ち寄って頂ければ 此方で馬車を手配致しておきます」


「い いえ・・・ 流石にそこまでは・・ 何だか仰々(ぎょうぎょう)しくなってしまうので 此方から直接伺う(むね)をバードラットさんにお伝えください」


「畏まりました それでは今宵 豊穣(ほうじょう)息吹(いぶき)亭にてお待ちしております」



 用件を終えた彼はコツコツと足音を残しながらギルドを出ていった。綺麗な足音だった。冒険者ならこうはならないだろう。


 ・・・にしても、僕達の会話がそんなに珍しかったのか、仕事の争奪戦を繰り広げていた冒険者達はみんな揃って聞き耳を立ててるようだった。



「おいおい カストラがわざわざギルドに出向いて食事に誘ってきたぞ」

「あ? カストラ? 何だそりゃ」

「は? さてはお前よそ者だな? カストラ商会ってのはこの町の大店(おおだな)の1つだ 町長との距離も近くて 実質的にはここのトップと言っても差し支えねぇ」

「なるほど 良くある贔屓(ひいき)とか子飼いってやつか あんなガキが? てか盲目じゃねぇか 何の冗談だ」

「お前は知らねぇだろうが 盲目で冒険者やってる アネットって ここらじゃちょっとは名の知れた子供だよ」

「マジかよ! 信じらんねぇ・・・ まぁ 見世物には丁度良いって感じか?」

「言いたい事は分かるが あんまちょっかい出さねぇ方が身の為だぜ? この町でカストラに目をつけられると 色々暮らしにくくなるからな」



 注目されてたのは僕じゃなくてコンシュ・・・何とかのマデランさん。その背後にあるカストラ商会だった訳だ。


 冒険者達を黙らせる程に彼の影響力は凄まじいものがあるらしい。そんな商会の人が分かりやすく堂々と接触って・・・これ絶対に魂胆があるやつだ。


 居心地が悪い・・・



「アネット君! ちょっとこっち来て!」



 カウンターから此方の様子を窺っていたポリアンナさんは僕の元へとズカズカやって来ると、強引にホールにある衝立(ついたて)の裏まで引っ張った。



「気を付けてよ? 商人・・・特にバードラットさんは抜け目無いんだからね アネット君が良いように利用されないか心配だわ」


「利用・・ですか 何だか注目されてたし彼の見た目が場違いな程整ってたのかもしれませんね 食事って・・・僕にそこまでの価値があるのかな」


「もう そんなに卑下しないの 盲目なのに冒険者やれてるってだけで凄いんだから ギルドも個人の判断にまで口出しする事はできないけれど・・・気を許し過ぎないでよね? 知らない内に変な契約取り付けられないとも限らないんだから」


「は はい・・・」

 


 でもラトリアの件で情報を握ってるのは彼なんだよね。此方が「NO!」と言えない関係がそこにはある。彼に懐疑的な意見も見られるけど、今のところ僕に対しては真摯的だ。



「いい? 何かあったら必ず私に報告する事っ アネット君の専属職員なのを忘れないようにっ」


「え あ・・・はい」


〔・・────・・・・──・・・──〕


「え? 距離近いって? こ これは公私混同ではないの 義務なのよ 義務」


 

 後を付いてきたミストリアに詰められて気まずそうにしてたけど、例えやましい色になってても彼女は歴としたギルド職員なのでその行いに間違いはないだろう。

 


 



 この後マルティナ達と会った僕達は結局薪割り場には行かず託児所で過ごす事にした。たぶんあの事件の反動で今になって人との繋がりを求めるようになったのかもしれない。


 夕刻になってソフィリアとミストリアと一緒に帰宅した僕は、単身豊穣の息吹亭に向かう事にした。因みにマルティナはもう一日ギルドにお泊まりするそうだ。


 もし僕がバードラットさんのとこに行くと聞いたら今頃大変な受難に見舞われてたに違いない。



「お待ちしておりました アネット様 今宵は主の趣向により 場所を変えての会食となります お手数ですが此方の馬車にお乗りいただけますか?」


「は はい・・・ 分かりました」



 豊穣の息吹亭に到着して早々、今朝がた会話を交わした男性に馬車に乗るよう(うなが)された。


 趣向? 趣向って何だろう。食事するだけならここでもいいのに・・・


 ポリアンナさんに注意された展開が早速やって来たらしい。でも会わない事にはどうにもなので、僕は意を決して馬車のタラップに足を掛けた。


 ここからの行く道を記憶すると、そこは僕の知らない場所だった。特徴的だったのは匂い。幾つもの香水が混じってちょっとむせ返るような、気品とはかけ離れたような・・・


 目的地に到着したのか馬車は止まり降車する。


 そこは大通り程ではないにしろ、それなりの人数がひしめいていた。ただ明確に違うのがその色。一言で言えば欲望が色を纏って歩いてる。



「此方で御座います お足元にお気をつけください」



 そんな中を「何事も御座いません」みたいな態度で案内するマデランさん。ここはいったい何処なんだろう・・・


 建物の中に通されると表で嗅いだ匂いとはまた違う匂いが鼻孔をくすぐった。一言で言うなら上品な香りに変わった・・だろうか。そんな上品が屋内に(こも)ってる。


 ここで食事がとれるのか疑問だけど、建物の規模で言うなら以前行ったバードラットさんのお店より凄い。それは単純に広目の階段を4階まで上がった事で、嫌でも空間認知が「これは凄いのでは」と分からされたからだ。


 冒険者の日常と比較しても僕がここに来るのは分不相応な気がする。



「旦那様 アネット様をお連れしました」



 静かな廊下を歩き、辿り着いた部屋の扉をマデランさんが開けると、その部屋の中には2つの色があった。



「ようこそアネット殿 急なお誘いに応じていただきありがとう御座います」


「い いえ とんでも無いですバードラットさん・・・」


「あら 今日のお客様は冒険者の方と伺っていたのだけど 随分と可愛い冒険者さんね」



 室内にいたもう1つの色の主は声色に湿り気を帯びた大人の女性のものだった。何と無く品定めされてるような気もするけど場違いなのは自分でも分かってるので仕方ない。



「初めまして この町で冒険者をやってるアネットと言います」


「私はフォルマ この娼館で働いている娼婦よ あなたはこう言う店は初めて?」


「え 娼・・・はい 僕の行動範囲は存外狭いので・・・」



 娼館・・・確か男の人と女の人が仲良くお話をする場所で歓楽街と言う所にあって・・・マルティナからは「絶対に近付くな」と忌み地のように厳命さた場所でもある。


 僕は知らずにそんな魔境へと誘われてしまったようだ。



「ささ 立ち話もなんだ アネット殿 さ 席について 食事にでも致しましょう」



 マデランさんは役目を終えると静かに部屋を去っていく。代わってバードラットさんが僕を椅子まで(いざな)うと、触った感じ丸みのあるテーブルに次々と料理が次々運ばれてきた。


 うん・・・美味しいは美味しい。でもどう美味しいか分からないくらいこの状況が意味不明で、ただ美味しいとしか感想が湧かない。



「目が見えていないのに器用に食べるのね あなたと比べると普通の人の方がお行儀悪いくらい」



 そう言うとフォルマさんはスッと僕に寄り添ってくる。すると「ついてるわ」みたいな調子で僕の口元を布で拭った。



「ぼ 僕の場合は周りが整っていないと 何処に何があるのか分からなくなってしまうんです 食事も同じで丁寧に食べないと直ぐにぐちゃぐちゃになってしまうので 極力形を崩さないよう努めてるんですよ」


「へぇ~ 凄いのね」

 


 お行儀と言うなら食事中にも拘わらず僕の太ももに手を置いてくるフォルマさんもどうかと思うんだけど、表面の下に下心を携えて来られても僕には不信感しか懐けない。



「それで 今日はどの様なご用件でしょう ただ話をするだけにしては大袈裟なような」


「まぁ 悪気があっての事では御座いませんので しかしこうでもしなければアネット殿は外から来た冒険者達に睨まれる可能性も御座いました」


「他から来た冒険者ですか?」


「はい 今回のモンスター襲撃で冒険者にも犠牲者が多数出ています ギルドとしても人員の補充は急務でして 他所のギルドから移ってくるよう便宜を計るケースも御座います」


「あ~ ここの冒険者は鉱石って言う資源の獲得に寄与してますもんね」


「彼等はギルドに所属してましても結果を出すのはあくまで個人 同業者はライバルと同時に敵でもあるんです なので優位に立つ為に他者を蹴落としたり脅したり・・・」


「なる程・・・」


「失礼ながら盲目の冒険者など彼等の格好の標的にされかねません 正直後ろ楯がギルドだけでは足らないのです」


「お話は分かりました でもどうしてそこまで良くしてくれるんですか? 正直僕よりも贔屓するのに適任な冒険者はいっぱいいると思うんですが・・・」


「ふふ 私も商人ですから何の考えもなしにこの様な事は致しません ギルドとの繋がりを密にしたいのですよ」


「はあ・・・」


「普通に考えれば世間でマイナス等級と言われる者を組織に加えるなど信用を落とすも同然です しかしあなたは力で立場を勝ち取った ギルドとしても無視できる存在じゃありません


 もしその様な存在が組織内でぞんざいに扱われたらどうか マイナス等級を受け入れた組織でそれが明るみになったらそれこそ評判を落としかねない


 つまり組織内でのあなたの立ち位置は他の冒険者とは別枠なのです そこに私は投資したい」


「僕個人ではなく 特別視される僕の立場にって事ですか」



 そう言われると複雑だけど「商人ですから」と前置きする分良心的なのかな? 人を社会の中の価値で判断するのが彼の哲学なのかもしれない。


 

「今回の襲撃で動きを見せるのは我々も商人も貴族も同じです 取り分けプルトン氏を囲っていたバウゼン伯爵 彼の動向に不審な目を向ける者も多くてですね 


 モンスターの(あぎと)に見舞われて亡くなられたプルトン氏の死因にも不自然なところがある 噂では町に来た騎士団長もこれには懐疑的なようでして・・・現場を知るアネット殿は何か御存じありませんか?」



 まぁそうだよね。タダで食事に誘われる訳は無いとは思っていたけどこれが本命だったようだ。僕もモンスターに殺られた説は違うと思うけど、不思議と深掘ってはいけない気がしてならない。



「すいません 僕も詳しくは・・・あ でも 魔物さん 以前あなたの依頼で旧市街に行った時に僕は魔物さんを連れた女の子に会ってます 襲撃の時のその子の声を聞きましたから間違いありません」


「魔物さんですか にわかには信じられなかったのですが なる程 この規模ともなるとスキルによる効力 しかも災害級と見るのが自然でしょう そうなると魔物さんの話も信憑性はある」



 お・・話がそっちにずれたぞ。このまま別方向に話が進んでくれると有難い。



「確かプルトン氏を探していたと言いましたね となると今回の襲撃は彼を狙って・・・ふむふむ では彼が過去に何をやっていたかを調査し バウゼン卿との繋がりも・・ブツブツ」


「まぁまぁ旦那 亡くなっている方の話より 生きてる私達の話をしましょうよ それに料理も冷めてしまうわ」



 1人で熱くなってるバードラットさんを諌めるようにフォルマさんが会話の節目に割って入った。



「それもそうですね とは言え申し訳ない 私はまだ仕事が滞っておりますので お先に失礼させていただきます アネット殿はどうぞ 最後までおくつろぎ下さい」


「え あ はい・・・」



 バードラットさんは簡潔にそう言いいと、そそくさと部屋を出ていってしまった。


 取り残された僕とフォルマさん。いったい2人で何を話せばいいんだろう。メチャクチャ気まずい。僕もそろそろお暇した方がいいのかもしれない。



「それじゃ 部屋を変えましょうか・・」



 僕がどうしようかとやきもきしていると、フォルマさんは僕の体に腕を絡ませてくる。女性特有の香りと香水の香りが周囲を包み込むように広がる中、僕は半ば強制的に何処かへと連れ去られてしまった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ