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45・エルヴィラ・ストラディオ

前回のあらすじ


プルトンさんはモンスターに殺されてしまった!・・・らしい。


その真偽を騎士団長エルヴィラさんが問いただしてきた。

「何でこんな事したんですか!」



 マルティナの声が閉ざされた部屋。事件現場に響く。


 目の前で知人が人を(あや)めた衝撃と、彼女の友人が抱える問題の糸口が切れてしまった点。諸々考えれば納得いかないのは当然よね。叫びたいのも分かるわ。



「こやつは生きていてよい人間ではない それに嬢ちゃんのこのスキル これは絶対に人に知られてはならんものじゃ」


「・・・確かに 人の本心を暴露するんだから 危険だとは思うけど・・・でもだからって」



 正直言うとこんな事が出来るようになった私が1番驚いてるのよ? 魔法が使えるようになったのは嬉しかったし、水を操る事で人と会話が出来るようになったのは大きいわ。


 ぶっちゃけ人様の事なんかどうでもいいけど、このお爺さんには危険物、武器とでも写ったのかしら。



「だからって殺す事はないでしょう!? この男には自分のしでかした悪事を全部吐いてもらわなきゃいけなかったのに!


 ラトリアやその家族は 彼女の父がこの男に騙されて失くしてしまった剣1本の為に 今も苦しんでるのよ!」


「わかっておる 似たケースで苦汁を飲まされとる者は他にもおるでな だがそれを差し置いても こやつの息の根はここで断ち切らねばならなかった


 それでもじゃ・・・このスキルを為政者に知られる訳にはいかん 必ず厄介事に巻き込まれる 本人も回りの人間も・・・そうなればギルドでは守りきれなくなる」


〔私も他人を巻き込むつもりはないし このスキルを使って成り上がる気なんてさらさらないわ 人の本心なんて見るのも不快だもの たぶん これに慣れたら益々人が嫌いになりそうだわ〕


「・・・もしかして私のせい? 後先考えないでミストリアを引っ張ってきたから」


「・・・・・・」


〔・・・そうね そうかもしれないわ でも私がいたお陰で知る事ができた事もある って考えれば無意味ではないのじゃない? 結末はちょっとアレだったけど〕


「うぅ・・・ごめん」



 ウジウジ悩み続けるよりバッサリ斬った方がいい事もあるわよね。これから宜しくやっていくのだし禍根は無いにこした事はないわ。



「さて ここは空気が悪い 年頃の娘が長居してよい場所じゃないわい」



 お爺さんは私達を半ば強引に部屋から追い出すと、たった今人を殺めた直後とは思えない態度でキョロキョロ外を見回した。


 小悪党とは言え人を殺めた事に良心の呵責とか無いのかしら。



「ラトリアの事 ちゃんと調査してもらえるんでしょうね ラトリアのお父さんは冒険者なの 冒険者だったらギルドは助けてくれるのよね」


「善処しよう あぁ それと・・・ プルトンは避難の途中でモンスターに襲われた と言う事にでもしておいてくれ


 流石に個人の裁量で殺めたとなれば外聞も悪い 裏で繋がる貴族に揚げ足を取られたくはないからの」


「なっ!? 犯罪の片棒を担げと────」

〔まぁしょうがないわね これが彼の天命だったのよ〕


「だからって────」

〔貴女の家族を守る為よ 受け入れ難いかもだけど みんな何かを我慢しながら生きてるのだわ〕


「すまんの・・・」



 項垂れるマルティナに手をとって私はアネットの元に向かう。でも良かったじゃない? 貴女が我慢すればアネットを守れるのだもの。盾役にはピッタリだと思うのだけど・・・








 ────と言うのが部屋の前での経緯。


 そして今私の前で(こうべ)を垂れるエルヴィラ・ストラディオと名乗るこの女性。


 以前会った事があるようなないような・・・正直微妙なのよね。当時からあまり人には興味なかったし。


 でもプルトンの死因がモンスターに噛られたって、いくらなんでもその言い訳は苦しいでしょう。なのでこう言う時こそ権威の使いどころ・・・



〔お久しぶりですね 息災で何よりです この度は町の窮地(きゅうち)に駆け付けてくれた事 大儀でした 父 そして領民に代わり厚くお礼申します〕


「水の・・文字? ・・・なる程 静養の為 保養地に向かわれたと聞いておりましたが まさかこの様な事になっていたとは・・・心中お察し申し上げます」



 静養・・・そう言う事になっているのね。



〔それで・・・プルトンと言う方でしたか あれはモンスターの鋭い一撃でした 他の方々もいる中で彼が犠牲に・・・ きっと彼は今 天国で安らかでしょう〕


 

 まぁ実際は見てもいないけど貴族の裏打ちがあれば信憑性も増すと言うものね。お爺さんの私を見る目が訝しいけど、私も合わせたのだから貴方も合わせなさいよね。



「そう言う事じゃ 奴には聞き出さねばならぬ事が山程あったのじゃが・・・残念じゃ」


「・・・そうか ならば仕方ない 今回の件も含めて別の角度からの調査が必要か・・」


「その事に関して冒険者ギルドは協力を惜しまんぞ? 死してなお奴に苦しめられておる者はおるでな」


「我々はプルトン1人を追っている訳ではない 所詮奴は蜥蜴(とかげ)の尻尾 本物の悪は今ものうのうと誰かを利用し私腹を肥やしている


 まさかと思うが 貴殿がその1人・・・ と言う訳ではあるまいな?」


〔まぁ 恐ろしい〕



 すかさず調子を合わせた私をお爺さんはジト目でチラ見してくるけど部屋での意趣返し。これくらいは許容範囲よね。



「それは無いと思いますよ?」



 このまま話が流れてくと思われた矢先、会話を遮るようにアネットが口を挟んできた。



「お前は?」


「えと・・僕はハルメリー冒険者をやってる アネットと言います」


「ほう お前が噂に聞いたアネットか 本当に・・・盲目なのだな」



 ★



「ほう お前が噂に聞いたアネットか 本当に・・・盲目なのだな」



 何だろう。


 この人から値踏みでもされてるような視線を感じる。やっぱり盲目で冒険者なんて誰が聞いたって疑わしいよね。


 と言うか噂って? 騎士団って町の外から来た人達だよね。そんな人が僕の事を知っている??? ともあれ悪い噂じゃなきゃいいんだけど・・・


 僕がランドルフさんの援護に回ろうとした時、聞き覚えのある声がホールに響いた。



「エルヴィラ様!?」



 その声の主。普段の凛とした彼女からは聞けない動転した声を上げたのは、将来騎士を(こころざ)すギルド訓練生のラトリア。


 エルヴィラさんの存在に気付いた彼女は、旧知の仲と久し振りに再会したかのような浮き足立った足取りで駆け寄ってきた。



「エルヴィラ様! お久しぶりです! いつ|此方に?」


「ラトリアか 実は以前からモンスターの不穏な動向を探っていたのだ 本来ならもう少し早くハルメリーに駐屯する予定だったのだが 統制のとれた妙な動きに 此方も下手な行動をとれなくてな」


「今回の惨事 何か予兆があったのですね」


「前々から隣の領内でその兆候が見られてはいたが どうも最近になってこの町に移動してきている様子でな


 街道で駐留していた折り ギルドから急を有する伝書が届いて こうして駆け付けてみたら・・・ まさか騒動の元凶が災害級のスキル保有者だったとは・・・」


「話に聞く災害級のスキルさん・・・ そんなのがこの町にやって来たなんて」


「あぁ だがいたずらに民衆の不安を(あお)る必要はない この事は時が来るまで他言無用だぞ?」


「はい!」



 うん・・・一応人前なんですけどね。何にせよそれだけラトリアを信頼していると言う事らしい。エルヴィラさんがプルトンさんに拘る理由も公務だけではないのかも。



「ん? アネット? アネットなのか!? どうしたんだっ そんな酷い怪我を負って! 大丈夫か! 死んではダメだっ!」



 ここにきてようやく僕の存在に気付いたラトリアは、死の縁をさ迷う重篤患者にでも寄り添う家族みたいな感じになっている。


 っ言うか僕って今どんな感じになってるの?



「だ 大丈夫だよラトリア 落ち着いて」


「とても大丈夫そうには見えないが・・・」



 見えないらしい・・・



「まぁ 怪我人に無体をさせるのもなんだし他にもすべき事がある ランドルフ殿 詳しい話しは後程聞かせてもらうとして 私はそろそろ失礼させていただく


 騎士団は暫くこの町に駐屯する事になる ラトリア 状況が落ち着いたら私を訪ねて来ると良い 茶でも飲みながら 互いに近況報告でもしようじゃないか」


「はい!」



 微妙に話をはぐらかせなかったか、結局ランドルフさんへの猜疑心は晴れないまま彼女はギルドを出ていった。



「ラトリアはエルヴィラさんとは懇意(こんい)なの?」


「あぁ アネット達には話した事があるだろう? 私達家族が悪漢に連れ拐われようとした際に 助けてくれた騎士が彼女なんだ


 当時はまだ団長ではなかったが その頃から色々とお世話になっているんだよ 私が騎士を目指すのは恩を返したいと言う思いもあるが 単に彼女に憧れを抱いているからでもあるんだ」



 ラトリアが目標と掲げる人物なのだから清廉潔白、公明正大と信じたい。けど彼女の僕を意識する色がくすんでいるのがどうにも気になった。



 ★



 父の昔を知る者は「只の偶然だ」「運が良いだけだ」と揶揄(やゆ)する者も多いが、世間一般からしてみればそれは立派な武勲であっただろう。


 隣国との小競り合いの折り民兵として徴集された父は戦場で見事な武功を挙げ騎士爵の称号を(たまわ)った。


 その後母と()い遂げ私はこの世に生を受ける事となる。


 しかしそのような武勲を上げた父は取り分け武芸に(ひい)でている訳でもなく凡庸(ぼんよう)であったと聞く。


 その事からも周囲には「戦場の功績は偶然と時の運」などと(あざけ)られもしたが「爵位に恥じぬように」と幼い頃から私は騎士になるべく育てられた。


 今代限りの称号とは言え誇りを旨とし生きる父の背中は広かったし、裕福とは言えなかったがいわゆる普通と言う意味では幸せな家庭であったと思う。


 私には歳の離れた妹がいる。


 名前をシルヴィーと言い可愛い以外は極々普通の女の子だ。


 家が爵位持ちとは言え妹まで厳格な貴族のたしなみを押し付けられる事はなく、のびのびと人生を歩んでいく筈だった。








 あの日“盲目さん”に取り憑かれさえしなければ・・・








 マイナス等級の“盲目さん”。


 それが傍らに居るだけで周りからどんな扱いを受けるのか。弱きを助ける事を信条にしていた私はそれをよく知っている。


 裏通りで暴行を受ける人を仲裁した事があった。親が子供を教会や孤児院に預けたり奴隷商人に売り渡す者を目撃した事もある。


 でもどこかで自分とは無関係な事だと思っていた。


 それがまさか身近な人間に降りかかるなんて・・・ 準貴族とは言え世間体を気にするのかと思いきや、両親はそんなシルヴィーを溺愛した。


 シルヴィーも最初こそ悲嘆にくれもしたが、次第に以前のような笑顔を見せてくれるようになった。





 でもそんな家族の様相も次第に変わっていく事となる。





「お父様 今日は南の川の(ほとり)に行くと 良い事があるかもしれません」

「お母様 今日の〇〇様のパーティーには 青のドレスを着ていった方が喜ばれるかもしれません」



 あの子も両親の気を引きたい年頃か、いつからか妹はそんな事を口走るようになっていた。


 両親もまた最近かまってあげられないシルヴィーを想い「愛する娘の言う事だ 無下にする理由もない」と妹の意を極力汲む方向で言われるがままに行動した。


 結果としてそれは正解だった。


 川の畔で助けた子供は伯爵家の御子息だったし、パーティーに着ていった青いドレスは御婦人方に人気の職人の手によるもので、下位貴族とは言えそれらがきっかけで両親の人間関係の幅は拡がっていった。


 そんな予言めいた事が何度もあると、両親の顔は次第に変貌を遂げていく。



「明日は何処へ行けば良い?」

「今日のパーティーはどの色のドレスを着ていったら良いかしら?」



 そこにあったのは娘を愛する親の顔ではない。下卑た笑みですがる物乞いの姿だった。



「明日は荷馬車で 町外れの並木道を正午過ぎに走らせてください そこで旅行から帰宅途中の〇〇様の馬車が倒れているので助けて差し上げると良いでしょう」

「今日のパーティーは淡い目立たないドレスが明るいです 今宵は〇〇様が来られるので あまり近付かない方が良いですが 〇〇様のお誘いはお受けした方が後々良い方向に向かうでしょう」



 その言葉はもはや予知だった。


 精度は日に日に磨かれて事細かく明確になってゆき、またそのどれもが見事に的中した。


 そんな我が家はどうなったか・・・


 父は数多の功績と人脈で平民から男爵と言う永代貴族にのし上がった傑物(けつぶつ)とまで言われるようになっていた。


 そうなると父も王都におわす王様に拝謁する身となり、それに伴い母も何処へ行くのか家を開けがちになっていく。


 家の灯りは消え冷たい空気が無駄に広い屋敷に立ち込めるばかりとなった。両親が家に戻るのは妹の予言を聞きに戻る時だけ。


 身内にマイナス等級保持者が居る事を危惧した両親は家名に傷がつくのを恐れたのか、シルヴィーを死んだものとし屋敷の奥に軟禁した。


 溺愛していたとは言え盲目である事実を周りに吹聴する事もなかったので、妹の存在を探る者がいなかった事が両親の拍車を更に掛ける結果となる。



「何故あんな事を言い続けた いつかこうなると分からなかったのか!?」


「盲目さんが『予見の目』で見せてくれる風景に 家族皆で映る景色は無かったのです お父様もお母様も それぞれ望む未来はバラバラで それでも心は満たされていた


 私は・・・皆に幸せになってほしいだけなのです」


「皆の幸せ? すれ違う家族の中で一緒にいる事も適わず 世界から切り離されても それでも両親を思い続けるのか


 しかしそんなものは家族とは呼べない! お前は昔のような仲睦まじい普通の家族模様を諦めてしまったのか? それに・・・


 皆の幸せを望んでくれるなら 私の幸せとは何処にある・・・」


「・・・・・お姉さま これより一月(ひとつき)の後 コルティネリ領ハルメリーの町は未曾有の大難に見舞われます ですが同時に吉日でもあります 遠征隊に志願なさいませ


 そこでアネットと言う名の少年と出会うでしょう その方は私()にとっての吉兆 是非とも縁を深める事をお薦めします」


「違う! 私が聞きたいのはそう言う答えじゃない!」


「ご免なさいお姉さま 私は自分の立場はわきまえているつもりです それでも 陽の光の下 私とお姉さまが共に微笑んでる景色はその未来にしか存在しないから・・・」



 災いが起こる日が吉日とは。喜んで良いものやら分からないが妹の言う事は当たる。


 しかし本当にその少年が我が家に幸せを運んでくれる鳥なのか? たかだか1人の人間にそこまでの事が出来ると言うのだろうか。


 いくらシルヴィーの言う事だからって、手放しで受け入れる訳にはいかない。


 ハルメリーのアネット。いったいどんな人物なんだ。





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