44・すれ違う心
前回のあらすじ
ギルドの一室でプルトンさんはギルド長に一突きにされ絶命した(アネットは知らない)
マルティナが去った後僕は1人ベットに取り残された。
ギルドには怪我を負った人達が次々担ぎ込まれ手隙の者はその介抱にまわっている。オフェリナ叔母さんも怪我人の収容やら包帯の取り換え等、自分のできる範囲で奔走していた。
その間ソフィリアはギルドの託児所で預かってもらっている。さすがにこの状況は子供の目に毒だろう。
普段は冒険者でごった返しているギルドホールも今は避難民と怪我人で溢れている。
悲嘆に暮れる者や痛みと苦しみに呻く者の嘆きと、職員に説明を求める住民の怒号が飛び交って、とても同じギルドホールだとは思えなかった。
負傷した僕が言うのも何だけど、こんな時に目さえ見えれば人並みに何か出来るのではと思わなくもない。しかし現状。この体たらくでは真面に動く事さえ適わない。
なので今は安静にしている事に努め、暇になったこの時間は今日の反省に当てる事にしよう。
頭の中で「ああでもないこうでもない」と思考を反芻させてると気付けば時間が経ったのか、納得できない色をしてるマルティナ達が帰ってきた。
ちょっと離れた場所で誰かと言い争ってるみたいだけど、周囲の雑多がうるさくて僕の耳には聞こえない。
憤懣やる方ない感情のマルティナは不貞腐れたように僕も元まで来ると、今だ横になってる僕に向けて低い声を出した。
あ・・・これ納得するまで解放されないやつだ・・・
「アネット・・・・ ミストリアの事とプルトンとか言う奴の事 洗いざらい全部話してもらうわよっ」
マルティナの後ろをソッとついてきたミストリアは「観念しましょうね」と言った感じでため息をつく。
この様子だとたぶんプルトンさんに会ってきたのかな。釈然としない感じから全部を知る事はできなかったと・・・
「えぇと・・・──────」
こうなっては仕方ない。マルティナは諦めないし僕は逃げられない。だって1つ屋根の下で暮らしてるんだし。毎日追求されたら僕の心が壊れる。
なのでミストリアと出会った日から今日に至るまでの要点を掻い摘んで打ち明ける事にした。もちろんバードラットさんの事も、ラトリアの件に絡むプルトンさんの存在を知った事も。
「どうして 教えてくれなかったのよ・・・」
「ごめんね でも1人で突っ走って空回りしちゃいそうだったから・・・」
「!! そんな訳っ! ・・・ないでしょ」
〔────・・・────・・〕
「うぐ・・・っ」
ミストリアに何か突っ込まれたのか言葉に詰まる。そんな詰まる事を今さっきしてきたのかもしれない。
「私は・・・アネットを守る盾になりたかったの アネット見てると ちっちゃくて すぐに倒れそうで 怪我とか心配で・・・ だから守ってあげたいって思った
それだけじゃなくて 一緒に過ごす時間も大切で・・・ でも そうやって隠し事されたんじゃ 私は必要とされてないんじゃないかって 思っちゃう ・・・守りたいって思っても どう守って良いのか分かんないよ」
「マルティナ・・・」
良かれと思ってした判断が彼女を傷付けていたようだ「マルティナなら大丈夫」「マルティナは強いんだ」たぶんその無意識が僕の中にあったんだろう。
これは信頼か只の甘えか・・・
どちらにせよ僕は彼女を悲しませてしまった事に変わりなかった。
★
気付けば私は外にいた。
ギルドの玄関先。
その横で私は膝を抱えて座り込む。外はまだ騒々しい。騎士団や町の兵士が右往左往と駆けずり回り事後処理に当たってる。
五体満足の私も冒険者なんだから彼等に混じって行動すべきなんだろう。でも心が沈んで立つ気力が湧いてこない。
人が殺された・・・しかも目の前で。
人生を全うするでも病気でもなく自分の犯した罪の代償としての死。そんなもの私達の生活とは縁遠い場所の出来事だと思ってた。
カルメンが両親と別れたとき死を覚悟した。モンスターに囲まれたとき死を覚悟した。アネットがモンスターに噛み付かれたとき死を覚悟した。
その元凶を引き起こした人物と出会ったにも拘わらずアネットは1人で抱え込む。私だってラトリア事助けたいのに。困ってるアネットの力になりたいのに・・・
でも分かってる。
きっと私を巻き込みたくなかったんだろう。アネットの事だから、心配かけさせたくないから・・・
冗談じゃないわ! 大事になるから人は協力するんじゃない!
ただ守られるだけじゃ嫌! 私が守って守られるの! 苦難も苦楽も共にしたいの!
私はアネットと一緒に人生を謳歌したいのよっ!
★
マルティナが出ていってしまった。
こう言う場合って傷付いた女の子を男の子が追い掛けるのが小説では定番なんだけど。肝心の男の子はベットに縛り付けられてて今動けないのよね。
仕方ない・・・
あの子を追って外に出ると、ギルドの入り口で丸くなって落ち込んでいた。こんな分かり易いの文字にするまでもないわね。
彼女のアネットを思う気持ちが何なのかは置いといて、傷心のようだし私もマルティナの隣で丸まる事にした。
「ねぇ 見て ミストリア・・・ 今になって体が震えてきちゃった・・・」
まぁ思い人がモンスターに囲まれて怪我をして、隠し事されててそれが友人の事となったら複雑でしょうね。
しかも目の前で人が殺される場面を見る羽目になるなんて・・・
「まったく どうしてくれんのよっ プルトンとか言う犯人居なくなっちゃって手掛かりが消えちゃったじゃない!」
〔あ・・・そっち?〕
「・・・別に 怖くなかった訳じゃないわよ 納得もできないし」
あのお爺さんからしてみれば私を情報漏洩から守ったんでしょうね。だからと言って幼気な美少女を前に犯罪をやらかす神経はどうかと思うけど。
〔言っておくけど 私は今後も権力の笠を着る気は無いわ ハルメリーに来た時・・・いいえ 言葉が話せなくなった時から私は貴族ではないもの
それに私の事情を知っていたら あなた達は普段通りに接してくれなかったでしょ? それじゃ今の私は絶対に存在しなかった
アネットも貴女も 遠慮のない付き合いが今日の私を造り上げたの だからね 何でもかんでも 白日の元に晒せば良いと言う訳ではないと思うわ
私のスキルを肌で感じてきたあなたなら分かるでしょ 例えどんなに親しくても 知られたくない想いと言うのはあるのだわ〕
「そう ね そうだわ・・・ あの ありがとう」
最初は強い子と思ってたけど年相応に打たれ弱い部分もあったのね。ちょっと安心したわ。
「ミストリアは その・・・ 頼ってもらいたい相手に頼られなかったら どう思う?」
〔そうね そんなのとても我慢ならないし 不愉快で納得も出来なくて 不満が募って暫くやきもきするでしょうね〕
「そうよね! アネットはもっと私を信頼するべきよ!」
〔だからってガッツキ過ぎは良くないわ アネットって見た目通り押しに弱そうだもの〕
「大丈夫よっ アネットの扱い方は心得てるんだから!」
〔そう? 後先考えないで私を連れ出して 秘密を暴露しなければならない状況に押し込んだのは誰だったかしら〕
「うっ・・・ごめん」
近しい相手でも分からない事ってあるのよね。私も私の家族もそれで距離が開いてしまったわ。でも見失う事はない・・・不思議だわ。
まぁ言うべき事は言ったし後は彼女がどう自分の中で処理するかよね。願わくば互いが納得できる形で解決してもらいたいのだけど。
★
僕の選択は間違っていたのかな。やっぱりマルティナに相談しとけば良かったのかもしれない。何か怒ってたし・・・
良かれと思ってした事でも相手が喜ぶとは限らない。分かってはいたけれど・・・う~ん。
一通り反省をし終えたところでミストリアとマルティナが連れ立って帰ってきた。
心にモヤモヤを抱えて出ていったマルティナだったけど、外の風にあたって何か心境に変化があったのか、雲が晴れたようないつものマルティナ色が顔を覗かせた。
「あのねマルティナ 僕が色々隠し事をしたのは・・・ 決してマルティナを蔑ろにしたからじゃないんだ
危険な人達の事を探る上で 君達を巻き込みたくなかったからなんだ でも・・・仲間と思うなら 話すべきだった・・ ごめん」
「い いいの! 分かってるから・・ 私も我が儘言った
何で話してくれなかったのとか 仲間じゃなかったの? って 自分の事が先にたって アネットがそうした理由を考えようとしなかった
でもねアネット 私はあなたと一緒に歩いていきたいの 目の前に落とし穴があっても 崖で塞がっていても それを一緒に乗り越えていけるように」
眩しい。マルティナの心はとてもキラキラしていた。心を開くってこんなに眩しいものだったんだ。
「分かったよ 僕もこれからは包み隠さず君達に相談する事にするよ 仲間だものね」
「うん 困った事があったら私に相談するのよっ」
〔────・・〕
何だろう。今マルティナの色にちょっと険があったけど気のせいだろうか・・・ まぁ取り敢えず普段通りのマルティナに戻ってくれたのは良かった。
でも今も回りはモンスター被害にあった人達で埋め尽くされている。そんな中ちょっと嬉しく思ったのは不謹慎だろうか・・・
「ランドルフ殿! これは一体どういう事か!」
まだまだ収拾がつかないギルドホールによく通る凛とした女性の声が響く。
「どうもこうも そういう事じゃ・・・」
またまたトラブルだろうか。いざこざの相手はランドルフさんらしい。でも何だかちょっと歯切れが悪い。何を言い争ってるのか分からないけど彼は怪我人が犇めくホールの中を縫うように僕達の方へとやって来た。
「ほれ 証人ならここにおるぞ」
「はぁ?」
え? 証人? 何の事?
「嬢ちゃんも見たであろう 弛んだ体格の 威張り腐ったプルトンとか言う商人が 無惨にもモンスターに殺められたところを」
「え!? そうなんですか!?」
そう言えば僕は気を失った後の事をまだ詳しく聞いていなかった。プルトンさんを含め避難住民も多数いた筈。彼等は無事逃げ切れたんだろうか。
ん? 僕が助かってプルトンさんも近くにいた訳だから、彼も助かったのでは??
「あれは明らかに先端の尖った得物で一突きにされた跡だ! モンスターに殺られた傷じゃない! お嬢さんが目撃者か! 彼の言っている事は本当か!?」
「え! ・・・っと は はい・・・」
ん? マルティナも何でか言い淀んでる?
「間違いないか!」
「は・・ はぃ~・・・」
あ~これ。嘘ついてる時のマルティナだ。そして絶対真相知ってるやつ。どうやら僕が横になってる間に色々あったらしい。
「ミストリアの嬢ちゃんも その目に焼き付いておろう あれはモンスターに殺られた傷じゃとな」
「こっちに話を振らないでよ」って言いたげに迷惑そうな色してる。マルティナの心音のドキドキといい、2人とも真実の当事者らしい。
「ミストリア? 貴女は・・・まさかっ 間違いない! ミストリア様で御座いますね? お久しぶりです! 覚えておいででしょうか 以前遠征の際 お屋敷に伺いました
メリエスタ王国 イーブル騎士団 団長 エルヴィラ・ストラディオです!」
あっ! あっさりバレた! しかもこんな人前で・・・
「それで 誠なのですか? ランドルフ殿の発言は・・・ 死んだプルトンと言う男 これまでの悪事は数知れず 未だに解決を見ない事件も多御座います
私共が駆け付けた際は モンスター討伐に掛かりきりとなってしまい 要救助者にまで手が回りませんでしたが
その中にプルトンと言う名の者が居ると聞き こうして罷り越したしだいなのですが・・・」
この人もプルトンさんを追っていたのか。責任感の強そうな人だし、追っていた人が亡くなってしまったのは嘸無念だろう。
僕としてもラトリアの件の糸口が切れたに等しい。これは他人事ではない。だけどミストリアは気まずそうに首を縦にコクコクするばかり。
「ねぇマルティナ? 皆言葉を濁してるみたいだけど 何かあったの?」
「な 何もないわよ?」
「そう? でも・・・もう隠し事は無しって事になったよね?」
「・・・ ・・・いい? アネット それと女の子の秘め事とは別なの」
「え・・ でも・・」
「別なの!」
「う・・うん・・・」
何だろう。
お菓子は別腹みたいなものが感情にあるんだろうか。
女の子は難しい・・・




