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45・エルヴィラ・ストラディオ

前回のあらすじ


プルトンさんはモンスターに殺されてしまった!・・・らしい。


その真偽を騎士団長エルヴィラさんが問いただしてきた。

「何でこんな事したんですか!」



 マルティナの声が室内に響く。


 目の前で知人が人を(あや)めた衝撃と、彼女の友人が抱える問題の糸口が切れてしまった事。


 諸々(もろもろ)考えれば納得いかないのは当然だ。



「こやつの言葉は節々まで信用する事は出来んよ しかし・・・ ミストリア嬢ちゃんのこのスキル 知られればかなり厄介な事になる


 それにしても・・・ 小僧と出会い ここまで化けるとは誰が予想できようか 精々(せいぜい)心の(うれ)いが晴れれば御の字と思っておったが・・・


 先々の事を考えれば とても看過(かんか)できる事態ではない」



 問題にならないよう家に籠って訓練したつもりが、思いもよらず武器としての性能を研ぎ澄ませてしまったらしい。



「だからって殺す事はないでしょう!? この男には自分のしでかした悪事を全部吐いてもらわなきゃいけないのに!


 ラトリアやその家族は 彼女の父がこの男に騙されて失くしてしまった剣1本の為に 今も苦しんでいるんです!」


「わかっておる 似たケースで苦汁を飲まされとる者は他にもおるでな だがそれを差し置いても こやつの息の根はここで断ち切らねばならなかった


 ミストリア嬢ちゃんのこのスキルは 絶対に他の者に知られる訳にはいかん


 冒険者も商人も貴族も王族も 人の内面が手に取るように分かる力など 争いの種にしかならん


 これは決して大袈裟に言っとる訳ではないぞ? それだけ大衆の心は混沌に満ちておるんじゃ


 さぁ いつまでもこんな所におらんで とっとと小僧の元に戻るがよい」



 お爺さんは私達を半ば強引に部屋から追い出すと、たった今人を殺めた直後とは思えない程に素知らぬ顔で室内の騒ぎが漏れてはいまいかと薄目で辺りをキョロキョロ見回した。


 それでもマルティナは負けじとお爺さんに食って掛かる。



「ちゃんと事件の調査はしてもらえるんでしょうね! ラトリアの父は冒険者なんです! 冒険者ならギルドは救いの手を差し伸べるんですよね!?」


「善処しよう あぁ それと・・・ プルトンは避難の途中でモンスターに襲われた と言う事にでもしておいてくれ


 流石に個人の裁量で殺めたとなれば外聞も悪いし 裏で繋がる貴族に揚げ足を取られたくはないからの」


「なっ!? ギルドの長ともあろう人物が 真実を無かった事にしろって言うの!? そんなの許される訳がないでしょう!?」


「もしワシが手を下したことがバレたら 必ずその理由を探ってくる こうしている間も何処かで奴等の手下が目を光らせているやも知れんしな


 それに小僧もプルトンの背後にいる人物とは面識がある 疑いの目を向けられて付け回される等 嬢ちゃんの望むところではあるまい?」



 貴族に限らず人の持つ悪意には心当たりがある。それにアネットを盾に取られた時点で彼女に勝ち目はない。


 引き際と感じた私はマルティナの手を引っ張った。








 と、言うのが部屋の前での経緯だ。


 そして今私の前で(こうべ)を垂れるエルヴィラ・ストラディオと名乗るこの女性。


 以前たしか屋敷を訪ねて来た事があるような無いような・・・そんな人物だ。あまり覚えていないと言う事は、まぁどうでもいい人間だったのだろう。


 しかし今は人の目もあるので社交辞令として取り敢えずの相槌(あいづち)を打っておく事にする。



〔お久しぶりですね 息災で何よりです この度は町の窮地(きゅうち)に駆け付けてくれた事 大儀でした 父 そして領民に代わり厚くお礼申します〕


「い・・・いえ 私の方こそもっと速く(まか)り越しますれば 被害も押さえられましたものを 至らぬばかりに心が締め付けられる想いです」



 言葉尻から正義感の強い人物であるらしい。信念を曲げる事を嫌がりそうな性格は、何処かマルティナと似ている気がする。


 しかし私の水魔法を目の当たりにした彼女は、前例のない事だろう驚きを隠せず言葉に詰まったようだ。



「お噂は・・・ 本当なのですね 学園から居なくなりお隠れになられたと聞きましたが・・・ それがよもやマイナス等級に取り憑かれていたとは・・・」



 たかが娘1人居なくなったから何だと思うが、家が公爵家なら対外的にも噂が広まるのだろう。


 まったくもって辟易(へきえき)とする。



「しかし流石は幼少の頃より水魔法に素質があると言われたミストリア様 スペルを口ずさむ事なく これを行使するとは お見事です!」


〔ありがとう〕



 私はニッコリと一言返したが本当に凄いのはスキルさんだ。何せ学園が当たり前のように施してきた常識を吹っ飛ばす奇跡を引き起こしたのだから。


 私はコロコロしている2人のスキルさんを優しくそっと撫でた。



「それにしても・・・ プルトンが死んでしまったとなると また別の方向から調査をやり直す必要があるか・・・」


「その事に関して冒険者ギルドは協力を惜しまんぞ? 死してなお奴に苦しめられておる者も居るでな」


「我々はプルトン1人を追っている訳ではない 所詮奴は蜥蜴(とかげ)の尻尾 本物の悪は今ものうのうと誰かを利用し私腹を肥やしている


 まさかと思うが 貴殿がその1人・・・ と言うわけではあるまいな?」


〔まぁ 恐ろしい〕



 すかさず調子を合わせた私をお爺さんはジト目でチラリと見てきたが部屋での意趣返しだ。これくらいは許容範囲だろう。



「それは無いと思いますよ?」



 反論や如何(いか)にと思いきや、そこにアネットが口を挟んだ。



「お前は?」


「えと・・ 彼はアネットと言って この町の冒険者ですっ」



 顔立ちは整っているが騎士団の団長を努めるだけあって普通の人より圧迫感が強いように思う。


 何処となく険のある彼女の声にすかさずマルティナが割って入った。


 凛々(りり)しい姿から特に女性に人気がありそうで男性からも注目を集めるが、素の性格が強く異性を寄せ付けずに未だ独り身のようなそんな感じか。



「そうか・・・ お前が盲目の冒険者 噂に聞くアネットか」



 意外と噂好き? 顔に似合わずミーハーなのだろうか。


 マイナス等級のスキルさん保有者が冒険者になる事ってそこまで噂になるレベルなのか。


 それにしてもアネットを見つめる彼女の眼差しが何処か(いぶか)しげなのは気のせいだろうか。


 これを快挙ととるか懐疑的に捉えるか。彼女は・・・



 ★



 何だろう。


 騎士団長ことエルヴィラさんから値踏みでもされているような視線を感じる。やはり盲目の僕が冒険者をやっている事は許容し難いのだろうか。


 実のところ道を歩いていてもギルド内でも、卦体(けたい)な目で見られる事は多々あったりする。


 皆が皆同じ感情を抱いている訳ではないにしろ「普通でないもの」に対し自然と目がいくのは人の(さが)なのだろうか。


 僕を見つめる彼女の目もまたその例に漏れないようだが悪感情と言う訳でもなさそうだ。


 出会って早々相手の事を決めつけるのは良くないが、僕と彼女の心の距離は他の人より大分離れた位置にある・・・そんな気がする。




 疑いを掛けられたランドルフ(ギルド長)さんの弁明を図ろうとした丁度その時。


 彼女の名を呼ぶ声がさざめくホールに一際(ひときわ)冴え咄嗟に僕の口を閉じさせた。



「エルヴィラ様!?」



 普段の凛とした彼女からは聞けないであろう動転した声を上げたのは、将来騎士を(こころざ)すギルド訓練生のラトリア。


 エルヴィラさんの存在に気付いた彼女は、旧知の仲と久し振りに再会したかのような浮き足立った足取りで駆け寄ってきた。



「エルヴィラ様! お久しぶりです! いつ|此方に?」


「ラトリアか 実は以前からモンスターの不穏な動向を探っていたのだ 本来ならもう少し早くハルメリーに駐屯する予定だったのだが 統制のとれた妙な動きに 此方も下手な行動をとれなくてね」


「今回の惨事 何か予兆があったのですね」


「前々から隣の領内でその兆候が見られてはいたが どうも最近になってこの町に移動してきている様子でな


 街道で駐留していた折り ギルドから急を有する伝書が届いて こうして駆け付けてみたら・・・


 まさか騒動の元凶が災害級のスキル保有者だったとは・・・」


「まさかっ! 話に聞く災害級のスキルさんがこの町にやって来ていたのですか!?」


「あぁ だがいたずらに民衆の不安を(あお)る必要はない この事は時が来るまで他言無用だぞ?」


「はい!」



 そんな機密情報に等しい内容を手軽にやり取りできる程、彼女達の関係は近しいらしい。


 事ここに至れば災害級の存在を(ほの)めかしたところでその信憑性も薄くはないが、一言一句疑う事をしないラトリアはエルヴィラさんに絶対の信頼を寄せているようだった。


 もっともラトリアも外の惨状を目の当たりにしたのなら、偶然が重なっただけと言われるより災害級の仕業と言われた方が素直に納得できるだろうが。


 ラトリアから僅かに血と汗の臭いがこびりついている。どうやら僕達とは別の場所で事に当たっていたらしい。


 訓練生も駆り出されているのかギルド内にもちらほら年若い声が飛び交っていた。



「アネット? アネットなのか!? どうしたんだ! そんな酷い怪我を負って! 大丈夫か! 死んではダメだっ!」



 ラトリアはベットに横たわる僕に気付いたのか枕元に近付くと耳元で必死に呼び掛けてきた。


 確かに全身に包帯が巻かれているので(はた)から見ると瀕死の重傷に見えなくもない。


 こんな時目が見えないと自分の現状をきちんと把握できないのが困りものだが、ある程度体を動かせるし指摘される程の大事ではないのだが・・・どうなのだろう。



「大丈夫だよラトリア 落ち着いて」


「とても大丈夫そうには見えないが・・・」



 見えないらしい・・・



「まぁ 怪我人に無体をさせるのもなんだ


 私はそろそろ失礼させてもらうとするよ ランドルフ殿 詳しい話しは(いず)れ聞かせてもらうとして 今はしなければならない事が山積(さんせき)しているしな


 我々は(しばら)くこの町に駐屯する事になる ラトリア 状況が落ち着いたら私を訪ねて来ると良い 茶でも飲みながら 互いに近況報告でもしようじゃないか」


「はい!」



 さっぱりとした性格なのかランドルフ(ギルド長)さんへの猜疑心(さいぎしん)は晴れていないものの、避難民の真っ只中で事を荒立てず、周囲に気を遣ってこの場は引く事にしたようだ。


 良識ある人と言う認識ではあるが、僕に向けられた懐疑的(かいぎてき)な目は結局変わらず、どうにもしこりが残る別れとなった。



「ラトリアはエルヴィラさんとは懇意(こんい)なの?」


「あぁ アネット達には話した事があるだろう? 私達家族が悪漢に連れ拐われようとした際に 助けてくれた騎士が彼女なんだ


 当時はまだ団長ではなかったが その頃から色々とお世話になっているんだよ 私が騎士を目指すのは恩を返したいと言う思いもあるが 単に彼女に憧れを抱いているからでもあるんだ」



 心酔するように話すラトリアの心は晴れ渡って一点の曇りも無い。


 生真面目なラトリアが尊敬する相手から向けられる胡乱(うろん)な視線がどうにも引っ掛かる。


 彼女もまた道行く多くの人と同じように僕を容認し難い人物なのか。それとも相応の理由があるのか。


 ラトリアが目標と(かか)げる人だからこそ公明正大であってほしいものだ。



 ★



 父の昔を知る者は(ただ)の偶然だ。運が良いだけだ。と揶揄(やゆ)する者も居るが、世間一般からしてみればそれは立派な武勲であっただろう。


 隣国との戦争のおり民兵として徴集された父は戦場で見事な武功を挙げ騎士爵の称号を(たまわ)った。


 その後母と()い遂げ私はこの世に生を受ける事となる。


 しかしそのような武勲を上げた父は取り分け武芸に(ひい)でている訳でもなく凡庸(ぼんよう)であったと聞く。


 その事からも周囲には「戦場の功績は偶然と時の運」などと(あざけ)られもしたが、爵位に恥じぬようにと幼い頃から私は騎士になるべく育てられてきた。


 今代(こんだい)限りの称号とは言え誇りを(むね)とし生きる父の背中は広かったし、裕福とは言えなかったが所謂(いわゆる)普通と言う意味では幸せな家庭であったと思う。




 私には歳の離れた妹がいる。


 名前をシルヴィーと言い可愛い以外は極々普通の女の子だ。


 家が爵位持ちとは言え妹まで厳格な貴族のたしなみを押し付けられる事はなく、のびのびと人生を歩んでいく筈だった。








 あの日“盲目さん”に取り憑かれさえしなければ・・・








 マイナス等級の“盲目さん”。


 それが傍らに居るだけで周りからどんな扱いを受けるのか。弱きを助ける事を信条にしていた私はそれをよく知っている。


 裏通りで暴行を受ける人を仲裁した事があった。親が子供を教会や孤児院に預けたり奴隷商人に売り渡す者を目撃した事もある。


 でもどこかで自分とは無関係な事だと思っていた。


 それがまさか身近な人間に降りかかるなんて・・・ 準貴族とは言え世間体を気にするのかと思いきや、両親はそんなシルヴィーを溺愛した。


 シルヴィーも最初こそ悲嘆にくれる日々もあったが、次第に顔の(かげ)りは薄れ、少しずつ私達に以前のような笑顔を見せてくれるようになっていった。





 しかしそんな家族の様相も次第に変わっていく事となる。





「お父様 今日は南の川の(ほとり)に行くと 良い事があるかもしれません」

「お母様 今日の〇〇様のパーティーには 青のドレスを着ていった方が喜ばれるかもしれません」




 あの子も両親の気を引きたい年頃か、いつからか妹はそんな事を口走るようになっていた。


 両親もまた最近かまってあげられないシルヴィーを想い「愛する娘の言う事だ 無下(むげ)にする理由もない」と妹の意を極力()む方向で言われるがままに行動した。


 結果としてそれは正解だった。


 川の(ほとり)で助けた子供は伯爵家の御子息だったし、パーティーに着ていった青いドレスは御婦人方に人気の職人の手によるもので、下位貴族とは言えそれらがきっかけで両親の人間関係の幅は拡がっていった。


 そんな予言めいた事が何度もあると、両親の顔は次第に変貌を遂げていく。



「明日は何処へ行けば良い?」

「今日のパーティーはどの色のドレスを着ていったら良いかしら?」



 そこにあったのは娘を愛する親の顔ではない。下卑た笑みですがる物乞いの姿だった。



「明日は荷馬車で 町外れの並木道を正午過ぎに走らせてください そこで旅行から帰宅途中の〇〇様の馬車が倒れているので助けて差し上げると良いでしょう」

「今日のパーティーは淡い目立たないドレスが明るいです 今宵は〇〇様が来られるので あまり近付かない方が良いですが 〇〇様のお誘いはお受けした方が後々良い方向に向かう事になります」



 その言葉はもはや予知だった。


 精度は日に日に磨かれ事細かく明確になってゆき、またそのどれもが見事に的中した。


 そんな我が家はどうなったか・・・


 父は数多の功績と人脈で平民から男爵と言う永代貴族にのし上がった傑物(けつぶつ)とまで言われるようになっていた。


 そうなると父も王都におわす王様に拝謁する身となり、それに伴い母も何処へ行くのか家を開けがちになっていく。


 家の灯りは消え冷たい空気が無駄に広い屋敷に立ち込めるばかりとなった。両親が家に戻るのは妹の予言を聞きに戻る時だけ。


 身内にマイナス等級保持者が居る事を危惧した両親は家名に傷がつくのを恐れたのか、シルヴィーを死んだものとし屋敷の奥に軟禁した。


 溺愛していたとは言え盲目である事実を周りに吹聴する事もなかったので、妹の存在を探る者がいなかった事が両親の拍車を更に掛ける結果とる。



「何故あんな事を言い続けた いつかこうなると分からなかったのか!?」


「盲目さんが『予見の目』で見せてくれる風景に 家族皆で映る景色は無かったのです お父様もお母様も それぞれ望む未来はバラバラで それでも心は満たされていた


 私は・・・皆に幸せになってほしいだけなのです」


「皆の幸せ? すれ違う家族の中で一緒にいる事も適わず 世界から切り離されても それでも両親を思い続けるのか


 しかしそんなものは家族とは呼べない! お前は昔のような仲睦まじい普通の家族模様を諦めてしまったのか? それに・・・


 皆の幸せを望んでくれるなら 私の幸せとは何処にある・・・」


「・・・・・お姉さま これより一月(ひとつき)の後 コルティネリ領ハルメリーの町は未曾有の大難に見舞われますが 同時に吉日でもあります 遠征隊に志願なさいませ


 そこでアネットと言う名の少年と出会うでしょう その方は私()にとっての吉兆 是非とも縁を深める事をお薦めします」


「違う! 私が聞きたいのはそう言う答えじゃない!」


「ご免なさいお姉さま 私は自分の立場はわきまえているつもりです それでも・・・ 陽の光の下 私とお姉さまが共に微笑んでる景色はその未来にしか存在しないから・・・」



 災いが起こる日が吉日とは。喜んで良いものやら分からないが妹の言う事は当たる。


 しかし本当にその少年が我が家に幸せを運んでくれる鳥なのか。たかだか1人の人間に何が出来ると言うのだろう。


 いくらシルヴィーの言う事だからと言って、手放しで受け入れる訳にはいかない。





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