↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
424/425

424・迫る追っ手

前回のあらすじ


城から脱したアネットはそのまま王都を出てマルティナ達と合流した。状況を鑑みて国外への逃亡を視野に入れ一行はハルメリーへ立ち寄ることを決めた。

 ゴトゴトゴトゴト・・・


 人間何事もできるようになった方がいい。と言うことで馬車の操縦は今マルティナが手綱を握っている。初挑戦が馬車の早駆けと言うのも中々リスキーだけど、そこは無謀に突撃する冒険者。何事も「挑戦」の1文字で片がつく。


 それに贅沢言ってられる状況でもないしね。


 一応助手に深淵の担い手メンバーがついてるとは言え、事故を覚悟しながらこの身を委ねるしかないわけだけど、慣れと言うのも怖いもので、しばらく何事も起こらないと置かれている状況に何も感じなくなってくる。


 そんな走る棺桶ともとれる車内で僕は休憩中のバルブリックさんとの会話を思い出していた。



「バルブリックさんは・・・予見の目に興味が湧いたりします?」


「ん? ん~・・ 面白そうではあるが 頼りはしないだろうな」


〔そう? 先が分かるって便利じゃない? それに失敗だってすることないのだし〕


「便利か 確かに便利は便利だろう だがつまらない 躓いて転んで そこから感じて考えて学んで次の糧とする それが成長だ 失敗や苦悩が人を厚くするんだ 痛みを知るから人は他人を気遣える 必要なのさ 失敗は」



 からかうように尋ねたミストリアにバルブリックさんは諭すように返した。なる程、ランドルフさんのことで悩んで苦しんで、それが今の人望に繋がってるんだ。


 もちろんそれだけじゃないんだろうけど、後進を気にかける彼らしい返答だ。でもその考えは当たってる。未来に惑わされず地に足が着いていた人生と結果を皆が称賛したから英雄になり得たんだし。


 そんな彼が護衛に付いてきてくれるのは精神的にも頼もしいしありがたい。



『アネット~ 沢山の意識がこっちに飛んできてるよ~』

「本当? 数は分かる?」

『う~ いっぱい~』


「追っ手か?」



 “盲目さん”の進言にガチャリと馬車の戸を開けて後方を確認するエルヴィラさんは、追っ手の可能性を御者台にいる深淵の担い手メンバーに伝えた。



「追っ手の可能性があるっ! 確認してくれっ」


「分かった!」



 馬の手綱を交代したメンバーの人はそのままバルブリックさんの馬車と並走させる。そこで幾つかやり取りをすると上へと上がる色を1つ放った。たぶん“狩人さん”だろう。


 “狩人さん”はしばらく上空を浮遊するとスキルさんを通して見た光景を皆に報告した。



「騎士団だ! それなりの数揃えてるぞっ!」


「騎士団? それはどこの・・・ 旗は? 掲げている旗は何だっ!」


「旗!? あ~ 赤い旗に獅子の絵だっ!」


「レオンハーツ騎士団・・・ きっとギャレズリー大佐だ」


「影が迫っている! いずれ追い付かれるぞっ!」



 王様が捕らえた僕を逃がしたとあっては王家の威信にも関わる。きっとギャレズリー大佐は怒りと嬉々とを織り混ぜた感情で僕を追ってきていることだろう。


 つまり絶対逃がしてはくれない。


 そんな意気込みが彼を後押ししてるのか、もう僕達に追い付いている。その距離は徐々に縮み終には僕等の後ろにピッタリと張り付いた。



「ダメだったか 仕方ない 連中には私が応対しよう」



 エルヴィラさんの覚悟と共に馬車は速度を緩めゆっくりと停車すると、追っ手は「絶対に逃がさない」と言わんばかりにグルリと馬車を取り囲んでしまった。



「出てこい咎人! 貴様が隠れてることなどお見通しだぞっ!」


「咎人とは何だっ アネットは何ら罪を犯していないっ」


「何を言う 牢から脱獄し王の威光に唾を吐いた・・・いや違うな 奴がマイナス等級と言う時点で咎人であろう それに・・各所に奴の討伐命令が既に出されている これで名実共に奴が咎人であることが決定した 貴殿も騎士団なら王命に従うことだな」


「口頭だけでは信用ならんな 貴公はアネット個人に含むところがあると聞いた おおかた王の名を語り自らの復讐心を慰めているのだろうっ」


「愚かな」



 ギャレズリー大佐が何を思ってここまで来たかは兎も角、彼の言葉に嘘を感じない。おそらく本当に僕の討伐命令が各所に出されたんだろう。


 と言うことはハルメリーにも・・・



「お前達は逃げろ しばらく逃げたらこいつを空に飛ばすんだ 行き先はラズフォートの冒険者ギルドのギルド長宛になっている」



 大佐の話を聞いてバルブリックさんもハッタリでないことを悟ったのか、何処からか紙を取り出すと無理やり僕に渡してきた。



「あの・・・これは? まさか伝書鳩 待って バルブリックさん達はどうするんですかっ」


「俺達のことは気にしなくていい こう言う時の護衛だ」


「そんなっ それはダメです! 皆で一緒に逃げましょう!」


「いいかアネット 感情に任せるな 目標に向かって進むんだ 例え理想の形で終わらなくても お前を逃がす決断をした者達がいることを忘れるな そしてその意思を無駄にすることこそ一番の不義理と知れ 感傷に浸るのはやるべきことを終えた後だ いいな」


「っ!」



 壁があった。僕を守ってくれる大きな壁。


 同時に向かう先にも壁があると教えられた。そして臆せず乗り越えろとも。


 先達としての矜持を示したバルブリックさんは僕達を残して馬車を降りていく。このまま行かせてしまっても良いのだろうか。僕を気に掛け助けてくれる彼を取り残して僕達だけおめおめ逃げて大丈夫なのだろうか。


 そんなの間違ってる。ここで見捨てたらきっと後悔する。行かなきゃ。助けなきゃと僕の心が心臓を責っ付く。


 と同時に彼の言葉が脳裏を過る。感情に呑まれて馬車を降りれば彼の決意を無下にすると。


 苦しい・・・


 心が痛い・・・



「久しいな大佐 こうしてまみえるのも」


「ふん バルブリックか まさかとは思うが公務の邪魔をする為に前に出てきたわけではあるまいな」


「そちらが公務なら こちらは仕事だ 互いにやるべきことをやる それだけだろう?」


「正気か? 貴様の言は王命に逆らうのと同義だぞ」


「俺達は冒険者だ 決められた通りの道を行くようにはできてないんでね」


「どいつもこいつも 何故騎士団の俺様に逆らおうとする・・・」



 彼等のやり取りを聞いているとエルヴィラさんは3台目の積み荷の乗る馬車へと移動した。そしてミストリアはそっとマルティナに合図を送る。



〔アネット 事前に話してあった計画通りにするわよ〕



 話してあった計画。それは追っ手に追い付かれた場合の対処法だった。今さっきバルブリックさんから諭された通り、彼等が盾となって僕達は逃げる。


 その判断を容赦なく突き付けられて体の中が重くなった。とても嫌な気分だ。



〔マルティナ行って! アネットはスキルをお願い!〕


「分かったわ!」



 ミストリアの号令で皆が動き出す。手綱を握ったマルティナは馬を走らせ僕は前方の騎士達に『プチダーク』を放った。闇に被われた人達・・・と言うより主に馬に向けてミストリアは水を頭に被せていく。


 窒息し苦しんでるところを勢い任せに突っ込んで包囲を脱した僕達はそのままひたすらに前へと進んだ。



「追えっ 追えーーっ!」


『チェインジェイル!』

「悪いがそれは阻止させてもらうぜっ!」


「ぐっ! おのれー! 動ける者は追え! 絶対に逃がすな!」


「おっと 大佐 あんたの相手はこの俺だ」


「バルブリック・・・っ!」








 ドドドドドドドド・・・


 後ろが気になる。


 バルブリックさん達は大丈夫だろうか。



〔まだ追っ手が掛かっているわ 流石に数が多かったようね 水魔法さん お願い〕

『〔了解〕』



 バシュッバシュッと放たれた水は殴打ではなく先ほどと同様馬の頭に被せられていく。かなりの速度を出してる中の呼吸も荒い馬達に「その水は飲み込むな」と言う方が無理な話で、口に触れた水はみるみるその量を減らしていった。


 騎手との間にどんな信頼関係があっても生命の危機には抗えない。苦しみにもがいた馬達は自身に乗る騎士を振り落として暴れた。



〔まだ残ってるわ 後はお願い・・・〕



 体調の戻らないミストリアは数度のスキルを放つだけで大変そうだ。こうなった時の対処法も予め決めてある。ちょっと酷だけど・・・



「悪いが今の俺じゃ 鍵は開けられても戦闘はできねぇぜ 見張り用の分体だかんな」


「分かってる 盲目さん」

『ダークミストー』

「マルティナ!」


「任せて! キャッスル・オブ・プロテクション!」



 広範囲に黒い煙幕を広げの後馬車の速度を落とす。停止に近い徐行に整え、そこにこれまた広い壁をマルティナが用意する。


 するとどうなるか。


 脱兎のごとく駆けてきた馬達が一斉に壁に激突して悲惨な断末魔的ないななきを上げた。馬と共に激突した騎手も鎧に身を包んでいようが関係ない。むしろ重たい分余計に衝撃を受けそうな気がする。


 いかに鍛えられた騎士であっても流石にこれには耐えられなかったのか誰一人として立ち上がる者はいなかった。


 この戦略結構エグいものがある。いったい誰の立案だろう・・・



「・・・イゼッタ先生の言った通りだわ 1つのスキルさんで統制されてると いざって時に柔軟な対処ができないって」


「騎士の人達は皆戦士さんだったのかな」


〔狩人さんが不在なら 上空から探られることもないものね 相手が規律バカで助かったわ〕


「産まれたてのモンスターと同じだな 人間はダンジョンから学ばねぇのか? よく来るくせによ」


「ダンジョンと地上じゃ環境も事情も違うからね 盲目さん 後ろからまだ追ってきてそう?」

『ううん~ 意識の線は途切れてるよ~』

「そう じゃあそろそろ伝書鳩を飛ばすね マルティナ 鳩の後を追って」


「了解っ」



 紙を上空に上げるとそれは紙とは思えない動きをして鳥のように羽ばたいた。これもスキルの成せる技なんだろうけど神秘だ。


 飛び立つ鳩に向け馬車は行進を始める。激しい揺れに身を晒してると隣につけてきた馬車からエルヴィラさんが話し掛けてきた。



「マルティナ! 馬車を交換しよう! 物資が積まれてるこっちの馬車で鳩を追え! 私は1人で妹に会ってくる!」


「本当に町にアネットの討伐命令が出されてると思ってるのっ?」


「可能性は否定できない! それにこの方向は町とはちょっとずれている! おそらくラズフォートの植生ダンジョンに向かっている筈だ!」


「植生ダンジョン!? 何でっ!」


「ラズフォートの冒険者ギルド長は抜けてるところもあるが聡明だ! きっとこれも読んでいたに違いない!」


「・・・分かったわ!」



 マルティナは何とか馬車を止めると僕達はそれぞれ乗っていた馬車を乗り換えた。



「エルヴィラさんは妹さんに会った後どうするんですか?」


「ふむ これは想定していなかったからな ・・・私を待つ必要はない お前達は自分達の都合でハルメリーに向かってくれ 私も用が済んだらハルメリーに向かう」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。