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425・ラズフォートの植生ダンジョン

前回のあらすじ


早駆けで馬車を走らすアネット一行を追い掛けてきたギャレズリー大佐が捉える。バルブリックはアネット等を助ける為自らを囮にした。逃走したアネットは託された伝書鳩を空に飛ばし馬車を駆るのだった。

 ラズフォートの植生ダンジョン。僕達は今上空の伝書鳩を追いながらそこに向かっている。実際に行ったことないけれど、その存在はギルド長ティーティアさんから聞いたことがあった。


 鉱物資源の採れるコドリン洞穴から重要性がやや下がり、ダンジョン自体も徹底した管理はされておらず、誰でも簡単に出入りできる。僕が落ち着ける場所と言うなら今の町中よりは幾分安らげるだろう。


 ダンジョンだけど・・・



「・・・・・」



 バルブリック達さんは大丈夫だろうか。相手は騎士団だけど彼等は英雄。きっと何とかして僕達の後を追ってきてる筈。うん・・・大丈夫。信じよう。


 そんなことばかりが気になって見える筈もない後ろをちょくちょく意識してしまう。そしてまた頭でグルグル考える。その繰り返しだ。



〔・・・アネット 彼も言ってたでしょう 今は逃げることに集中して〕


「うん・・・」



 そうだよね・・・託された思いを無駄にするわけにはいかない。僕がしっかりしなくちゃ彼等だって安心できない筈だ。今は逃げ延びることに全力を注ごう。


 自分にそう言い聞かせ心がモヤモヤしたまま馬車に揺られていると、空を飛んでいた色は目的地に到着するのか不意に降下し始めた。


 色を追ってそのまま視線を落としていくと、そこには幾つかの色が並び伝書鳩はその合間に吸い込まれていった。


 彼等の元まで進んだ馬車は速度を緩めて停車し、僕達はその色の元まで歩いていく。するとギルド長にしては若々しい女性の声が、やや尊大な声色を含んで鳴った。



「植生ダンジョンへようこそ 理不尽な長旅に疲れただろう ここで採れた特性の茶葉で喉でも潤さないか?」


「ティーティアさん・・・」


「どうも」


〔お久し振りです〕



 追われることになった僕を前に怪訝な感情にでもなると思っていた彼女だったけど、全然そんなことはなく、むしろ「確証を得た」みたいな明確な色になって表現されている。


 きっと彼女の中で既に僕達への答えが出ているに違いない。売られる・・・何てことにならないよね?


 ダンジョンに入るとそこには複数人が1ヶ所に集められていた。僕達が来たことで彼等から一斉に注視されて何だか気まずい。そんな中に「お あの時の少年じゃないか」と言う声も混じっていた。


 確かラズフォートに来た当初、少女襲撃で町はモンスターで大変なことになった。その時にやり取りをした冒険者は幾人かいたけれど彼等だろうか。


 僕が捕まってる間彼等とも色々準備を進めていたらしく、今度は彼等が力を貸してくれることをマルティナから聞いている。


 それにしてもギルド長自らダンジョンに赴いてくれるのは有難いけれど、バルブリックさんと言い僕相手にそこまでしてくれる面々の顔ぶれが偉大過ぎて萎縮してしまう。



「さて 英雄殿が一緒でないところを見ると追っ手を食い止めたか」


「・・・はい」


「そう言えばエルヴィラ殿は? 彼女と行動を共にしてると伝書で確認したのだが エルヴィラ殿も残られたのかな?」


「いいえ エルヴィラさんは妹さんに会う為に町に行きました」


「この状況下で私情を優先させるのか」


「い いいえっ 彼女にはその 色々と事情がありまして・・・」


「・・・まあ そう言うことにしておこう では これからのことについて話そうか」



 そう言うと彼女は僕達をダンジョンに設えた椅子へと案内した。


 ここラズフォートの植生ダンジョンはコドリン洞穴とは違い、ダンジョン出口付近に店等は設けられていない。


 でもどのダンジョンも共通する部分はあるらしく、出口近辺はモンスターの湧かない安全地帯となっている。そのせいか皆の警戒心は薄い。



「残念な知らせだがアネット 君は今国中から手配されている 王家からの伝書とあって貴族共は色めき立っているぞ」


「なっ! まさか貴女・・アネットを捕まえる気っ!」



 ギャレズリー大佐の言で覚悟はしていたけれど、こうして真正面から突き付けられるとくるものがある。



「落ち着きたまえ そんなつもりはない ギルドが冒険者を売ったとなれば組織体系に支障を来す ギルドの信頼は地に落ち 貴族の力が増してパワーバランスが崩れるだろう 誰も貴族に逆らえなくなる」


「・・・ふぅん ギルド長としての動機はあるってわけね」



 貴族をよく思わない彼女ならではの発想だ。ハルメリーでも貴族の私兵と色々揉めてたし僕も標的にされたこともあったから、彼女の判断は冒険者として頼もしくはある。


 その割りには感情の中にニヨニヨした部分がチラチラ見え隠れしてるのが気になるけど・・・



「それで どうして僕達をここへ?」


「うん? それは王家の用意した牢獄を脱獄したのだ 国をあげて追われるのは自明だろう それに王がマイナス等級を忌嫌う理由も気になるからな」


「・・・・」



 マイナス等級は嫌われて当たり前な風潮に疑問を持ってくれる人もいたんだ。でも肝心要の王様がそれでは・・・


 もしかしたらハルメリーでマイナス等級支援施設を開設できたのは奇跡だったのかもしれない。とは言え、今やマイナス等級の代表格となった僕が悪い意味で着目されては、施設の行く末は暗雲に包まれたも同然なんだけど。



「それと君達を逃がす段取りだ 結論を述べると国外以外にない まず王は一度口にしたことは覆さん 威信にも関わるからな その為にもエルヴィラ殿と話がしたかったのだが・・・」


「エルヴィラさんは家族に会いに行ってるんです それとたぶん情報収集とか・・・」


「不仲と聞いた家族にか? ・・・そう言えば噂では妹がいるそうではないか」



 そう聞いてきたティーティアさんは、まるで確認でもとるかのように詰めてくる。うん。これ絶対知ってて聞いてるやつだ。


 でも一応はいない人として彼等が扱っているので僕がそれに言及するわけにもいかない。


 誤魔化しとこう。



「えぇと な 何のことでしょう・・・」


「・・・ふむ なる程なる程 まあ彼等家族に子が2人いるなど噂の域だからな だが長年気になっていた点と点が ここにきて線に繋がった気がするのだよ 聞いてくれるか?」


「え えぇ まぁ・・・」



 ゴクリ・・・



「フフ 私は貴族のバカ共に辛酸を舐めさせられてきた 普段は能力など無いくせに肝心なところで利益を掻っ攫っていく 最初は才を隠していたのかと関心もしたが どうやらそうでもないらしい


 となると 影で助言している者がいると踏んだ で 喫緊この町で急速に力を強めた家に着目したんだ それがストラディオ家 エルヴィラ殿の実家だ 当然彼等とも幾度か話をしたが突出したものは見受けられなかった


 だから色々角度を変えて会話を進めた するとどうだ 会話の節々に触れられたくない部分が表れるようになる それこそが家族構成だ」



 ティーティアさんはまるで答え合わせでもするかのように自身の頭の中にある回答をつらつら述べていく。



「貴族が家族の問題で一番隠したいこととは何だ そう 身内にマイナス等級がいることだ しかし・・・だったら何故殺めない? 何故捨てない? 何故監禁する?


 夫婦間の縺(もつ)れも家族に対する想いの食い違いと納得もしたが 今回の王の動きといいどうにも腑に落ちない マイナス等級など謁見せずにほっとけばいいものを何故・・・と


 だから発想を変えてみた 王はマイナス等級を嫌っているのではなく危険視してるのではと そう考えると貴族共の動きにも合点がいく


 ストラディオ家の急速な躍進と秘密 彼等に群がる貴族共 そして約束された利益 あまりにも上手くいき過ぎている これではまるで答えが分かってると言わんばかりではないか」



 あ・・・当たってる。全部当たってる。彼女は会話の節々に「どうだ? 合ってるか?」とちょいちょい意識を向けてきたけれど「白状しろ」とまでは言われてない気はする。


 と言うか直球の返答は求めない会話を楽しんでるようにも見えた。



「も もし先の事が分かる そんなスキルがあったら貴女ならどうします?」


「生粋の冒険者なら鼻で笑うだろうが 私なら迷わず利用するな 彼等は自ら冒険に赴くがギルドはそんな彼等のサポートが仕事だ 仕事先が死地の彼等の生存率を上げるのが使命だからな 迷わんよ」



 死地か。確かに出先で命は保証されない。王都ダンジョンでも、あの時事前に派兵されていなかったらいったいどれ程の被害が冒険者に出ていただろう。


 それを考えると否定はできないし、彼女自身も苦い経験があるのか心の傷が疼いたように感じた。


 僕としてはモヤモヤする部分もあるけれど、彼女はギルド長に相応しい人物だとハッキリ認識できる。



「それにそう言った不条理は大抵政変に起こる それを止めると言うことは貴族共の鼻っ柱を叩き折ることに繋がるんだ 使わない手はないだろう?」



 躊躇わずそう言い放つティーティアさんはとても清々しい気持ちに悦に入った。うんティーティアさんはティーティアさんだった。


 おそらくシルヴィーとティーティアさんが出会うのもそう遠い話ではないのかもしれない。



 ★



「シルヴィー! シルヴィーいるかっ! はぁはぁはぁ・・・」


「お姉さまっ 良かった よくご無事で」


「シルヴィー・・・あれは 本当に 合っていたのか・・? 酷い目にあったぞ アネットが・・・」


「申し訳ありません お姉さまを見ようとすると 景色が歪んでしまうのです」


「歪む? 歪むとは どう言うことだ」



 細かく的確に未来を言い当てる、それが『予見の目』の筈だ。だから大雑把な両親でも今の地位につけている。


 それがシルヴィーどころか“盲目さん”でさえ不明瞭な点があると言うのは流石におかしいだろう。2人に体の不調でもあるのか?



『道がね 繋がったんだよ? 次の入り口なんだー』


「入り口? 何だそれはっ」


『精霊さんと一緒に進む それが次の道~』


「一緒に進む・・・? わけが分からん 詳しく教えてくれっ アネットの命が掛かっているんだっ!」


『それは精霊さんと精霊さんに辿り着いた人次第かな~』


「答えになっていないぞっ」


『世界は巡るよ? 季節が変わるように ボク達は今その流れに身を投じてるだけなんだ だから次の季節に合わせて種蒔きをするのー』


「種・・蒔き? つまり何かをすると言うことか? しかし王都ダンジョンにはもう戻れん」


『彼の縁はあそこじゃないよ もっと繋がりの強いところさ』


「繋り・・・ハルメリーか だったらどうして最初に言ってくれなかった! 王都に行きさえしなければアネットは捕まることはなかったんだぞ!」


『必要だったんだ~ どうしても 王都にいかなきゃいけなかったんだよ』


「・・・何故だ ・・・分からん だが もし精霊さんに会いたければコドリン洞穴に行かなきゃならないと言うことか 内か外 どちらも何の保証もない究極の2択じゃないか こんなものっ」





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