422・牢獄の中で
前回のあらすじ
王城にやって来たアネットは謁見の目にてモンスター襲来の経緯を話す。取り立てて発言する機会もなく終わった報告に退室しようとしたアネットを王が呼び止めた。別室にてマイナス等級への考えを吐露した王はアネットに死刑を宣告するのだった。
僕は失敗してしまったのかもしれない。
一応『予見の目』で言われた通りの行動はなぞったつもりだったけど、シルヴィーも彼女の“盲目さん”も“精霊さん”に会えるとは一言も言っていない。
何かが足らなかったのか、それとも間違えていたのか。でも喋るモンスター達との会話はした。あれ以外やりようがなかった。
“精霊さん”との距離で言うならあの場所こそ最適の筈。だからこそフュリアだってあそこで僕達を待ち構えていたんだし。
或いは『予見の目』が指した時期じゃなかったのかな。“精霊さん”に会うのはまだ先の話で・・・
分からない。分からないけど、その分からない中で1つだけ分かったこともある。
「・・・そっか だからアズリは」
ハルメリーにいた時に何でアズリがミストリアを怖がっていたのか。思えばミストリアの〔学園に行ってみない?〕の一言で王都に来ることになった。
その一言で僕はここにいる。
僕の死がアズリに強く影響を与えてしまうのなら彼女が怯えた理由も頷ける。僕が捕まったことでマイナス等級支援施設は絶対に目をつけられるし壊されちゃうかもしれないからね。
それだけじゃない。
彼女の居場所が失くなるどころか僕と関係があるマイナス等級の人達にまでその咎が及ぶとなると僕と同じように・・・
彼女のあの怯えようから、もしかしたらその可能性を感覚で察知していたのかもしれない。にも拘わらずこうして冷静でいられる僕は何だろう。
まだどこかで現状を受け入れられていないのかな・・・
「・・・ごめんね盲目さん こんなことになっちゃって」
『アネット元気出して~』
捕まってから数日が経ち不思議と僕は生かされている。そんな僕のいる所は何処か。ガシャンと閉められた戸は僕の知る扉の音じゃなかった。
手でそれ確かめると冷たくて硬い格子状のそれは壁まで続く遮蔽物となっている。そして床も壁も温もりを感じさせない石造りで、この時期の透き間風が肌に寒い。
一応食事は出るもののそれ以外一切の自由はない。食べ物を運んできてくれる人との会話も無し。王様からの音沙汰も無い。
こうして僕やあの部屋にいた人達の反応を見ているんだろうか。それとも単に忘れられている? どっちにしろ囚われの身の僕の運命は決まってる。
「・・・・・・」
話し相手に“盲目さん”がいるとは言え、やることが無いと色々なことを考える。
家族のことを思い出したり友達のことを思い出したり。ギルドの人達のこと。僕が出会った人達のこと。あるかもしれないこれからのこと・・・とか。
正直言うと僕はあの王様の言ってることを完全には否定できなかった。
未来が分かれば便利だろう。失敗だって回避できるし成功すら思いのままだ。でも奇跡に振り回されてバラバラになった家族を僕は知っている。
絶対的なスキルと権力を持ってなお自身の意思で道を切り開く王様を、冒険を旨とする僕達冒険者が否定できる筈もない。
「力は使っても呑まれるな・・・か」
『・・・何の話~?』
「王様との会話を思い出してたんだ スキルって危険な側面もあるけれど みんな自分を良くしようと思って修得していくんだし でも誰かに都合が悪ければマイナス等級って言われちゃうのは何だかね」
『ボク達をただのスキルと思ってるのか スキルさんって思ってるのかの違いかも~』
「そうかもね 道具かパートナーかってことで・・・ ・・・」
『アネット~?』
「王様はさ 僕がモンスター達の暴走の原因って知ってたのかな だから僕が来るのを知っていた?」
『どうだろ~』
「でも だったら先ずはそれを指摘するよね 結果捕まってるんだから指摘されようがされまいが関係ないけれど」
それならば僕達が“精霊さん”を探してることだって知ってる筈。でもそれすら聞かれなかった。彼等の“盲目さん”は王様に話していない?
会えないことを分かってるから話さなかった。もしくは意図して話さなかった。王様もスキルさんには思惑があるって言ってたし。王様に未来を伝える人間が嘘をついてる可能性だってある。
そう考えると僕はまだ終わりじゃない? ・・・いや、捕まってるんだからそんなことはないか。
「・・・みんな 大丈夫かな」
残る心配は僕がこんなことになってその咎が周りの皆にいかないかだ。上手いこと逃れてくれればいいんだけど。でも王様には『予見の目』がある。その気になれば逃れる術はない。
最高権力者に睨まれては誰にもどうすることもできない。公爵家も英雄も、謁見の間で1人にされたことで王と言う存在がどんなだか思い知らされた。
「だったら自分の目で確かめてみりゃいいじゃねぇか」
「!! ・・・その声 ペレディア!?」
「おうよ」
「え どうしてここに・・・って言うか どうやって入ったの?」
「ちょっとの隙間が開いてりゃ俺に行けねぇ場所なんざねぇぜ」
「そう・・・なんだ ・・・でも よくここが分かったね」
「そりゃ 俺の分体をお前に貼っ付けていたからな」
「え・・・」
そう言われて目の前に現れたペレディアを見ていると、僕の体から色の付いた点のようなものがピョンピョンしながらペレディアにくっついていくのが見えた。
「・・・ ・・・ ・・・へぇ 予見の目 ねぇ」
「っ! どうしてそれを・・・」
「分体が見聞きした記憶は合体した時に共有されんだぜ にしても先を見るスキルか フュリアが知ったら飛び付きそうだ」
「彼はあまり刺激しないでほしいかな ほんとに飛び付いて来そうだし・・・ それで 君が来たってことは」
「おう 脱出の段取りがついたってことだ」
僕が数日牢屋に囚われてる間もみんな動いてくれてたみたいだ。有り難い。有り難いけど脱出した後のことが脳裏を過ると何も考えられなくなる。
僕が逃げ出したことで生じる余波。
それが家族や友達やハルメリーに及ばないか。
「おい 呆けてる時間はねぇぜ」
「う うん・・・」
ペレディアに声を掛けられて思わず返事を返してしまった。僕は・・・
助かりたいんだと思う・・・
そのせいで誰かが不幸になったとしても・・・
「で でも 鍵が掛かってるし ・・・そもそもどうやって脱出を?」
「おう 鍵か たぶんお前は囚われてるだろうってことで鍵の開け方とか色々叩き込まれたんだ」
「そうなんだ ・・・ありがとう」
「気にすんな お前を失えないって点で利害が一致するからな さてと・・・説明するとだな まずここは3階だ で この硬い鉄の向こうは扉になっている その奥はちょっとした部屋にばってて人間が何人かいた が 今頃仲良くおネンネだ」
「おネンネ? どう言うこと?」
「眠り薬ってのをちょっとな まぁ後は俺に付いてくればいい」
「道分かる?」
「ここの地図なら嫌って程見せられたぜ んで スプ・・・何とかって街と同じ方法で脱出するって言ってたな 言えば分かるって」
「スプ? スプリントノーゼ・・・」
つまり荷に隠れるってことね。
「分かった でも問題は無事に脱出できるかだけど・・・」
「あぁ~ ん~ 見た感じ隠れられる場所は多そうに見えたけどな」
「そうなの? 僕が音で感じた様子だと あまり物が置いてある感じじゃなかったんだけど」
「そうなのか? ワルワイズの話じゃ パーティー? とか言うやつの準備で色んなもんをここに運び込でるけどな」
「パーティー? 祝勝会 お城でもやるのかな・・・」
「何にせよ 今は脱出だ」
「そうだね・・・案内よろしく」
死罪と王様に言われてからのここまでの地図はない。まだ頭の整理もつかずここから先も地図を描ける自信がない。と言うかしばらく無理かも。
カチャ・・・
ペレディアの手際でビクともしなかった鉄格子の扉が開かれる。そのまま奥の扉までいとも簡単に暴いてしまった。王城に設えられた檻もペレディア相手では形無しだ。
獄中から一歩出るとそこは部屋のような造りになっており彼の言葉通り数名の寝息が聞こえている。部屋状の空間は更に扉で遮られていて僕はその扉にそっと耳をくっ付けた。
「何してんだ?」
「こうやって扉の向こうに人がいないか音で判断してるんだ」
「・・・ ・・・まどろっこしいな 退いてな」
そう言うとペレディアは扉に張り付いて色の面積を小さくする。たぶん鍵穴に入り込んで向こうの様子を窺ってるんだろう。器用な体だ。隠密行動に向いてそう。もっとも彼の“快楽さん”はそれと真逆の恩寵を授けるんだけど。
「大丈夫だ 誰もいねぇ」
そのままカチャリと音がして扉は静かに開かれた。そこから先に人の気配は漂わない。牢獄だから人が寄り付かないのか、それとも破られない自負でもあるのか。ペレディアみたいな存在は想定していないのか・・・
ともあれ警備体制がザルなのは助かった。
ペレディアの案内でやや狭い通路を慎重に歩いていく。抜き足差し足で歩いても足音は僕1人分しか聞こえない。そんな人気の無い場所からようやく人の息遣いが聞けたのは、周囲の反響音が変わってからだった。
「こっちだ」
ペレディアを先頭に壁伝いに進む。階段まで到達すると僕が謁見の間まで行った場所とは違う階段なのが分かった。それは音の具合と地面と壁の質感。
それにあれだけ静かだった広い空間も今では聞き慣れた人の生活音で溢れてる。たぶんここは使用人とかそう言う人達が仕事に使う場所だろう。
耳をすませてよく聞くと彼等の切羽詰まった声が怒号と共に流れてくる。パーティーを催すと言うことなので時間と労働に追われているんだ。荘厳なお城の裏側を垣間見た気がした。
正直これなら僕が堂々と歩いてても「邪魔!」って言われるだけで済みそうな気がする。逆にコソコソしてる方が怪しまれそうだ。
雑多な音と良いにおいの中を歩く僕と僕に抱えられるペレディア。案の定そんな2人を気に止める人はいない。町中にも似た喧騒の中を出口まで行くとペレディアから「そっちの馬車に乗れ」との指示が出る。
荷馬車と思われる荷台に上がり込むと箱に押し込まれた。ペレディアが荷台をコンコンと叩くとそれを合図に馬車はゆっくりと前進を始めた。
取り立てて急ぐでもなし周囲も慌ただしいわけでもなし。王城と言う最も堅牢な要塞からの脱出がこんなに順当で良いんだろうか?
僕としては有り難いけど思ってたのと違う気がする。




