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421・謁見の間

前回のあらすじ


ギルドに駆け付けたアネット達だったが、国からの書状とあっては断ることができず、ワルワイズ、バルブリック、アネットと職員数名で王城に出向くこととなった。

 馬車はガタゴト揺れながら幾度も止まっては進みを繰り返した。


 その度通行の手続きをしているらしく、おそらくハルメリーの外壁のような壁が城を囲んでいて、僕達は壁に設えられた門を前に止められては潜ってを繰り返してるらしい。


 それだけで防衛体制の厳重さが窺えた。


 こんな所に呼び出されるなんて、まるで断頭台に連れてこられた罪人のような気分になってくる。なまじ関わってるだけに本当に処されるんじゃないかとドキドキが止まらない。


 城に到着したのか馬車から降車した僕達はそのまま建物の中へ。


 そこもまた広い空間であるものの、ギルドホールとは様相が違い足音が空間によく響く。車内ではそれなりに会話も弾んでいたバルブリックさん達も今では完全に無言となっていた。


 むしろ会話をすること自体警戒しているかのように彼等の緊張が色になって伝わってくる。


 ここに来て何をするのかまだ聞かされてないけど僕達は城内の一室へと通された。来客用の部屋なのか貴族や英雄が待機する用の部屋だけあって座った椅子の質感から高級路線なのは間違いない。


 きっと調度品なんかも目に眩しいものばかりなんだろうけど、下手に触って壊しでもしてはあれなんで椅子からは立ち上がらないことにした。



「ふぅ ようやく息がつける・・・」



 室内に僕達だけになったことで緊張の糸が解れたのかギルド総長もバルブリックさんもため息が出た。彼等からしても城は堅苦しい場所であるようだ。


 ようやく安心できる時間となったので僕も気を抜いてテーブルに用意されたお茶菓子に手を伸ばす。でも手探りで焼き菓子を食んでお茶をすすってもそれが美味しいのかいまいちよく分からない。


 結局気も休まらない時間を過ごしているとコンコンと扉がノックされ1人の男性が部屋に入ってきた。


 僕はギルド総長に促されて教えられた通りの所作をとる。入ってきたその人は此方の態度を確認し、これから何をするのかの説明を淡々と述べていった。


 その間も教わった作法のまま拝聴し王に対する不敬にあたらないよう細心の注意を払う。


 このガチガチに固められた所作はまるで別の世界にでもやって来た感じで新鮮ではあるけれど、もしマルティナが来ていたらストレスで観光どころじゃなかっただろう。



「冒険者ギルド代表ワルワイズ公 及び冒険者バルブリック 冒険者アネットはこれより謁見の間にて質疑応答 メリエスタ王の御前のもと執り行われる」



 ギルド総長は今のやり取りを認(したた)めたと思われる書面を恭(うやうや)しく受け取ると、使者が退室するまでそのままの姿勢で控えた。


 肩が凝る・・・



「凄い威光ですね」


「これも国を維持する為の根幹の1つさ」



 本番が始まる前でこれでは王様の前ではいったいどうなることやら想像もつかない。事の重大さは分かるけど書面でのやり取りとかにできないものか。


 しばらくの後また城の人がやって来て僕達は謁見の間へ。そこもまた広く左右には既に幾人かが集まって整列していた。



「冒険者代表ワルワイズ公 及び冒険者バルブリック 冒険者アネット」



 部屋に入るなり扉の近くにいた人が僕達の名前を読み上げる。その声を聞いてから室内を進み、王と思われる人物の前で跪くとギルド総長は軽く挨拶をした。


 挨拶が済むとそのまま質疑応答の時間に突入する。その間僕が顔を上げることは許されない。下をうつ向いたままじっと話を聞くこととなった。


 目が見えないからと免除はされないらしい。


 でも謁見の間へ入る際にチラリと見えた王の色は他の人にはない威厳を備え、また王のスキルさんと思われる存在はどこか神秘的にさえ感じた。


 やっぱり王様と言うだけあって、その存在からして特別なんだろうか。



「これより質疑応答を始める 先ずは事の発端の説明から始めるように」



 進行役の人が合図を出すと各代表がそれぞれの視点と見解から経緯を説明し始める。ギルド側は言葉を介するモンスターの集団が意味もなく襲ってきたと話す中、ギャレズリー大佐は違った。



「一連の出来事は全てこの盲目のアネットに責任があります こやつはモンスター共と親しく会話をしていたと報告もある」


「それはどう言うことか ワルワイズ公」


「会話が成立する相手ならば他にも言葉を交わした者がいてもおかしくはありません ただ会話した それだけを切り取り冒険者1人に責任を押し付けるのは如何なものかと」


「それについて大佐の見解を」



 此方側の質問に対しお付きの人を通して会話をする国王様。効率的ではないし疲れないんだろうか。それともこれも威厳を保つ所作の1つ? ペレディアがいたら今頃ぶちギレてそう。


 僕もちょっとモヤモヤしてくる・・・


 その後の会話はと言うと大佐は引っ切り無しに僕の名前を上げ連ね、ギルド総長はそれを躱し周りの人達は緊急の備えを訴えて。


 まぁ予想通りの展開に落ち着いていった。


 最初はギャレズリー大佐に味方すると思われた王様も公平に質問し応えを聞き、どちらにも加担する様子を見せない。



「───つまりモンスターにはモンスターの営みがあり 今回はその巻き添えを食らった と見るのが妥当な線でしょう」


「何を言う! 兵の中にはそやつが親しげに話しているところを見た者がいるっ そもそも盲目のよそ者が機を狙ったかのようにあの場所にいたこと自体おかしなことなのだっ!」


「ギャレズリー大佐 王からの質問以外の発言は許可されない」


「ぐぬぬ・・・」


「・・・ ・・・ ・・・この件に関してはワルワイズ公 冒険者ギルドの発言を採用する なお今回の戦に参戦した者には等しく報奨が約束される これにて閉会」



 進行役の人がそう告げると周りの人達は退室を始めた。結局最後まで僕が口を開く機会はなく只の置物で終わった。これ僕がいる必要あった? 


 完全に大佐のとばっちりに付き合わされただけ。でも嫌がらせとしては十分成功してるので、そんな恨みがましい感情を僕に向けないでいただきたい。



「アネットと言ったか そちは残れ」



 へ?


 これまで仲介人を通して会話していた王様がここにきて初めて声を発した。正直これにはギョッとする。


 しかも名指し? 


 僕は急いでギルド総長やバルブリックさんの方へ向くけれど、その応えは無言。でも内心凄く驚いてるのが伝わる。たぶん彼等もここまでは予想してなかったんだろう。


 この無言は意地悪でもなんでもなく彼等に「何故?」と聞き返すことは許されていないのかもしれない。王に直接意見することは公爵家当主でも英雄でも踏み込んではいけない領分のようだ。


 え・・・普通に怖いんですけど。



「・・・ ・・・ ・・・」



 誰の助けの無いまま広い空間に王と数人だけが残り、王も誰も何も話さない。沈黙だけが続き王はまるで僕を値踏みでもするかもような感情を向ける。


 それを真っ向から受け止めるしかない僕としては非常に居たたまれない。何かされるんだろうか。個別に話があるとか?


 ドキドキドキドキ・・・


 自身の心音が体内から直接耳に響いてくる。僕が気を揉んでいると王はスクッと立ち上がりこう言い放った。



「付いてまいれ」



 僕の意思など関係ない。そうするのが当たり前みたいな感覚で1人歩いていく王。僕が彼の後を追うように立ち上がると謁見の間に残っていた4人が僕の周りを囲うように歩き始めた。


 武器の類いは一切身に付けていないのに相当警戒されている。まぁ世の中にはスキルがあるからね。当然か。


 進路は僕達が来た通路とは別の方向に進んでいる。話をするだけならさっきの場所でよかったのに。それじゃダメなのかな? 何も知らされないままただ付いていくって言うのも不気味だ。


 角を曲がりガチャリと扉が開けられた部屋の前には計6人。通路を左右に分かれて立っている。警備が厳重なこの場所は彼の自室なんだろうか・・・


 扉を潜った先は広い部屋。


 ここの城の造りは基本広い。そこには既に3人の人がいて王の到来に適切な所作で出迎えた。



「・・・ ・・・ ・・・反応無しか」



 よく分からないけど王は僕を彼等に会わせてその反応を見ているらしい。僕と彼等を交互に注意深く意識して何かを探っているようだった。



「アネットとやら 発言を許す この者等を前に感じるものはあるか」


「えっ・・・ と そう言われましても 彼等が誰かも分かりませんし この部屋は・・・?」


「ふ~む 分からぬか こやつではない? それとも・・・ 今そちの前に立っている者等はそれぞれ 盲目 失語 難聴 それ等のスキルさんを連れておる」


「え・・・」



 意外な王の言葉に思考が止まる。


 分からない・・・王はマイナス等級を嫌っていたのでは? この場所が何処なのかは分からないけど、何度か貴族宅を訪れた僕にはここが整えられた部屋なのは伝わる。


 嫌ってる筈のマイナス等級であるならわざわざこんな場所でなく、それこそ外とかで待たせておけばいいのに。


 それともここは彼等に宛がわれた部屋・・・? ????



「お 王様は マイナス等級がお嫌いなのだと聞いていましたが・・・」


「好き嫌いで物事を決めておったら国が傾くわ」


「で ではっ 何故マイナス等級なんて・・・そんな称号をお与えになられたのですかっ 王様は聡明なお方だと聞きましたっ なのに・・・」



 王のマイナス等級に対する感情が、世に広まる価値観のそれと差異があることに僕は言葉を押さえられなかった。どうしても問いたい。応えを聞きたい。マイナスなんて言葉さえ無かったら普通でいられた人達だって多くいた筈なのに。



「聡明か であろうな 先の出来事を知り事前に準備 対処しているのだから当然であろう」


「先の出来事を? ・・・まさか」


「ふむ その口ぶりだと予見の目を知っていたか」



 合点がいった。僕達が王都ダンジョンに行った際どうしてあんな数の兵士が集められていたのか。『予見の目』でモンスターの襲撃があるのを知っていたんだ。だったら・・・



「僕が ここに来ることになるのも知っていて手を打った と言うことですか?」


「いいや 余は何もしておらん しかしそちがここに来ることになるのは予定調和 それはこの者の目によって見えていた運命だ」


「運命・・・ですか? どうして・・僕はこの場所に お城にも来たくて来たわけではありません 何かをしようとも思わない ここに来る理由も 分かりません・・・」


「そうだ それだ 分からない それこそが答えだ 余にも分からない しかし運命は巡る 何者かの意思によってお前はここに導かれた スキルさんには意思がある 思考し思惑をもって人を誘導する


 知っておるか? この者の見た未来とスキルさんの指した未来とでは齟齬が生じる 何故か スキルさんにも叶えたい未来があるからだ」


「叶えたい未来・・・ それは何でしょう」


「さてな だが重要なのはそこではない この国は人の手で回さねばならぬと言うことだ 決してスキルさんなどと言う 得体のしれぬ存在に振り回されてはならんのだ」


「矛盾 してます だったら王様もスキルさんを持つべきじゃありません」


「そちの言うことは正しいだろう しかし この者等は当たり前のように存在し 当然のように恩寵を与える 誰もその意味するところを考えず 自身の才能とさえ思い疑わない 蜜か泥沼か どっぷり漬かった後に気付くこともある」



 それは僕にも覚えがある。もし僕のスキルさんが“盲目さん”でなかったら当時泣くことはなかったし「何故」と疑問に感じることさえなかった。


 人に指を指されて初めて感じる他者との違い。それに悩んで考えて、ようやく問題に向き合おうと思える過程。その原動力が今も僕を動かしている。



「そう言うわけだ 力は使えどそれに呑まれることは許されない 国は人の意思で動かしてこそ意味がある そもそもそちの様な身分の者が余に謁見する事実からして間違っておるのだ


 これは何者かの手によって仕組まれた運命であろう 余はそれを断じて容認するわけにはゆかない だからこそ人の意思を曲げうるスキルはマイナスでなければならんのだ


 その者を捕らえよ 死刑に処す」






 え・・・?





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