420・王城への招待
前回のあらすじ
アネット達の今後について考えていたある日、宿にしている学園に王宮からギルドへの招集状が届く。しかしそこには何故かアネットを呼び出す文面が記されていた。
「ちょっと! これどうなってるのっ!?」
手紙を受け取ってすぐギルドに駆け込んだ僕達はギルド総長の部屋で声を荒げた。主にマルティナが。
「・・・ギルドは何か事があれば子細を書面にて提出する決まりになっている が 今回は急の案件でもあった 国も我々から直接意見を聞きたいのだろう」
「そこはどうでもいい 問題は何故アネットの名前が記載されているかだ 貴殿はこれをどう見る」
エルヴィラさんはギルドへの招集状に僕の名前が記入されてる疑念をギルドに問う。他人のことなのに、まるで自分のことにように真剣に怒ってくれる人が居てくれるのは頼もしくて有り難くて救われる。
「公文書に一言添えられる人物などそう多くはない となると大佐だろうな しかしアネット 君がモンスターと会話しているところを見られたのは事実だ 大佐は間違いなくそこを突いてくるぞ」
口実を与えてしまった・・・それに尽きる。
目撃者がいるとなれば言い訳は逆効果だろうしどうするか。冒険者ギルドトップにして公爵家の当主に「どうにもならない」と言わしめる程の傑物に「行きません!」は通用しなさそう。
「僕は・・・どう なるんでしょう」
「・・・これは最早出頭命令にも近いものだからな どんな形かは分からんが 何かしら発言の機会が与えられるだろう 言っておくが嘘は許されない だから言葉には細心の注意を払え」
「覚悟・・・決めるしかない感じですかね」
「残念ながらな」
一番頼りになりそうな御仁にそう言われてしまってはいよいよ手詰まり感が増してくる。どうにもならないこの状況に室内はしばしの沈黙に包まれた。
「ねぇ ギルドはちゃんと守ってくれるんでしょうねっ」
「善処する としか言えないな 大佐相手なら言葉の応酬をするに吝かではないが 王が相手となると・・・」
「頼りないわねっ」
ランドルフさんより偉いギルドの頂点で、克つ王家に次ぐ公爵家当主相手にハッキリ物申すマルティナはこう言う時非常に頼りになる。
もっとも本人は怒りでそれらが全部吹っ飛んでるんだろうけど。
そんな彼女等の話し合いに紛れて部屋の外からゴトゴトゴトと重い足音が近付いてきた。そして扉はノックも無しにガチャリと開かれる。
そして現れたのは見上げる程の大きな色だった。
「お 揃ってたか まぁ当然か あんなもん貰ったんじゃな」
「バルブリックさん」
「調べられる範囲で裏取りしてきたぞ」
「ご苦労 どうだった」
「ふぅ ・・・そうだな 結論を言うと 政争に利用したい派閥がギャレズリー大佐に同調してアネットの名を記した そんな感じだな」
「何よそれっ!」
〔王都の中にまで派閥争いがあるのね バカバカしい〕
「ここは政治の中枢 本丸だ 無い筈がない」
どうやらギルドの方でも僕の名前が招集状に書かれた経緯を調べてくれてたらしい。ギャレズリー大佐の嫌がらせ程度に思っていたけど思っていた以上に嫌らしいことになっていた。
「うぅ~ ・・・問題はっ アネットがどうなるかよっ」
「調べた限りでは大佐の言い分は単純だ 問題はその大佐を利用して私腹を肥やそうとする連中の方だな 奴等は生産系ギルドとの繋がりが強い 今回の事件を背景に予算の申請をするだろう もちろん自分の懐に幾らか入れる為にな つまりは奴等の利害の一致と言うわけだ」
「腐ってるわっ そんなことの為にアネットを槍玉に挙げるなんて!」
バルブリックさんの話を聞いていてフト子供の頃の光景が頭に浮かんだ。それは僕の目がまだ見えていた当時。声の大きいディゼルの周りにはいつも人がいた。そんな彼にある種の憧れと言うか輝いて見えていた時期もある。
でも大きくなって段々段々その形も歪んでいって、今では彼の周りにいる人間は別の誰かに変わってる。
じゃあ前の友人は?
ディゼルより声の大きい人間の側で昔の友達を貶める道を選んでしまった。たぶん利用していたんだと思う。友情じゃなくて・・・
今のこの状況にディゼルとギャレズリー大佐が被って見える。でも1つ大きな違いは互いに利用し合う間柄でもそこにしっかり利益が生まれてること。
つまり搾れる利益が枯れるまで終わらない。
「何だぁ? お前等 人間通しでケンカでもしてんのか?」
「ペレディア・・・まぁそんな感じ かな」
「お前等も俺等とそう変わんねぇな」
「・・・どうかな これをケンカと見えてる分 君達の方がマシかもしれないな 人は集団で社会を形成する生き物だ 加えて知性を獲得して個で生きられる君達とも違う
1つの意見が波及して利と欲とが折り重なって人は1つの集団を作る これがグループ 或いは派閥と言ったりする
今はアネットを害して憂さを晴らしたい者と そいつを利用して利益を得たい輩が手を取り合ってる状況だ 私達としてはそれに抗いたい まぁ規模からしてケンカ・・・と言うより政争になるのかね」
「よく分かんねぇな 要はアネットを狙う奴がいて邪魔ってことだろ? 殺っちまえばいいじゃねぇか 面倒くせぇ」
「極力それをしないで解決しようとするのが人間だ 君の言う通り面倒くさいことこの上無いがね」
「と 兎に角 僕は行かなきゃいけないわけなんですよね・・・」
「まぁこの国の国民である以上 拒否権はないな」
「なぁに 我々ギルドも手を拱いて見ているつもりはない こう言う問題は立場と主張を明確にしないと侮られるし ギルドの威信にも拘わるからな」
バルブリックさんやギルド総長が付いていてくれるのは大変心強いのだけど、相手が王様とか国とか言われると途端に頼り無さげに感じてしまう僕は薄情なんだろうか。
こんなの時こそペレディアくらい単純な気構えが欲しくなる。
「王城へは2日後に行く それまで準備を整えてくれ」
「準備と言われても 何をしていいか分からないんですが・・・」
「そうだな・・ 王に拝謁することを前提とした作法とか 後は服装か?」
作法・・・冒険者がギルド長に会うみたいな感覚ではダメらしい。服装と言われても普段からマルティナ任せだったし。
「それは此方で用意しよう」
「何よ 今のままだって十分可愛いじゃない」
「普段どんな服を着てようが問題はないが 王宮に可愛いはそぐわないだろう 身分を表す意味もあるし 派手ではダメ それでいてそれなりに清潔感が求められる」
僕は今どんな感じの服を着ているんだろう? 動きやすさ以外全部彼女に丸投げしてるけど「じゃあどれがいい?」と訊かれても分からないし・・・でも「可愛い」は求めていない。
「それとペレディア 悪いが君を連れていくことはできない」
「何でだ?」
「君はモンスターだ 城内で見付かりでもしたらそれこそ言い訳できない 我々でも無理だ それにアネットが拘束されたら君の悲願は達成できないのだろう?」
「・・・チッ しょうがねぇな」
決まってしまったことをうだうだ言ってても仕方ない。
と言うことで僕達はこれを前向きに受け取って「発言する機会」と考え事態に取り組むことにした。
何を発言するかって? それは僕をダシにしてギルドが有利になるよう進めるって意味だけど・・・
礼儀作法とか着付けとか色々準備を整えてると2日と言う期間はあっと言う間に過ぎていった。マルティナはこの件とは別にお城に興味があるみたいだけど、残念ながらなお呼ばれしてる人以外立ち入ることは許されない。
ミストリアは何度か来たことがあるんだろう王城と聞いてもあまり感慨深くはなさそうだった。
「では出してくれ」
ギルド長は用意した馬車、コーチから御者に合図を送る。ガタガタと進む馬車は全部で3台。ギルド総長に僕とバルブリックさん。他の2台にはギルド職員とギルドが用意した何かが積まれている。
「・・・・・・・」
コトコト揺られる最中も普段なら頭に地図を描くのだけど緊張で白紙のまま線をなぞれない。城に着いたらどうなるのか。何をされるのか。何をすべきなのか。そんなのが頭をグルグルして落ち着かない。
「ハハハ 今から気張っていては身が持たないぞ 幸い目が見えないことで世事に捕らわれない利点もあるんだ 王城こそ正にそれを活かすべきだな」
「・・・はい」
豪華絢爛な装いとか華美な装飾とか別にいいんだけど、1番肝心な人の感情が表情と言う仮面を通り越してダイレクトに伝わっちゃうんですけどね・・・なんてぶっちゃけられないせいで素っ頓狂な返事をするしかないんですけどね。
ダメだ。意識したくなくても鼓動が速くなってくる・・・何かで気を紛らわしたい。
「そ そう言えば 何で派閥なんてできるんです? 王様のスキルで貴族は言う通りになっちゃうんですよね」
「・・・知っていたのか だがそれは公にはない秘匿されてる情報だ 扱いには気を付けたまえ」
「は はい ・・・気を付けます」
「なぁに他言しなければいいだけの話だ 貴族が王に忠誠を誓ってることには代わりないんだしな」
「バルの言う通りではあるが 口の固さの問題だ 言葉尻をとらえて詰るのが王宮 これから行く場所だ 喋ってよいと言われるまで絶対に口を開かない 教えた作法の1つだ」
「まだ城に到着してないんだしいいじゃないかワイズ 話でもしてないと緊張でカチコチになっちゃうだろ? で 何で派閥があるかだったよな 端的に言えば意見を分散させた方が上手くいくこともあるからさ」
「そうなんですか? 何だか纏まらなさそうな気がするんですが」
「そうだなぁ 例えば目の前に左右2つに分かれてる道がある 王はどちらに進むか決めなくてはならない しかしもし選んだ道が誤りだったらどうなるか どうなると思う?」
「え 普通に引き返せばいいだけじゃないんですか?」
「それが難しいのが王と言う立場だ 失敗した王 それは国の威信に拘わるし実害も出る だから意見を出させ戦わせ舵を任せる しくじっても操舵手を切ればいい 王は英断と言う栄誉を手にして名も傷付かない」
「つまり1人に責任を押し付けるってことですか?」
「それを担うのが貴族だ だからと言って誰が好き好んでそんな役目を負う? 誰もがその席に座らないよう相手を牽制しながら安全を確保しようとしてるんだ その為にはどうしても誰かの協力が必要になる 自分にとって都合が良くそれでいて監視もできる相手」
「利益だけじゃなく そう言う人達が集まっていって派閥ができる側面もある・・ですか ・・・何か思ってたのと違う気がしますね 王とか国とか もっと公明正大で輝かしいものと思ってました」
「ハハハ 夢を壊して申し訳ないが 君にはありのままの世界を知ってもらいたくてね その上でどう感じるか どう思うのかを決めてほしいんだ」
「・・・・・」
そう丁寧に教えてくれたバルブリックさんだけど、その胸中にあったのは後悔と自責の念のような複雑に絡まった淀んだ色だった。




