419・一通の手紙
前回のあらすじ
祝勝会の列席に参加したアネットは衆目の前でギャレズリー大佐に詰められる。しかしそれを予想していた冒険者ギルドの総長ワルワイズは言葉巧みに反論しこれを封じるのだった。
祝勝会も終わって王都は普段の様相を取り戻した。と言ってもその風景はハルメリーのお祭りとそう変わらないくらいの規模で賑やかなんだけど。
とりわけ学園から冒険者ギルドへと続く大通りの人の多さは圧巻で、僕の目に色とりどりの蠢く丘が、反り立つ山のように立ち塞がって歩きにくい。
そしてもう1人。同じように足の重いミストリアも体調不良と重なって息苦しそうに人混みを眺めていた。
「ミストリア大丈夫? 辛かったら宿舎に戻ろうか?」
〔大丈夫よアネット 休んで治るものでもないのなら自分の足で前に進んだ方が健康的だわ〕
ダンジョンで“精霊さん”探しに失敗したことで、隣で佇むミストリアの体調は倒れた時と変わらない。むしろこのまま進展を迎えなければ私生活が要因で悪化していく可能性だってある。
どうにかしたいと思っても「休んでて」と「進まないとダメ」が脳内に混在し、焦りと無力感が尖った連なりとなって僕の胸を突いてくる。
不甲斐ない。そんな僕にできるのは自分を誤魔化しながら彼女の手を引くことだった。
時間は早朝と言うこともあってギルド内は仕事を求める冒険者達で犇めいていた・・・のだけど、何だか様子がおかしい。
人の移動が困難に思われる数がホールを埋め尽くしてるにも拘わらず、どんより曇り空のような曇天が冒険者達を覆い包んで活気がない。
朝のギルドは仕事の奪い合いで戦争になる筈なのに・・・
「うげぇ 気持ち悪りぃ 何でこんなに人間がぎゅうぎゅう詰めになってんだよ」
「冒険者は皆こんな感じで仕事を貰ってダンジョンとかに行くんだよ で それで得た報酬で色んなもの買ったりしながら生活してるんだ」
「マジかよ面倒くせぇ~」
僕の懐の中から漏れる辟易したペレディアの声。モンスターは基本その身1つで狩って食って寝る生活をしてるからお金の出る幕なんてないのだろう。
何者にも縛られない自由なペレディアにとって冒険者達はさぞ奇異に写ったに違いない。そんな複雑怪奇な人間達の間を縫うように僕等は受付カウンターへと向かった。
「すみません ワルワイズさんの部屋に来るよう言われてるんですが・・・」
「あ はい アネットさんですね 此方へどうぞ」
そう言うと受付の職員の女性は僕達をギルド総長の部屋へと案内する。カウンター業務の人が冒険者ほっぽって大丈夫なんだろうかとも思ったけど、冒険者達がカウンターに集まる様子もない。ホール内の雰囲気といい気になる。
コンコン・・・
ノックをして入った部屋の真正面には机を挟んで座る色が1つ。周囲には誰もいない。どうやら僕達・・・と言うかペレディアに対する警戒は解かれたらしい。
自信と尊厳に満ちたギルド総長は堂々と僕達に向かい合った。
「よく来た まずは掛けてくれ」
僕、マルティナ、ミストリア、エルヴィラさんの4人はギルド総長に促されて室内の真ん中ら辺にある長椅子に腰掛ける。そこで僕等の今後について話し合うこととなった。
「さて・・・会の感触としてはまずまずと言ったところかな 多くの人に君と我々上層部との近さをアピールできたと思う」
〔一般の人にはそれで良いのかもしれないけど 問題はあの大佐とか言う人よ 遠巻きに見ていたけれど あれで引くとは思えないわね〕
「大佐はどうしようもない 重要なのは世論を味方に付けることだ 幸い大佐への不信感は集まった衆人に流布できたことだしな」
「騎士団としては複雑な思いだ ただ彼が我が隊の上官でないのが唯一の救いだがな」
「あのギャレズリーってヤツ 何とかなんないの?」
〔何とかできたなら とっくに何とかなってるわよ それよりも冒険者ギルドにとっての私達の立ち位置の方が問題じゃないかしら〕
「アネットにここまでお膳立てするのだ ギルドは何を企んでいる」
ミストリアもエルヴィラさんもギルドに対して少々辛辣だ。まぁ僕としても「ギルドは含むところがあって僕達に接してる」とは思うけど。
「端的に言うとギルドも精霊さん探しに便乗したい」
予想はしてたけど直に聞くと「大丈夫?」と思えてくる。それは霧を掴む話に国の基盤となる1組織がどっぷりと拘わることを意味するから。
言ってはなんだけど冒険者ギルドにはもっと堅実な活動に力を入れていただきたい。
「ん~・・見付かる保証も約束もできませんよ?」
「構わないとも 元々おとぎ話の存在だ 見付かれば良しぐらいにしか思ってない そもそもどんな存在かも不明なんだ 敵か味方か 意思疏通はできるのか 腰を据えて探すにはあまりに不明瞭な相手だからな」
当事者としてこの台詞はいただけない。危険な場所での探索だから強者達の手を借りられるのは願ってもないことだけど、ミストリアの体調を考えると本気になってもらわないと困る。
「つまり片手間でってことですか 本気じゃないなら動機は何です?」
「精霊さん探しをダンジョン探索の導火線にしたくてね」
「はぁ・・・」
「・・・ホールの様子は見たかね 本来はうるさいくらいの喧騒がここまで聞こえてくるのだが あの件以来 閑古鳥でも鳴いたかのように静かだ 冒険者も人だったと認識させられたよ」
「なる程な つまりモンスターの襲撃には何らかの原因があり それは精霊さんが関与してる可能性がある 未知の探求に賛同する冒険者よここに集え冒険の時間だ・・・ 発破を掛けてやる気を出させようと言うわけか」
「簡潔に述べるとそうだ」
熱気ならぬ湿気がホールに漂ってた理由は心の傷が原因だったわけだ。祝勝会の時はあんなにはっちゃけていたのに、あの盛り上がりは単純に騒いで忘れたかっただけなのかもしれない。
〔いいんじゃないかしら どんな形であれ協力してくれるなら有り難いもの〕
「まぁ ミストリアがそう言うなら私も異論は無いわ」
「私もだ」
「僕も・・・て言うかペレディアは平気そう?」
「何だっていいぜ 俺はお前等を見張ってるだけだからな」
満場一致で決まったのは良いけれど肝心の探索方法の目処など一切立ってない。名乗りを上げた冒険者達には悪いけど、きっと意気消沈させてしまうことこの上無いだろう。
歩き回った挙げ句「何も成果がありませんでした」を延々繰り返さなきゃいけないわけだし。
まぁギルド総長としても冒険者達の気力が回復するまでの繋ぎとしか考えていないなら「互いに利用し合いましょうね」で禍根は生まれないとは思うけど。
具体的な方策を提示しないままお開きとなった話し合いは双方実を結ぶ結果には程遠いけど、互いに一歩を踏み出す足掛かりには都合が良い。
そんなわけでここ数日は今後の活動方法の模索に時間を充てている。闇雲に歩き回ったって時間と労力とお金の無駄だしね。
「え? これ・・・どう言うこと?」
ある日の昼下がり、学園の宿舎で話を詰めていると職員の人が僕達の部屋に一通の手紙を持ってきた。そこに書かれていた内容は冒険者ギルドの王城への召集命令。
その文末には「冒険者アネットも連れてくるように」と添えられている。
「何でアネットが?」
〔もしかしてあの大佐とか言う人が王様に有ること無いこと吹聴したのかしら〕
「だとしても王は聡明なお方だ 甘言などには耳を傾けん」
「でもマイナス等級は嫌ってるんでしょう?」
「それは・・・」
何だか事が大きくなって実感が湧かない。でも僕がマイナス等級だからと罰するならわざわざ王城に呼び出す意味はないし、もしかしたら話を聞いて色々興味を持ったのかも。
ギルドも味方になってくれるだろうから御前でマイナス等級の有用性をアピールできたなら王様も僕達への考え方を改めてくれるかもしれない。
「取り敢えず国からの直々の招集状なら断ることは・・・できないよね」
「ああ 不敬と捉えられても仕方ない」
「文脈が柔らかくても こんなの強制じゃないっ ・・・これって私達も付き添いで付いて行けないのかしら」
「無理だろう 冒険者パーティーではなく個人を名指ししてるのだ 友達だからと軽いノリで入れる場所ではない」
「ぐぬぬ・・・」
「決まったことなら悩んでてもしょうがないよ 何の用かは分からないけど 失礼の無いよう振る舞って乗り切ることを考えよう」




