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417・名声の使い方

前回のあらすじ


ギルドで話をしていると土足で部屋に入る勢いでギャレズリー大佐が押し入ってきた。そしてやって来るなり「アネット」を渡せと言う。一方“精霊さん”に関してバルブリックが正解に一歩近付くのだった。

 核心を突いたバルブリックさんの発言は絶妙な説得力が言葉に乗っていたのか、ギルド総長の部屋に居る全員に奇妙な沈黙が広がった。


 静かで気まずいこの肌感覚は長いのか短かいのか、応えられないその時間が彼の正当性を証明してしまう。そんな誰もが「まさか」と思う空気の中、突如ペレディアが一石を投げ込んだ。



「どうだかなぁ 確かにあの時何かあった 何かあって俺達を止めた けど それが精霊さんなのかって言われるとそうなんだとは言えねぇな なんせ俺達 精霊さんなんざ会ったことねぇからよ」



 それはそう。超常的な現象を目の当たりにしたのは事実だけど「あれこそ精霊さんだ!」とは僕だって断言できない。


 “盲目さん”の言う辺り可能性は極めて高いのかもしれない。けど、この場で「あれは精霊さんだった」と言ったことで生じる面倒事を考えれば口を紡いだ方が利口ではある。誠実ではないけれど・・・



「まぁ ダンジョンは未知だ 我々の想像では測れない部分が多分にある」



 かもしれない話を確信のないまま進めても答えには辿り着かない。現実的な話に戻したいのかギルド総長はスッパリと会話の流れを断ち切った。



「それはそうだが 問題はこれを信じて暴走するモンスターもいると言う部分だ 俺も人の言葉を介するモンスターとは何度か戦った だが 基本は単体で群れに遭遇したことはない だが目的があれば1つになることが分かった以上これは明らかな脅威だ」


「ただのモンスターなら通常は群れる それが知性を獲得したことにより個性と単体で生き残れる強さを手に入れた その上意思疏通を行い時として行動を共にする 喋るモンスターが特異なのは分かったが 我々の認識も改める必要がありそうだ」



 普通の人からみたら「喋る」と言うだけで十分特異だ。そんなのとダンジョンでうっかり遭遇した暁には素っ首落とされる時間驚愕で固まること受け合いだ。



「しかし軍部まで出てくるとなると ますます祝勝会は確実なものにしないとまずいな なまじ権限がある分 堂々と連れ去るくらい平気でやるだろうからな」


「彼がハルメリーに居た時もそんな感じだったと思います」


「私は実際に牢屋に入れられたけどねっ」


〔その時アネットと戦って返り討ちにあってるし 逆恨みじゃないかしら〕



 僕も再会した彼を見た時そんな印象を受けた。ミストリアの言葉も加わればほぼ確定だろう。


 彼も兵役に勤めるなら実直に実務を熟してもらいたいところだけど、貴族と言い人間役職を頂いても私怨を消すことは適わないようだ。


 むしろ利用しようとする傾向が強い気がする。



「なる程 彼は王に忠実・・・盲従と言っていい程心酔してるからな マイナス等級と言うだけで許せんのだ それが矛を交えて負けたとなれば・・・」


「王都に戻ったとは言え異動ではあったんだ 恨みも一入(ひとしお)だろう」



 彼がハルメリーに居た経緯とか動機とか分からないけど、理不尽に町の人達を押さえ付けてまでする行為には賛同できない。


 根底にあるのが例え愛国心であったとしても、愛と権力があれば何でも許される道理がまかり通っては民心も離れると言うものだ。


 実際マルティナは相当お冠だし。



「祝勝会で要らぬ茶々が入らねばよいのだが・・・」


〔その心配ならするだけ無駄かしら 絶対に何かしてくるわよ〕


「フム もしかしたら我々は信を問われるかもしれないな」



 ギルド総長は祝勝会の是非に難色を示した。戦の勝利を祝う筈の席がいつの間にか次の政争に変わってる。そんな気さえした。


 重い空気の中、まるで他人事のようなペレディアの呆れた声が僕達を見透かしたように響く。



「なぁ・・・お前等人間って こんなに面倒くせぇのか?」










 ギルドでの報告も終わって僕達は学園に英雄の凱旋を果たした。もちろん主役は僕達じゃなく本物の英雄バルブリック。


 突如とした英雄の出現は日夜勉強に励む学徒達の向上心を削ぎ、中庭に集まる彼等の熱気は冬の空風を吹き飛ばした。



「うそっ! え ちょっと! 本物!?」

「マジか! バルブリックだ!」

「凄ぇ・・ でかっ!」

「え 何で学園にっ?」



 触れたいのに触れられない。そんな距離を保ちつつ英雄+オマケの僕達は英雄を一目見ようと集まった学生達にグルリと囲まれてしまう。



「何か・・・居たたまれないですね」


「何を言う 君達だって現場で戦い生還を果た戦士の1人だ 称賛を受ける資格は十分にある」



 まぁその原因を作ったのも僕達なんですけどね・・・



「にしても 本当に学園に留まるんですか?」


「うむ 誉められたやり方ではないが 祝勝会に向けて彼等を利用しようと思ってね」


「利用 ですか・・・」



 その言葉を聞いて何となく僕の思う英雄らしくないやり方だと思った。言葉では「誉められない」と言ってはいても心の内では咎(とが)を感じないのか色味に変化がない。



「引っ掛かるかな? 別に彼等を盾にしようとかではないよ いざと言う時に我々に賛同する声を増やしたいだけだ それに学園には貴族の御子息方も在籍している 彼等の支持は心強い」


〔名声の使いどころと言うやつね〕



 冒険者ギルドに堂々と乗り込んでくる神経の持ち主なら祝勝会に踏み込んできてもおかしくはないだろう。


 と言うより考えてみれば彼は兵を束ねる役職なのだから、むしろ今回称えられて然るべき側の人物だ。どうあっても無視することはできない。


 となると・・・


 その壇上に上がる僕は彼と真正面から向き合うことになる。うん・・・確かに味方は欲しい。


 バルブリックさんは学園側と話があるのか僕達と分かれると、熱に絆される学生達を引き連れながら職員室へと向かった。


 宿舎へと戻った僕達はすぐにでもベットにダイブしたい気持ちを抑え、これまでのこと、これからのことを話し合うべくテーブルを囲った。



「さて・・・盲目さんと妹の目の言う通りに事は進んだわけだが 本当にこれで合っているのか?」


「・・・精霊さんに会えてない時点で成功ではないでしょうね」


「まだこれからってこともあるんじゃない?」


〔日時が明確でない以上 その可能性はあるのだろうけど・・・ 何とも雲を掴む感じね〕


「でもさ このまま精霊さんを探すにしても あの場所に戻って大丈夫かってこと だよね・・・」



 フュリアの手から逃れ、喋るモンスターと対峙して此方の意思は彼等に伝わった筈。再度遭遇した時にこの選択が僕達の関係にどう影響するのか分かったものじゃない。


 もし敵意を持たれていたら命1つじゃ全然足らないだろう。



「大丈夫じゃねぇか? 少なくとも人間襲って進展がなかったんだ あいつも別の手考えるさ」


「そんなの・・・っ 信用できるわけないでしょっ!」


「フュリアはどこまでも合理主義だからな 結果が出なかったと分かればとっとと次の手に移るさ」


〔その次が不安なのよ〕



 人にとって残虐な行いも自身の欲求の昇華の為に冷徹に淡々と熟してく怖さがフュリアにはある。なまじ言葉が通じるだけにモンスターの中にまたモンスターを見ている感じだ。



「今後のこともそうだけど まずあのギャレズリーとか言うヤツ何なの? 随分と偉そうじゃないっ」


「大佐とか言われてますけど偉いんですか?」


「う~む 位としては私の方が上だな 大佐は騎士団内の階級になる と言っても所属するのはイーブル騎士団ではないがな」



 と言いつつも複雑な色をするエルヴィラさん。別の騎士団通しで確執とかあったりするのかな。同じ国防に従事してる間柄なのに・・・あ、それは貴族も同じか。



「もしかして彼の家の爵位が上的な?」


「それもあるが 何と言ったらいいか・・・ ヤツはああ見えて人心を掌握するのが上手いんだ 絶対王政を掲げて突貫する男でもあるからな 周りの貴族にとっても分かり易く扱い易いんだ」


「また派閥とかそう言う話なのかしら もうお腹いっぱいだわ」


「派閥と言うよりは便利屋の側面が強いな 王もそれを認めておられるし 国にはああ言う存在が必要なのだろう」



 理屈とか道義とか人道とかすっ飛ばして力でねじ伏せる人間か。必要・・・なのかな? 分からない。


 でも人望はあると言う。少し思い出したけど、彼を慕って共にハルメリーを出た兵士もいたとかどうとか。


 人を惹き付けるって何だろう。


 そこに善悪って関係ないのかな。





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