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415・ギルド総長ワルワイズの詰問

前回のあらすじ


馬を駆けなんとか王都まで戻ってきたアネット達は直接ダンジョン入口に向かう。しかしそこは既に負傷者で溢れダンジョン内は喋るモンスター達との戦禍が広がっていた。

 外? モンスター達がこぞってダンジョンの外に興味を示した? と言うか“精霊さん”はいいのかな。


 ん~・・・興味が他に向く辺りフュリア程“精霊さん”に執着してないのかもしれないけど、これはありがたい。話の流れで立ち去ってくれるならこの戦いに終止符を打つことができる。


 でも彼等が外に解き放たれたら解き放たれたで大変なことになる気もする。この状況、引いてもダメ押してもダメな抜き差しならない状況になってるんじゃ・・・



「ここは一旦引いて外に出ることを他の連中と話したらどうだ?」


「そうだなぁ こいつ等相手すんのも飽きたし」

「でも残すのは勿体ないから もうちょっと食ってくわ」

「だな せっかく向こうから食われに来てくれてんだしよ」

「踊り食い踊り食い」



 モンスターが勿体ないとか変なところで行儀がいいのも考えものだ。会話だけ聞いてれば人間と遜色ない気もするけれど、今だけはモンスター然としていてほしい。



「ペレディア 何とか止められないのっ?」


「無理だろ 別にこいつ等と敵対してるわけでもねぇしな それに前にも言ったがこれは自然の摂理だ 反論があるなら戦って突き付けるしかねぇやな」


「くっ・・・」


「アネット モンスターはモンスターなのよっ シールドエクスパンション!」

『キャッスル・オブ・プロテクション』

「押すわよ!」



 マルティナがスキルで盾の範囲を広げ、克つ広域スキルでモンスターの群れに突撃する。僕の目に写るそれはさながら城壁そのもので、その重厚で鉄壁なスキルの壁は肉迫するモンスターの進行を食い止めた。



「マルティナが抑えた! 全員で押し返すぞ!」


「「「お・・おおおおーーー!!」」」



 このチャンスを逃すまいとエルヴィラさんが檄を飛ばす。それに呼応した皆の気持ちが1つとなってスムーズに攻撃へと転じることができた。



「お? お? 何だ? 急に元気になりやがった」

「生きが良いねぇ~」

「やる気出てきたっ」


「プチダーク!」


「あ? 何だこの黒いの くそっ 纏わり付いて取れねぇっ」


「今だ! 総員攻撃体勢! 掛かれっ!」



 プチダークを相手の目に貼り付かせることで反撃の芽を潰す。昼夜問わずほんのり明るいダンジョンで真っ暗になるのは彼等にとっての非日常なのか、モンスター達はこの現象に大変驚いている様子だ。



「痛てっ 痛てっ このっ ちょこまかとっ」

「何かウゼぇな・・・」

「おらぁ 雑魚が調子にのって・・・痛でっ」

「ギャハハ スッ転んでやんの・・うおっ!」



 攻撃が効いているのか嫌がらせ程度にしかなっていないのか分からないけど、簡単に倒せる相手からの思わぬ反撃に彼等は苛立ちを隠せないでいる。


 そんな焦りにも似た感情が注意を散漫にさせるのか、モンスター達は次々と滑って転んで地面に体を打ち付けていった。よく観察するとミストリアが水を巧みに操って彼等の足元に水を絡めている。


 彼等の足はダンジョンに適した造りになっているだろうけど、操作された魔法の水はそれを上回る精度で彼等の進化を拒絶していった。



「キレたぜ・・・」

「餌の分際で俺達を手こずらせやがって」



 食事に来た客が「汁が跳ねたからキレた」みたいな言い分で激怒する。その感覚がモンスター。


 理不尽な怒りを癇癪の赴くままマルティナの張ったスキルにぶつけるモンスタークレーマー達。どうしてここまで怒れるかと思えるくらい大きな音でぶっ叩く。


 周りの客にも衝撃が伝わる程の迷惑客の応対をしなければならないマルティナは辛そうだ。



「ダメ・・・もたない・・・」


「アイ・アンノウン! ダークビジョン!」

『ブラインド・カーテン』

「プチダーク! プチダーク! プチダーク・・・! 盲目さん操作お願い!」

『は~い』


「アイアンスキン! ジョイントストレングス! 各員攻撃に備えろ! ラインを死守するぞっ!」


「「「おおおおーーーーー!!」」」



 限界を迎えたマルティナのスキルが消えると同時に、モンスター達の怒りが雪崩れのように押し寄せる。この内何体かは僕のスキルで足止めを食らってる筈だけど、そんなのが意味を成さない程の重圧が僕達へと迫った。


 バン! ガツン! ドン! バキッ !


 人とモンスター双方の雄叫びと共に、硬い物通しがぶつかる音でダンジョンは溢れる。弱肉強食の世界で培われたモンスターと冒険の世界で養われた冒険者、民と国とを守る為に鍛えられた兵士が死力を尽くして殺し合う。


 これはもう戦いと言うより戦争の規模でダンジョン入口は埋め尽くされていた。



「ピギャッ!!」



 ドーン・・・! ビチャ! ゴロゴロゴロゴロ・・・


 皆が自分のことで手一杯の状況に一際大きな音と何かの断末魔が戦線を止める。それだけインパクトのある不可解で無視できない音が皆の意識を支配した。


 ビチャビチャ・・・ドサッ・・・


 それはダンジョンの奥の方から聞こえてくる。地面に転がった何かは質量のある重たいもの。金属音がしないことからも物体はモンスターであることが推測できた。


 段々と近付いてくるそれは徐々に徐々に皆の手を止めていく。人もモンスターも皆。


 今では全員がやって来るその音に注目していた。


 バキイイィー! グチャァー・・・


 ダンジョン奥の通路部分から肉塊と思しき物体が広間に投げ出され、血肉が地面と「こんにちわ」する。



「ん? 入口に戻ってきたか」



 この戦局を支配したであろう人物はのそのそと僕達の前に姿を表した。その途端周囲からは怒濤の歓声が上がる。



「お おおぉぉ・・・!」

「担い手だ・・深淵の担い手が来たぞ!」

「英雄! 英雄バルブリックだ!」

「他のメンバーもいるっ! 勝てるぞっ!」



 チラリと見えた色と声。間違いなく僕と戦ったことのあるあの冒険者兼英雄バルブリックその人だ。どうやら彼は別動隊。後ろから挟み込む形で動いていたらしい。


 トップランクの実力者だからこそ任せられる仕事だ。



「マジかよ 何体か殺られちまってるぜ」

「アイツ知ってる この前俺と引き分けた奴だ」

「へー 人間にもちょっとは戦える奴いたんだな~」



 仲間の死骸が転がっても、それをやった相手が目の前にいても彼等の心は揺るがない。芯が強いとかそう言うんじゃない。仲間の死に無頓着なんだ。



「う~わ どうすっか」

「こいつ等いるとおちおち飯も楽しめねぇ」

「あっ だったら別のとこ行こうぜ」

「別のとこ?」

「外だよ外 俺達も外出てみねぇか?」



 モンスター達はまだまだ戦闘が続く状況の中であるのに世間話でもしてるかの感覚で会話を続ける。たぶんこの戦いを戦いと思ってないんだろう。



「あ~~~・・まぁそうだな ちょっと行ってみっか」

「ペレディア お前はどうすんだ?」


「俺はコイツの御守りだ あ・・お前等 戻るんだったらフュリアの様子見といてくれ」


「あいよ」



 まるで何事も無かったかのように去っていく喋るモンスター達。


 町でよく見る食事処から出ていく時に交わされる言葉のような軽いノリだ。皿の上の残飯になって席を立つ客を眺めてる気分になる。


 でも取り敢えず難は去った・・・



「アネット 君の肩に乗ってるそれは何だ ・・・説明 あるよね?」



 ズシズシとやって来たバルブリックさんは真っ先にペレディアを指摘した。それはそう。喋るモンスターが肩に乗ってたらね。と言うか今までの会話もガッツリ周りに聞かれてたし言い逃れはできない。



「そんな怖ぇ顔で見てんじゃねぇよ 俺はコイツの協力者だ」


「えぇと そう です・・・」


「・・・今回の件と言い 色々と知っていそうだな だが取り敢えず場所は変えるべきだろう みんなご苦労だった! 凶悪なモンスターは去った! 我々の勝利だ!!」


「「「おおおおおおおーーー!!!」」」



 バルブリックさんは勝ちどきを上げて場を纏めた。それを聞いて安心した戦士達はようやく脱力して地面に座ることができた。


 でも彼等にはまだやることがある。負傷者の手当てとか遺体の確認、回収とか・・・


 でも僕達はここでその手伝いをしなくてもいいらしい。何故なら現在冒険者ランクトップのパーティーに囲まれて連行される羽目になったから。









 バルブリックと言う人は不思議だ。


 さっきまで殺し合っていたモンスターとも今では普通に話してる。或いは僕達とも会話が成立するペレディアが特殊なのか。


 両者の間に距離感はあっても敵意とかそんなものは皆無だった。案外英雄と言われた人物もダンジョンの「ナゼ」に触れる機会は少ないのかもしれない。


 警戒心より好奇心が10割増しで質問を繰り出している。



「なる程なぁ そう聞くと確かに人とモンスターだ」


「だろ? お前等が他の生き物食うのと同じなんだって ところで・・・俺達は何処に連れてかれるんだ?」


「冒険者ギルドだ 平たく言えば俺達みたいなのが大勢いる場所だ そこで説明してもらう」


「説明つったってなぁ これと言って話すことなんかねぇしなぁ」


「此方としてはダンジョンの情報なら何でも欲しいのが現状だ まぁ これから合う人物は貴族だが話の通じる御仁だ 悪いようにはならんよ」


「貴族? 何だそりゃ」


「この国を取り纏めることができる人間の1人と思えばいい 冒険者ギルドの総元締めだな」


「各町のギルド長がトップなんじゃないんですか?」


「ハハハ 勉強不足だぞアネット 冒険者はもはや国の中の1勢力だ それが有事の際に好き勝手動かれたらどうする?」


「そうですねぇ・・・ 国の崩壊の足音が聞こえると思います」


「つまり各支部の手綱を握る者が必要となるわけだ それだけじゃない 国の命令系統が瓦解した場合 独自で動ける戦力でなければならないんだ」


「だから貴族である必要があると・・・ それも冒険者の仕事の内なんですね 例えば今日兵士の人達と一緒に戦ったみたいに」


「そんなところだ さて 着いたぞ そう緊張するな」



 冒険者ギルドに到着するとカウンターへは寄らずそのまま奥へと連れていかれた。階段を上がりハルメリーで言うところのギルド長室の前までやって来る。


 するとバルブリックさんはノックも無しにガチャリとギルド長の部屋の扉を開けた。ごく自然にやってることから彼等の関係が窺える。


 部屋に通されると奥に1人。その前に幾人もの人達がその人物を守るように配置されていた。皆一瞬たりとも気を抜かず僕達を・・・と言うかたぶん僕の肩に乗るモンスターを警戒していた。


 真ん中のギルド長と思われる人物は僕の方をじっと意識する。



「お前から伝書を受け取った時には まさか と思ったが それがそうなのか 実際こうして見てみると思ってたのと違うな 本当に喋るモンスターなのか?」


「何だ? 疑うのか? だったらこれでどうよ 信じてくれたかい」



 ペレディアの発言に室内は一瞬で緊張に包まれる。周りにいるこの人達はたぶん他の喋るモンスター達に煮え湯を飲まされた人達なんだろう。


 心の節々に憎悪のような色が混じってる。



「分かった 信じよう でだ そのモンスターが何故少年の肩に乗っている まさか寄生でもしてるのか」


「気持ち悪いこと言うなよ 俺はそのタイプじゃねぇ」



 そのタイプもいるんだ・・・



「へへ 俺はコイツと一緒に精霊さんを探してるんだ」


「そう言えば前に精霊さんのこと知ってるか俺に聞いてたな アネット 君は 本気で信じているんだな・・・精霊さん」


「えぇと まぁ はい・・・」



 何だか悪いことでもしてるような受け取られ方をされたのは何故だろう。ダメですかね信じちゃ・・・“精霊さん”。



「はぁ~ アネットと言ったか そのモンスターとの関係を端的に述べてくれないか」


「ぼ 僕が前に拉致された時に とあるモンスターに助けられたんです 彼・・ペレディアとはその時に知り合いました で話の流れから精霊さんの話になって彼も興味を持ったと言うか・・・」



 それを聞いたギルド長はどう噛み砕いてよいのやら思案してる様子だ。まぁ色々頭の痛い話だと僕自身も自覚はある。


 でもそこは冒険者ギルドのトップ。すぐに切り替えて質問を投げて寄越した。



「・・・ ・・・喋るモンスターやダンジョンについて話してもらおう 何故お前達は人の言葉が話せる」


「可笑しなことを訊くなぁ んなもん言葉知ってる奴から学んだからに決まってるだろ 産まれてからずっと生きる為に戦って 言葉を知ってる奴から学んで喋ることを覚える お前達は違うのか?」


「・・・ ・・・そもそもお前達は何だ」


「知るかよ てかお前こそ誰なんだって話だろ」


「? ああ すまない 自己紹介がまだだったな 私はワルワイズ デオドランズ公爵家の当主だ」


「ペレディアだ ・・・お前等が俺達をモンスターって言うならモンスターだろ 自分が何者かなんて他の連中と比較して出るもんだし 姿形は違っても俺達は同族 そんな認識しかねぇな」


「・・・ ・・・ダンジョンの奥には何がある」



 ワルワイズと名乗ったギルドの総長はペレディアの一言一句を噛み締めながら淡々と詰問を繰り返していく。僕もそうだけど彼等からしてみても目の前のペレディアの存在は未知で貴重だ。


 言いたいこと聞きたいことは無限にあるに違いない。



「奥? 奥ねぇ~ んなん俺達の寝床があるだけだぞ? 道も入り組んでるしなぁ 広いは広いが 何処が奥って訊かれると改めて考えるなぁ」


「・・・ ・・・お前は人間の味方なのか?」


「別に味方ってわけじゃねぇよ 中にはお人好しのバカもいるけどよ 俺はコイツ等と利害の一致を見ただけだ 大抵の奴は飯だな 人間なんて」


「・・・ ・・・お前達は互いに仲間意識があるのか?」


「普通に話をしたり喧嘩したり一緒に飯食ったり そんな感じだな」


「・・・ ・・・お前の言う利害とは何だ」


「精霊さんだよ精霊さん ダチが精霊さんと会いたいって言うからよ ちょっと協力してんだわ」


「居ると思ってるのか?」


「ハハッ 冒険を生業とする冒険者がそれを訊くのかよ 俺はテメェの為じゃなくダチの為にやってんだ 俺自身はまぁ どうでもいいかな」


「・・・フム 困った お前達の処遇をどうするか」


「どうにかできるとでも思ってるのか? 仮に今の俺をどうにかしたところでこの体は分体だ 本体に何ら影響はねぇ」



 この言葉に僕は無言の確認を迫られた気がしたので急いで首を縦に振った。



「だが人間と話が通じる俺を生かした方がメリットは大きいだろ お前等の中には俺等みたいなのと遭遇して生き残ってんの何人かいるんだろ? そいつ等はちゃんと俺等と話しできたのかよ」



 話ができていれば或いは結果も違ったかもしれない。と考えれば人とモンスターの橋渡し、それに付随して相互理解にまで至る可能性の塊のペレディアはメリットどころか国宝級に重要とも言える。



「・・・分かった この件は一旦保留としよう だが監視は付けさせてもらう」



 如何なギルドの頂点とは言えこの場で答えを出すにはあまりにも度を超えていたようだ。とは言え国とかに報告されて、僕もろともどうにかされるのだけは勘弁してほしいんだけど。



「それならばイーブル騎士団がその任を引き受けようっ」



 ここぞとばかりにエルヴィラさんが名乗りを上げる。頼もしい。



「その少年と行動を共にしていた貴殿を信用しろと?」


「う・・・」


「じゃ 流れ的に俺かな」


「バカを言うな 君はギルドの要だ 冒険者としての仕事をしてもらわねば困る」


「何を言うワイズ 未知が目の前にいるんだ 冒険者ギルドとしても最重要機密だろう」


「確かに・・・否定する根拠は見付からないな だが扱いは考えなくてはならん」





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