414・惨禍の王都ダンジョン
前回のあらすじ
無事にダンジョンから脱出を果たしたアネット達は、近くにある集落で馬を調達し早駆けで王都へと向かうのだった。
休憩を挟んでの移動ではあったものの、馬に加えて何の弊害もなく順調に王都まで疾走できたことで、ダンジョン内を進むより俄然早く目的地に到着することができた。
当初心配していたミストリアの体調も何とかここまで持ってくれたみたいで、僕達は移動史上歴代に名を連ねても良いくらいの記録を樹立した・・・筈。
正直乗馬がここまで気力体力を根こそぎ奪うものだとは思わなかったし、体調が優れないミストリアが良くここまで踏みとどまれたと心底関心もした。
王都の城門前には仕事か観光かはたまた帰宅か、様々な背景を持つ人達が長い列を作っていた。国の中心地に向かうと言うこともあり彼等の色はどこか華やかだ。
そんな色彩の横を僕達は緊迫と疲弊を携えながら、これから絶望の坩堝に陥るかもしれない王都に向け駆け抜けた。
門の手前まで来ると馬の勢いに圧されたのか門番の人が身を呈して僕達に止まるよう立ち塞がる。
凄い勇気。
「どうどう! 止まれっ! 止まれっ!」
上手く馬を操り急制動を掛けたエルヴィラさんは勇気ある門番を前にそのまま馬上から名乗りを上げた。
「私はイーブル騎士団団長のエルヴィラ・ストラディオだ! 火急の用がある! 門を通してもらいたい!」
「騎士団っ? もしかしてダンジョンの件ですかっ?」
「なに? ダンジョンで何かあったかっ」
「は はいっ 今現在ダンジョン内にて複数の大型モンスターの出現が確認され 兵と冒険者各員は事の対処に当たっておりますっ」
「まさか そんな早く到達するのか こっちは早駆けだぞ・・・ ・・・私もその件で急ぎ参った 通してもらうぞっ」
「は ははぁ!」
共に訓練された兵士通し以心伝心で伝わるものがあったのか僕達はすんなり王都の中へと通される。
ダンジョンへ向かう途上、異変が既に王都中に駆け巡っているのか野次馬根性よろしく外に出て様子を窺う人達で通りは賑わいを見せていた。
「おい何の騒ぎだ」
「ダンジョンでモンスターが溢れたらしい」
「兵隊が対処してるんだろ?」
「そう言えば何日も前に大勢の兵士が常駐していたな」
「なら大丈夫か?」
「でもそれだけ集められたんなら結構危ないってことじゃないか?」
「避難・・・しといた方がいいのかな」
「ん~大丈夫じゃないか?」
道中で拾った人の噂は確実に喋るモンスターの影響を示唆していた。
彼等の進行速度を鑑みると、ここの住民達は避難を開始した方が良いように思う。けれど王都の民は国に全幅の信頼を寄せているのか「何かあった?」程度にしか捉えていない。
「呑気な連中だな テメェの喉元に牙が届いてるのを感じる力もねぇのかよ」
「人間は皆が皆戦えるわけじゃないからね それぞれ役割分担があるんだよ」
「ほ~ん 役割ねぇ こんな広い空間にいるのに窮屈なこった」
空はこんなに広いのに人は人の作った価値観で雁字搦めになっている。ダンジョンで自由を謳歌したペレディアなりの率直な意見だ。
それを体現したような人混みを牛歩の速度で進みダンジョン入口までやってくると、規制線が張られているのか一般の人の立ち入りを禁止するように兵士達の通せんぼで境界線ができていた。
ここを通れるのは王国兵か冒険者のみ。
それもそう。入口部分は何十人もの負傷者で埋め尽くされていた。好奇心を押さえられない街の人もこの光景を目の当たりにすれば少しは危機感に火が灯るだろうか。
怪我による痛みから漏れる嗚咽。苦痛に耐えられず上がる悲鳴。呻き声と指示の飛び交う混沌とした現場。その様相はさながら地上のダンジョンとでも言うべきか。
日常生活に死が近付いてるみたいだ。
「この様子だと既にモンスター達が来てるみたいだね」
「馬で駆けて来たのよ? 何でもう被害が出てるのよっ」
「連中 普段から暇を持て余してるからな 何だかんだ皆で何かするのが嬉しいんだろう 浮かれる気持ちも分かるぜ」
「やれやれ仕方ないな・・・みたいな口調で和まないでよっ こっちは命懸けなんだからね! で どうするの?」
「行くしかないと思う でも話し合いで解決できるかな・・・」
「無理だろうな そもそも人間と会話が成立してるだけで奇跡なんだぜ? 俺等みたいなのが異質なんだよ」
でもフュリアの言うことならちゃんと聞いていたし仲間内なら意思疏通もできている。要するに「自分達」かそうでないかだ。
「ミストリアはここにいて 危なくなったら──────」
〔ダメよ 私も『鍵』なら一緒に行かないと・・・〕
「でも・・・っ」
〔前は精霊さんが止めたんでしょう? 兵士達で無理なら奇跡にすがるしかないわ それに私達は当事者よ 逃げることは許されないわ〕
言い切ったミストリアの決意は固い。それに偶発的とは言え凶悪なモンスターを撒き散らした一端は僕等にもある。その事実は変えられない。
「・・・分かった」
「しょうがないわね ちゃんと私の後ろに隠れてるのよっ」
「できることならここに残っててほしかったが仕方ない 冒険者としての責務を騎士が口出しするものでもないしな」
〔決まりね〕
覚悟は決まった。
僕達は負傷者と討伐隊が往来する惨状のダンジョンへと向かう。だけど入ってすぐの広い空間までモンスターの波は既に押し寄せていた。
とは言え入口の少し高くなった場所から眺めると、苦戦を強いられてはいるものの兵士達は隊列を保ちその穴を冒険者が埋める形で戦線は維持されている。
「いっぱいいっぱいと言った感じだな」
「これに突撃するのよね・・・ミストリア 魔法撃てる?」
〔少しだけなら〕
死に物狂いで抵抗を試みる人間に対して、喋るモンスターは生きの良い獲物をなぶるかのような感覚で楽しんでいる。
悲鳴と笑いが混然一体となったこの場所は狂気そのもの。正しくこの世の地獄を体現していた。
この狂った戦場で戦えなくなった者は運ばれ代わりの戦力が抜けた箇所に逐次投入されていく。このサイクルを繰り返しながら最終防衛ラインは守られていた。
戦局は決して良いとは言えないものの最悪と言うわけでもない。紡がれる人の連携こそが我々人類の最大の強みだ。
「・・・行こう!」
僕達は戦いの様子を窺いながら穴になりそうな部分を埋めるように戦いに参加した。
「私が盾になるわっ 守りに徹するから自由に動いてっ」
「戦いに呑まれるなよ! 戦闘しつつ周囲にも気を配るんだ! 状況確認はアネットに任せる! 前に出過ぎずラインを維持することを心掛けろ!」
バシャバシャ! とミストリアの魔法で牽制しつつそこへ斬り込む。正直効いてるのか効いてないのか分からないけど僕達の剣が無事相手に届く囮にはなった。
「あぁ? んだテメェ等 新手かぁ?」
「っ! ・・・こんなことは辞めて下さい! 人を殺めたって精霊さんは応えてくれない! フュリアのやり方は間違ってます!」
狂気に呑まれてハイになってると思われたモンスターが僕達を意識して話し掛けたので僕は一か八かで返事を返してみることにした。
「んん? ・・・ああ お前がアイツの言ってた 人間は区別がつかねぇな って お前ペレディアじゃん 人間の肩なんかに乗って何やってんだ?」
「何って コイツの側に付いたんだよ」
「マジかよっ で? 止めに来たってか?」
「ん~ どうだろうな ダンジョンの外に出てみたらよ お前等がやってることとか興味が失くなっちまって 自分でもどうしたいのか分かんねぇんだわ」
「何だそりゃ」
「てかお前等も外に出てみたらどうだ? もしかしたら考え方が変わるかもしんねぇぜ」
「外? 外ねぇ・・・こうして飯にもありつけて困ることもねぇのに 何でわざわざ外に出るんだ?」
「まぁ・・そうなるよな だけどよ 毎日同じこと繰り返して同じとこグルグル歩いて それに何の意味があるんだ? 外に出て空ってのを見たらよ そんな今までの毎日に虚しさを感じたんだ」
「空? 空って何だ?」
「上に広がる青くて見えない空間のことだ それだけじゃねぇ 雲ってのが浮かんでてそれが凄いでかいんだ 夕方って時間には光る太陽って球体が横に移動して世界は赤く染まるんだぜ?」
「・・・すまん よく分からん」
「何だ? 何の話だ?」
「ペレディアが外に出たんだとよ」
「外? 外ってどんなだ?」
僕達の話を聞いていた他のモンスター達も会話に参加してくる。戦闘中だと言うのに片手間で聞いてる・・・と言うか片手間で戦いながら会話に参加してると言うか。
兎に角。
ペレディアが外に出た。と言う事実が彼等の興味を引いたようだ。
「そうだなぁ 自分の中のモヤモヤしたもんを全部吹っ飛ばしてくれる たぶんそう言う所だ」
「へぇ~」
「外か・・・」
「外ねぇ」
「面白そうじゃねぇか」




