412・フュリアの思惑
前回のあらすじ
ダンジョン内で“精霊さん”に会うべく探っているとフュリアの思惑で多数の喋るモンスター達が集結した。その目的はフュリアなりの探求の1つでありダンジョン内の人間を襲う内容だった。
「ダメ そんなことしたって母喜ばないっ」
「おっと 前みたく草でグルグル巻きにはしないでくれよっ」
「そうそ 同族には優しくだぜ?」
「ぐっ・・・」
フュリアの言葉が引き金になって欲求の箍が外れたモンスター達は、各々散り散りにダンジョンの影へと消えていく。
こうなっては然しもの草モンスターも以前みたく全員を捕らえることは困難のようだ。狙いも定まらず周囲から伸びる植物は虚しく空を切るばかり。
どうやら事態は収拾がつかないところまで進んでしまったみたいだ。
そんな中、ご馳走を前に浮かれたモンスター達に紛れて一際大きく瞬くフュリアの心証がやたらと目についた。
錯綜する状況の中で彼だけはまったく別のものを冷徹な目で切望している。これまでの彼の印象とは違う見え方にゾクリとするものがあった。
「ダンジョンで冒険者達を殺せばあなた達は人間全員の知るところとなって大規模な討伐隊が組まれる そうすれば狙われるのはあなた達だっ 精霊さんだって探せなくなるかもしれないっ」
「問題ないとも 人と我々の関係など今に始まったことでもない 前に述べた通り 人とモンスターの生存競争など自然の摂理 その摂理が摂理のままに行われるだけだ」
「僕達はただミストリアの体調を治しに来ただけなのに・・・」
「・・・なる程 始めから我々は見ている方向が違ったわけだ 噛み合わないのも頷ける」
「平気で人を殺そうとする連中と噛み合う筈ないじゃないっ!」
「その議論は既に終えている 君達には我々に協力してもらう 望む望まざるに拘わらず君達には抗う手段がない 現実を見たまえ」
現実・・・
空気を読んだのか、あらかじめ打ち合わせてあったのか、それとも単純に腹を空かせているだけなのか、フュリアの周りには数体のモンスターが側に残っている。
絶望が野に放たれたとは言え僕等にとってあまり変化のない現実は続く。どうするか・・・僕は残っている最後の手段をマルティナ達に囁いた。
「聞いて ここから別の方向に出口がある 僕がスキルで視界を奪うから後に付いてきて ・・・プチダー─────」
・・・と、僕がスキルを放とうとした瞬間。真っ暗な筈の僕の視界はぐらりと揺らいで唐突な目眩はスキルの使用を許さなかった。
目眩? 盲目なのに?
いったい僕の身に何が起きたのか分からない。分からないけど視界が揺れて感覚がグラグラして定まらない。
上下左右が曖昧でまともに立ってもいられない。歩こうと足を前に踏み出すとそのままバランスを保てずに僕は地面へと倒れてしまった。
ドサドサドサ・・・
倒れてる僕の耳に届く3つの重い音。
どうやらこの感覚に陥ってるのは僕だけじゃないようだ。何とか音のした方へと目を向けると地面に横たわっている色が3つ。それぞれ気持ち悪そうにしている。
「何・・だ これ は・・・」
「頭が グラグラ する・・・うぇぇ」
〔──ど・・・──・つ・・・・ぇ──〕
「フュリア 取り敢えずこいつ等確保でいいんだな?」
「ああ ありがとう 無傷で捕らえる君のスキルは重宝する 他の者だとこうもいかないからね」
「フュリア まだ間に合う こんなことしたら 母 オデ達見放す」
「ならば啓示を示すべきだったね 仮に精霊さんが母であるならば 彼の者は我々を導くべきだった しかし本能のままであることを是とし 頑なに接触を避け それでいながら望む姿になることを求める
であるなら我々は如何な手段を用いようとも探求し続けるしかないではないか これはその1つに過ぎないのだ 彼の者が望む姿に望む形に その先にある到達地への熱望 沸き上がる熱量こそが私を突き動かす」
自身の探究心を満たす為に誰かを犠牲にする。人ならそう捉えるだろうけど、事フュリアの場合「犠牲」と言う言葉は「弱者」に置き換えられている。
弱者は食われるのが摂理。だから躊躇わない。何も感じない。
「オデ 何となく分かる 母は望んでない 殺し合うこと 人もオデ達も だからアネット 助ける」
「正気かお前 ここはお前の縄張りだがこっちは数の利があるんだぜ?」
「人間に加担するヤツなんて初めて見たな 笑える」
「フュリア 俺は自分の意味ってのをずっと1人で探してた だが1人で悩む必要なんてなかったんだ 何てことはねぇ ダチと一緒に居れりゃそれで良かったんだよ それが俺の答えだ おい草のっ アネット達を草で巻けっ」
ペレディアに言われて草モンスターは僕達の全身を草でクルクル巻いた。何の為かは分からないけど少しは気分が落ち着いたような気がする。たぶん・・・したと思う。
「チッ 気圧を変えやがったか」
「対策されてんなぁ やり辛れぇ」
「お前は目一杯周囲の草使えっ 俺も合わせる!」
「数見てもの言ってんのか? ペレディア」
「この草も壁から引っこ抜いちまえば動かせねぇのは知ってんぜ」
「ハハッ あんまコイツを舐めねぇ方がいいぜっ」
僕達の代わりにペレディア達が戦ってくれている。なのに僕の意識はグラグラで状況把握も儘ならない。
数の不利と相手の力量は僕達にまで気を配る余裕を削いだのか体に巻かれた草が緩む。体は自由になったもののバランス感覚はおぼつかず立ち上がることはまだまだ困難だ。
せめて何か・・・
だけど曖昧な感覚の中で四方八方から執拗に鳴る大きな音が更に現状を分からなくする。
そんな中で何とか状況の把握に努めようとするけれど、幾重もの色がグニャグニャになりながら線を描いてるだけの世界が広がるばかりだ。
この狂った世界と何より一気に体温でも下がったのか妙な汗とが混ざって非常に気持ち悪い・・・
「・・ット! アネット! 大丈・・か」
「こっちは任せ・・それよ・・ミス・・」
うやむやな感覚の中でエルヴィラさんとマルティナの声がする。それと水のぶつかる音。どうやら3人は僕よりも軽症らしい。
そう言えば以前もこんな感じで感覚を狂わされたことがあったっけ。天と地が引っくり返ったようなこの感じは僕の最大の弱点のようだ。
今なおまともに動くことすら叶わない。
「チッ 流石に数が不利か おい人間共もっと気張れっ!」
「分かって・・るわよっ! ブロック!」
軽く息を吸って吐いてを繰り返しながら呼吸を整える。これで改善するとも思えないけどさっきよりは周りの状況を掴むことはできた。
・・・芳しくない。
草モンスターの草同様、如何な喋るモンスターと言えど戦闘と平行してのスキルは維持が難しいんだろう。僕の身に起きた不可解な現象は消え、何とか立ち上がるまでには回復できた。
「僕も 戦わな────」
「おっと それはお薦めしない 君の華奢な体躯では弾き飛ばされただけで死んでしまう そして動くな 彼を殺す気はないが無事では済まない体になる」
いつの間に後ろにいたのか後頭部からフュリアの声が聞こえた。それと同時に長い何かが僕の体に巻き付けられていく。
これは・・・尻尾?
足先からグルグルグルグルと両腕を拘束しながら首元まで届いた尻尾は、モフモフしていながら全力でもがいてもまったく緩む様子を見せない程強固だ。
「アネット!」
「くっ! 貴様っ!」
「もう一度言う 動くな さもなければ全身の骨にヒビが入ることになる」
そう言いながら締まってくるモフモフ。そのモフモフは今では硬いロープのような頑丈さで僕の体の全部を締め上げてくる。
こうなるともう体の一部ですらピクリとも動かせない。人がモンスターに食べられる瞬間とか、まさにこんな感じなんだろうか。観念するしかないと言う思いにさせられる。
「ぐ・・・っ」
「フム 聞き分けが良くて助かるよ」
僕の状態はかなり悪いらしい。苦しみの中何とか見える色の数々はさっきまでの躍動を見せていない。
「ア アネットを放しなさい!」
「彼が自由になるのは君達の心が折れた時だ 検証を続けたまえ それが我々と君達 双方にとって明るい未来に繋がる」
双方?
彼は自分の悲願しか頭にない。そもそも“精霊さん”に会えたからって何かがあるとも限らないのに・・・
〔取り敢えず アネットを放しなさい〕
「失語さんを連れるミストリア 君も『鍵』の1つなら 彼が傷付かないよう気遣うべきだ 彼が壊れてしまってはそれこそ生かしておく意味がない」
「っ! この・・モンスターごときが・・・っ!」
「立場などと言うものは状況次第で変わる だから有利に立てるよう事前に準備をしておくのだ つまり 我々と君達とでは“精霊さん”に対する向き合い方が違ったと言うことだ」
「それはっ そんなことは・・・」
〔・・・・・・〕
反論できない。だって僕達にとって“精霊さん”は二の次だったから。でもこれで決してしまった。僕達は誰も犠牲にするつもりはない。
だから動けない。
『〔ミスティーごめん ちょっと負担を掛ける〕』
〔・・・? 失語さん?〕
【〔フュリア 君はアネットを解放して〕】
声・・・この声は闘技場で聞こえた女の子の声。ミストリアの“失語さん”が話してる? チラリと見えた“失語さん”はとてもキラキラ輝いていた。
そしてその言葉の通り僕に絡み付いていた尻尾は解かれる。
「失語さんが言葉を話すとは珍しい やはり普通ではない現象が・・・ ・・・ なぜ尻尾が解かれている?」
解かれた尻尾を跨いでマルティナ達の元へ。走ることができない僕はゆっくり歩いて向かうわけだけどフュリアは動こうとしない。
と言うか動かないまま困惑だけが体内をグルグル駆け巡っていた。
「フュリア? 何やって────」
【〔君達は動かないで フュリア君もだ〕】
「何だ? 動くな・・・とは? ・・・ ・・・おかしいぞ 意識があるのに体が動かない」
「おいフュリア! どうなってんだこりゃ!!」
「くそっ 何で動けない!」
「力を入れてるのにっ ピクリともしねぇぞっ!」
「君も盲目さん同様 相手の内面に作用するスキルを使うようだ 以前アネットが精霊さんを見たように 失語さんである君が言葉を介して現象を起こす『鍵』の共通点と言うやつか 素晴らしい」
「悦に入ってんじゃねぇよ! 何とかしろフュリア!」
「・・・無理だね どうやら我々は『鍵』に触れたらしい 先程から私も力を入れてるが体に伝わらない いや・・力を入れてるつもりになっているだけかもしれない」
「んなことはどうでもいい! くそっ 動けっ!」
「う~む しかしこれはどう言う状態だ 体表面の感覚はある つまり末端の神経は生きている つまり脳から送られる信号は体に伝わっている筈だ それが何処かで遮断されているのか?」
「今そんなご託はいいんだよっ! 何とかしろっ!」
「おそらく“失語さん”の特性上 毒の類いではない 言葉による命令が我々の支配を上回ったのだ 書き換えられたと言っても良い程の・・・ そうか 分かったぞ 『鍵』の使い方が ・・・しかしそれはあまりにも不条理 そんなことが許されて・・・ブツブツブツ」
フュリアは自身の現状を解説しつつ脳内で自問自答の渦に飲み込まれていた。
それにしても“失語さん”はたった二言でこの場を収めてしまったわけだけど、その二言がミストリアにかなりの負担を掛けたのか彼女はガクリと崩れている。
「・・・ミストリア ・・・っ」
「アネット 今のうち これ以上ここ居ちゃいけない」
「・・・そう だね」
フュリアの言った「『鍵』の使い方」は気になるけど、今はそれどころじゃない。ミストリアの体調も然る事ながら解き放たれたモンスター達だ。
彼等は嬉々として人間達を襲うだろう。そうなる前に王都の兵士や冒険者達に知らせなきゃいけない。
「みんな 急いでここを出るよ そして王都に─────」
「その前にだアネット 俺はこうしてお前等に加担したが 仲良くする為にこいつ等と戦ったわけじゃねぇ 俺も精霊さんとやらに用があったから共闘の立場をとったんだ」
「ペレディア?」
「その意味でお前等を逃がすつもりはねぇんだわ かと言ってここに居ても状況は悪化するばかりだ それは草のも望んじゃいねぇ ってことで お前には俺の分体を付けさせてもらうぜ」




