410・植生ダンジョンで待つもの
前回のあらすじ
冒険者ガイドに従って着々と足を進めるアネット一行。1つ1つ経験を重ねながら冒険を堪能するのだった。
「アネット! そっちに一匹行ったわ!」
「分かった ミストリア!」
〔了・・解・・・!〕
「うおおお!」
あれから数日が経って僕達も目的地にだいぶ近付いた。それに伴って奥地に進んでるせいかモンスターも強くなっている。
ハルメリーで例えるならここは階下だろうか。4・5匹が徒党を組んで役目を意識し連携しながら襲ってくる。
彼等が生後どのくらいかは分からないけど、狩りと考えれば割りと堂に入ってるようにさえ感じる。でも僕達だって負けてない。
ここに来るまでの間、互いの動きやスキルの特性を把握して能動的かつ連携して戦える程度に回数は熟してきた。
相手に練度があっても簡単に勝ちを譲ったりはしない。
「ふぅ 終わったわね」
「意外と何とかなるものだな」
〔・・・どうしたの? アネット〕
「この岩みたいなモンスター 前に戦ったことがあるんだ 植生ダンジョンは近いよ」
「さすがにこのモンスターは食べられないわね」
〔モンスター肉に慣れたとは言え 岩を食べようとは思わないわ て言うか さっき食べたばかりでしょう〕
モンスターも余裕を持って倒せるようになった為か腹の具合を気にできる程にはダンジョンにも馴染んだらしい。満身は良くないけど心強い台詞ではある。
そんな訓練されたモンスター達を倒しつつ先を進むと肌感覚で違いを感じる境目を踏み越えた。この感覚は・・・ダンジョンの境界線。
植生ダンジョン。
「何これ・・・目に見えないけど 何か 違くない?」
〔・・・そう ね ・・・不思議だわ〕
「この 何だろうな 何も無いのに空気の膜を通ったみたいな感覚 久し振りだ」
「アハハ これ面白いわっ」
マルティナはこの不可思議な現象が気に入ったのか1人で行ったり来たり悦に入っている。
そう言えばあの子もここではしゃいでたっけ・・・
「ここからは植物がモンスターになる筈だから気を付けて」
「そうだな 所々に毒々しい色の植物が生え始めている 壁や地面に要注意だ」
前に来た時は彼等に敵意は感じられなかった。と言うかナデナデ撫でてた気さえする。知らなかったとは言え体にモンスターを張り付けたこともあったっけ。
こうしてざっと見ても穏やかな植物そのものだ。でも怒る時は怒ることを僕は知っている。
通常のモンスターなら死屍累々の山を築き上げる程のレベル。この植生ダンジョンそのものが1個体の巨大なモンスターと言う印象を受けた。
そんなことを思い出しながら注意を払って進んでいると、前方から人の声らしき音が小さく切れ切れに届き始めた。
「気を付けて 前の方に誰かいる」
「組織の人間ってやつかしら」
「分からない」
〔冒険者かもね 植物ならポーションの材料も有りそうだし〕
どちらであろうと接触しない方向で前へと進む。何故なら僕等の目的地もそっちだから。
声が大きくなるにつれ、つまり終着点に近付くにつれそれが悲鳴であることが判明した。この様子から察するに人間側は劣勢だろう。
どうするか・・・なんてことを考えていると、その悲鳴は足音を立てながら慌ただしく遠ざかっていく。
どうやら勝負はついたようだ。
でも彼等は戦いにこそ勝てなかったものの自分の命と言う掛け替えのない宝を手にすることはできた。それもまた立派な勝利と言えるだろう良かった良かった。
なんてホッとしたのも束の間。
ダンジョンの植物達が今度は僕達に向けて一斉に色付き始めた。怒っているのか何なのか。不明だけどメチャメチャ意識されてるのだけは分かる。
それと同時にドスドスと質量を感じさせる生き物の足音が凄い勢いで僕等に向かって走ってくるのを捉えた。
「みんな! 何か来る!」
「モンスター!?」
「たぶん!」
『あ~ この意識の線は前に会ったことあるよ~ 喋るモンスター』
「喋る・・・」
と聞いてますます体が強張る。話せるモンスターも居たけれど大半は人を食べちゃう系モンスターだ。
彼等が人の違いを区別できるとも思えないし、出会い頭にペロリもあり得る。
「来るっ!」
僕達は武器を構えて強敵の出現に備えた。緊張しながらモンスターとの接敵の時を待つ。周囲の植物を掻き分けるような音。確実に此方を捕捉してるだろう足音がついにその姿を僕達の前に晒した。
それは大きくガサガサ音を立てながら、でも現れたそのモンスターは聞き覚えのある声と口調で僕の名を呼ぶ。
ん? この声・・・
「アネット 戻った 嬉しい」
「あなたは・・・」
「っ! ア アネット!? 敵? 敵なのっ? 違うのっ? どっちなのっ!」
「あ・・ごめん みんな大丈夫 来る途中で話した草モンスターだよ」
「これ・・・いや 彼が・・・」
〔ホントに草ね〕
「久し振り 元気にしてた?」
「アネット コルトア 元気?」
「うん 元気にしてる あれからスキルだって覚えたんだ」
「そっか 良かった うん 良かった」
「・・・思ったより人情味があるのね 私の知ってる連中とは雲泥だわ」
〔同感ね〕
僕やコルトアを助けてくれた喋る草モンスター。彼女達の第一印象は悪くはないようだ。良いとも言い難いけど・・・
「・・・あのさ────」
草モンスターの案内で僕が“精霊さん”を見た現場まで案内してもらう。正直この場での彼の存在は大変心強い。植生ダンジョンのみなら「踏破した」と言い切ってもいい程の存在だ。
「フュリアの言った通りだ ちゃんとアネット来た」
「え そうなの? そんなこと言ってたんだ」
「うん 絶対に戻って来るって言ってた フュリア待ってる ペレディアも」
植生ダンジョンに入る前。ここで出会った個体名を知る範囲の喋るモンスターの説明を軽く3人にしてある。
知ってると言ってもスキルさんとかじゃなく話した感じから性格とか考え方とか印象だとか、そんな大雑把なものだけど相手との距離を計るのに必要だろう。
特別仲良くすることもないけれど、これから会うモンスターがこの3体なら話も通じるし無体なことにはならない・・・たぶん。そう思う・・・
「お マジで来やがった」
「相手は未知の存在だ それを探求するなら足跡は幾度も辿るもの いずれ戻ると思っていたよ」
「お久し振り・・・」
「何だ? 前の気味悪いガキんちょはどうした」
「あの子は・・・亡くなったよ」
「マジでかっ! はぁ~人間は脆いなぁ~」
「仕方ない その脆さを補う為のスキルさんだが 死ぬ時は死ぬ しかしあの異様なスキルさんを保有する者が・・・」
フュリアはあの子に何を感じていたのか残念そうな色を見せた。今更思うけど言葉を喋る知性を持つモンスターには明確に喜怒哀楽がある。
とは言えモンスターであるのだから色合いは人間のそれとは違うのだけど、普通に会話を重ねているとついつい人と話してるような気分になる。
「で? ここに来たと言うことは次の段階に進んだと見て良いのかな?」
「えっと その前に 僕の右に居るのがマルティナで左がエルヴィラさん 後ろの子がミストリア 彼女達は僕の仲間なんだ よろしくね」
「ふ~ん 数揃えてもあのガキの方がマシだな」
「なっ あの子は魔物さんって言う危険なスキルさんを連れてるのっ 一緒にしないでっ」
「まぁいいじゃないか 人と我々とではそもそも理が違う 理解が及ばない価値観があるのだろう しかしミストリアだったかな? 君もまた手掛かりの1つのようだ」
〔・・・・・・・〕
不意の名指しに彼女の警戒色が一層強まる。おそらくダンジョンに不釣り合いな“失語さん”を見てのことだろう。
事前に話しておいたフュリアと言うモンスター。彼には特に注意するよう言ってあるけど彼女はここに来てからずっと警戒のしっぱなしだ。
事ある毎にピチャピチャ思考を覗き見てる彼女の目にフュリアはどう写ったか。今更だけど本当は彼等に会うつもりはなかった。
でもフュリアと言う存在は停滞する僕達を押し上げてくれるような・・・そんな淡さが拭えなかったから完全に拒絶することができなかったのも事実だ。
もし・・・もしも彼の助言で“精霊さん”へと至った場合、彼はいったいどうするつもりだろう。
ここは協力態勢をとるべきかはぐらかすかで判断に迷う。
〔アネット バレてるみたいよ〕
「!」
此方の意図はお見通しと言うわけか。言葉を隠して会話を続けても綻んだ部分に切り込まれるだろうし僕じゃ太刀打ちできそうにない。
「・・・お察しの通り 僕達は精霊さんに会う手掛かりなんだ 『鍵』って言うらしい」
「つまり鍵で開けるものを探しに来たと言うわけか」
「鍵穴がついてるもんなんて見たか? この辺りで」
「いや きっと我々には分からない 彼等でなければ見付けられないものだ それは生身の肉体で触れられるものではなく スキルによってのみ接触を許されるのだろう」
「な~る 前に感じたアレか」
「母いた 母感じた」
「ならばやることは単純だ 未知に対しあらゆる可能性の模索 その1つ1つを試していくしかない」
「覚悟はしてたけど そう言われると気が遠くなりそう・・・」
「気が滅入ったのなら考え方を変えるといい それは成功への道を切り開く為の選り分け作業だとね」




