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409・ダンジョンの1日

前回のあらすじ


ダンジョン探索の準備を整えたアネット一行は“精霊さん”を求めていよいよ王都ダンジョンへと足を踏み入れるのだった。

 僕達の荒い息遣いと剣が交わる音。そこから生じる衝撃音がダンジョン空間に鳴り響く。


 モンスターの断末魔。事切れて地に伏す物体がなまめかしい。わずかにしていた吐息は切れ僕は生命の終わりを確かめた。



「ふぅ~ ちゃんとやれたわね」


「ここは表層だ 躓いてるようじゃ明日から腕立て腹筋スクワット地獄が訓練メニューに加わるぞ」


〔・・・まぁ このくらいなら何とか〕


「ミストリア大丈夫?」



 モンスターとの戦闘になったミストリアの動きは少々ぎこちなかった。混戦になると狙いが定まらないのか魔法の発動が遅くなる。


 詠唱が必要となる他の人の魔法と比べればまだ早いのかもしれないけど、彼女の普段を知る僕からすれば目に見えて分かる程に影響が出ていた。



「しばらくは水魔法さんに魔法をお願いしたら?」


〔・・・そうね できそう?〕

『ん~ 何か雑音がして狙いづらいー』

『〔戦いになると情報過多になる気がする 余計なことが気になって集中できないのに似てるかも〕』


「やっぱりスキルさんにも影響が出てた感じかな」


〔ダンジョンに入る前に確認はしたんだけど 練習と実戦では違ったみたいね〕



 スキルさんと魔法だけじゃない。戦う彼女自身の足下も覚束ない感じだ。普通に歩くだけなら申し分ないけど実戦では顕著に見える。


 これは予定よりも時間が掛かりそうな予感がする。捜索の申請登録も長く見積もっておいて正解だった。


 これからは彼女の体調も気遣って慎重に進んだ方が結果良い方向に向かうかもしれない。だって目的地では喋るモンスターと向き合わなくちゃいけなくなるからね。


 それこそ何が起こるか分かったものではない。


 でもそんな僕達にも1つだけ朗報があった。それはこのダンジョン内にモンスターの湧かないスポットなる地点が点在してること。


 情報収集の折りそれを知った僕達は急いで地図を買い、今はそれに照らしたルートを進んでいる。


 問題があるとすれば地図はダンジョンの全てを網羅してないことと、僕が向かう先は組織的勢力の縄張りであること。


 そこまでの道は僕の脳内にあるけれど手元の地図と照合できないことが挙げられる。



「さて じゃ~やりますかっ」


〔・・・本当にやるの? 今更言うのもなんだけど〕


「当然よ これも冒険者を続けるために必要な経験だわ えぇと まずは血抜きね」



 マルティナは冒険者ガイドに記された通りにモンスターの解体を進めていく。そう言えばカルメンの家でも解体に立ち合ったっけ。


 ザク・・・ベリベリ・・・ゴリッ ゴリゴリゴリッ ・・・ガンガン!


 狩人宅ではこんな音はしなかった。いかにも素人と言う不穏な響きで空洞内は満たされる。端からこれを見ている2人も僕と同じ心境だろう。


「これホントに食べられる?」と・・・


 血を抜いて洗って内蔵をとって皮を剥いで解体。一連の作業を悪戦苦闘しながらもマルティナはやりきった。


 本人は感無量と言った感じで満足してるのでたぶん出来てると思う・・・と言うかそう願う。



〔私は洗浄作業だけ手伝えればいいわ 気分が悪くなれば体調に響くもの〕


「・・・上手く逃げたわね 次の戦闘でモンスター倒したらアネットの番だからねっ」


「う うん・・・」


「いやいやいや アネットは無理だろう さすがに細かい作業は・・・なぁ」


「前はルディアに止められたけど 気持ちが乗ってる今なら大丈夫な気がします」


「気合いで衛生問題は解決しないぞ・・・」


「この少し先にスポットがあるみたい 調理はそこでしましょう」


「それならしばらく分岐もないし 僕の地図のルートからも外れないから大丈夫だよ」


「決まりね」



 お腹の減り具合からみて今は丁度ご飯時。スポットに到着した僕達は持ってきた調理器具を用意して調理を開始した。


 と言ってもメニューは焼くか茹でるかだけだけど・・・


 ここの環境は岩でできた洞窟と言った案配で気軽に燃やせる素材が無い。そのため自前の固形燃料を使用する。


 ダンジョンには水場があると言う話だけどあいにくとここにはない。つまり他の冒険者はスポットと同時に湧き水の場所も考慮して探索しなければならないわけだ。


 それを考えるとミストリアの有り難みをしみじみ感じる。



「ん~ 木が無いから今回は焼けないわね」


「ダンジョンが植生に変わるまでの辛抱だよ」


「ミストリア 鍋に水お願い」


〔ん〕



 彼女達が料理に没頭してる間は僕とエルヴィラさんで周囲を警戒する。いくらここで産まれないからと言っても音とか臭いでやって来るモンスターはいる筈だ。


 本当は解体もスポットでするべきなんだろうけど肉の新鮮さを鑑みた結果の所業でもあった。



「モキュモキュモキュ・・・ うん 悪くないわね」


「肉が新鮮だからだろう 臭みもない」


「狩人はもっと拘ってましたけど これはこれで全然いけますね」


〔野菜も欲しくなるわ 水に溶かすタイプの携帯食も買っておけば良かったかしら〕


「これだって溶けないわけではないが 味と分量に問題がなければやってみてもいいんじゃないか?」


「この先トラブルがないとは限らないので 携帯食は計画的に食べましょう」



 食事と休憩を終えて再び目的地へと向かって歩く。ちなみにここのモンスターは爬虫類らしく先ほど食べた肉も淡白で塩も効き栄養価も悪くなくヘルシーで美味しゅうございました。


 次の獲物がヘビ。


 どこに巻き付いていたのか上から落ちてきたので着地前に一閃。「よく分かったわね」と言われたけど真っ暗な中に瞬く灯りみたいなものなので僕にはよく見えた。


 体長はそれなりに長く太く食べられる部位も多分にあるので迷わず鍋の具材へ。冒険者ガイドによると毒は無いとのことなので僕でも調理できるだろう。


 他の3人はちょっと引きつってたけど食べられれば問題ない。


 ダンジョンの中にいると正確な時刻は分からない。なので各人の疲れ具合と体感で朝昼晩を推測する。


 これが非常に難しく「日程」と言うものが決まってる以上、予定した前後の期間で戻らなければならない。それに伴って食料の問題もある。


 幸い王都ダンジョンは道中食べ物を確保することができるけど、これがコドリン洞穴となるとネックだ。探索が進まない理由も水と同様そこにあるんだろう。


 夜と思しき時間に寝具を用意する。


 もちろん全員で仲良く「お休みなさい」はしない。交替で見張り番はダンジョンならびに野営の基本だ。これもさじ加減が難しい。



〔アネット 交替の時間よ〕



 ミストリアにゆさゆさ体を揺すられて夢から現実へ。彼女の色を目にしながら体を起こす。真夜中に目が覚めた時の疲れの取れていないあの感じが気だるさを生んで放さない。



「ミストリア・・・」



 寝具から出てから武器を確認し、寝ている皆から少し離れた場所で腰を下ろす。見張り番と言うことで気持ちの切り替えをしていると、ミストリアが僕の隣にちょこんと座った。



「寝ておいた方がいいよ?」


〔えぇ でもちょっと・・・こうしているわ〕


「うん・・・」


〔・・・・・〕


「・・・・・」


〔・・・ねぇ もし精霊さんに会えたら どうする?〕


「どうって ミストリアの────」

〔そうじゃなくて 探窟家のコドリンは精霊さんと契約したから偉業を成したって言われてるわ だから貴方が精霊さんと出会えたらどうなりたいのかなって〕


「・・・僕は ・・・英雄に憧れてるんだ でもそれは頼まない」


〔どうして?〕


「バルブリックさんを見てて思ったんだ 大きな人だなって」


〔・・・確かに大きかったわね〕


「体もそうだけどさ 色んな人の視線を全部受け止めてたって言うか う~ん 上手く言えないけど 肩書きだけ英雄になったって山のようには立っていられないって感じた」


〔そう? 私は遜色無いように見えるけど〕


「ううん 自分で分かるんだ まだまだ足らないって これは・・・誰かに埋めてもらうものじゃなくて自分で満たすものなんだ だからお願いはしない 英雄へは自分で目指すよ」


〔分かったわ・・・ でも覚えておいて 英雄は誰かが認めてくれるから英雄なの 例え皆の英雄でなくても誰かの英雄になら なってるかもしれないわよ?〕



 ミストリアはそれだけ言うと寝床に入ってしまった。誰かの・・・か。誰かにとっての英雄・・・ん~どうなんだろう。


 僕は今まで漠然と夢見ていただけだから「誰かにとっての英雄」なんて意識したことがなかった。改めて考えると「自分は英雄だ!」なんて叫ぶのは確かに違うと思う。



「英雄の条件って何だろう」



 その後も順番で見張りの交替をして翌朝? にまたダンジョンルートを進む。前から後ろから迫り来る音もあれば上下左右から出(いずる)音もある。


 そんな集中を欠かしてはならない状況で昨日の問答が頭の片隅にこびりついて離れない。


 集中できていない・・・これでは英雄どころか冒険者としても失格だ 。



「・・・すまない みんな先に行っててくれないか?」


「エルヴィラさん? 何かありました?」



 気になったことでもあるのかエルヴィラさんは僕等に先に行けと促した。もしかして僕が音を聞き逃した? もしくは騎士団長クラスだからこそ気付ける気配・・・とか。



「特に何もない・・・いや あると言えばあるが・・・」



 何か言いたげなエルヴィラさんは煮え切らない感情でマルティナとミストリアを呼ぶ。小声で話してるところを見るとあまり僕には聞かれたくない話らしい。


 何だろう・・・



「なぁ アネットっ───耳がいい───」

「まぁいいと───それがどう───」

「だからそ───憚(はばか)り事──音が───」

〔─────・・・────・・・〕



 どうやら何か心配事のようだ。ここはダンジョンなのだし仕方ない。きっと僕が至らないばかりに気を使わせているのだろう。



「あの 大丈夫ですよ 何かあっても平気なようにちゃんと音は聞いてますから」


「それが問題なんだろうっ!!」



 お・・怒られた。


 何が問題かは分からないけどエルヴィラさんもミストリアも、異様にバクバクしている心音が気になる・・・





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