408・王都ダンジョンへの道
前回のあらすじ
バルブリックに決闘を挑まれたアネットは闘技場にて戦う決意をする。これまで培った全てをぶつけるアネットだが、その尽くを否定される。基本に立ち返り「見る」ことの何かを掴んだアネットだが最後は力業で場外に吹き飛ばされるのだった。
「おお ここのダンジョンに潜るのか 冒険者だから当然か」
試合後僕達が「ダンジョン探索の準備にいい店知りませんか」と尋ねたところ何と彼も同行してくれる運びとなった。
トップランクの冒険者だしお忙しいだろうしご遠慮願おうとしたところ、ロダリオや学生達に押し切られる形となって僕達は今英雄を伴い王都を歩いている。
自分達の買い物はいいのだろうか・・・
それにしても彼は目立つ。巨漢もあるだろうけど顔も知られてるせいか道行く人みんなが彼を意識する
お陰でマイナス等級が近くにいても霞んでいるので大助かりだ。
「バルブリックさんの冒険とか聞きたいですっ!」
「今までで一番強かった相手って誰ですか!?」
「あ 握手して下さいっ!」
「わ 私もっ!」
「やれやれ 仕方ないな」
学生達の無茶振りも英雄ともなれば気軽に応えてくれる。拒まない。これが英雄が英雄たる所以か。
長年の夢が叶ったみたいに、人はここまで輝けるのかと思えるほど彼等はピカピカ光っていた。
連れて来られたお店は高級・・・と言うわけではなく僕がいつもハルメリーで嗅ぐ道具屋と同じにおいの店だった。
「深く潜るわけじゃないならここがお薦めだ 初心者から中堅まで 手頃な値段で癖がない ・・・ところでアネットは分かるのか? その 違いとか」
「基本的に装備類も生活用品もマルティナにおまかせ状態です 一応自分で使った感じの確認はするんですけどね」
「彼女はポーター役なのか」
「私はアネットの剣で盾よ」
「ふむ 長期間潜るならダンジョンが飯抜き寝具無しの下宿先になる 快適な冒険者ライフを送るためにもポーター役は必要だ 何よりモンスターは戦闘の準備を待ってはくれないからね 考えておくといい」
「はい ・・・王都ダンジョンだとポーター役が必要になる程の期間潜るものなんですか? ハルメリーだとあまり聞かないので」
「ハルメリーはあれよ 採掘師が色々持ち込むわ 重い鉱石を運び出す筋力だもの荷物なんて苦じゃないでしょうね」
「ダンジョンによって特徴は様々だな 王都のは知っての通り複合ダンジョンだ 資源採掘だけじゃなく研究と言う分野でも潜る機会は多い」
「なる程 学者さん達の命も守らなきゃですもんね」
ダンジョンの深い場所か。いつかは行ってみたいな。でもまずは冒険者として安定して帰ってこれる経験を積むことだ。
それにしてもバルブリックさんは誰にでも気さくなんだろうか。それとも僕だから? 理由は分からないけど何だか気を使われている・・・いや、気に掛けられている? そんな印象を受ける。
僕がマイナス等級だからかな。それとも誰かマイナス等級に知り合いでもいるんだろうか。
「・・・・・」
学生達が物珍し気に店を物色してる最中に経験豊富な先輩冒険者に聞いてみた。ベテランである彼なら知ってる可能性は高い。
「あの バルブリックさん バルブリックさんは精霊さんとか 信じます?」
「精霊さん? それが君のダンジョンに潜る理由かな?」
「それもあります」
「ロマンを求めて・・か いいね 俺の場合はもっとこう 別の理由だ しかしダンジョンは好きだぞ? 肌寒かったところから一歩進めば装備一式脱ぎ捨てたくなる程暑い場所になる」
「あ それ僕も経験しました 僕の場合そんな極端じゃなかったですけどね」
明るく話す彼だけど潜る理由を訊いた際チクりと胸を刺す感情を見た気がした。でもこの様子だと彼の中でも“精霊さん”はおとぎ話のキャラクターであるようだ。
彼の元まで戻ってきた学生達が言う「目標は何ですか」と。
「ひたすら前に突き進むことさ そこにダンジョンがあるならなっ」
その言葉の裏に忍ぶ相反する感情こそ彼の本当の理由だろう。けれどそれを覆い隠す言動で振る舞える彼は、やっぱり人から慕われる好人物なんだ。
だから周りに人が集まる。例えそれが英雄でなくとも。
「これでよし・・・ みんな準備できた?」
「できたわよ」
〔こっちも〕
「思った以上に荷物が少ないな ほんとに大丈夫なのか? 後で何か足らないとかないか?」
「目的地までの気温の変化はあまりないですし 水はミストリアが出してくれますからね 寝具と簡単な調理器具は嵩張りますけど ここのモンスターは食べられるそうなんで」
「・・・今更だけど ホントに食べるの?」
〔そんなこと言ったらハルメリーのウサギ肉だってモンスターだわ〕
「そうだけど・・・壁から産まれてくるのよ? ダンジョンのモンスターは ここのはいくら毒が無いって言ったって ねぇ・・・」
王都ダンジョンへ行くにあたって僕達は情報を集めたり道具を揃えたりと事前に準備を整えてきた。
その中でも一際目を引いたのがモンスター食なるもの。
ハルメリーのモンスターは基本毒性の強い環境で育った為かダンジョンのモンスターを食べる習慣はない。そこにくるとここは肉の宝庫らしい。
なので「荷物も減らせるし挑戦してみよう」と言うことで一致。出発当日の今日に至る。
メンバーは当初の予定通り僕とマルティナとミストリアとエルヴィラさん。
先日バルブリックさんが買い物に付き合ってくれた時に学生達が「一緒にダンジョンに行くんですか?」と期待を胸に訊いていたけど「これは彼等の冒険だ」と断った。
ベテランが居てくれれば心強いかもしれないけどそれでは冒険にはならないし、彼の言った「世界を閉ざす」ことに他ならない。
よってその一歩目としてモンスター食を実践してみようとその場のノリで決定した。
「大丈夫だよ 僕があの子に拉致された時は何のモンスターかも分からない肉を食べさせられたけど こうしてまだ生きているんだし」
「うぇ・・・」
〔盲目で助かったわね〕
「まぁあれだ ギルドで資料を何度も確認したんだ 例え上手くいかなくても携帯食も持っている それにいざとなれば私もいる これでも一応経験者だからな」
「・・・何かイメージ合わないわね」
〔料理不得意そう〕
「そ そんなことはないぞ? 肉など適当に切り分けて塩コショウで茹でれば大抵どうにかなるっ」
「・・・・・」
〔・・・・・〕
「ま まぁ食料問題は現地で何とかするとして 肝心なのは目的地に着いても何も起こらなかった時・・・だよね」
〔勉強と同じよ 分からないなら調べる 大切なのは分かろうとする気持ち そこで答えが得られなくても別のやり方でアプローチしようって気になれるもの〕
「ハハハ 継続は力 稽古に通ずるなっ」
どうやら一番不安に思っていたのは僕だったようだ。皆が笑い話のように吹き飛ばしてくれたお陰で霞の掛かった心にも日が射した思いだ。
それぞれ自分の荷物を背負ってダンジョンへと向かう。
時刻は朝と言うこともあって雰囲気はハルメリーのそれと同じ。人の流れがそのままダンジョンへと通じている。
もっとも人の数だけは比較にならず僕は思わずマルティナの手を掴んだ。
「流石は王都 人混みで中々進まんな」
「そうですね でも何か・・・先の方の色が 変?」
〔・・・周りの人達も不審に思ってるみたいね 何かあったのかしら〕
周囲の人の声に耳をそばだてるとミストリアの指摘の通り普段通りではない状況になってるみたいだ。
それでも徐々に流れているところを見るとダンジョンには入れそうな気配はする。これがもし入れないとなるとたぶん先頭は怒号の嵐になってるだろうし。
牛歩の速度で到着したダンジョンまではどのくらいの時間を有したのか。この時点で僕の気力体力はごっそり持っていかれていた。
でもここに来て原因が分かった。
統一された鎧の音がそこかしこでガチャガチャしている。どうやら兵士の人達がダンジョンの入口に召集されてたみたい。それが冒険者達の通る道を狭めていたらしい。
「なに? 何かあったのかしら・・・」
「ん~・・・分からない」
周囲の声を拾っても要領を得ない。と言うのも彼等自体も困惑しているようで、この場に集まったはいいものの何をしてよいのか分かってない様子だ。
兵士なのにこんなことってあるのかな?
「おい 何があったんだ」
「・・・いや 一般の者に話す理由はな─────」
「あっ 貴女はエルヴィラ騎士団長! お久し振りですっ!」
「うむ これはどう言う状況だ ダンジョンで何かあったか」
「いえっ それが・・・実は我々も分からないのであります なにぶん急な召集命令なもので・・・」
「・・・ふむ」
「団長も軍の命令で此方に?」
「いや 私は所用だ」
「そうでしたか 目的は分かりませんが どうやらダンジョンの各入口に兵が集められているようです 何かの軍事作戦か訓練か その内新たな命令が下されるでしょう それまでは何とも・・・」
「そうか ご苦労」
「はい 団長もお気を付けてっ」
あの兵士の人はエルヴィラさんを知ってたみたいで、気前よく自分達が何も知らされてない事実を知らせてくれた。
「・・・凄い まるで騎士団長みたいだわ」
〔そうね 本当に騎士団長みたい〕
「私は騎士団長だ それよりも・・・不穏な空気だな どうする?」
確かに行き掛けでこれは不安になってくる。でも逆に言えばこれだけの兵士が居てくれるのだから安心と言う捉え方もできる。
「行きましょう 『予見の目』は僕達が目的地に着くことを暗示してました」
「・・・そうだな」




