407・アネットvs英雄
前回のあらすじ
アネットに会いに来た冒険者バルブリックは唐突に戦いを申し込んでくる。周囲に期待される中で伸るか反るかの葛藤の末戦う決意をするのだった。
周りの皆は固唾を飲んで僕達の時を待っている。それは「この戦いを」と言うよりも英雄の雄々しい姿が見たい期待が緊迫感を生んでいるんだと思う。
僕はそんな英雄を引き立てられるよう頑張るとして折角の機会だ。これまで培ってきた全てを皆が認める彼にぶつけよう。
相手は遥か格上。
様子見だとかあれこれ考えたってきっと事態は変わらない。だからただただ真っ向から行く。
自前の剣を抜き放って重さを確かめる。握りを確認し思い切り助走を付けて、体重と剣と腕のしなりの勢いを乗せた渾身の一撃を彼目掛けて振り下ろす。
ガンッ!
「痛っ・・・!」
こんなバカ正直なもの防がれない筈がない。でも知りたかった。英雄と呼ばれる彼に「僕の一撃は?」と問いたかった。
だけど思った通り目の前の彼は岩そのもの。ぶつけた衝撃が100%こっちに返ってくる。
これは体を狙っていかないと剣で弾かれるだけで手を痛める。スキルを使うか? いや先ずは剣術の披露だ。
相手の武器の怖いところは大きいとこ。それに伴う重さと付随される遠心力。そこから生まれる破壊力。まともに剣で受けてはダメ。食らうのはもっとダメ。
だったら長所を活かせない懐へ。
近付く僕の意図を察して彼はその凶器を苦もなく振るってくる。予想はしていたけど剣ではなく枝のように振ってくる。
殆どの人は腰を捻り力の流動を刃に乗せた一撃を見舞うのだけど、彼は腕だけでそれを熟してくる。力の軸とか支えとかへったくれもない攻撃で、これではバランスを崩すも何もあったものじゃない。
人の常識じゃ計れない存在。僕の手の通じない相手。
まるでモンスターだ。
彼も本気ってわけじゃないだろう。だからこそ付け入る隙はある。縦横無尽に振り回される武器だって重さが無いわけじゃないんだ。
そして何より彼の視界を遮る剣の大きさ。これなら僕の体がスッポリ隠れる。こう言う時に体が小さくて良かったと感じる。良くはないけど・・・
そこを意識して動く剣に僕の姿を潜ませる。活路はそこしかない。
「む・・・」
そうすることで1手。彼の動作を増やすことができた。僕の剣の扱いとしてはここまでか。後はスキルを絡ませる。
『プチダーク』
「おぉ~」
これで2手。浮かぶ靄を払うにせよ避けるにせよ、視界に頼る彼の動きを増やすことには成功した。そこから生まれる2手の隙。
後は懐に飛び込んで胴を薙ぐ。
スカッ・・・
「!」
避け・・・と思った瞬間。彼の剣が眼前に迫った。回避と同時の攻撃。僕と彼の体格差だから生まれる程よい距離。
この遠心力の乗った刃は確実に僕を吹き飛ばすだろう。かと言って対抗心を燃やしちゃダメ。だったら剣で体を守って踏ん張らず衝撃の瞬間威力を逸らす。
たぶん無様に転がることになるだろうけど痛みが全身に巡るよりかはマシな筈。
ガン!!!
ゴロゴロゴロ・・・
「最初の一撃で相手との差を計って そこから更に自分に有利な戦い方を探る うん 切り替えが早いな 盤面がコロコロ変わる戦場では情報の取得と即応力がものを言う いい目をする いや・・勘かな?」
誉められた・・・のかな?
分からないけど完全に死角から放った一撃なのに綺麗に躱された。それどころかきっちりカウンターを合わせてくるなんて。お腹に目でも付いてるのかな。
でも彼は僕の戦い方に付き合ってくれるようだ。だったら・・・
勝ちにいこう!
「アイ・アンノウン!」
「? ・・・ ・・・っ!」
彼を地面と切り離す。如何に剣を枝のように振るえても地面と言う支点があるから木は立ってられるんだ。
根腐れが起きれば大木だって脆くなる。
「これは・・・凄いな まるで船の上だ」
『イムーバブルアンカー』
っ! スキル!?
ガン!
有耶無耶になってる筈の彼なのに的確に僕の剣を防いできた。有耶無耶に・・・なってない? それどころかしっかりと僕と剣とを意識している。
「イムーバブルアンカーと言ってな 巨大なモンスターと戦うために編み出したスキルだ 前線を張る戦士がいちいち吹っ飛ばされてたんじゃ話にならないだろ? 察しの通り固定の能力だ」
山のような彼でもそんなスキルを必要とするんだ勉強になる。無念・・・戦局は変えられないか。同じことを繰り返してもきっと隙は生まれない。
だったら。
『ブランドカーテン』
「!」
気持ちを落とす。
気落ちした彼がどんなだかは分からないけど今よりは戦い易い筈。そんな折り目にもう一撃!
「パンプドアップ!」
「! また・・・」
ガン!
ゴロゴロゴロ・・・
僕のスキルに被せるようにスキルを発動してくる。何のスキル? 彼の反撃を受け流し転がってる最中チラリと見やる。そこに写った彼の戦意は枯れてない。むしろ前にも増して燃えている。
何故・・・
「相手の内面に作用するスキルが多いようだね 死地では・・・心が折れた時が死に時だ だから必死に足掻く心を失ってはならない」
「はぁはぁ・・・ そう言うスキル・・・」
力強くて俊敏で機転が効いて届かない。ただの一振りが致命になってその力点は潰せない。それでいて折ることも崩すことも適わない。
僕のこれまでが全否定されてる気分だ。
「小手先は効かない・・・か」
そんな気がする。
どうしたものか・・・
・・・基本に立ち返ろう。目が見えなくても周りを知ることができる。これは長所だ。その長所を活かしても一撃では仕留められない。これは短所。
だったらやっぱり撹乱しかない。
とにかく前へ。今度は武器とスキルだけじゃなく、相手に体の可動域まで考慮しよう。一撃を意識しなくていい。まずは当てる。
「吹っ切れたな」
この体躯の彼であるなら僕の攻撃なんて当たってもどうと言うことはないだろう。けれどご丁寧にちゃんと躱してちゃんと防いでちゃんとお相手してくれる。
ありがたい。
リーチの差と言うのもあるんだろうけど回避と同時の攻撃は中々僕を近付かせない。
でも音は捉えた。
その力の入れ具合。その一歩の程でどの程度退くのか。繰り出す攻撃の速度と威力は。計った情報から踏み込む力加減を調整する。
そしてもっと前へもっと近くへ・・・
僕の体を掠める剣との位置は更にギリギリに。当たる風圧は心を削いでいく。
「・・・・・」
幾合か剣を合わせていると心なしかこのやり取りにも慣れてきた気がする。流れと言うか呼吸と言うか。荒々しかった波の合間にも穏やかな波間が見えた気がした。
逆に彼の色はちょっと変わった気がする。それまで風に当てられ波立っていたものが今は徐々に凪いできている。
そう湖面だ。静かな湖面。彼は今そんな心境で僕と戦っている。
だったら彼の湖面に石を投げたらどうなるだろう。僕の石はちゃんと届くかな。
フェイントとか撹乱とかそんなんじゃなく、もっと根幹の・・・事の起こりと言うか。そこを刺激してあげれば1つの波紋が幾つもの広がりを見せるんじゃないかなって・・・
「ほう・・・」
「・・・何かサマになってるなあのガキ」
「バルさんと切り結んでやがる」
「なぁおい 盲目か? ほんとに盲目か?」
「やらせ・・じゃないよな」
相手を見て心を観て動きを視る。それが分かると言うことだ。でも・・・見るって何だろう。ただ見て分かるだけ?
分かるってことは知ると言うこと。
相手を知る。
相手の何を?
相手の・・・見てるもの?
相手の視線。
相手から見た僕。
じゃあ僕の動きは・・・
「おい あのガキ・・・バルさん圧してるぞ」
「嘘だろ あんなちっちゃいのに・・・」
「でも 何か 分かる気がする・・・」
「ああ 言葉にできないけど何か な」
相手のことが分かれば相手の立場に立って物事を見ることができる。その視点で自身を見て足らない部分を補っていく。
踏み込むところは踏み込んで力を抜くところは脱力して、無駄を削いで自分をこの戦いに合ったものへと変えていく。
僕達の離れた距離はちょっとずつちょっとずつ近付いていって・・・そして。
「フンッ!」
バン!
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ・・・ドン!
「うわっ 痛そっ・・・」
「おいあのガキ飛んだぞ・・」
「大丈夫かアイツ」
「アネット!?」
なん・・・何が・・・体が痛い・・・
辺りを見ると色んな色が僕を覗き込んでいる。石でできた地面はいつの間にか土に変わって。僕・・・吹っ飛ばされた?
ここは場外・・・
「フ フハハハハハッ! この戦いの中で俺を見切ったな? 悪いが最後は力業でいかせてもらった でないと格好つかないからなっ」
「お ぉおぉ・・マジかこいつ」
「バルさんにここまで言わせるなんて」
負けてしまった・・・
・・・
僕は・・・どうだったんだろう。皆が認める英雄にどう写ったのかな。マルティナ達が僕の元まで来てくれる。あれこれ心配してくれる中、闘技台の上の彼は言葉を綴った。
「さて諸君 彼はどうだった 皆の目にどう写った マイナス等級と揶揄される彼はここまで戦えた 彼の努力が これまでの時間が 俺や皆を圧倒した これを笑える者はいるだろうか 例え世界が彼を笑っても我々は認めようじゃないか 彼の人生をっ!」
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ・・・
闘技場が拍手で埋もれる。
〔お疲れ様〕
「ミストリア」
彼が「戦おう」と言った時彼女は何も言わなかった。たぶん心を見たんだろう。全くもって人が悪い。
認められるのは喜ばしいことで誇らしいことなんだろう。でもこう言うのに慣れてないせいか大分気恥ずかしい・・・




