404・ファムエルの見解
前回のあらすじ
学園に到着したアネット一行は見知った生徒達から歓迎を受ける。ファムエルの計らいで宿の心配をしなくてすんだアネットだったが、朝食時「マイナス等級」と揶揄する生徒が現れた。
「何でここにマイナス等級がいるんだ?」
良い目覚めに良い食事。良い1日が始まる予感のなか朝食を食んでいると、あたかも周りの人に質問したかのように見せ掛けて僕達に険のある言葉を突き付ける人が現れた。
「なに貴方 居ちゃいけないのっ?」
「見ない顔だな それにそっちの大人は・・・ お前等さては部外者だな?」
「だったら何だ」
「マイナス等級の管理もできないヤツが学園の門を潜るとはおこがましいと思っただけだ あまりの無作法につい声が出てしまったんだ」
彼が誰だか分からない。分からないけど周りも無関係を決め込む程には権力を持っている親が後ろに立っているのだろうなとは察せた。
同じ方向を向きながら協力し合い足を引っ張り合い。学園ってそう言う所だって前に聞かされていたしね。
「ごめんね 食事が終わったらさっさとお暇させてもらうから」
「当然だ まったく学園を何だと思ってるんだ マイナス等級なんて社会不適合者が学園内をうろつくなんて そんな噂が立つだけで品位が落ちるじゃないか」
「ちょっとあんたねぇ!」
「マルティナ 大丈夫だから」
「おいおい 朝から何を騒いでるんだ?」
「ロダリオ その・・・ちょっと」
ロダリオも宿舎で生活してるのか学生が集まる食事の時間にやって来た。困っているこんな時こそ助け船を出してくれる仲間はありがたい。
「・・・あ~ なる程 想像ついた」
「何だロダリオ 知り合いなのか? まさかお前の・・・」
「ファムエル先生を訪ねてきたんだよ スキルのことでな 名前はアネット 冒険者だ」
「ぼっ 嘘だろ盲だぞ・・・」
「嘘なものか 俺達が課外授業でハルメリーに行った際にダンジョンで彼に助けられた アネットがいなかったら学生から死者が出てかもな 俺も帰れなかったかもしれない」
「お前がか?」
「たぶん この学園の誰よりも強いんじゃないか?」
ロダリオ? 何だか彼の話の運び方に作為を感じる。急いでミストリアの方を向くけれど我関せずで黙りだ。寧ろ面白がってさえいる。
この流れって・・・
「ハ ハハハハハッ お前もそんな冗談を言うようになったのか こと剣術において誇りを旨としていたお前が? ハハ・・・良いだろう その言葉挑発と受け取った」
「授業まで時間がある 学食のすぐそこでどうだ?」
「構わない」
え・・・何で? 僕の意思は? 何か勝手に決闘することにされてるんだけど? どう言うこと?
戦いのお膳立てをされた僕は噂を聞き付けた学生達に囲まれて木剣を持たされている。此方の気も知らずに名前も知らない相手と学生等の期待に晒されてどうして良いのか分からない。
ここは相手の顔を立てるべく負けた方がよいのかとロダリオに向くと「やってしまえ」とGOサインを出されたような気がする。まぁ勝負なんだからやってみないことには始まらないか。
突発的な出来事で戦う羽目にはなったけど覚悟は決まった。
いざ───────
「うおぉ!! やぁ!! とぉ!!」
そうか・・・やっぱり彼は凄かったんだな。洗礼された体の使い方。その無駄の無さ。効率を突き詰めた動き。今戦ってる彼と比べるとそれがすごくよく分かる。
ベネデット・ブランディーゴ。
力点となる腰の軸がこの上なく鍛えられてるお陰で作用点がブレず攻撃を最大限相手に与えられる。でも目の前で木剣を振る彼は力任せに振るものだから軸がブレて剣に振り回されている。
そもそも体を支える支点が弱いせいで僕が動いただけで体のバランスが崩れ、自慢の力でさえも満足に発揮できていない。後はひたすらバランスを崩してやる足運びで位置を調整していけば、僕の力でも真っ向から張り合える。
最近熟れてきたのか自分の戦い方が見えてきた気がする。理想としては致命の一撃をビシッと決めたいとこだけど、相手の流れを崩してできた隙をポカッと当てる。
「くそっ! このっ!!」
兎に角崩して崩して崩してポカッと当てる当てる当てる。その時も相手の動きを利用して効率的に刃でなぞることを意識して斬る。
こうやって・・・
「うわぁっ!!」
「そこまでっ 勝負あったな」
「はぁはぁはぁ・・・ 何だ 何なんだ・・・」
「凄ぇ 何か分かんないけど 凄ぇ・・・」
「綺麗・・・」
「あいつ本当に盲目か?」
勝負を始める前はワイワイしてた観衆は、終わってみればみんな予想外の結果に静まり返っていた。この勝負やらかしてしまったのだろうか。
「ロ ロダリオ・・・?」
「すまんな ヤツは大会に勝って少し有頂天になっててな鼻っ柱を折ってやりたかったんだ ただ俺等がそれをやると日常生活に差し障る」
うん・・・それ僕がやったら余計にまずいやつじゃ。そんな僕の気も知らず対戦者を宥めに彼の元へと行ってしまった。
敵地の真ん中にポツンと残された僕はどうすれば・・・
「お前凄いなっ!」
「え~ 本当に目が見えないの? 信じらんないっ」
「やったなお前 スカッとしたぜっ」
「実は剣の達人とか?」
「盲目の剣士か・・・ありだな」
「盲目でなけりゃどっかの流派にも師事できるのに・・・」
「いやいや 盲目で剣術を修めてるんだから その時点で流派だろ」
自分のした行為が何か分からない方向で評価されている。この試合で僕が異様に誉められる理由はないのだけれど「彼に勝った」ことが僕を囲う人達には嬉しいらしい。
まぁ初対面の相手に悪態をつくような人物なので、その理由は推して知るべしなんだろうけど。そんな対比の皮肉を一身に浴びて騒いでいれば誰かの耳にも届くのも早い。
朝っぱらから騒ぐ非常識な生徒を叱りに教員の人が駆け付けたのはそれから間もなくのことだった。
「スキル学者ってどんな学問か・・・か 端的に言うとスキルの何たるかを調べる学問だよ もっとも周りの人にとっては○○さんのスキルにはどんなのがあるかの質問が非常に多いけどね」
朝食も終わりトラブルもあったけど僕とミストリアとマルティナの3人は、この旅の目的であるミストリアの体調改善の答えを探しにファムエル教諭のいる職員室までやって来た。
同じ部屋の離れた場所ではルディアが「成績? 留年?」この2つの言葉を強い口調で垂れ流して人目も憚らずがなっているけど、学生の抱える問題は冒険者には解決できない。
強敵と接敵したとでも思って頑張ってもらうとして今はこっちだ。
〔学園の授業でもスキルさんやそのスキルの種類を暗記させられたわ〕
「この世界にスキルさんが存在する以上 一般教養として基礎的なことは頭に叩き込まないとね」
「それ冒険者ギルドの訓練生時代にも習ったわ 相手が何のスキル持ってるかはスキルさんを見れば大抵分かるって まぁそれが分かっても実際の強さまでは計れないけど」
「でも教諭達が研究をしてくれてるから知識が世に広まってるんですよね?」
「そう言ってもらえると学者冥利に尽きるんだけど 実はスキルさんを知ろうとすると どうしてもその人間も知ることになるんだ どんな性格で 何を望み 如何なる経験を詰んできたか スキルさんはその時間の積み重ねに応えてくれるんだよ」
〔共にした時間と関係 正しくパートナーね〕
「その通り だこそ君達に興味を持ったんだ 一般にマイナス等級と言われる人達は自分を悲観し心を閉ざし スキルさんはおろか他人とも距離をおく人が殆どだ
その気持ちも分からないでもないけれど 此方から近付こうにも反応してくれなければ会話もできない 相手はどう言う人間で自分はどんな存在で 互いに知る切っ掛けすらない築けないんだ
それでどう共に生きられる? 無いんだよ 無関係 だからこそ君らは僕にとって特別なんだ」
彼も自分で言った通りこれはスキルさんとの対話ではなくパートナーとの会話。その繋がりの話だ。人間通しの・・・と考えれば見えることもある。
「周りの人達のおかげですよ 僕達は何も特別なことをしたわけじゃないです 周りの皆がただ普通でいさせてくれただけなんです それだけで人は救われる」
「問題はミストリアの体の話よ」
「そうだね そうだった」
「スキルが害になるって考えてて1つ思い出したことがあるんです 教諭は快楽さんを知っていますか?」
「うん 知ってるよ」
「実は知人に快楽さんを連れてる人がいて それでその・・・その人は勝手に快楽を与えられて 他の人とでないと解消できないって だから自分が年老いた時の事を考えると そこまで生きてはいないって・・・」
「・・・ねぇアネット その人って」
「・・・・・」
「・・・う~ん 大丈夫じゃないかな?」
「え? それって どう言う・・・」
「この場合一番危険なのは その人がスキルさんを拒絶して遠ざける事だ 当人がどうしてほしいのか どうなりたいのか 心の繋がりが無くてはスキルさんに伝わらない
スキルさんも人を傷付けたくて近付くわけじゃないんだ アネット君の盲目さんはアネット君を傷付けたかったのかな?」
『違うー』
「ふふ ・・・快楽と言ったって色々ある たぶんその人は性的趣向が原因で契約したんだろう でも人間時間が経てば変わるものだ だからその人にはパートナーを信じて共に生きなさい と言ってあげるといい」
「・・・はい」
良かった。ハルメリーに戻った時のお土産が1つできたかな。でもそれに準えるとミストリアの体調不良も時間の問題と言えなくもない。だってスキルさんを信じたからこそ無詠唱で魔法が使えるんだし今だって水で文字をなぞれるんだから。
「あの 思ったんだけど スキルさんが2人いるから・・・ってわけじゃないわよね」
「2人とも自分のスキルさん通しの仲は悪いのかな?」
「そんなことないわよっ」
『ないー』
『いー』
〔極めて良好だわ〕
『仲良しー』
〔『複合スキルだって使えるしね』〕
たぶんこのままだと様子見で終わってしまう気がする。彼に『鍵』のことや“精霊さん”のことも相談するべきなのかな。言ったところで一蹴に付されるか。
「もしですね 何か超常的な存在がスキルを授けた とかだったら・・・可能性あります?」
「超常的・・・それは 精霊さん とかかな? おとぎ話の」
「え えぇと・・まぁそんな感じです」
「超常的か 世の中には人を統べる王のスキルさんとか 魔物を統べる魔物さんなんてスキルさんもいるからね 人の想像の範疇を超えるスキルさんがいても不思議じゃないよ」
〔だったらズバリ訊くけど 精霊さんについてはどう考えているんです?〕
「精霊さんか・・・当然僕はスキル学者だからね 各地で文献を漁ったりもしたよ そしたら1つだけ共通して出る名前があったんだ 探窟家のコドリン ハルメリーのダンジョンにも名前が付けられてるコドリンその人だ」




