403・学園内風景
前回のあらすじ
ラズフォートにてシルヴィーから伝えられた『予見の目』の伝言。その目的地を王都ダンジョンと定めたアネットは王都メリエスタに向け出発したのだった。しかし到着早々宿を断られると言う珍事に巻き込まれる。先に学園に向かうことを決めた一向はそこで学園教諭でスキル学者のファムエルと再会するのだった。
「いや~驚いたよ まさか君の方から訪ねに来てくれるなんて」
「すいません なんか急に・・・」
僕等を前に普通に接してくれる彼の存在は、まるで敵地の中で味方に出会えたかのような安心感を与えてくれる。偏見の感情には慣れたものだと思っていたけど意外と心は傷付いてたみたいだ。
〔お久し振りです 先生〕
「ミストリア君 ・・・君は学園にはもう来ないものだと思っていたよ そうか 前に進めたんだね」
〔はい〕
やや常軌を逸した言動が目立つ彼だけど、元教え子を前に教師と生徒を思わせる色がそこにはあった。本物の縁とはきっと時間が経っても切れないものを言うのかもしれない。
「ファムエル教諭 唐突にすまないが宿の手配・・・と言うか 泊まれる場所に心当たりはないだろうか」
「・・・なる程 そう言う事なら学園の宿舎を手配しましょう おそらく何か言われるだろうけど 騎士団長相手に食って掛かる者はいない 取り敢えず旅の疲れを癒して 話は後日窺うと言う事で」
全てを言わずとも察してくれた教諭の案内で校内に立ち入る。そこは学問を修める地と言うだけあってちらほら学生と思しき足音を感じた。装備を纏わない身軽な足音。同じ人の集まる場所でも音が違えば印象も変わる。
でも学園でお客様は珍しいのか周りの学生から変に注目されてるのに気が付いた。
ガチャガチャと鳴る騎士を表す鎧が目立つのか、それとも僕がマイナス等級だからなのか。なんて思っていたら遠巻きに聞こえてくる「ミストリア」の名前。
個人的に彼女を知る人達なんだろうか。でも口にするだけで近付いてはこない。此方に向ける感情と言い、どうやら友達とは違うらしい。
ちょっと奇異の目で見られつつも手続きをするため職員室なる場所に向かってると、一際際立つ女性の声が僕達を・・・正確にはミストリアを呼び止めた。
「よく学園に顔を出せたわねミスティー 見上げた根性だわ」
〔人は過去を乗り越えて前に進むものよ ナディー〕
「フフン 貴女に学園の庭は狭かったようね 貴族より冒険者の方がお似合いだわ」
僕達の前に立ちはだかった彼女はナディラス・セルマレイ。ミストリアの元学友で何かとミストリアに突っ掛かるスプリントノーゼを統治する公爵家のご令嬢だ。
会って早々彼女の物言いは一見するとトゲのある言葉に聞こえなくもないけれど僕には分かる。彼女はとても喜んでいると。そしてミストリアも満更でもなさそうだ。
「あっ ホントに来てるんだ」
「ホントだー」
「え マジで」
聞き覚えのある声も次々と集まってくる。どうやら事前に誰かが僕等が来ることを周りに吹聴してたらしい。ここに集った学生達は以前ハルメリーで共に行動した人達ばかりだ。
「よぉ 久し振りだなぁ」
「元気にしてたー?」
「どうして学園に?」
みんな気さくに話し掛けてくれる。こうして1度でも通じるものを感じれば僕達の間に隔てるものは何もないのに。町中と彼等とのギャップに本当に同じ場所なのかと戸惑ってしまう。
そんな折りボソッと教諭の「学園も捨てたものじゃないじゃないか」と小さな声が聞こえた気がした。
ファムエル教諭の計らいで僕達は今日のみならず王都での寝床を確保することができた。彼の見立ての通り職員室での僕の評価は教師陣の色を見ればすぐに分かった。
残念なのは元生徒のミストリアにさえ怪訝な感情を向けてたこと。学内トラブルで退学になり貴族から名前が剥奪されたとは言え元学園の生徒。
「在校生でなければ気遣う必要もない ましてや貴族でもないのだから・・・」そんな印象を人を教え導く彼等から受けた。
でもせめて人としてそんな感情を向けるのはやめていただきたいものだけど・・・それができたら差別なんてそもそも存在しないのかもしれない。
夕刻になると僕達は生徒達に学食なるものに誘われる。
「モンスターの襲撃!? なんだそれ!」
「スプリントノーゼの闘技場で戦ったのかよっ」
「ぼ 冒険者って大変ね 私には無理そう」
「魔物さんってホントにいたのね・・・」
「これからダンジョンに潜るんだ」
「惜しいわね 授業さえなければ私も一緒に行けたのに・・・」
「しょうがないわよ 私達は学業が本分なんだし」
「あ~ 来月テストかー・・・」
「冒険者だってランクアップの試験はあるわよ 訓練生だって一応試験があって────」
皆で夕食を囲みながらそれぞれの近況や他愛の無い会話を持ち寄って楽しむ。彼等の話の半分は学園生活のことだけど、愚痴や将来の心配がもう半分を占めている。とは言え充実した毎日を送ってるのが声色からも伝わった。
一方の僕はと言うとモンスターと戦って町の悪漢と戦って捕まった上に戦ってと、どう見繕っても戦う日々の羅列になってしまう。
冒険者なのだから仕方ないにしても食事時の惨状は、楽園ならぬ学園に住まう彼等には刺激が強かったらしく女子は感情をしかめていた。男子の食い付きは凄かったけど・・・
「こうして他人事のように話せているのも国の統治が上手くいっているからね 私達も貴族であるなら市井の動向に目を凝らし より良い統治を模索していかなければならないわ」
「・・・・・」
「・・・・・」
〔・・・・・〕
あの街の実状を知ってしまった今となっては彼女の言う統治がどのようなものを意味するのか小一時間ほどみっちり詰問したかったけど、折角の歓迎ムードをぶち壊すのもあれなので、いつか機会が訪れたときにでもしよう。
残り2人も煮え切らない感情で口を紡いでいた。
「スキルで体調不良? そんなことあるの?」
不意に出してしまったミストリアの実状。そこからでも話の輪は広がっていく。冒険者の僕等には無い学生らしい答えが聞けるんじゃないか。口が滑ったとは言えこの話の展開はちょっと気になる。
もちろん正解を導ける期待はしてないけど多くの人の意見は頭の中を柔軟にしてくれるので歓迎したい。
「授業でも聞いたことないわ」
「本でも見たことないわね」
「人の多い王都でも知らない? 噂とかでも?」
「まぁ 自分に有利なスキルは隠す人もいるって聞くけど 不利になるようなものなら相談するだろ それこそギルドとか学園の教師とか公的機関に」
「逆じゃね? 不利になりそうなら秘匿するだろ」
「でも解決したいなら知ってそうな誰かには話すわよ その人の口が固ければ話はそこで止まっちゃうけど」
「学生のレベルで分かる問題ならミスティーも悩んだりしないわよ もしそれが本当にスキルが原因だとしたならば その情報は王家秘蔵のとか そのレベルでしょう」
「俺も父上に聞かされたけど 王様に爵位を賜った瞬間に分かることがあるって・・・ だから貴族の子息でさえも知らされない情報ってのはあるのかも」
「ありそ~」
それってあれかな。以前ミストリアのお父さんから聞かされた「叙爵された貴族は王様に逆らえなくなる」ってやつ。彼等はそのことを知っているのだろうか。
これって話してもいいやつなのかな・・・何かダメな気がする。
そんなこんな知らないことに対するあれこれを議論しつつ食事は終わり宴はお開きとなった。
「ま 仕方ないわ 出来れば夜中の女子会でも開いて色々話をしたかったのだけど 本調子でないなら無理強いはできないわね」
最後にナディラスさんが纏めてくれたこともあって僕達は宿舎ですぐさま倒れ込むことができた。実を言うと僕もここに来るだけでいっぱいいっぱいで、王都に入ってからの脳内地図の作成と気疲れが重なってちょっと熱を帯びている。
マルティナもミストリアもエルヴィラさんも疲労は溜まってたいみたいでベットに横になって早々に寝息をたてたみたい。そんな虚ろな感覚なまま僕は意識を手放した。
チュンチュン・・・
場所が変わっても鳥の鳴き声は変わらない。目を開けても真っ暗な世界を実感しつつ朝の静けさと肌寒さの中で温い体を起こす。本当はもっと布団に潜っていたかったけど今日は予定が詰まってる。
「おはよう盲目さん」
『はよ~』
冬場の鳥の活動は夏場の鳥より遅い。そしてこの時間は人も活動を開始する時分だ。軽く身支度を整えて3人に「おはよう」をし朝食へ。
貴族のご子息が通われる学園と言うこともあって出される食事はどれを取っても一級品。学園の計らいでそんな食事がタダなのは非常にありがたい。
ここに通う生徒は遠方の人も多いとかで学生のための宿舎が建てられている。その生活は剣を取るかペンを持つかの違いだけで冒険者ギルドそう違わない気がした。
だけど1日の始まりの彼等の感情は学園もギルドも変わらない。そんな空気は旅先なのに仄かな日常を感じさせてくれた。
今日はファムエルさんとお話をすることになっている。果たして真相が究明されるのか、されなくともミストリアの体調は回復に向かうのか。
そんなことをおぼろ気ながらに考えてパンをハムハムしていると、直接僕を刺す元気の良い声が学食に響いた。
「何でここにマイナス等級がいるんだ?」




