402・王都メリエスタ
前回のあらすじ
ハルメリーを出立したアネット一向は中継地ラズフォートへ。ギルドへ向かうアネットとは別に妹の待つ実家へと戻るエルヴィラは、そこで『予見の目』写った光景を語られるのだった。
ティーティアさんとの再会を終えて僕達一向はエルヴィラさんのお母上の別宅に戻ってきた。町も町で思い出もあるけれどこの邸宅にも相応の記憶がある。
シルヴィーに会いに行ったり捕まったり脱出したりと。今ではあの出来事がまるで嘘だったかのような静けさで邸内は閑散としている。そんな火の消えた空間に虚ろな寂しささえ感じさせた。
「ふぅん ここに住んでる方は趣味が良いわね 気が合いそう」
ティーティアさんとの話の後に言葉を交わしたルディアは戻ってきてからも上機嫌だ。煽てられ持ち上げられ天にでも登った夢心地に、牙と毒気はすっかり抜かれて今はとても穏やかだ。
海千山千と渡り合ってきたギルド長の悪意を忍ばせた美辞麗句の数々を真に受けてたのはあの場で彼女だけだろう。その意味するところは「とっとと出てけ」な気がするけど。
時刻も日が沈む時分になったのか、使用人の人が夕食の準備を始めた頃合いにエルヴィラさんは戻ってきた。
「お帰りなさい」
と声を掛けたはいいものの、彼女の中に渦巻く感情は腑に落ちないモヤモヤした靄となっていた。
「エルヴィラさん?」
「あ あぁ アネットか 他の皆は?」
「ゆっくりしてますよ ルディアなんか羽を伸ばしすぎてとろけてます」
「そうか・・・丁度いい 妹に言われた事を伝えてしまおうか」
「─────なる程 彼女の盲目さんが僕に・・・」
「言葉を用いるモンスターとの融和 扉を経て光の果てに『鍵』はその役目を終える・・・ 予見の目を知ってる私からしてもこの突拍子の無さには困惑する 何ぶん盲目さんからと言うのが初めてだ」
「言葉を・・・喋るモンスターってことなら心当たりがありますけど」
「あぁ私もだ」
「たぶん目的地は王都のダンジョンじゃないですかね そこにも沢山居ましたから喋るモンスター それに精霊さ・・・光のくだりにも見当がつきます」
「そうか 経験上予知された未来は身構えずとも起こり得ることだ 受け入れることも遠ざけることも 知っていれば選ぶことができる」
「そう ですね・・・」
正直『鍵』としての役目を終える・・・なんて言葉では受け入れるべきか否かの判断が難しい。彼女の“盲目さん”も僕じゃなくミストリアに宛ててくれれば良かったのに。
それとも彼女の体調とは関係ない未来なのかな・・・う~ん。
「ここまでは盲目さんの予知だが 実はシルヴィーも見てくれてな しかし何かに阻まれてハッキリとは見れなかったそうだ そんな中でも1つだけだが分かったこともあってな そこで私は騎士としての選択を迫られるそうだ」
「そうなんですか ・・・行き先はダンジョンです 居てくれると心強い」
「王都ダンジョンか 懐かしい」
「潜った経験が?」
「士官学校に通っていた時に授業の一環でな だが気は抜けない シルヴィーの予知が正確性を欠くなど過去なかった話だし盲目さんのことと言い 異例尽くしだ」
「ですね・・・」
“精霊さん”の息吹を感じた王都ダンジョン。果たして何が待ち受けてるのか。それは分からないけど『鍵』の意味そしての役割に一歩近付けることには違いない。
そこで見て聞いて感じて。考えた上で自分自身の答えを出そう。
翌朝─────
他人宅にも拘わらず僕は快適な目覚めをいただくことができた。今日は早々に王都へ向け出発する予定となっている。
朝食が普段食べる庶民の味とは一線を画していたりルディアの寝起きが悪かったり。あげくミストリアと軽い口の運動を繰り広げたりと諸々あったけど、それ等を差し置いても実りのある逗留になったのは良かった。
ラズフォートから王都へ。
本来ならこれが正規のルートなんだろう。馬車で行ける道が続いている。少なくとも拉致られてモンスター肉を食べつつ、こそこそ途中の町に立ち寄りながら都に向かわずに済んでいる。
順調すぎてちょっと手持ち無沙汰感もあるけれど、ルディア・ミストリア両者の口論は程よく車内を汚染してくれるので旅情と緊張とが交差しプラマイゼロと言った感じで飽きさせない。
げんなりはするけれど・・・
その後も幾つかの中継地を経て僕達はようやく目的地王都メリエスタに到着した。
「私達はそのまま学園に行くけれど あなた達はどうする?」
「う~ん・・・ 何日か滞在することになるだろうし 先に宿をとろうと思うんだ 落ち着いたら学園の方にお邪魔させてもらうよ」
「分かったわ 学園に来たら私が色々案内してあげるわね ウフフ」
「う うん よろしく・・・」
一方的に打ち解けたルディアは僕との間を遠慮なく詰める距離感に収まっていた。元々遠慮とは無縁の性格だろうけど、以前にも増して拍車が掛かった感じになっている。
俗に言う男女の仲に酷似したそれは、残念なことにスキルによる改変とエゴとか混ざってできた混沌とした何か。道中事あるごとに恋だの愛だの言ってたけれど「それは大きな間違いである」と他の人と比較して理解しているつもりだ。
もし実在するならば、人の言葉を話す人形が意味もなく同じセリフを繰り返すのに似てる気がする。
〔はぁ・・・ やっと解放されたわ〕
「お疲れ それにしてもここが王都 全部がでかいわねっ ほらあの門も ハルメリーとかスプリントノーゼよりも全然おっきいわっ」
「国の最終防衛地だからな 堅牢すぎても困ることはない」
〔王都は久し振りだけど ・・・貴族として来るのと一般人として来るのとでは感じ方が違うわね〕
「僕も一度だけ来たことあるけど マルティナと同じ感想だったよ」
門の方へは来ることはなかったけど、人の往来の規模は僕の知る全ての町の比ではない。さすが国の中心地と言った貫禄だ。
「そろそろ宿へ向かおう 都はでかいからな 宿も店も事欠かない」
多少なりとも地理に詳しいエルヴィラさんの先導で旅の疲れをとる為のオアシスへ。気疲れの嵩んだ僕達は観光気分を明日に託し宿まで歩いた。
「申し訳ございません 当ホテルは奴隷の方の滞在を認めておりませんので」
「何? 奴隷? お前は何を言ってるんだ?」
「はい? そちらのお二方はマイナス等級ですよね 奴隷ではないのですか?」
「失礼だぞ貴様っ 我々は皆宿に泊まりに来た普通の客だっ」
「左様ですか しかし申し訳ありません マイナス等級が泊まっている等と噂が立てば ホテルの品位が下がりますので」
「なっ!」
もの凄く既視感。
考えてみればマイナス等級を嫌う国王様のお膝元。こうなることは十分予想できた。でもしなかった。都会だから。王都だから。沢山人が集まる文化の中心地だから。普段の生活で。旅先で・・・僕等を受け入れてくれる人もいたからと油断した。
〔門を潜る途中 多くの民が列を成して並んでる横を貴族の馬車は止まることなく進んでいった 当たり前と言えば当たり前だけど マイナス等級が嫌われてるのも当たり前だったわね〕
「くっ! ・・・宿を変えよう」
粘っても無駄と判断したエルヴィラさんは吐き捨てるように言うと次の宿へと向かう。
「申し訳ございません────」
「ここではちょっと────」
「マイナス等級は────」
「馬小屋で宜しければ────」
「帰った帰った────」
「あんた常識が無いのか?────」
「どう なっている・・・」
〔まさかここまで酷いなんて 王都の見え方が変わってしまうわ〕
「宿のグレード下げても皆同じこと言うのね 最後のなんてボロ宿なのにっ」
「それだけ常識として浸透してるってことなんじゃないかな・・・でもどうしよう」
〔・・・ ・・・ 学園に行ってみない? 宿を探すより味方を探した方が早そうだわ〕
「そうね」
王都・・・きっと見た目に華やかな都市なんだろうけど、学園に向けて歩くマルティナからはそれに感化される感情は微塵も見られなくなっていた。
ここに来た目的は観光ではないのだから最悪外用テントでもいいとは思ってる。ダンジョンに潜ればおおよそ一週間程度は掛かるのだし、今の内に慣れてくのもそう悪くはない経験になるからだ。
・・・と自分を納得させないと身が持ちそうにない。
「ファムエル教諭 ですか? 少々お待ちください」
学園の正門前に設えられた守衛の詰める建物で校内に立ち入るための手続きをする。この学園もお貴族様のご子息が通う由緒正しさへの矜持があるのか、守衛の人の僕に向ける感情も訝しい気がする。
思えばミストリアも“失語さん”と出会ったから学園から去ることになった訳だし・・・
「・・・ここもなのかな」
しばらく外で待っていると学園の奥から息を切らせて走ってくる足音が1つ。まばらにある周囲の人から浮いたその色は、周りなど目に写らない様子で僕等目掛けやって一目散にやって来た。
「お~い! アネットく~ん! アハハハハ!」
人目も憚らず良い大人が出してはいけないトーンで僕の名を呼ぶ彼こそ、学園の教諭兼スキル学者のファムエルさんのその人だ。
ちょっと気恥ずかしい気持ちにさせられるけど、取り敢えず今晩の寝床の心配はしなくて良さそうではある・・・




