401・中継地ラズフォート
前回のあらすじ
ミストリアの体調改善をするべく情報を得るため王都へ向け出発したアネット一向。スプリントノーゼの外でルディアとロダリオ合流し馬車は中継地のラズフォートへと到着した。
貴族の仰々しい馬車が冒険者ギルドの玄関先に乗り付ける。そんな光景を作り出してしまった僕達は、日々汗水血を流す冒険者達の冷ややかな視線に晒された。
こうなることが想像できなかったわけではなく、旅先でのちょっと浮かれた雰囲気が相手への配慮を上回ってしまった。そんな感じだ。
そこへ来るとルディアは堂々としたもので臆することなくギルドの扉を開け放つ。僕達はそのちょっと後を申し訳なさに俯きながら続いた。
時間も時間と言う事もあってホール内は閑散としている。以前聞いた話によるとここのダンジョンは植生で、ハルメリーの鉱石類と比べるとどうしても見劣ってしまうのだとか。
それでもギルドが成り立っているのはここが植物を原料とした調剤ポーションの発信地として知られているからだろう。つまり相応の需要はあると言うこと。
ルディアにそれを話すと「ふぅ~ん」と舌なめずりした。貴族の集まる場所と相まって彼女の琴線に触れるものがあったのだろう。それが何かは分からないけど、ルディアが反応すると言うだけで穿った見方になってしまう。
「こ こんにちわ あの・・ここのギルド長 ティーティアさんて今居られますか?」
「はい? 長にはどの様なご用向きで? それとあなた方は?」
「あ すいません 僕等はハルメリーから来た冒険者でアネットと言います 後ろの人達は冒険者パーティーです ・・・パーティー名とかは無いですけど」
「ハルメリーのアネットさん ハルメリーの・・ハルメリー アネット・・・ あっ しょ 少々お待ちくださいっ」
カウンターの受付の人は僕の名前を聞くと慌てた様子で奥の扉に駆け込んでいく。何だろう・・・情報の交差点冒険者ギルド。僕の悪名がリストにでも載っているのだろうか。
自覚がある分、後ろめたさが心臓を叩いてくる。捕まったらどうしよう・・・とか。
「お お待たせしました ハルメリーのアネットさんですね 当ギルドの長 ティーティアがお会いになるそうです ギルド長の部屋までご案内しますね」
取り敢えずギルドが僕を責っ付くつもりはないらしい。受付の人に付いて行きつつラズフォートの冒険者ギルドを感じる。以前はモンスターの襲撃やらで堪能することができなかったしね。
コンコンコン・・・と扉をノックした後部屋へと招かれる。前もちょうどこんな感じだったかな。
通された部屋の真正面。机と思しき遮蔽物を挟んで彼女はいた。若いのに芯が強く職員達を取り纏める手腕は長として堂に入ってて。
そんな重厚な色をした人物が僕とそう違わない目線の高さで立っている。
「久しいなアネット少年 モンスター襲撃以来か」
「お久し振りです」
「あの後拐われたと聞いていたがこうしてまた同じ場所に立っている 帰るまでが冒険の習いに従ってこうして再会できたんだ 冒険者冥利に尽きるじゃないか 長として嬉しい限りだ」
「色々と運が良かっただけですよ」
「お お久し振りですティーティアさんっ」
〔その節はどうも〕
「確か・・・マルティナにミストリアだったか 息災で何よりだ」
「2人とも知り合い?」
「えぇ モンスター襲撃の後に色々とお世話になったのよ」
記憶が正しければ町中で暴れたモンスターは建物を壊し冒険者達を軒並み凪ぎ払った。数多の犠牲者も出たことだろう。でもこうしてギルドが存続できてるのも冒険者各位と職員と彼女の手腕の賜物だ。
「初めまして私はルディア・ルンドレン こっちはロダリオよ ・・・貴女 ホントにギルドマスター? 見えないわね」
「ちょっ ルディア!」
気持ちは分からないでもない。目が見えない僕ですら声色と声の発する高さから大人とは思えなかったから。何より本人もそれを気にしてる節もあるし。言い争いは避けられなかったか・・・
「そうかそうか よく言われるよ 私は君の事を知ってるよルディア嬢 その活躍はこのラズフォートにまで轟いている」
「あらそうなの? ギルド長として知るべきを知る貴女は好感が持てるわね」
「それは僥倖 ふむ せっかくいらした伯爵令嬢をこんな汗臭い部屋に押し込めておくのも不敬だな おい 彼女を貴族用に設えた部屋まで案内して茶菓子等でもてなしなさい」
「は はい・・・」
ティーティアさんに促されてルディア達を案内する受付の人。でも彼女は貴族が嫌いな筈じゃ・・・なんて思ってたけど。はいガッツリお冠でした。
「てっきりケンカになると思ってました・・・」
「フフン ああ言う手合いは上手いこと歯を浮かせてやれば良いのだよ 頭に乗らせて胸襟を開かせてやれば 意外とこっちの言う事も訊いてくれるぞ? この上無くストレスが溜まるがね」
〔お見事ね 見習いたいけど私には無理だわ〕
「貴族の扱いに手慣れてるだけだよ それで 今日は何用で?」
「はい えぇと 実は王都への途中で立ち寄ったんですが その あんな事になったこの町の事が気になってたもので」
「フム そうか しかし先ずは礼を述べたい 我々に代わり魔物さんと言う脅威を退けてくれたこと感謝申し上げる ありがとう スキルさんを消す事はできないが この報は数多犠牲になった者達への手向けとなるだろう」
「・・・・・・」
お礼か・・・
あの子は確かに多くの命を砕いていった。例えあの子自身権力者達の犠牲者だったとしても許される事じゃない。
でも他人から見たら狂人かもしれないけど、普通にしてる分なら本当に普通の子供と変わらなかった。心うちはおどろおどろしかったけど子供だったんだ。
身近で接して僕はそれを知ってしまった。
だからなのか「お礼」言われて胸にチクリと刺すものがあった。
「まぁ町は何とかなっているよ 元々あの一帯は廃墟郡だったからね ようやく町も金を投じて更地にする決断をした しかし残念だ いっそ貴族共の家まで凪ぎ払ってくれたら良かったのにな 口惜しい」
「・・・ハハ」
ティーティアさんのこの様子からも彼女の望むレベルの変化はなさそうだ。現に僕達の逗留先は一般宿ではない。部外者が人様の町の変化を望むのはおこがましいことだけど、ちょっとは期待していた自分に気付いた。
★
久し振りの故郷を歩いて感じたのは「変わらないな」だった。理路整然を意識した町並みにはアネットのような人影は写らない。幼少を過ごした故郷であるのに多少の違和感を覚えるのは私がハルメリーに染まったからだろうか。
そして変わらないと言う意味において我が家もまったく同じ状況だ。家族が揃って生活してるのに、まるでそこに見えない壁でもあるかのような臨場感が漂っている。
寧ろ「ホントに壁が有った方が壊せるのに」とさえ思わせる程の空気は数あるダンジョンとそう違わないだろう。肩が重い・・・
父と母。
この両者の距離感は使用人にも波及して、あたかも派閥でも存在してるかのような雰囲気を助長している。いっそ全部の窓を開け放って換気してしまいたいものだ。
「エルヴィラ 貴女いつまで騎士団なんかやってるつもりです もういい歳なんだから嫁ぎ先の事を考えないとダメよ? もちろん妹の事は他言は無用ですからねっ」
親とはこう言うものなのか? 母と会う度毎度言われてる気がする。それでも言われてるうちが花と言うやつなのだろうか。それにしても私が結婚か。
想像できないな。
「・・・本当にこれで良かったのか? シルヴィーの目を疑うわけではないが 妻とまた暮らすことになって余計関係が拗れたように思うのだが・・・」
「・・・何を仰います 家族揃っての絆でしょう いくら予見されたからと言って何もせず機が巡るほど人の心は単純ではありません 互いに近付こうとする思いが大切なのです」
この同居はシルヴィーの『予見の目の賜物』なのではなく、単純にまた家族で過ごしたいと言う妹なりの願いだ。
ならばそれを本物にするために必要なのは「それぞれの思い」以外にはない。今はまだ難しくとも子の私が鎹になれば繋ぎ止める事は可能な筈だ。
コンコン・・・
「シルヴィー私だ 入るぞ」
「お姉さま お帰りなさい」
良かった。見た目に変わりないな。部屋に閉じ込められてるから健康に支障が出ているのではと危惧していたが、あの両親は互いを雑に扱ってもシルヴィーの世話だけは手厚かったようだ。
まぁ当然か。
「ただいま 早速で悪いが・・・その 手紙に書いてあった事なんだが 今の状況でアネットを家に招くのは難しい 一応町に来てはいるんだが」
「そうですね 私が会いに行く事も無理でしょう なので伝言をお願いします」
「分かった ・・・ん? どうしたシルヴィー」
「その事なんですが これからお伝えするのは私が見た光景ではないんです」
「どう言う事だ?」
「盲目さんです 実は私の盲目さんが見た未来なんです ただその内容が断片的と言いますか 不明瞭と言いますか」
「・・・そんな事もあるのか それは盲目さんがアネットに伝えたいことがある ろ捉えた方がよさそうだな」
「そうですね ただ・・・どうして伝えたいのかまでは 本人にも分からないみたいなんです」
ますます要領を得ないな。アネットが学園の教師に会いに行く事と関係しているのか? しかもスキルさんからと言うのも気になる。
「何にせよ聞かないことには判断もできん その伝言とやらを聞かせてくれ」
「はい この先──────」




