396・見えない道
前回のあらすじ
アネットの元にやって来たアズリは「不幸が迫っている」と警告する。その解決に不幸からの逃避行をされるアネットは色々と考えた末受け入れる事にしたのだった。
「身に降る不幸から身を守る為に外に出る!」は数歩譲っていいとして、個人的に一番安全を確保できそうな冒険者ギルドがダメとなると他に候補がない。
そんな僕の気持ちとは裏腹にズンズン進む彼女に果たして当てはあるんだろうか。あるとすれば自身の直感に従った安全なルート・・・なんだけど、さっきからあっちに行っては引き返しこっちに行っては引き返しの繰り返しで、僕にはこの行為に意味があるのかさえ伝わらない。
これが「感覚を人に伝えるのは難しい」と言うやつなんだろうか。それなら納得もできる。難点は「僕は今何をやってるんだろう」と言う気持ちにさせられる事。
「ねぇアズリ 取り敢えずどこかのお店に入らない?」
「・・・・・・」
僕の問いをよく吟味したアズリは心の中でフルフル拒否すると、直感に従って僕の袖を引っ張る。口頭による意志疎通が通じない以上行動で示すのは仕方ないにしても、これ相手が感情を汲み取れる僕じゃなかったらスムーズなコミュニケーションが成り立たないのでは?
何もない道端で止まり、暫くしてから歩き出す。その繰り返しで本来ならとっくに仕事に出ているだろう時間を追い越していく。
無意味にしか思えないこの行動も彼女なりの感覚で行われてるのだから経験と言う肥やしにはなるんだろうけども、俯瞰すると一連の僕等の動きは人の目に奇異に写るのではないだろうか。
もしかして・・・僕の普段の行いも皆にはそう写ってたりするのかな。考えたくない。
会話もなくただ道を歩くだけの時間を過ごしていると、フト僕の耳に特徴的な足音が雑多に紛れて入り込んできた。その重厚な足音は唐突にある提案を想起させる。
「騎士団・・・ そうか騎士団っ アズリ 騎士団の詰所はどう? そこで保護してもらうって言うのはどうかな」
「・・・・・・」
僕の話を聞いて「え?」みたいな感情になった彼女は、おそらく騎士団詰所まで考えが及ばなかったのだろう。まぁ普通に生活してる分なら騎士団のお世話になる事なんてないだろうし仕方ない。
幸いアズリからのダメ出しも無かったので僕達はその足で騎士団の詰所まで向かう事にした。
「これから良くない事が起こりそうだから保護してもらいたいって? ん~ そう言うのは実際に起きてからでないと此方としても対処できないなぁ」
「で ですよね・・・」
「君達に身の上に思わないところがない訳でもないが 騎士は国を守護する組織とは言え慈善活動と言う訳でもない まぁ そう言う事なら町の相談所とかに行った方がいいんじゃないかな?」
「ハハ・・・そうします・・・」
まぁそうなりますよね・・・騎士団は問題を解決する為に組織された集団であり、問題が起こらない以上動きようがない。どうやら僕の方こそそんな基本的な事にも至らなかったようだ。
エルヴィラさんを頼ると言う手も無くはないけど、応対した騎士の彼が迷惑する事を騎士団長の彼女に持っていったところで同じく迷惑を掛けるだけ。公私混同は避けるのが今後の為にも無難だろう。
「仕方ない 戻ろっか・・・ て言うかアズリ 町が危険ならいっその事町の外にでも出る?」
「・・・・・・・」
僕の質問を又も真剣に吟味するアズリ。しかし暫く考えて答えが纏まった彼女の手は、僕を町の中へと誘うものだった。その感情は相変わらず不安に彩られたままだけど前へと進むその足には不思議と迷いが無い。
それからどのくらいの時間が経ったのか。
歩いて歩いて歩いた末に気付いたのは町の色がいつの間にやら不穏なものに変わっている錯覚。それを明確に言葉に直すのは難しいけどアズリの抱える不安と直接関係でもあるのかな。
町中の不特定多数が目に写った僕を意識している。
敢えて表現するならこれだろうけど、そもそも一日中路地をあちこち歩き回る僕達はそう見られても否定できない。
「・・・空気 変わったかな」
「・・・・・・・」
皆が僕を意識する。
1度でもそう思うと頭の中から追い出す事が難しい。世間一般からマイナス等級と揶揄される僕等2人が連れだっておかしな行動をしてるのだから無理もない?
でも歩き続ける度、周囲から向けられる僕等への不審な感情は確実にその色を濃くしていく。これはもう気のせいなんかじゃない。僕達は確実に意識されている。
それはアズリの不安がいよいよ形を帯びてきたって事なのかな。ゴクリ・・・
そんな危険な香りのする町中を力強い足取りで僕を引っ張るアズリは周囲から「キンキンキン・・・」と鎚を叩く音のする火事場へと僕を誘った。
「・・・アネット? アネット! 良かった! 探したぜ!」
「ルミウス? どうしたの? そんな切羽詰まった声出して」
「どうしたもこうしたもねぇよっ お前 スプリントノーゼで何やらかしたんだっ!」
「え 何って・・・ん~ 悪い組織1つ潰して 貴族のメンツを潰した?」
「はぁ~!? お前っ そりゃぁ~・・・ 兎に角っ! ギルドでもお前の事を探してる連中が引っ切り無しに来てるんだ 町中お前の事を聞いて回ってるぜ」
「うわぁ そう言う事・・・」
「おい何納得したみたいな顔してんだよ ヤベーんだぞお前っ ・・・取り敢えず俺の家でほとぼりが冷めるまで隠れとけ」
「そうだね 暫く厄介にな────」
「る」・・・と言おうとした瞬間アズリに袖を引っ張られた。どうやらそれに関して彼女なりの意見があるらしい。自身の懐から紙を取り出すとカキカキ文字を書き起こしてそれをルミウスに提示した。
それを見たルミウスの苦悶の感情。この流れは・・・
「・・・お前 正気か?」
「ルミウス? アズリはなんて?」
「えぇと・・・ん~ 隠れても解決しない この問題を振り払う道がある 私を信じて ・・・だとよ」
道か。
僕にも心当たりがある。周囲と繋がる為の僕だけの感覚。自分の中にあって自分を自分らしく生きる為の原動力。アズリはそれを言ってるんだろう。
たぶんこれは岐路だ。
彼女を信じるか身の安全をとるか。そして彼女が成長できるかできないかの分岐点。
「分かった・・・ ごめんルミウス 今日はアズリに付き合うって決めてるんだ」
「マジかよ まぁお前らしいっちゃお前らしいな しょうがない俺も付き合ってやるよ お前等だけじゃすぐに捕まりそうだからな」
徘徊が逃避行に変わり僕達3人は危険が伴う町中に身を潜める事にした。ここは何処かの路地裏だろうけど僕の耳に流れるように入ってくる人の声の全てが、まるで自分を噂する呪言のように聞こえて落ち着かない。
アズリの感覚で場所を変えつつ町を歩く度にそれは絶え間なく僕を襲ってくる。そして終に致命的な一撃が僕の心臓を穿った。
「ん? 今通ったのって・・・」
「あぁ あの危なそうな連中が探してた」
「ほら あの子じゃない?」
「おい アイツじゃないか? 確かアネットって・・・」
まずいまずいまずい。いよいよアズリの不安が現実のものとなってしまった。一般の人にまで周知されてるなんて相手は誰でどんな思惑があって僕を探してるんだろう。
何であれなりふり構わないこんなやり方する相手は少なくとも気遣いのできる良識人でないのは確かだ。そんな相手に町中走り回って逃げ果せるものなのか。今になって自分のした選択に自信が持てなくなってきた。
「いたぞっ アイツだ!」
「他の連中にも声掛けろっ」
「逃がすな!」
見付かった! 明確に僕を意識する視線。向けられる悪感情。やっぱり碌でもない事に巻き込まれる事になるんだ間違いない。捕まったらどうなる事やら・・・
「アズリ! 何処か狭い道に入れないっ?」
「・・・・・ 」
僕の意を汲んでくれたのかアズリは僕の袖を引っ張って方向転換する。今走ってる道より狭い路地に入ったのが音の変化で伝わった。そして彼等もその後を躊躇わずに追ってくる。
「盲目さんっ」
『プチダーク!』
「うおっ! なんっ 何だこれ!」
「前が見え・・・っ」
「おい止まれ! ぶつかるぞ っ痛えぇ!」
前を走っていた数人に後ろを追う数人がぶつかる。ベネデット・ブランディーゴ。彼には敗れたスキルだけどまだまだ多くの人には通じる筈だ。
「おいアイツじゃないか? 盲目さん連れてる」
「確かに見た目の特徴も一致するな」
スキルで蒔いても行く先々で次が居る。僕を目撃した追っ手の人達は節操なく人を押し退けてでも必死になって追ってきた。もしかしてこれ僕のやらかしで恨んでるまである?
それは分からないけど、アズリでなくとも捕まった結果どうなるのか想像できるくらいの逼迫した状況だ。
それにしても“盲目さん”のみならず僕の容姿まで伝わってるとなるとアズリの「家にいない方がいい」って言葉も・・・ 家に・・・
「ルミウス!」
「何だ?」
「家! 僕の家の様子っ! 見てきてくれないっ?」
「家? 何で・・・あっ そう言う・・・ 分かったっ でもお前等だけで大丈夫なのかっ?」
「逃げるだけだし何とかなると思うっ たぶん ダメそうなら騎士団詰所に駆け込むよっ」
「おう! こっちは任せろっ!」
今も尚追ってくる人達目掛けて『プチダーク』を放ってルミウスを逃がす。靄から抜け出してきた人達のお目当ては僕であってルミウスじゃないようで、居なくなった彼を探す素振りがない事だけは助かった。
それにしてもこの逃避行に終わりはあるんだろうか。「問題を振り払う道」を彼女は半泣きになりながら走ってるんだけど。
でもそんなアズリのスキルさんから何やら煌めいたものが放出してるのに気が付いた。
「アズリ これ・・・」
そう声を掛けても無我夢中で走る彼女に会話をする余裕は無さそう。この様子だと“失語さん”の変化にも気付いてないんじゃないかな。これが何なのは分からないけど、状況の打破に関係してない筈がない。
何せスキルとは自分が必要とする能力を与えてくれるものだから。
僕達の逃走経路はもはや人目を憚ってなんていられない。今もう人の雑踏を掻き分けながら彼等を盾に逃げてる始末だ。
それはそれとして・・・
往来の真ん中を派手に縫って走る僕達は様々な人の目に付く訳で。噂を聞いた人や僕を追う人達に「餌はここですよ」と喧伝してまわってるようなもの。ホントにこの逃走が問題解決の道筋になるんだろうか。
終わりの見えない彼女の道に引っ張られながらそう思った。
今日はもう1話投稿ます(*´ω`*)




