395・アズリの一歩
前回のあらすじ
コルトアに連れられ支援施設へとやって来たアネットはそこで保護者と思われる人達に詰められる。不満を吐露する彼等に対し鬱憤を晴らすかのように思いの丈を吐き出すコルトアだった。
結果を述べると引率者と共に彼等全員施設の厄介になる事で話は纏まった。コルトアの言葉に感化されて強い意思で「変わりたい!」と言った彼等に引率者達も触発された形だ。
疑いを綺麗に晴らす事は適わなかったけど「我が子を信じてみよう」と言う気持ちの後押しをする事はできたので僕個人としても成功と言える。
もっともそれだけ期待と責任が重くのし掛かるのだから「ハードルが上がった」と言えるのだけど、元より苦難は折り込み済み。ぶつかっても転んでも立ち上がる事を諦めなければ良いだけなんだ。
「何か・・ゴメンな 嫌な事に巻き込んじまって」
「そんな事ないよ と言うか僕だってそちら側だからね できる事なら協力するよ それにコルトアも他の皆もスキルが使えるようになったんだ 実績はある 『マイナス等級なんて言われても頑張っていこう!』の方向性は間違ってないと思うよ 後は積み重ねだね」
「だな」
多数の成功例があれば施設の価値も上がって同じ悩みを抱える人達の猜疑心も払拭されていくだろう。そうなれば過度のクレーマーも自ずと数を減らしていく筈だ。
計画もまだまだ始まったばかり。失敗はあってもその都度修正していけばいい。知恵も力も集まる組織ならではの対処法と言える。
そんな訳でようやく本来の目的である施設見学・・・もとい施設の把握に舵を切ろうとした矢先、施設の奥からトテトテトテと軽めの足音が僕等に向かって近付いて来るのに気が付いた。
「お この足音はアズリか」
「コルトア分かるの?」
「そりゃしばらく一緒に居ればな てか俺等にとって音は目の代わりだろ?」
「確かに」
コルトアが指摘した通り足音の正体はアズリだった。言葉が喋れない彼女を僕がどうして認識できたかと言うと、アズリのその内に抱える独特な不安の色だ。これは他の人には醸せない。
彼女が自身の不幸に敏感だ。身に危険が及ぼうものならそうなる前に姿をくらます。それはもう僕が感覚でやってる事と同程度で能力と言っても差し支えない程。
そして気になるのはそんな不安を抱きながら僕達の前に姿を現すその理由は何か・・・だ。しかも僕の袖を引っ張ってくる。
「ど どうしたの?」
「・・・・・」
喋れない彼女に「どうしたの?」と訊いたところで応えは返らない。だけど言葉の代わりに漠然とした不安を僕にぶつけてくる。あたかも「貴方のせいで私が不幸になりますよ」と言わんばかりに。
「アズリ 人に用があるなら紙に字を書けって言ってるじゃないか まぁ俺等にそれ見せても意味ないけどさ」
「やれやれ仕方ない」みたいな色でグイグイ袖を引っ張られるアズリ。それに身を任せていると着いた先はキュレオさんの元だった。
「お アズリ 今度は間違わずに字を書けていますよ 感心感心」
「・・・・・」
字を間違わずに書けた事に内心喜ぶアズリ。この施設の支援の1つとして識字率の向上もカリキュラムに入っている。
目が見えないなら兎も角、喋れない聞こえないでも文字でなら意思疏通が行えるし、それこそ社会に出てから役に立つ。まだまだ始まったばかりとは言え、こうして彼等のやり取りは成立してるんだ。
手応えはある。
「それで アズリは何て?」
「え あぁ・・・それが 何だか悪い予感がする らしいです」
「はぁ?」
「それ漠然とし過ぎじゃ・・・」
まぁ『予見の目』のように未来のビジョンが明確に見えてる訳じゃないのだし、彼女の場合はあくまで予感だからそれを事細かく説明しろと言う方が酷か。
「アズリは確か身に起こる危機を察知するのに長けてたよね つまり先々危ない事が起こるって忠告をしたかったんじゃないかな」
カキカキカキカキ・・・
「・・・え~と アネット君に近付くと不安が広がるけど 離れればもっと酷くなる・・・らしいです」
「何だそりゃ」
「つまり 君の身に起こる事と僕が関係してるって事なのかな?」
コクコクと心で返事をするアズリ。「そんなまさか」と思いたくても感覚をバカにできない事は自分がよく知っている。なので彼女が「そう」と言うならそうなんだろう。受け入れたくはないけれど・・・
でもそんなアズリの不安の内にやる気のような色が見え隠れする。きっと彼女も日常生活を送る中で心境に変化があったんだろう。それを拒絶するのは野暮と言うものだ。
「分かった 僕はどうしたらいい?」
チュンチュンチュン──────
翌朝。
家族の皆に「おはよう」を言ってもそこにミストリアの姿はまだない。手掛かりがギルドに無いとなるとベテラン冒険者に直接訊いた方が良いのだろうか。
スキル情報は秘匿されても症状に関連する手懸かりまで皆無と言う訳ではない筈。と言うかそうであってほしい。
コン・・・コンコン・・・
朝食後の「ごちそうさま」の挨拶をしたところで自信無さげなノックが扉を叩いた。ガチャリと開けた先にいたのはアズリ。
「今日来る」と言う話だったけどこんな早いとは思わなかった。
「おはようアズリ 取り敢えず中入る?」
招かれたアズリは人見知りスキルでも発動したのかオズオズとしている。でも自ら他人の元に来れるようになった彼女にとって、これは成長とも言える。
「いらっしゃいアズリちゃん 話は聞いてるわ ゆっくりしていってね」
「・・・・・・・」
とは言え人間すぐには変わらないのも事実。僕等家族しかいないアットホームなこの状況ですら萎縮してしまっている。そんな中、気を効かせたソフィリアがトテトテとコップに水を注いで「そうぞ」とアズリに差し出した。
うんうん。人を気遣えるようになったソフィリアもちゃんと成長している。嬉しい限りだ。
「それで アネットが危ないかもって どう言う事?」
「・・・・・・」
マルティナの問いにカキカキカキと紙に文字を走らせるアズリ。そこに書かれている内容を直接見る事はできないけど、みるみる不機嫌になっていくマルティナに、お世辞にも良い事は書かれてない事だけは伝わった。
「ねぇ・・・これ 本当?」
「・・・・・・・」
「え 何て書いてあるの?」
「アネット皆から狙われてるそうよ」
「・・・皆? え 皆って? 狙われる? って 何で?」
カキカキカキ・・・
「えっと・・・ 冒険者みたいな人が近付くと不安が大きくなるの でも自分が狙われてる訳じゃないのに不安が消えないのは 間接的に繋がりがあるからで アネットに近付くと不安が和らぐの つまりアネットの不幸が私の不幸に直結してると思う・・・ ですって」
「要するに 僕の安全が巡ってアズリの安全に繋がるって事で 良いのかな?」
「・・・・・・」
文字での反論もない事からこの認識で合ってるらしい。
続いてカキカキカキ・・・と、アズリの走り書きを見たマルティナの感情が曇る。
「・・・だから私が不幸からアネットを遠ざける って・・・できるの? 貴女に?」
「・・・・・・」
出来るか出来ないかよりも彼女は乗り気だ。どうやら自身のできる事に閃きを得たようだ。マルティナは納得できないみたいだけど、当人がやる気になってる時こそ成長のチャンス。その気持ちを挫いてはいけない。
「分かったよ アズリの不安が消えるまでお願いしようかな」
僕の台詞を聞いてアズリの心は華やぐ。その後もカキカキ文字を羅列する度に彼女のやる気は上昇していくのだけど、それとは逆にマルティナの感情はズンズン下降していく。
「ねぇ・・・ ねぇ ちょっと この・・2人で町中を歩きまわるって まんまデートじゃない これの何処が不幸を遠ざけるってのよっ」
カキカキカキ・・・
「え 家に居ない方がいい? ギルドにも行かない方がいいって・・・ 嫌な予感がする? 貴女のその感覚 ホントにあってるの? て言うか不幸って具体的に何が起こるのよ
・・・それは分からない? でも嫌な事から逃げて嫌な思いをした事はないって それ 額面通りだと誉めて良いのか悪いのか微妙な台詞よね」
「ま まぁ僕も彼女に協力するって決めたんだし 取り敢えず今日一日アズリの勘に付き合うよ ね? それでいい?」
「む~ 仕方ないわね」
家族の・・・と言うかマルティナの了承も得られたので朝食後僕はアズリに引っ張られながら外へと連れ出される事となった。
遅れました(。>д<)




