394・彼等の一歩
前回のあらすじ
目を覚まさないミストリアの為ギルドを訪れたが成果は得られなかった。アネットが家に帰るとコルトアとクリスティーが来ており隣のマイナス等級支援施設へと連れていかれる。彼等の感情はどうにも芳しくなく何やらトラブルを抱えてる事を察するアネットだった。
「端的に言えば貴方のスキルを皆に見せて欲しいのです」
「それだけですか?」と聞き返してみたものの、考えてみれば知らない人にとって「マイナス等級がスキルを使う」なんてまだまだ眉唾に等しい戯言レベルなんだろう。
だからこそ支援を望む人達に実物を見せる事で励みになるなら是非とも協力したい。
ただどうにも気になるのがコルトア達を含めキュレオさんも奥歯に物が挟まったような言い回しが感情の機微と共に気になってしまう点だ。
もしかしてだけど彼の言う「皆」は僕が思う「皆」とは違う?
考えてみればマイナス等級支援を謳ったからと直ぐ様悩みを抱えるご本人が駆け込んでくるとは思えない。外に出るのだって勇気がいる筈だ。
となれば誰がスキルを見たがってるのかは想像に難くない。つまりキュレオさん達を悩ませてるのはここに連れてきた引率者の方々らしい。
「・・・アネット君は普段通りにやってもらって構いません もしかしたらヤジが飛ぶかもしれませんが そこは私がフォローしますので」
「すまないな 俺等の中でちゃんとスキルを形にできるのお前しか居なかったんだわ」
「・・・うん」
敢えて何も聞かないし言わないよ? 彼等も彼等なりに考えての事だろうし、まだまだ手探りの段階だ。
失敗が許される・・・訳ではないんだろうけど人は経験を重ねて形にしていく。その過程で負う傷も含めて成功への糧なのだ。
とは言え崖の上へ案内されてる気分は覆られないんだけど・・・
ガラガラ───
と、開けられた扉の向こうには思った以上に人が集まっていた。予想した通りそこに希望を抱く人は殆んど居らず、不安とか疑念とかの猜疑心を纏った人達ばかり。
その証拠に部屋に入ってきた僕達に向けられる感情は途轍もない不信感だ。
「皆さんお待たせしました 以前お話ししたアネット君に来て頂きました」
「何だ まだ子供じゃないか」
「その子本当にスキルが使えるの?」
「盲目で冒険者って事だけど・・・ん~」
戸惑いつつも自分の意見をハッキリぶつける彼等はマイナス等級ではないだろう。しばらく彼等の言にミミを傾けていると喋る人と喋らない人とで明確に分かれている。
この場に集った人達は総じて懐疑的だけど支援に全く興味が無い訳でもなく、どうにも狭間に揺れている印象だ。それは何かに納得したい・・・と言う感じにもとれた。
「えぇと 僕のスキルを見たい と言う事でいいんですよね?」
「ああ そうだ ホントにスキルが使えるんならな」
「分かりました では・・・いきますね」
『プチダーク』
彼等の前に黒い靄を展開させる。その瞬間「あり得ない事が起きた!」と言わんばかりの驚きを与える事には成功した。
「マイナス等級が本当にスキルを使った」と言う良い意味での裏切り。
これで集った方々も納得してくれるだろう・・・と思ったけど、それでも心を鷲掴みにするには至らなかったらしく直ぐにその熱も冷めていく。
まぁ地味と言われれば地味だしね・・・
「・・・で それは何だ 何の役に立つんだ?」
「えっとですね この靄をこうして相手の目の前とかに放って目眩ましにしたりですね・・・」
「いや それは・・・ それは社会にどう役立つんだ?」
「え 社会・・・ですか?」
「そうだ 使うスキルが社会の役に立つものじゃないと意味無いだろ 只でさえマイナス等級なんてハンデ背負ってるんだ それを払拭するくらいのものじゃなきゃ認めてもらえないじゃないか」
「そうよ もしダメだったらここでうちの子の面倒を見てくれるの?」
「いえ・・ ここはあくまで訓練施設で 今後の保証とかそう言う─────」
「だったら何の為の訓練施設だっ 金だけ取って使い物になりませんでしたじゃ困るんだよ!」
「ここに来ればスキルが使えるようになるのよねっ? そう言う触れ込みじゃないの? じゃなかったら支援施設なんて只の詐欺じゃないっ」
「町と冒険者ギルドの肝いりなんでしょ? だったら何かしらの便宜があってもいいわよねっ じゃなかったら・・・っ」
「あなた方の意見は分かりました ですが問題は支援を受ける彼等がどう思ってるかです どうですか? 皆さんはここでスキルを会得する為頑張れますか?」
「・・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
連れてこられた人達は自分の意見を言うどころかこの場の雰囲気に呑まれて萎縮してしまっている。負い目を感じてるのか疎まれる事に心を痛めてるのか、普段から意見を述べる事に対して恐怖を覚えているのかもしれない。
それだけで家庭内でどう扱われてきたのか想像できてしまう・・・
キュレオさんは施設と町との繋がりだとか色々説明してるけど、説得しなければならないのはここに連れてきた保護者達じゃない。無理やり引っ張られた彼等の方だ。
「ねぇ 君達もスキル使ってみたくない?」
「・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・うん」
いきなり振られて困惑気味な彼等だけど興味がない訳じゃなさそう。実際僕がスキルを見せたのがプラスに働いたのか周囲の怒号を余所に僕の声に意識が移った。
「だったらさ 家から離れてここに住んでみない? ここなら言いたい事も言えるし 皆の言いたい事を聞いてくれる人もいるよ? 人が人として当たり前の生活を送れるようになるんだ」
その言葉に一同色めき立つ。今までよっぽど抑圧されてきたのだろう。トゲのある言葉を浴びせられてきた人もいる筈だ。それらからの解放。となれば惹かれない筈がない。
「おいっ 何勝手な事言ってやがるっ まだ契約するとは言ってないぞ!」
「そうよ 私達が欲しいのは 社会に出ても周りから疎まれないスキルの保証なの!」
「くそっ マイナス等級のスキルさんなんかが町中うろついてるばっかりにっ 何で駆逐できないんだ!」
何と無くだけど、救われたいと思ってる人達は彼等保護者達の方なんじゃないかな。語気が強まるのもその裏返しなんだろう。でも僕が聞きたいのは彼等の意見じゃない。
「・・・普通に なりたい」
「目が見えるようになりたいよ・・・」
「皆と遊べるようになりたい」
「・・・っ ・・・・・っ」
僕の言葉を聞いた人も喋れない人も聞こえない人も、雰囲気で察したのか一斉に反応を示す。彼等は無理やり連れ出されたのかもしれないけれど家にずっと引き篭もってたい訳でもないんだ。
「普通」は難しいかもしれないけど、前向きになっている彼等を社会に出られるようにはしてあげたい。
「この施設はまだ出来て日も浅いです 我々職員も健常者で その意味でも真に彼等の苦悩を分かってあげられない側面もありますが しかし此方も組織で動き社会から歩み寄る姿勢を作りたいと考えていますっ」
「・・・そうは言うけど なぁ」
「でも できませんでしたじゃ困るのよっ」
「あのっ! ・・・そう言う言い方はダメだと思います 皆さんがスキルさんを選んだ時の事を思い出して下さい 希望に満ちていたんじゃありませんか? その気持ちが成長を促すんです
ハッキリ言います 最初からダメだダメだと決め付けて 可能性を疑うあなた方が彼等をダメにします」
「なっ! ガキが知った風な口をきくなっ!」
「私達はこの子達の事を考えてるからここにいるのよ!?」
「そんな役にも立たないスキルを使えるからって偉そうになんだっ!」
「こっちは人生が掛かって─────」
「あのよぉ! ・・・俺も盲目だけど 1人でも歩けるようになったんだぜ スキルも使えるしギルドの仕事だってちゃんとある 俺だけじゃない マイナス等級だと指さされても それでもスキルを覚えて 覚えたスキルで人の役に立ってる奴等だっているんだ
だけどあんた等みたいなのに四六時中あれこれ言われてちゃ 世界に希望なんて持てねぇよっ そんな好きでもない世界の為に頑張ろうなんて気持ちになれるか?
ここに来たからって全て上手くいく保証なんかねぇよっ だけどな 自分の足で真っ直ぐ歩ける努力の提供はしてやれるっ 俺がそうだったからなっ
なぁ お前等はどうしたい どうなりたい 自分で決めるんだ それが一番大事なんだ」
コルトアの叫びが彼等の心に響く。灯った心の火は弱々しいものだけど、自分の意見を口にするには十分な明るさだった。




