391・“失語さん”の真価
前回のあらすじ
ベネデット・ブランディーゴと対峙したアネットは自身のスキルを駆使しながら辛くも勝利を掴む事に成功した。しかし観客を含め闘技場のルールは相手を死に至らしめなければ勝利を認めないと言う。
勝った・・・アネットが勝った! やっぱり彼は特別なんだわっ。私だけの特別・・フフフ。ここ最近色々あったけど運命は私に味方していたようね。
「おい何だよ マイナス等級なんかに負けちまったぞ」
「ブランディーゴファミリーの頭目も実は大した事なかったんじゃねぇか?」
「ああ 何か1人で空回りしてたしよ」
「まぁそれもそうだけど でも真面にやり合えるマイナス等級も凄いんじゃないか?」
「あ~・・ん~・・ そうかもだけど 見応えはいまいちだよな ちっこいし」
そうね。華やかさにはいまいち欠けたわね。でも勝ったのだから及第点はあげるとして、これからは私のペットになるんだから周りからの顰蹙は買わないように躾ないと。
「殺しなさいアネット! ここでの勝敗は相手の死で決まるのよっ!」
「そうだ殺せっ!」
「俺達はそれを見に来てんだ! いいから殺せっ!」
「そうだっ 殺れ殺れー!」
「「「殺ーれっ! 殺ーれっ! 殺ーれっ! 殺ーれっ! 殺ーれっ! 殺ーれっ!」」」
聞こえるかしらこの歓声が。みんな貴方が一線越えるところを見たがっているわ。期待に応えなさいアネット。そしてマイナス等級が闘技場で鮮烈デビューを飾るの。
きっと物珍しさと話題性で人気を博すでしょう。例え色物だとしても客の要望を叶えた私の株は上がる。
「どうしたの? さっさと殺りなさい! お友達がどうなってもいいのかしら?」
反抗的な目で私を見てもダメよ。これは通過儀礼なの。逃げられないのは分かっているでしょう? 貴方に断る権利は最初から無いの。
「アネット! コイツの口車に乗っちゃダメよ!」
「そうだ! こんな事で手を汚すこたぁねぇ!」
「あらあらあら 彼は冒険者なのでしょう? だったら人を殺める事だってあるじゃない それとも・・・もしかして彼 まだ なのかしら」
〔冒険者ならいずれそう言う時もくるでしょう・・・けど 少なくとも今じゃない ましてや貴女の指図で命を刈るなんて アネットの魂が汚れてしまうわ〕
「言ってくれるわね でもあなた達の命を握ってるのは私なの それ 分かってる? さあアネット! 殺りなさい!」
「アネットやめてっ!」
・・・フフ。いい子ね。そう・・剣を取って敵にトドメを刺すの。そして私の元にいらっしゃい。
〔ダメよアネット・・・殺してはダメ ここで人を殺めたら貴方は絶対傷付くわ〕
「残念だけど小さな文字を並べるだけじゃ あそこまで届かないわ いいから観客と一緒に彼が人を殺すところを見ましょうよ」
〔ダメ・・・絶対ダメ・・・ 変わっちゃダメ 貴方はいつまでも無垢なままでいて・・・〕
フン! これでこの女も壊れるかしら。一石二鳥ね。どうせ壊れるなら有効利用しようかしら。なぶった後に闘技場に投げ込んで参加自由の慰み物にするのも乙だわ。
唯一悲鳴が聞けないのが残念だけど、口がきけない事を恨みながら辱しめられ死んでく様も捨てがたいわね。可哀想なミストリア。
私が上で貴女が下だったばっかりに・・・フフ・・・ウフフフフ。
「あぁ~・・満たされる・・・」
【〔ダメ それは許さないよ〕】
「はぁ~? 許さないって・・・え?」
声? え・・・この声。え・・・?
「おらー! 何やってんだ! とっとと殺れやー!」
「ハハハ! 手がプルプル震えてるぞっ びびってんのかぁ~?」
「客待たせてんじゃねーよ! こっちは金払ってんだ! クソつまんねぇ死合見せられて鬱憤溜まってんだ!」
「そうだそうだ! 派手にぶち殺せっ!」
【〔うるさい 全員黙って〕】
「殺れ・・・っ はぐぁ・・・」
「そう・・だ・・あぐ あぐ・・・」
「が・・・はぅ・・・」
「なん・・・っ 声・・・」
「どうな・・・うぐ・・・しゃべ・・・れ」
は? え? なに? なに? なに!?
闘技場が静まり返って・・・
「何な・・・っ !? 声が・・・出なっ」
いったいどうなってんのよっ! 何でこんなっ! ・・・! ・・・! ・・・! ダメ・・・全然声が出ない。私だけじゃなくてここに居るみんな同じ・・・
じゃあさっきの声は・・・
【〔この勝負アネットの勝ち そこの審判 早く彼を介抱して 絶対に死なせてはダメだから〕】
「っ! お・・おぉ おお 体が 勝手・・・に・・・動・・・ どうなっ・・」
この声・・・まさかミストリア? でも・・・だって“失語さん”のせいで喋れない筈じゃ。
って! 何やってるのよ審判! 素直にコイツの言う事きいてんじゃないわよっ! 主役は私でしょっ!? お前は馬鹿みたく私の言う事だけきいてればいいのよっ!!
【〔ボク達はこの街から正式に出ていくよ 君はその手続きをするんだ〕】
「何・・を 勝手・・・」
【〔ああ 君は喋っていいよ〕】
「・・・っ! はぁはぁはぁはぁ・・・ なに 何なの これアンタのスキルなのっ? ミストリア!」
【〔正確に言えばボクのスキルだね ミスティーにはまだ負担が大きいし でもいずれは使えるようになるだろうね と言うより そう導かれるかもしれない〕】
「導かれるってなにっ! こんな人を縛るような・・・っ 裁縫さん! これ何とかしてっ!」
『無理~ 世界が重くてアタチじゃ立ち入れない 縁を紡げないよー だってこれ・・・精霊さんに続く・・・鍵』
「はぁー!? 精霊さんっ!? 鍵って・・・! 何で 何でコイツが 何でミストリアなのっ! そんなのおかしいわっ! あり得ないっ!!」
【〔そうだね 理不尽だとしても転換点の中心は必ず存在してるんだ それが君ではないだけの話だよ〕】
「ふざけんなっ! 認めない! 絶対に認めないわっ! 逃がさないわよ! 鍵は私のものなんだからっ! アネットも! アンタも! ・・・何とか言いなさいよミストリア!」
【〔ミスティーは意識を手放しているよ さっきも言ったけどまだ器ができてないからね キャパオーバーってやつさ〕】
「何だっていいわ! ここは私の街よ! 好きにできると思わない事ね!」
【〔ごめんねだけど 君の言葉では世界を動かすには足りてない だから神言は覆せない まずはボク達の枷を外して 街を出る用意を整えてね それから名簿からジョストンと脱出したアーキア人達の名前を消すんだ〕】
「従うと 思ってるの・・・っ」
【〔君の意思は関係ない ボクが言ったらそうなるんだ これは必然なんだよ〕】
「何よ それっ !? かっ 体が・・・勝手にっ! ふざけんなっ くっ! こんな理不尽・・・っ」
体に力を込めても抗えない! 自分の意思とは関係なく四肢が動いて枷を外していく。何なのこれっ。これが『鍵』を持つ“失語さん”のスキルだとでも言うのっ?
「絶対・・・絶対に手に入れてやるっ このスキル このスキルさえあれば私が 私が頂点に立てる・・・っ」
【〔悪いけど やる事やったら今聞いた事は全員忘れてもらうよ ボクが手を出すのはそれだけ 君の事とかハルメリーの事とかは皆の問題だからね〕】
「嫌よ・・・どうして どうして私じゃないのっ 私ならその力を上手く使うのにっ!」
【〔ボクは精霊さんじゃないから的確な返事は返せないけど どうして鍵がアネットやミスティーなのか それを勘案すると精霊さんは君のような思考を望んでないじゃないかな〕】
「マイナス等級なんかの何がいいって言うのよ!」
【〔たぶんだけど 不完全から生まれる新しい 何か を求めてるから・・・なんじゃない?〕】
「何よそれ気持ち悪いっ そんなもの絶対にゴメンだわっ!」
【〔だからボク達は意見を違える事になったんだ 他人を見下す気持ちが壁になって近付こうにも近付けない ミスティーは君を理解しようと気にかけていたのにね〕】
「笑わせないで その娘はもう貴族じゃないのっ 同列でないものによろしくする理由なんか無いわっ!」
【〔・・・そろそろ帰る準備をしよう それと ボク達の会話を聞いた人達もいったん精霊さんの事は忘れてもらうよ おとぎ話を本気にしたって良い事ないしね〕】
「はぁ~!? そんな勝手─────」
【〔あ そうそう このスキルが切れたらミスティー倒れちゃうから 彼女の介抱お願いねマルティナ〕】
★
「え・・ちょっ ミストリア!?」
糸の切れた人形のように膝が崩れるミストリアを何とか支えてみるものの・・・どうすんのよこれ! 何か2人の会話でトントン話が決まってっちゃったけど。
でもこの流れ・・私達帰れるって事で・・・いいのよね?
「ねぇ失語さん どうなってるのよ このまま街を出られるの?」
『〔うん 彼女が色々手配する筈だよ 本人は不本意だろうけどね〕』
あ・・声から文字に変わってる。やっぱり喋れたのは何かのスキルなんだ。“失語さん”によれば街を出られるって話だけど、ルディアはメチャメチャ嫌そうな顔してる。
でも私達を闘技場の外まで先導する辺りスキルの強制力が働いてるんだ。本当に出られるのか不安だけど・・・
「アネットー! こっち来て! 帰るわよー!」
闘技場の真ん中で何が何だか分からずポカンとしてるアネットに声を掛ける。まぁそうよね。変なスキル1つで私達の現状が解決しちゃったんだもの。
それを目の当たりにしたユシュタファ達も何が起きてるか飲み込めない感じで困惑してるし。
「な なぁ どうなってんだ? これ・・・」
「終わったって こと?」
「おいルディア こいつのスキルさんが言った通りにするのか?」
「・・っ! したくなんかっ ないわよっ でも 体が言うこときかないの!」
苦悶の表情を浮かべながら言葉とは裏腹にテキパキ動く彼女の言動は端から見ても不気味に写る。でも今だったら何でも言うこときいてくれそうな気もしなくもないわ。
「もう私達に関わらないで!」って言えばその通りにしてくれるのかしら。正直この子の性格でハルメリーに来られたら絶対問題起こすだろうし、正直居なくなってくれた方が有難いのよね。
「おい失語さん コイツに俺らに関わんなって言うこときかせてやれよ」
『〔無理だよ あれはミスティーの一時的な気持ちの昂りから限定的に使えただけだし ミスティーにも周りにも影響が強すぎるんだ スキルを使う度に精神が限界超えてたんじゃ ストレスでミスティーが壊れちゃうよ〕』
「ま このお嬢ちゃんだけじゃなく闘技場の全員に影響が出てんだ 人がおいそれと使っていいスキルじゃないだろ 失語さんも言ってたが これは俺らの問題だ スキルじゃなく俺達で解決してこうぜ」
「チッ」
「でもそれって・・・結局俺達 何しにここに来たんだってことにならなくね?」
「だな せっかく捕まえたナイームも野放しだしよ」
「まぁ 同胞の開放? は・・できたって事でいいんじゃね? 最初と主旨違ってるけど」
そもそも私達も町を憂いたからユシュタファ達に付き添ったのよね。収穫は有ったような無かったような・・・パッとしない感じで収まったけど、全員無事で帰れそうなのは良かったわ。
「あっ アネット! こっちこっち ここ ここっ」
ルディアが乗ってきただろう馬車にミストリアを乗せる。未だに目を覚まさないけど大丈夫かしら。それにしても・・・“精霊さん”って本当に居るのね。こんな出鱈目なスキルを見せ付けられたんじゃ信じるしかないじゃない。
「でも・・・忘れちゃうのかなぁ 私も」
ユーザー名を「おっちょ」から「猫かるちゃー」に変更しました。引き続き執筆していきますので宜しくお願いします(´Д`)
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