389・アネットvsベネデット・ブランディーゴ
前回のあらすじ
決闘当日。闘技場の貴賓席に連れてこられた一行とミストリアはルディアと対話するも結局互いの溝を深めるにとどまった。その間アネットとベネデット・ブランディーゴとの戦闘は彼女等の眼下で始まっていた。
ガシャン・・ガシャン・・・
闘技場の入場口に到着したのか僕に付けられていた手枷が外された。周囲には複数人。その中に異様に僕を意識する色がある。おそらくベネデット・ブランディーゴ本人だろう。
彼は本気で僕と戦う気満々で此方を意識している。
僕も覚悟は決めているけど、いざ人間相手に命のやり取りをと考えると心が萎縮して胸が痛い。でも勝たなきゃ自分も含めて皆の未来もない。
ガコン─────
対戦時間になったのか目の前の扉は重い音をあげながらゆっくりと開けられた。意を決して前に進むと同時に闘技場に募った人達のどよめく声が僕達を包む。
この音の感触はギルドの訓練所に似てる気がする。おそらく中央をグルリと囲う造りになっているんだろう。ただ一点違うのは、模擬戦を真剣な眼差しで見つめる訓練生のそれではなく、大人達の虫でも眺める冷酷な好奇心に囲まれてる事。
「ここは何も変わらんな」
「闘技場で戦った事があるんですか?」
「名を売る為にな 掃き溜めのような場所だが実力さえ伴えばチャンスは転がっている 俺にはおあつらえ向きの場所だ」
それはきっと実力主義の世界で生き抜いた人だからこそ言える感想だ。でも懐かしさの中にもチラリ難色も潜んでいる。たぶん勝利の栄光だけじゃない暗い部分も見てきたに違いない。
とは言え、その手にした未来がアーキア人達を奴隷にした事業展開だなんて。心の色を見ただけじゃ人となりは量れないと言う事か。
「貴方は僕を恨んではいないんですか? 組織を潰したのに ・・・そんな感じがしないので」
「・・・思うところが無いわけではない だがそんなものやられた奴が間抜けだっただけの話だ 肝要なのはこれは運命であると言う点だ」
「運命・・・ですか?」
「腑に落ちないと言った様子だな 大概の者はトラブルを 身に降り掛かった不幸としか思わないが 俺はそれを試練と捉えている 立ちはだかる困難を乗り越えてこそ人は成長するものだ 拒絶するべきものではない」
正に「らしからぬ」意見だ。この街に染まらなければ名うての戦士として称えられただろうに。ちょっとした会話からでもそれが伝わる。本当に勿体ない・・・
「分からないですね そんな事を言う貴方がアーキア人を奴隷に商売なんて 言動が不一致です」
「些末だな 他人の価値観に同調してどうする 俺を含め どいつもこいつもスキルの恩恵で好き勝手生きてるだけだ それはお前自身が体現してるじゃないか
盲目でありながら戦いに身を投じ この街の連中なら実行しない事を実行し成功を収めた 何故そんな事をした 何故お前は剣をとる」
「それは・・・ 自分の信念を貫く為です」
「普通のマイナス等級なら頭で思っても実行には移せない お前は俺にとっての謎だ そんなお前を試練ととるには十分だろう」
「盲目だから周りが見えてないだけかもですよ? 僕はただ自分の理想を追っているだけなので」
「フッ 野望なしに人は足を前に出したりはしない 渇望し困難に挑む者にこそ成長がある ならば俺達は互いに前へと進む好敵手と言えるだろう 似た者通し死力を尽くそうじゃないか」
困難に挑むと言う意見には賛同したいけど、善悪に頓着がない彼のあり方には同調致しかねる。
「本日の対戦はブランディーゴファミリーの頭目ベネデット・ブランディーゴ 対するは嘘か真かスキルが使えるマイナス等級アネット──────」
僕の名前が読み上げられると会場は嘲笑にも似た空気で騒めく。相対するベネデット・ブランディーゴの心情とそれを囲む人達との差が、この決闘を酷く低俗なものにしている気がして口惜しい。
ゴワアァァァーン・・・・・
試合開始のドラが鳴らされると同時に闘技場は沸いた。鬼気迫る決闘に興奮・・・とかそんなの感じでないのが異様と言えば異様だ。
「ジョイントストレングス ナックルハーデニング アイアンスキン───」
最初からフルで自身にスキルを掛けていく彼は僕を侮ってない証拠だ。此方も彼を侮るつもりはない。事前に決めていた通りの手順で進めていく。僕が初手で使うスキルは・・・
「ダークビジョン!」
以前彼に使用して難を逃れたスキルだ。これを最初に持ってきたのは使用済みスキルとして対策されてる前提と、それに伴って切り札にできない点。そして完全盲目状態に慣れる前に削れるだけ削ってしまおうと言う魂胆からだ。
できるだけ先手はとりたい。
「むぅ・・・」
2度めとは言え突然目の前が真っ暗になったのだから何も感じない訳がない。出鼻を挫かれたかのような動揺が走るのが見える。そんな意識が散漫になった瞬間の脇腹に僕は剣で思い切り一撃を加えた。
ガン・・・
「!」
生身を斬った時とは違う音と手応えが伝わる。同じスキルが使えるマルティナの言った通りだ。でも“盾さん”のブロックとは違い多少の衝撃は体内に響いている筈。
これがどのくらいのダメージを身に与えているかは分からないけど、今が袋叩きにできる絶好のチャンス。なのでありったけの力で切り付けたまくった。
ガッ・・ドッ・・・ガンッ・・・!
そんな一方的な攻撃がしばらく続くと相手も慣れてきたか僕の出鱈目な攻撃に徐々に対応をし始める。
振った剣に反応して身を引く。それから硬化に特化した手の甲によるガード。おそらく僕から発する音と経験から短期間での適応を可能にしたのだろう。
終いには僕の攻撃をダメージとは捉えず反撃に転じる始末だ。それもかなり的確に拳を僕に放ってくる。本気のパンチではないにしても食らいたくない代物だ。
『アネット~』
「うん・・・分かってる・・・」
「ダークビジョン」の効果が切れるのを相手の意識から読む。それと同時に僕を捉えた鋭い拳が飛んだ。
「くっ!」
全力で回避を意識して何とか躱せる速度。きっと威力もそれ相応だろう。そこからは攻守交代したように優勢劣勢が入れ替わる。
拳拳拳・・・蹴り。
決して大振りにならず細かく小さく牽制してくる。その最中にちょくちょくフェイントを織り混ぜながら、まるで僕を研究するかのような動きで距離を測ってくる。
何とも計算高い・・・
その上で僕に対する答えが出たのか攻撃のパターンが変わった。
ビュン! ・・・──── ガン!
彼のパンチが剣に当たる。そのあまりの衝撃で武器が手から吹き飛ばされそうになった。彼はこれまでのやり取りで色々模索した結果、僕を武器を含めて驚異なしと判断したのだろう。
繊細な攻撃から反転した力任せの荒っぽい動きへと変貌を遂げた。
ビュン! ビュン! ブン!
それによってパターンが正直で読みやすくなったと言えなくもないけど、僕の攻撃すら意に介さない猛攻はモンスターの爪とそう違わない。
ただそんな猛獣と異なるとすれば、決して殺意に呑まれたりはしない点。僕としては逆に呑まれてくれた方がやり易いんだけど・・・
「盲目さん!」
『は~い プチダーク!』
このまま受け身に回ってても諸々削られていくだけ。なので彼が攻撃を意識した瞬間に「プチダーク」を眼前に撒いて目眩ましにする。
当然そんなもので怯んだりはしないのだけど、攻撃の力点をずらすと言う意味では適切な筈だ。それが功を奏したのか僕に届く拳の距離は若干遠退いた。気がする・・・
「やれやれー!」
「あれがマイナス等級のスキルか? 何かみみっちいな」
「だけどよ あのガキ盲目なんだよな 何で立っていられんだ?」
「知らねぇよ それよか逃げてるだけじゃ勝てねぇーぞー! ハッハッハ!」
ヤジが飛んでくる。意識したくはないけれど嫌でも耳に届いてくるのがもどかしい。観客達は幾らでも見下してくれて結構だけど、肝心の対戦者は自分有利でも気を緩めない。そこが問題だ。
そろそろ次に移らないとこのまま叩き伏せられられる。
『アイ・アンノウン』
「むっ ・・・次から次へと・・・っ」
スキルが効いたのか猛攻を繰り出していた彼の動きはピタリと止まる。それもその筈、今の彼は自身の腕と足を認識できない。
僕自身を認識できない・・・にしてもよかったのだけど、また音で判断してくる可能性もある。だったらバランスを保てず攻撃も曖昧になり精神的にもダメージを与える(たぶん)趣向を選んだ方が建設的だ。
ここからはまた立場反転。攻守交代して僕が攻める番だ。
「ふんっ」
足場が曖昧で自重を支えるので手一杯の彼に押し倒す勢いの一撃を加える。とは言え当然の如く倒れてはくれないんだけど、やっと巡ってきたチャンスを逃す手はない。
カンカンカン・・・
僕が手にするのは一応研がれた刃の剣なんだけど、切り付ける度に安っぽい鉄で叩いたみたいな音がする。自分の自力の無さは自覚してるけど、これも偏に彼のスキルの効果と思いたい。
でも相手は体を軸に戦う技に長けた格闘家「アイ・アンノウン」にも徐々に対応し始める。足を認識できない分を腰に集中して地面との一体化を図った。
これにより腕に伝わる力の流動を確保する。次に拳。これは「突く」事を意識するのではなく、気迫で僕への敵意をぶつける。
気持ちの問題と侮る事なかれ。
その強い執念が認識できていない筈の腕を動かし拳に伝える。先程と比べて鋭くないとは言え、普通にダメージを与える程度の鋭さをその拳は備えていた。
彼にとって不本意な状態な筈なのに僕と互角に渡り合ってくる。この戦意の高まりに気迫で押し負けてしまいそうだ。でも今が踏ん張りどころ。
『アネットー いくよー』
「うん!」
『アイ・アンノウン タイムコントラクション!』




