387・牢獄の中で
前回のあらすじ
街から脱出する為に幌馬車の荷台の木箱に潜伏するアネット一行だったが、作戦はスロースの裏切りで敢えなく失敗してしまう。
「うう まさか人生で2度も牢屋に入る事になるなんて・・・」
「マルティナ・・・ こ 今回はさ 皆も一緒なんだし・・ね?」
「それフォローになってない」
潔く捕まる事を選んだ僕達は、街で罪を犯した人が収監される牢獄へと仲良く連行される事となった。
牢に投獄されたと言うのもあって心にくるものがあったのか皆一様に消沈している。牢屋が2度目のマルティナは特にげんなりしていた。
僕としても音が変に反響する居住を考慮しない空間は落ち着かない。更に言うならここから先、未来のない道筋しか辿れないと言う現実も尚のこと焦燥感を煽ってくる。
そんな中での唯一の救いはミストリアの出す新鮮で美味しい水だけだ。ありがたい・・・
「すまん まさかこんな事になるなんてな」
「まったくだぜ いったい全体どうなってんだよこりゃ」
「本来ならスロースがこの街で暗躍したのを理由にギルドが交渉を持ち掛ける予定だったんだ」
「ギルドもギルドで思惑があったんですね」
「まぁ・・な」
「んで捕まってたんじゃ世話ねぇぜ」
「明らか人選ミスだよなこれ てか交渉ってなんなんよ」
「また俺達アーキア人絡みかぁ?」
「正確に言えばハルメリーに干渉する貴族の選別だ 連中に好き勝手されるのは町としても面白くない だが制度上拒むことができないからな」
「だから工作までして選ぼうと・・・」
町を守りたいと言う気持ちは分かるけど、何か人を呪わばって感じになっちゃってる・・・
でもルディアの性格やらバウゼン伯爵を思い出すと素直に歓迎しようとは思えないから町の意向には一票を投じたい。
これまでの経緯を考えてみると、人と人との戦いって暴力よりも、こう言う主義主張のぶつかり合いこそが本質なのかもしれない。
カツンカツンカツン─────
そんな事をしんみり慮っていると、女性用のヒールの音が密閉された牢獄と言う名の空間に響いた。こんな湿った人の寄り付かない場所に来る女性なんて僕は1人しか知らない。
「ごきげんよう ここの居心地はどう? 快適とは言えないけど 罪人に宛がわれる部屋があるだけマシよね」
「何しに来やがった 俺等を笑いにでも来たのか?」
「ちょっとした確認よ どうして私達はこんな事になっちゃったのかって ちゃんと話し合っていなかったでしょう?」
「そんなの貴女がアーキア人の人権を無視するような振る舞いをしたからじゃない! あれじゃまるで人が使い捨ての道具のようだわ!」
「組織なんてそんなものでしょ だからそうならないように皆努力するんじゃない 冒険者だってランク? みたいなのがあるんでしょう? それに非難ばかりしてるけどアーキア人はちゃんと奴隷から解放されたじゃない 今では派閥の立派な一部なんだし相応の働きはしてもらわないとね」
「解放? そんなの言い方が変わっただけよ! 扱いは奴隷と同じだわ!」
マルティナが感情の丈をぶつけてもルディアの心は揺るがない。と言うより初めから相手にしてない感じで聞き流している。
「組織つっても色々だよな 俺も幾つか見てきたけどよ 良い組織ってのは自然と笑顔が溢れるもんだ だがこの街の連中は違う どいつもこいつもしみったれた顔並べて他人の顔色ばっか窺ってよ その原因は1つしかねぇ 頭張ってる奴がクソだからだ」
「私は笑顔よ? 悔しかったら笑える所まで這い上がってきなさい」
組織である以上纏める者と支える者とで構成されるのは仕方ない。それに「力を示せ」と言う言葉も正しい。それができる人とできない人とで差異が生じるのも事実だ。
僕が彼女の言い分を完全に否定できないのは、言葉の何処かに「正しさ」が含まれてるからだろう。だからこそ話が纏まりそうで纏まらないんだ。
〔やっぱり貴女の価値観は私達とは相容れないみたいね〕
「あら なぁに? 罪人の分際でこの私に言いたい事でもあるのかしら」
〔貴女も学園から出て色々経験したでしょうに それで変わるかもと思っていたけれど 変わるどころか以前にも増して悪化してるわね〕
「悪化 私はこの世界に順応しているだけよ? まぁ 貴族から転げ落ちた平民のものの考え方なんて私には分からないけど あなた達が私達貴族に媚びなければ立ち行かない事だけは学んだわ」
〔それは逆よ 私達は例外なくこの世界に暮らす人達のやる気と才能によって生かされているの そこに貴族も平民も関係ないわ〕
「下らない 国と言う基盤がなければそれこそ発展なんてないじゃない 安寧があって初めて生活が成り立つのよ」
〔貴女はそこに心がこもっていないのよ〕
「心ねぇ 綺麗事で造れる程 この世界は甘く出来てないわ 優しさだけじゃご飯は食べれないんだもの 所詮殺らなゃ殺られる世界なんだわ」
そう言ったルディアの心に黒い影がチラつく。そうなった要因は子供の頃から街の空気に曝され“魔物さん”を連れる少女の影響をその身で受けたからだろう。
その悪い部分が「他者を犠牲にしてでも勝たなければならない」価値観を育んだに違いない。
「んな腹の足しにもなんねぇ事くっちゃべってねぇで とっとと要件済ませたらどうだ どうせ笑いながら罪状でも突き付けに来たんだろ」
「まぁそうだけど 別に知らない仲じゃないんだし 会話くらいあってもいいじゃない 分かってると思うけどあなた達のせいで街はピリついてるわ 私はそれを鎮めたい その為にアネットを差し出す事を決めたわ」
「・・・え 僕?」
「はぁ!? 差し出すって何よ! いったい何処に差し出すつもりよ! どうしてアネットなのっ!」
「知らないわよ そんなの指名したブランディーゴファミリーに聞きなさい 彼等との間に何があったのか知らないけど アネットにご執心みたいよ? どう言う訳か1対1の勝負を望んでいるわ 面白そうなんで闘技場での決闘をセッティングしておいたわ」
「なっ! そんな勝手にっ そんなの許さない!」
「許さない? 今のあなた達にそれを言う資格があるとでも? 牢屋にいる意味が分かってるのかしら」
「くっ!」
そこを突かれるとぐうの音も出ない。それに彼からすれば文字通り煙に巻かれた訳なんだし、損得よりもプライドで動く彼らしい提案だ。
「分かった 戦うよ・・・」
「ちょ アネット!?」
「僕は戦うとして 皆はどうなるの・・・」
「そうねぇ 通常だったら死罪は免れないわね でも私はハルメリーを手に入れたいの その意味でもあなた達には利用価値がありそうだし フフ・・どうしようかしら」
今のルディアはとても楽しそうだ。街が混乱したにも拘わらず、家に被害が及んだにも拘わらず楽しそうだ。
それはこの先の展開が彼女にとって良い方向に向く事を確信しているからで、それは同時に僕達にとって良くない方向に転がる事を意味する。
それでも死罪よりかはマシなのかな・・・
「まぁそれは追々決めるとして どうせだからあなた達も闘技場に招待してあげるわ この件 あなた達の事も含めて私に一任されているの どう? 凄いでしょう」
「ああ凄ぇよ 凄すぎて涙が出ちまう だがあんま俺等を舐めねぇ事だな」
「フン 凄んだって檻の中から吠えてたんじゃ説得力ないわね でも舐めてる訳じゃないわ 私はアネットに期待してる所もあるんだから」
「期待?」
「ええ マイナス等級のくせにマイナス等級らしくないスキルを使える貴方には一目を置いてるんだから 貴方が本当に特別ならきっと私の役に立ってくれる でしょう?」
「何が特別よ! アネットは絶対に渡さないわ!」
スキルさんを得たのにまだ“精霊さん”を諦めていないんだ。と言うよりそもそも“精霊さん”って人が得られるものなんだろうか。前例だって聞いたことないし。
何と無くだけどそう言う存在ではないような気がする。
でもルディアの心は揺るぎない勝ちを確信してるのかウキウキと弾んでいる。もっとも色合いは綺麗とは程遠い鈍色なんだけど・・・




