385・街からの脱出
前回のあらすじ
街から脱出する際の手安としてスロースは住民を巻き込んだトラブルを引き起こしどさくさに紛れる提案をするがアネット達は難色を示す。しかしジョストンは手間を省きスロースの案を採用するのだった。
「ルンドレン卿! これはいったいどう言う事か!」
「待ってほしいっ まさかうちの私兵がその様な・・・」
「貴公の兵が民衆から金を盗んでいると噂が広まっている それはどうでも良いが 私の荷からもくすねるとは言語道断である! しかし貴公との仲だ 釈明があるなら聞こうではないか!」
「しゃ 釈明・・・ いやぁ待ってほしい 本当に知らなかったのだ!」
お父様は相変わらずトラブルに合うと弱いわね。こんな時こそ威厳を保たなければならないのに。それにしても・・・
何て事! 門を預かる誇り高きルンドレンの兵が、あろう事か貴族から物を盗むだなんて! 長い間特別な地位にいて自分も特別だとでも勘違いしたのかしら! 全くもって弛んでるわ!
でも・・・待って。この街を知る人間がそんなバカな真似するかしら。いいえ・・・こんな不始末をしでかしたら命がない事くらい分かってる筈だわ。
とするとルンドレン家を狙った他派閥の工作?
「ロダリオ! ロダリオは何処!」
「ルディア様 ここに・・・」
「これはいったいどう言う事なの! 状況を詳しく説明なさい!」
「はい 報告によると門番の懐から通行人のものと思われる財布が出てきたり その・・・貴族の荷から紛失した貴金属や宝石類が詰所で見付かったと」
「それは・・・本当なんでしょうね」
「現物をこの目で確認しましたので 残念ながら事実でございます」
不味いわね。これって貴族間の不和を狙った犯行なのかしら。だとしても潔白を証明できなければ私達が罪を被る事になる。もしかして商業派閥の奸計? 此方としてもアーキア人奪って相手組織に泥を塗った訳だし・・・
「それで 詰所で見付かった物はちゃんと確保してあるんでしょうね それが貴族の物なら例え別派閥の物だとしても返さなければならないわ でないと敵の蠢動を許す事になるもの」
「目下 見付かった品々の目録を作り管理する方向で動いています ただ・・・盗まれたとされる品が見付からなかった場合 疑惑の目は我々に向けられるかと」
はぁ~・・・街の門を預かったはいいけど、こう言う場合他責にできないのがネックよね。今回まんまとそこを突かれたわ。
姑息な手段だけど効果は覿面よ。
「・・・財布に宝石 どれも懐に隠して持ち運べるもばかりね 詰所に出入りしていたのはうちの門番だけなのかしら」
「はい 違反者や不審者は常時詰所とは別の部屋で尋問しておりますので 基本兵以外の者が詰所に入る事はありません 幾人かの兵が常駐していますので不審者の侵入があれば気付く筈です しかしその報告も上がってきてはおりません」
「ふぅん・・・となると私達を狙い撃ちって訳 やってくれるわね うちの兵に扮して潜入した可能性は?」
「皆顔見知りですので知らない者が入れば気付くかと ですが最近兵を増員した事もあってルーティンに不備が出た場合 或いは・・・」
「あいつ等が余計な事してくれたせいで・・・ で? 当のアネット達は大人しくしてるのかしら」
「はい 近辺を張らせている者の報告では 集落内で仕事をし住民と語らう程度で これといった目立った動きはないと しかしそれに附随するように幾人か街から出ていく者がいるようです」
「はぁ? アーキア人は私の手駒だからこそ意味があるのに! まさかアネット達がコソコソ動いているのかしら 私の意見にずいぶんと反対していたし・・・有り得るわね」
『心が問題ならアタチがアーキア人達との縁を結ぼうか?』
「・・・そうね それが一番確実かしら でもそれって私が直接出向かないとダメって事よね ・・・めんどくさい」
「それと 公爵家からルディア様宛に手紙が届いております」
「え 公爵家から私宛? お父様への書簡ではなく? ・・・何かしら」
「公爵家専用の封ですが印はなく おそらく正式な物ではないと思われますが 公爵家の使いの者が直接手渡してきたとの事ですので 偽物である可能性は低いかと」
「それが私宛 ・・・何か気味悪いわね」
お父様を差し置いて私に直接だなんて。まさかこれも私を貶める為の罠・・・ 或いは本当に公爵家が私の功績を認めた? 功績を称えられて当然の結果は残したもの。可能性はゼロではないものね・・・カサカサ。
・・・・・・
・・・
「っ! ・・・これはっ」
★
僕達の計略でスプリントノーゼの出入り口を守護するルンドレン家への悪評は瞬く間に広がっていった。
世間を流れる噂の風は、周囲と隔絶されたアーキア人集落内にまで入り込む程の影響を与えている。門を預かる栄誉も信頼が揺らぐとここまで心象を悪くするなんて、貴族が体面を気にするのも何と無く分かった気がした。
でも何と言うかこの街に来る事でルディアとの関係がこうも悪化するとは誰が想像できただろう。僕はただハルメリーにおけるアーキア人の立ち位置やユシュタファ達の窮状を何とかできないものかと思っただけなんだけど・・・
「街の空気が悪いって事は俺等の作戦は上手くいってる事だよな」
「・・・ユシュタファ達のお陰でここから出ていく人もいるし 酷い目に合うアーキア人が減ったのは・・いい事だよ」
「つってもこれは問題を棚上げしただけだぜ 一応ハルメリーを薦めてみたけどよ あっちに行ったからって解決した訳じゃねぇんだからな」
「・・・うん」
「まぁあれだ モンスターと追いかけっこしてた奴等は戦えるスキルさん持ってたし 後は個人の心掛け次第だろ」
「向こうで集落に捕まらなきゃだけどな」
「そうなんだよなぁ 向こうに行ってもこっちにいてもルディアルディアだぜ? 出口になってねぇって」
「そこまで俺等が責任負う必要はねぇよ 行った先でやってけるかなんて結局個人の問題だ それよか決行するなら今がいいんじゃねぇか? 程よく火も燻ってんぜ」
スロースの働きで盗品が門番の詰所から見付かり、ルンドレン家への疑いと「派閥通しの争いか?」と言う見解で街は状況を注視している。
そのお陰もあってか貴族の馬車と印のある荷馬車への検閲はこれをパスする事に成功した。つまり期は熟したと言う事になる。
「荷馬車はネイブラさんが用意してくれるそうよ いよいよ脱出ね」
「御者は俺が務めよう」
「ジョストンさん 名前を消さずに出ちゃって大丈夫なんです?」
「もう一回戻ってから正規の手続き踏めばいい こればっかは他人に任せらんねぇからな 一応聞くが ここで思い残す事はないか?」
「全然ないな」
「はぁ~ やっと不味メシからおさらばできるぜっ」
「マジで出所した気分になるな」
「・・・賭け事から抜けたい人達に最後まで付き合えないのが心残りだけど やり方を浸透させる事はできたし 後は彼等を信じるだけだから 僕達にできる事はやれたと思う」
〔そう言えばスロースは何処に行ったのかしら さっきから姿が見えないのだけど〕
「ああ あいつは一足先に出ていくよう言ってあんだ 本番で足引っ張らない保証もないからな」
「大丈夫なんでしょうね まさか変な事企んでたりとかしない?」
「あいつには俺達に不利になる行動ができないよう行動制限が掛けられてる それは言動全てを制御するものだ 心で何思おうが実際に行動する事はできない」
〔思えはするのね ・・・正直危険だと思うわ スキルだって絶対じゃないもの 抜け道だって何処かにあるものだし 頭の回転が早い人間はそう言う穴を見付けるのが得意なのよ?〕
「まぁな だが心が伴わなきゃ改心は不可能だ 俺達は人を利用しても支配する側じゃねぇ 手緩いのは分かってるが線引きは必要なんだよ」
心は自由。
でも結局のところ動機の源泉は心な訳だし線の置き所は非常に悩ましい。そう思うと他者を信じる事の危うさを否応なしに考えさせられる。
「他人なんざ なるようにしかなんねぇよ そもそも操ろうってのがおこがましいんだ 気持ち悪りぃ」
〔あなたくらい楽観的な方が人生楽しく生きられそうね〕
「ああ!?」
「ミストリアもユシュタファも こんな所で喧嘩になんないで 周りに気付かれない内にネイブラさんの所に行こうよ」
スプリントノーゼはハルメリー以上に人の業が深い。正直ここの空気は僕の肌には辛いものがある。1日でも早く戻っていつもの日常生活を送りたい。
「んで この荷馬車で大丈夫なのかよ 貴族のものにしてはちょっとボロくないか?」
「貴族様が乗られる馬車ならそれなりのものですが 荷運び用の馬車であるなら他と大差ありません 肝心なのはこれが貴族の馬車である事を証明する印ですね」
「それがこんな印章1つで通れるなんてな 簡単に偽造できそうじゃね?」
「でも精巧な造りだから複製にはスキルがいるだろうし 貴族のする事だから他にも何かあるのかもな」
「でも・・・ちょっと心配だな この荷に紛れてホントに脱出できるのか?」
ターヒル達は「常闇の奴隷館」でネイブラさんが用意してくれた荷馬車を前に不安を顕にしている。よほど貴族とは縁遠い外見をしているのだろう。
僕達は自身の命運をこの荷馬車に託して輸送される訳だけど、貴族相手に外見的信頼で武装されてない物に身を任せるのは、彼等の性格を知った今となっては僕としても心許ない。
「気にしすぎだ 他の荷馬車も見たがこれと似たか寄ったかだ 変に小綺麗だとそっちのが目立つ 取り敢えず全員この木箱の中に隠れてくれ」
ジョストンさんに促されて複数ある木箱の中に収まった僕達は、台車から伝わる振動を感じながら門まで運ばれる事となった。




