384・スロース提案の脱出計画
前回のあらすじ
窮地のユシュタファを助けたジョストンが連れてきたのは捕まった筈の元ダクプリのリーダーことスロースだった。ギルドで活用するべくテストとして連れてこられたスロースと共にアネット一行の救出作戦を計画するのだった。
「コイツ本当に大丈夫なの? 絶対何かやらかしそうなんだけど・・・胡散臭い」
自分の家族に手を出した悪党一派の頭目的存在と言う事もあって、奴隷の身分になったとしてもマルティナのスロースなる人物に抱く印象は何処までも懐疑的だ。
彼を連れてきたジョストンさんですら向ける感情は訝しい。
「奴隷紋で行動に制限は掛かってる 好き勝手に動き回れないから その点は安心しろ」
〔そう言う問題ではないと思うわ〕
「手厳しいなぁ 俺達はもう仲間だぜ? 仲間 ちょっとは信用してくれよ悲しいじゃねぇか ハハハ」
人を小バカにした言動と、今も内に宿す淀んだ色はとても信用に値しないけど、彼のスキルがユニークなのは不本意ながら認めざるを得ない。
ランドルフさんが彼を推したのもそんな能力を買っての事だろうけど、同時に中身が黒くて優秀な人間程危険なのではないだろうかとも思う。
利用するつもりが逆に利用されるなんて事にならなきゃいいんだけど・・・
「さしあたっての問題はお前等が門をどう突破するかだ」
「チラっと見てきたけど相当警戒してたわね かなりの数が門の前にいたわ」
「ああ 俺等が入った時も感じた 猫の子一匹逃がさねぇって意気込みがひしひし伝わってきたよ 貴族の沽券に拘わるし手抜かりはないだろうな」
〔名前が名簿に載ってない私達は真正面からは出れないわ 強行突破が無理なら荷に隠れるしかないのかしら〕
「いいや 門の所で馬車の荷も改められてたからなぁ その手も通用しなそうだ」
そうなるといよいよ脱出が困難となる。もうルディアの気が変わるのを天に乞うしかないのかもしれない。
もっとも天が救いたもうこの世なら、初めから悪意の蔓延る世界にはなっていない筈なんだけど。
「だったら騒ぎ起こして脱出するしかねぇんじゃね?」
「それをやったから警戒されてるのよっ」
「ほ~ん まぁ騒ぎつっても質によるけどな」
「・・・スロース 何かいい手でも思い付いたのか?」
「まぁな 思うに・・ここの連中は利己的だ ただ 他人から奪う事しか頭にねぇ連中は 自分から奪われるのを激しく嫌う そこを突くのさ」
内から沸くこの妙な自信は「自分もそうです」と言ってるようなものだけど、自分で理解してるからこそ打てる手もある。もっとも録でもない事になりそうな予感に目を瞑ればだけど。
「・・・具体的には?」
「俺のスキルで門を通る連中の懐やら荷馬車やらの財をくすねる」
「はぁ? そんな事して何になるのよ 余計警戒されるだけじゃない きっとここが真っ先に疑われるわっ」
「落ち着けって 例えばその財が門を守ってる連中の所から出てきたとしたらどうだ 検査と称して盗みを働く連中にテメェのもん触らせたいと思うか?」
〔悪辣ね でも要は彼等に疑いが掛かってる隙に逃げ出そうって訳〕
「でも彼等だって必死な筈よ そう上手くいくかしら 貴族は突っぱねられても私達は一般人 素通りなんてできるかしら〕
「まさか 貴族の馬車を盗むつもり?」
「馬車ごとやる必要はねぇよ ここをフリーパスで通るにはその証明さえあればいい」
「貴族の印章・・・」
「正解 そいつなら丁度手に収まるサイズだろ? それをちょちょいと失敬すんのさ」
「呆れた よくそんな事短時間で思い付くわね」
「お褒めに預り光栄だ」
「褒めてないわよっ」
罪悪感にタガが無い彼の発想はルディアに近いものがある。そんな相手とやり合うなら此方も相応の人材を宛がうのが妥当かもだけど、それを許容するとなると自分もその一員になった気がして後ろめたい。
〔私は賛同しかねるわ その人 自分の事しか考えてないもの〕
「そりゃそうだ 何たって俺は奴隷だからなぁ 待遇改善の為に何だって努力はするぜ? それにテメェの出来る事で貢献するのは当然だろ ギルドだってそれ期待したから俺を使ったんだ だろ? ジョストンの旦那」
「はぁ・・・ 気乗りはしないが 物事には優先順位を付けなきゃなんねぇ時がある 荒っぽいが今回はそれでいく」
〔正気?〕
「ああ だがスロース 行動制限があるからっておかしな真似はするなよ」
「ヘマすりゃ俺が一番ヤバイんだ 下手な事はしねぇって って言っても 不条理な真似した方が実入りはいいんだがなぁ ま 取り敢えず種は仕込んどくぜ 決行したい時にでも合図くれや」
そう言うとスロースは透明な伝書鳩を複数街にばら蒔いた。彼はスキルで見えない伝達網を築き組織を纏め規模を大きくしていった来歴がある。
認めた訳ではないけれど、このスキルと人間性が特定の人達を惹き付けたんだろう。つまりスキルの信頼性と言う意味では心強くはある。もちろん善悪は別として・・・
「そう言やユシュタファに聞いたんだが ここのアーキア人達に外に出るよう促してるんだって?」
「え? ええ 何だかここの人達って奴隷から解放されても本当には解放されてないって言うか 何したらいいか分からないみたいな感じで 人として疑うような行為をさせられても平気で従ってる気がしたので・・・」
モンスターを誘き寄せる餌にされたり処刑の片棒担がされたり薬の実験台にされても彼等はそれを疑わない。外には自由が広がってるのに人種と言う壁からか自分を諦めてしまってる嫌いがある。
背中を押すよう対話はしてるけど手応えがあるような無いような・・・どうにも霞を掴んでる感じで実感がない。
「そりゃ根っからの奴隷だからだろ 性根にこびりついてんのさ 結局搾取する側とされる側なんよ それに気付けねぇで与えられるもんに満足してる内は抜け出せねぇわなぁ」
「・・・・・」
言い方は兎も角スロースの言う事も一理ある気がする。報酬と居場所と娯楽と言う蜜が与えられ、欲求が満たされ続ければ外に目を向ける必要もない。管理と言う立場上貴族の狙いもそれなんだろう。
じゃあその篭から出るにはどうすればいいか。
「探求心・・だよね 興味が外に向かない以上人は同じものを見続けるから ここ以外にも自分を満たしてくれるものもあるって分かってもらえれば きっと自分の足で歩いていくんだと思う」
「ハッ 相手はあのアーキア人だぜ? 外に出たって幸せなんか待ってねぇっての 明らか『外見上の違い』があんだから 何処まで行っても棘の道なのは変わんねぇよ」
「そんな事ないわ! ユシュタファ達とは上手くやってるもの!」
「そりゃ個人通しの付き合いならな 俺だって連中とは上手くやってたぜ? 薬でたんまり稼がせてもらったしよ だが集団となると話は別だ」
人種に限らず組織や国の違いでも諍いが起きてる訳だからスロースの意見を「無いもの」と一蹴する事はできない。
そう考えると「◯◯の言う事だから」ではなく、善悪交えずまずは話を聞く柔軟性「気付き」が双方の距離を縮めるとも言えるけど、現実はそれを望まない人もいる。何にせよ「違いの認識」が壁の一枚目を担っているのだろう。
壊すか守るか。
たぶん全ての生き物にとっての命題なのかもしれない。
スロースの撒いた種が芽吹いた事でスプリントノーゼの街は静かにでも着実に空気がピリついていった。
「物が失くなった」そんな現象が各所で起こり言い争いが周囲を騒がしくする。「誰がやった?」「盗まれた物は何処にある」「きっとアイツの仕業に違いない」
普段の人間関係がここぞとばかりに爆発し、それはアーキア人にまで向けられるようになっていった。
もちろんこの騒動の発端は街の人間でもアーキア人達でもなく僕等なんだけど。彼等の大切な物は時が来るまで地下の通路に隠してある。当然全部返すつもりではあるけれど街が街だけに当人にきちんと戻る保証もない。
「おいアーキア人共! お前等が盗んだんじゃないだろうな!」
「何の事だ 俺達は何も知らない!」
「そうだ! 疑うならここを全部調べたらいいじゃないか!」
「調べるまでもねぇ どうせお前等の仕業に決まってる!」
そんな事は彼等も分かっているのか鬱憤でも晴らすかのように弱者へと怒りをぶつけていた。このまま臨界点を突破すれば無実の人間の命が消えかねない。
もうここいらが潮時だろう。
「見ろよ これが人間の本性ってやつだぜ」
「普通自分の物が失くなれば誰だってこうなるでしょ ・・・すっごい罪悪感感じるわ」
「そろそろ頃合いか スロース 例のもの手に入れたんだろうな」
「抜かりはねぇよ ほら・・・貴族の印章だ しかも公爵家のな」
スロースはこれ見よがしに懐から印章らしきものをチラつかせてきた。以前ルディアが手にしていたものと大体同じくらいなので本物なんだろうけど。
何と無く引き返せない所まで来た感じが僕の胸を締め付けた。
「・・・ねぇ これバレたら首が飛ぶやつじゃない?」
「だろうな」
「ハハハ これぞ冒険ってやつだな」
こんな行為を冒険なんて名で呼称したくはない。それにしてもスロースは泥棒としても大成してただろう。そんな人間が巡り巡って僕達と共闘してるだなんて、冒険者に憧れてた頃の自分は想像できただろうか。
過去の自分が今の僕を見たらどう思うだろう。助かる為に他人を犠牲にしてるんだから今の僕は確実に悪党だ。




