381・逃れられない場所
前回のあらすじ
集落内での生活を始めたアネット達。しかしそこは思った異常に環境が整っておらず、生活とは無用の賭場だけが貴族の意向で建てられていた。
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【オフェリナ叔母さんへ────】
体調にお変わりないですか 僕達は仕事の関
係でもう暫くスプリントノーゼに滞在する事
になりそうです マルティナもミストリアも
変わりなく元気にやっているので心配しない
で下さい
追伸:ソフィリアの事が心配です 僕達が居
なくて泣いていないでしょうか 帰ったら沢
山かまってあげたいです
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「これでよし ではお手紙お願いします」
「承りました・・・しかし本当に宜しいのですか? 私共を頼って下されば住居の手配くらいはできますのに」
「いえ 皆とも話したんですけど 僕達はどうも貴族に目を付けられたみたいで 拘わるとネイブラさん達にも飛び火する思うので こうして家族に伝書鳩を飛ばしてくれるだけでも有難いです」
僕は家族に手紙を出す為「常闇の奴隷館」に来ていた。当初は1週間くらいで帰れるものと思っていたけれど、気付けば伝書鳩を飛ばさなければいけない程度日数が経っていた。
しかも今回はギルドからの正式な依頼を受けたと言う訳でもなく、ギルドからしてみれば単純に顔を出さなくなった冒険者枠になっている筈。ポリアンナさんにも心配掛けちゃうな・・・
「・・・やっぱりギルドにも手紙出しといた方が良いですよね」
「そうですね 新人の方となるとやはり心配されるでしょう もっともベテランともなれば長期の護衛で年単位と言う方も居られますが それでも連絡は欠かさないそうですよ」
「年単位ですか・・・ちょっと想像つきませんね」
年単位・・・僕がやるにはまずソフィリアがちゃんと自立してからだろう。でないと絶対泣いてしまう。ネイブラさんにお礼を言って店を出た僕は人目を気にしながらそそくさと集落に戻った。
この街のスラムはハルメリーの旧市街に負けず劣らず建物が密集している。けれど貴族の思惑がその一角を何も無い空間へと変えた。
そこに移転し最初こそ小屋が何軒か建つのみだったけど、お金が流入してからは暗い雰囲気も変わって賑わいのような明るさが差している。
まず配給に並ぶ人が減った。薄味配給食から逃れる為に皆露店に行くようになったからだ。そのお陰もあってかアーキア人の気持ちも前向きになってる感じがする。
そして彼等の精神をもっとも支えてるのがもう1つ・・・賭場だ。
賭け事はアーキア人達に盛況らしく足しげく通う人の出入りでその周辺だけは熱気が異様だ。せっかく稼いだお金を貯めとくとかしないのか不明だけど、ホクホクしてる人もいれば気分が氷点下になって出てくる人もいる。
「はぁ・・くそっ あそこでサイコロ振っときゃ勝てたのに・・・っ」
「ハハハ ついてねぇなぁ~」
「お前こそ配給食ってる時点ですっからかんだろ!」
僕達のいるテーブルの隣に、賭場でスッたアーキア人達が愚痴を溢しながら薄味配給食を食んでいた。
何故彼等は負けても通い続けるのだろう。そんな疑問がふと頭に過った時には自然と彼等に話し掛けていた。
「あの せっかく汗水流したお金を賭け事に費やしてしまっていいんですか?」
「子供にギャンブルの楽しさは分からないだろうなぁ」
「負けてちゃ楽しくもないけどな」
「バッカ そんときゃ勝って増やしゃいいんだよっ そこが熱いんじゃないか」
「つまり賭け事って遊びの範疇って事なんですね」
「違う! 勝負だ勝負! 生活を支えるお金を擲っての博打なんだ これを勝負と言わずに何と言うっ」
「はっ 手段が目的になってやがる 博打の為に生きる人生に何の意味があんだよ 快楽に私財投じるなんざバカだぜバカ」
「ハハハ 酸いも甘いも噛み締めてこその人生だ 娯楽がなゃそれこそ呼吸する為だけに生きてるようなもんだろ」
「ま お前さんの言いたい事も分かるが 死んだように生きるよりかマシではあるな」
〔趣旨と趣向の違いよね 結局人生を何に投資するかだわ 最初から向いてる方向が違うのだから分かり合える筈がないのよ〕
う~ん・・・何で彼等がこの街に捕らわれてしまったのか分かった気がする。たぶん他の人達も似たか寄ったかなんだろう。
彼等が救われないのはアーキア人だからとか奴隷だからではなく、歪な志が思考を停止させて泥沼を徘徊してる事にも気付けないでいるからだ。
負けても次取り返せばいい。そんな考えが抜け出せない大きな要因となっている。これはもう病気を疑うレベルではないだろうか・・・
そんな集落でも幾日かすると段々形もハッキリしていった。薄暗かった雰囲気も鈍色から淡い色合いとなって、ようやっと「生活圏」と言える様相を見せ始めた気がする。
これまで日陰を歩かされていたアーキア人もお日様の光を浴びる事ができた訳だけど、一方僕達の現状はあまり芳しくない。
「ねぇ・・・私達はいつまで配給に頼ってればいいのよ ルディアから支給が貰えるんじゃなかったの?」
「・・・ユシュタファ達は給金貰ってる?」
「いいや タダ働きだ お前達は奴隷なんだからご主人様から褒美を貰え・・・だとよ 足元見やがって」
〔ちょっと文句言ってこようかしら〕
「止めとけ止めとけ どうせ相手にされねぇよ それよか媚びた時点で俺達の負けだぜ 絶対受け取らねぇ」
「そうは言っても毎日薄味は萎えるぜ あと量も」
「せめてもう一品欲しいよな」
残念ながら今の僕達は生き生きと生きていると言うよりは生かされている状況に近い。
マルティナの話によればアーキア人達は着ている服にも変化があるそうで、それに引き換え僕達は働けど働けど代わり映えしない。
もっとも身分を偽り弱味まで握られてた挙げ句、隅に追いやられてしまっては身動きもとれないのだけど。
もしかしたら紋に関係なく本当の意味での奴隷になってしまったのではないだろうか・・・
「はぁ~・・・」
抜け出せない現実にため息をつくと不思議なもので、僕と同じような境遇の人がこの見えない目についた。
そう、賭場からガックリ肩を落として出てくる人達だ。
考えてみれば負けるかもしれない賭け事から抜け出せない人間も逃れられない奴隷と同じではないか? それでも「次こそは勝つ」の意気込みで賭場の暖簾を潜るのだから度し難い。
ルディアの言った通り、生かさず殺さず絶妙な具合で搾り取られてるんだろう。通い詰める人は「何故そこにそれが存在しているのか」について疑問を持たないらしい。
下手すると娯楽の提供は頑張ってる自分へのご褒美とまで思っていそうだ。
「ん~・・あの人達どうにかできないかな」
「あ? バカがバカやって自滅してるんだ 救いようのないバカに拘わるだけ無駄だぜ」
「かもしれないけど このままルディアの思い通りって言うのも何だか癪かなって」
「まぁな だったらいっそ賭場でも荒らすか?」
「相手が運じゃなくてイカサマとかしてるならやりようもあるけど そうじゃなくて もっと根本的な部分に手を突っ込めないかな」
「根本的?」
「うん 賭け事が成立するのはゲームをする人がいるからだから やらない人をつくればいいんじゃないかなって」
「・・・それができりゃ賭けで身を落とす奴は出ねぇよ 正論かましたって連中には右から左だろ」
「無作為に声を掛けるんじゃなくて 賭け事を止めたいって思ってても止められない人を探せばいいんだよ」
「そんなんどうやって見付けんだ」
「それは僕とミストリアに任せてほしいかな このままの毎日を送っててもきっと飼い殺しにされるだけだろうし そろそろ行動に移してもいいと思うんだ」
「で ささやかな抵抗って訳だ」
「ユシュタファもさ 闘技場の方で違う生き方をしたいって人いたら声を掛けてみてよ 最初からダメって決めつけるんじゃなくて ちょっとづつでも変われるって分かれば 立ち上がる人もいるかもだし」
「・・・抵抗勢力ってやつだな ま バカ共には興味もねぇがやる価値はあるか いいぜ 乗ってやるよ」




