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380・集落建設

前回のあらすじ


公爵家から帰ったルディアの心境に変化があったのか、アネット達を煩わしく思ったルディアは彼等を屋敷から追い出し半ば強引に仕事を押し付けてしまう。

 今僕の居る場所にドドドドドド・・・と地鳴りのような音が遠くから届いた。何日か前からこの音は街中に響いている。


 そう・・・モンスターを見世物とした新たな闘技場建設の音だ。



「ハルメリーの外壁もそうだけど 土魔法って本当に何でも造れちゃうんだね」


「そうね そんな何でも造れるんならこっちも造ってくれたらいいのに 魔法使いが造ったのはあの一軒だけ・・・ あれ きっと賭場よね」


「マルティナ 魔法使いが手伝ってくれたのは賭場だけじゃないよ 廃墟のスラムをさら地にしてくれたお陰で僕達の作業もしやすくなったんだ ・・・そう言う事にしとこう」


「・・・そうね」



 目には写らないけど僕の周りは開けた空間になっている。そこにトンカントンカン大工道具の音が絶えず鳴り響いていた・・・アーキア人達だ。


 自分の住処は自分で建てろ。つまりそう言う事らしい。


 彼等が苦役に勤しむ中、賭場から暇そうに作業を眺めてボーッとしている人達が何人かいる。たぶん派閥組織の一員だろう。こんな何もない空間でさえ世界は二分されていた。


 一方のアーキア人達はどうかと言うと自発的に来たのか連れてこられたのか分からないけど、彼等の感情は不安と不満と虚無感とでみんな同色に染まっている。


 自分達の居場所の為に動き続けなければならない・・・そんな思いが能動的に体を酷使させているんだろう。


 カァン・・・コロコロ・・・



「ふぅ まさか薪割りの経験がここで活きるなんてね」


「冬本番はこれからなんだし 薪はまだまだ必要だものね」


「おい 薪係り! 薪足らねぇぞ! さっさと作れよスッとろいな!」


「は はい・・・」



 僕なりに一生懸命にやってるつもりでも需要に供給が追い付かない。もっとも口汚くせっついてくるのは賭場の人達なんだけどね。



「何よ! 寒いなら作業手伝えばいいじゃない!」


「マルティナ 今は黙って作業に集中しよう 僕達は今奴隷なんだから・・・」


「むぅ・・・釈然としないわねっ」



 奴隷と言っても本当に奴隷になった訳でない。事情を話してネイブラさんに奴隷紋に似せた印を描いてもらっただけのなんちゃって奴隷に扮している。


 商業派閥の目も怖いので僕とマルティナとミストリアの3人は奴隷紋のみならず変装も目下継続中な訳だ。


 少々自虐的だけどマイナス等級の奴隷と言う身にやつしていればここにいても怪しまれない。



「ミストリア大丈夫かしら」


「大丈夫だと思うよ? 何かあっても大抵押し流しちゃうからね」


「まぁ かなりふくよかな体型から 只のふくよかな体型になってもあの見た目じゃ 手を出そうなんて不埒者はいないでしょうけど この街にはおかしな趣向の持ち主も多そうだからね」


「否定はしないどくよ」



 ミストリアは作業員達を回りならが水の配給に勤しんでいる。そして驚くのはそれだけじゃなく、作業員のかいた汗を体と服から取り除く作業も平行して行っているのだ。


 冬場の汗は冷えると体温を奪う。これだけでもかなり感謝されてるようでアーキア人達も何とか自制を保っている。


 それともう1つ。彼等もスキルさんは保有してるので、工夫して作業を行えば例え専門職じゃなくともやってやれない事もないのが多少の追い風にもなってはいる。


 そんなこんなで何とか家の形にはなったらしい。



「まぁ掘っ立て小屋だが無いよりはマシだろう」

「まさか冬場に作業する羽目になるとは思わなかったけどな」

「住んで都にするしかないさ 奴隷って身分からは解放されたんだ」

「どうだかな 怪しいもんだ」



 自由を奪う鎖から解き放たれても街への疑いが晴れた訳ではない。重労働を強いて民族を一ヶ所に押しやる事で、新たな牢獄と感じてるアーキア人は殊の外多そうだ。



「おう 帰ったぞ」


「あ お帰りユシュタファ そっちはどんな感じ?」


「結構本格的だな 内装はこれからだけど施設としては機能できるんじゃねぇか?」


「新しく外壁に手加えて出入り口まで作って 見応えはあったけどな」

「にしても 一度手を切った筈の薬から逃れられないとか 因果かよって話だぜ」

「でも悪評たってもここの貴族が全部被るんだろ? もう関係なくないか?」

「処刑を見世物にする連中だぜ? 都合が悪くなったら擦り付けるくらい平気でやるだろ」


「町の様子ってホント首長1つで変わるのね」


「ハルメリーもそう変わんねぇよ 俺等の視点から見りゃぁな んな事よりも いつになったら解放されるかだろ そっちのが怪しいぜ」


「ルディアが満足するまで・・・じゃない? 彼女の欲の坩堝の中は 真っ暗で底無しに見えるけどね」


「これ 本格的に逃げる事も考えた方がいいかもな」



 先行きは暗そうだ・・・


 けど今日の寝床を確保できたのは有難い。僕等の薪割りの成果と言えよう。今夜は充てがわれた部屋で暖を囲って皆で平和に寝れそうだ。いつもと違う日常と言うのもこれはこれで悪くない。


 そう思う事にしよう・・・


 翌朝──────


 カンカンカンカンカン・・・!


 と、金物を叩く音で僕は目が覚めた。一応毛布の支給はあったけど、この一枚で冬の寒さを凌ぎきるには心許ない。



「配給の時間だ! 起きろ起きろっ! 貴族様からの頂き物だ! 朝だぞー! 起きろー!!」



 小屋の外から聞こえてきたのは朝食の時間のお知らせだった・・・朝は朝でも何だかスッキリとしない。どうやら誰に起こされるかでも気分は変わるらしい。


 身支度を整えて表に出るとズラリと淀んだ同系色が既に列を成して滲んでいた。嫌々ながらも行動が早いのはファミリーにいた頃の名残だろうか。文句1つ出ない辺りよく仕込まれているらしい。



「ぶぇ・・・まっず・・・っ」



 配給食を一口含んだユシュタファの第一声はそれだった。僕も続いて食べてみるけど薄い。薄味と表現できる味より薄い。


 配給をしてる人は食事を配る際に「今日もしっかり働けよ!」と檄まで飛ばしてくれる優しさだけど、内心冷めた感情でよそられる食事は体を表すように冷めていて薄味だ。


 これでは心が暖まらないので元気も出ない・・・


 食事が終わると他から来た派閥の人と思われる数人が唐突に仕事の募集を始めた。



「10名ほど仕事の募集をする 誰かいないか」



 シーン・・・


 いきなり来てそんな事言われても怪しさ満点のお声がけに飛び付く物好きはいない。みんな懐疑的にこの様子を窺っている。



「給金もきちんと支給される 露店で飯が食えるぞ どうだ いないか 早い者勝ちだ」



 給金と聞いて目の色ならぬ心の色が変わったアーキア人達はこぞって名乗りをあげ始めた。もしかしてこの配給の味付けはワザと? だとするならあざとい・・・



「おい そこのアーキア人 ユシュタファと言ったか お前達はこっちだ」



 仕事の締め切りと同時にユシュタファ達にも声が掛かった。どうやら闘技場からの募集みたいだ。内容も聞かずに挙手した人はモンスターに追われる事になるってきっと分かってないんだろうな・・・


 仕事の募集はその後もちょくちょく続いて数人づつ何処かへと連れていかれた。人数分の小屋もまだ完成は見てないみたいだけど、みんな自分の食いぶちが大事なようで、未完の集落には数人が取り残されるのみとなった。


 さてそうなると・・・


 人とは不思議なもので数が有利と見るや隠れていた内面が表に出る人もいる。



「おいお前 薪はもういいぞぉ」


「え・・・まだ足りないと思うんですけど」


「俺がいいって言ってんだからいいんだよ それよかこっち来い」


「・・・何でしょう」


「へへ お前盲目なのに可愛い顔してんじゃん・・・」



 ぞわっ・・・!


 下卑た色した男に人に呼ばれて行ってみれば、僕を女の子と勘違いしたのか不躾な手が遠慮なしに臀部(でんぶ)を撫でてきた。



「ひっ! あの 僕 男 です・・・」


「はぁ? そんな可愛いナリした男がいるかよ」



 そうでした! 変装中でした! どうしようこの人・・・本気だ。


 パァンー・・・!



「ぶふぇっ! なんっ・・・!」



 男の子の僕が男の人に襲われそうなったところで飛来物が僕の顔のすぐ側を通りすぎていった。それは強姦未遂犯の顔面に直撃すると威力を証明するような衝撃ではぜた。


 パァン! パンパン! パァーン・・・!


 それから連続して悪漢を駆逐するべく清らかな水の塊が、正義の鉄拳の如く男の人に浴びせられていく。お陰で痛みと水の冷たさと冬場の寒さのトリプルダメージが終に男の人を地に沈めた。



「てめっ 俺にこんな こっ───」

 バァン!!


 ドサッ・・・



〔アネットが可愛いのは認めるけど 彼のお尻に触っていいのは私だけよっ〕



 そうなの? 初めて知ったけど兎に角ミストリアに助けられる形となった訳だ。けどこの声の人って確か賭場の人だよね。


 後々変に目を付けられなきゃいいんだけど・・・





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