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379・アネット天秤に掛けられる

前回のあらすじ


“裁縫さん”と契約を果たしたルディアは前回失敗した貴族達と対談し見事説得に成功した。しかしその内容にアネット達は不安を抱えるのであった。

「きた・・・ついにきたわ! 公爵家からお呼びが掛かったの!」



 貴族達との謁見から幾日か経ったとある日の昼下がり、心を紅潮させたルディアがルンルン気分で僕等の所にやって来た。


 本人にしてみれば野望に一歩近付いた事に手応えを感じてるんだろうけど、僕からしてみれば手放しには喜べない。



「えぇと 良かったね そこで話が纏まればアーキア人には人権が与えられる・・・って事だよね ・・・やらされる事は別として」


「・・・やっぱり納得できないわ いくらなんでもあんまりよ」


「志の問題だな 日頃から自分ってものに芯がないからブレるんだ ブレるから誰かに救いを求めんだよ」


〔あっさりしてるのね ユシュタファはもっと憤慨すると思ってたわ それで いつ頃会いに行く予定なの? 準備もあるから早めに教えてくれると助かるのだけど〕


「はぁ? 格上の貴族相手にあなた達を連れてける訳ないでしょ 謁見はお父様がなさるわ もちろん私も同伴するけどね」


〔そう 貴女が力を持つ事で商業派閥がハルメリーに手出しできないようになるなら何でもいいわ〕


「任せなさい 今後はこの私がしっかりとあなた達の管理してあげますからね」



 モンスターを飼い、ギャンブルを持ち込んで処刑を劇に見立てる思考の彼女が管理するハルメリーとか地獄では・・・ もっとも他領なのでそんな自由は許される筈もないのだけど残念ながらルディアには実績がある。


 下手に評価されると本当に掌握されそうで正直町に居られるだけで不安だ。



「それじゃ明日にでも謁見する事になると思うから 留守中はいい子にしてなさいね」



 そんな彼女が公爵の元に出向いてる最中、僕達は伝書鳩を使ってハルメリーに近況報告(詳しくは話せないけど)をしたり鬼の居ぬ間に束の間の平穏を満喫したりした。





 謁見から帰ってきたルディアの心は晴れ晴れと晴れ渡っていた。まるで世界に祝福でもされたかのような幸福に満ち満ちている。どうやら話し合いは双方円満に終わったらしい。


 でも水をピチャリとさせたミストリアの感情は固い。



〔貴女 公爵家とはどんな話をしてきたの〕


「そんな事言える訳ないでしょう?」


〔言ってらうわよ もう私達は無関係じゃない この原因を作ったのは私達なんだから〕


「・・・そう そうね 聞いてもらうのも一興かもしれないわね どうせ止められないんだし 結論から言うと上手くいったわ ここのアーキア人達は公爵家派閥の一員に数えられる 今後区画を与えられて暮らす事になるわ」


「ん? それは良かったんじゃない? 正式に居場所が与えられるって事なんだし」


「彼等は私が提案した仕事に就いてもらうのは当然として 定期的に何人か選別される事になるわ」


「選別? 選ばれると何かあるの?」


「ええ 公爵家が誘引剤から新薬を作るって話はもう知ってるわよね 彼等にはその治験に協力してもらう事になるわ」


「それって・・・人体実験って事!?」


「治験よ治験 もちろん彼等だけじゃなく街の治安を著しく脅かした人間にも同様に適用されるわ 街が街だし 被験者には事欠かないでしょうね」


「頭おかしいんじゃない!? 人を実験に使うなんてっ そんなの間違ってる!」


「スプリントノーゼでは公爵家が法で正義なの つまり派閥に属する私が正しいの それに安全で克つ効果があって信頼のおける商品を提供するのは事業者としての義務でしょう?


 間違いを犯す事しか能のない犯罪者が社会に貢献できる唯一の手段じゃない もしかして世の中全部綺麗なもので作られてるって思ってるのかしら?」


「っ! ・・・だからって そんなの聞いたら黙ってられないわ!」


「じゃぁどうするの 抗う? ルールに歯向かって平民の貴女に何ができるの 理解しなさいよ 結局みんな供給の奴隷なのだわ」


〔そうね 言い得て妙とはこの事かしら 爵位って賜り物も結局のところ供給物ですものね〕


「ふん! その賜り物すら失った貴女の言葉に重さなんかないのよ 精々外で囀ずってなさい」



 ★



 生意気! 平民のくせしてこの私に口答えとかあり得ないわ。貴族家の人間である私と繋がりがあると思って気が大きくなってるのかしら。だとしたらとんだお笑い草ね。勘違い。哀れだわ。



『あの子達 アタチのスキル通用しない』

「・・・そうね 後々弊害になりそうな気がするわ」



 でもアネットは惜しいわね。スキルを手にしたから分かる。この異常な能力のその上をいくあの少女がどうして彼に執心したのか。


 ますます気になるわ。気になるけども・・・



「ねぇあなた 精霊さんってほんとに居ると思う?」

『・・・噂話聞いてても会ったって言ってる子はいないかな?』

「そう 精霊さんは気になるけど私が今やらなきゃいけないのは目の前の事よね 地位さえ手に入れば精霊さんなんて後からいくらでも探せるんだし 何ならアーキア人共を何人も送ったっていいんだし・・・ だったらアネットである必要も・・・」



 そうね。まずは足場を固めるところから始めないといけないわ。実績を重ねて上に上がっていって逆らえる人間が減れば好きにできる。


 好きな事をする為に今努力をするのは何も間違った事ではないのだもの。所詮社会なんて椅子取りゲームみたいなもの。勝てない奴が悪いのよ。


 そう・・・勝利こそ正義だわ。



「やる事が決まったわ アネット達にはたっぷりと働いてもらいましょう」



 ★



「はあ!? 何で俺達がそこまでしなくちゃなんねぇんだよ」



 公爵家から戻ったルディアの心境に変化があったのか、僕達へ向ける感情に冷めた箇所がチラホラ見え隠れするようになっていた。


 言動にも無関心と言うか、煩わしいと感じる部分が誰の目から見ても分かるくらいには表れている。



「闘技場と集落は公爵家の後押しで急ピッチに建造されてくわ 側だけなら1日2日あればできるんじゃないかしら そこでアーキア人達の指揮はユシュタファ達にとってほしいのよ」


「つまり俺等に誘引剤を使えって言うのかよ 100歩譲って連中が使う分には文句はねぇ だが俺等にそれをやらせる意味を分かって言ってんだよなぁ?」


「意味? あなたにはあっても私には無いわ あなたこそ分かってる? この街に入る時 名簿に記入してないわよね 名簿に名前が無い人間は基本的に侵入者扱いよ?


 でもその侵入者は保護する者がいるから許されてるだけで 彼等・・この場合私だけど その庇護が失くなった途端あなた達は全員犯罪者になるの」


「無茶苦茶だわ!」


「これが権力の使い方よ どうせモンスターを引っ張ってくるのに外に出るんだからそのまま逃げても構わないわよ? 名前が無いんだし お友達を置いて平気でいられるんならね」


〔学園の外に出て少しは変わったと思っていたのだけど 腐った芯は外に出た程度じゃ治らなかったみたいね〕


「その文句は私に言っても仕方ないんじゃないかしら 私はただ社会のルールに従ってるだけよ 腐ってると言うならこの社会が腐ってるんだわ そう・・社会が悪いのよ」


唯々諾々(いいだくだく)と従って迎合して ああ確かに やっぱテメェも奴隷だな」


「言ってくれるじゃない だったらその奴隷の言う事を聞かざるを得ないあなた達って いったい何なんでしょうね」



 ルディアは僕等と言い争う内に完全に此方を蔑む色になっていた。これでは出会った当初、他の生徒を見下していた頃と何も変わらない。


 結局権力を手放せなかったからこうなったんだろう。でも権力がなければ回るものも回らない。これも匙加減って言うんだろうか。難しい・・・



「アネット達にも楽しい労働が待っているわ あなた達はアーキア人の集落に行ってそこで過ごしてもらう 多少のお金は工面してあげるけど後の事は自分達で何とかしてね?」


「なっ! 何それ!」

「マルティナ いいよ いいから従おう」


「アネット! ・・・ ・・・分かった」



 どうやら僕達はお払い箱になったらしい。たぶん彼女のスキルさんの影響じゃないかな。僕もミストリアも相手の内面を覗き見れるのと同じように“裁縫さん”にも似たスキルがあるんだろう。


 それとも才能を得た事で逆に周りが見えなくなっただけなのか・・・


 何にしてもユシュタファ達は新たに建造される闘技場の演し物に使われるモンスター確保の為に外へ。


 僕達はアーキア人達の新たな住居空間に放り込まれる事となった。状況を変えてくれる何かが川上から流れて来てくれるのを切に願うけど、この街には悪意の塊しかないように思う。





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