378・裁縫さん
前回のあらすじ
自身の野望の為、派閥貴族を説得しようと乗り出すルディアだったが力不足で悉く失敗に終わる。物事が上手くいかないルディアは癇癪を起こし自室に閉じ籠ってしまうのだった。
失敗よ! 失敗だわ! ・・・ここが学園じゃない事は分かってる。でももう少し手応えあってもいいじゃない! これじゃ計画が前に進まないわ・・・
「どうしていつもいつも あと一歩が上手くいかないの・・・!」
『アタチだったら上手く纏めてあげられるよ?』
「っ!? ・・・はぁ またあなた 私の周りをうろちょろして 裁縫さんに用はないのっ 前も言ったでしょ」
『アタチの糸は人と人との縁を結ぶよ?』
「私が欲しいのは利益よ利益!」
“魔物さん”を連れた少女から解放されて学園に戻った辺りからちょくちょく周りで見掛けるようになったこのスキルさん。
“裁縫さん”は目的のない女子の周囲に寄ってくると言われる、貴族の間では「お人形」の比喩として忌避される存在なのよね。
冗談じゃないわ! 私にはやらなきゃいけない事があるの! 目標があるの! あなたとは対極なのよ!
「生憎と私はお人形になるつもりはないの 他の娘のところに行きなさい」
『盲目の男の子と喋れない女の子 スキル使ってた』
「・・・そうね マイナス等級のくせに 珍しくはあるわね」
『違う 貴女がお話ししてた最中だよ』
「はぁ? ・・・何を言ってるの? スキルなんか使ってるように見えなかったけど って言うかずっと見てたの? ほんと神出鬼没ね」
『アタチ達は何処にでもいるよ? あれは感覚的なものだよ たぶん相手の事が分かるスキルじゃないかな』
「・・・は? 何よそれ そんなの聞いた事ないし」
『欲しい? アタチの糸は人と人との縁を結ぶよ?』
「待って・・・ちょっと待って じゃああいつ等 私が貴族との会話で苦慮してる最中楽してたって事? そんなの聞いてない いいえ 先に言うべきじゃない!」
どうりで協力的だと思った。隣で私を嘲笑っていたのね・・・もしかして私を嵌めるつもりなのかしら。学園の仕返しに? でなきゃこんな手の込んだ事する筈ない。
ユシュタファの仕事に付いてくるって言った時から? ・・・いいえ、もっと前から企てた?
まさか・・・私が“魔物さん”を連れた少女に協力してた事を恨んで? それとも冒険者ギルド・・・いいえ、もっと上の貴族が私を罰する為に動いてる?
どうする・・・どうしよう・・・
「あなたなら・・・この状況 何とかできるって言うの?」
『貴女の本性に布を被せて取り繕えばいいんだよ アタチなら色んな形 作れるよ?』
「・・・ ・・・いいわ 背に腹は代えられないし あなたの目論見に乗ってあげる ただし損させたら許さないからね」
★
「『おはようございます 今日も良い朝ですわね』」
数日ぶりに部屋から出て来たと思ったらこの子・・・何か雰囲気変わったかしら。違うわね、妙な違和感がある。何かしら。それに傍らにいるスキルさん・・・
そう、ルディアもスキルさんと契約したのね。これはそのせい?
〔おはよう もう平気なの?〕
「『もちろんよ この前は不甲斐ない姿を見せてしまったけど もう大丈夫 これからは歴とした淑女として節度ある振る舞いをしていくわ』」
〔・・・〕
分かった。この不自然さの正体は言葉と表情の不一致ね。いけすかない相手にしかめ面しながら言葉をひり出してるものだから・・・ これでは逆に悪印象だわ。
「『それよりも 今日はまた3名の殿方に会いに行くので身支度を済ませておいて下さいね』」
〔それよりも またあの3人に会いに行くから とっとと準備済ませておきなさいよね!〕
スキルさんが表でルディアが裏。まさしく本音と建前って感じかしら。ある意味お似合いね・・・褒めてはないけども。
〔なる程 裁縫さんに言葉を肩代わりさせてる訳ね〕
「な! 何で分かったのよ!」
〔表情と言葉が揃ってないのよ 丁寧語で人を蔑む顔をされては嫌味にしか受け取れないわ まぁそこは練習するしかないわね〕
「~~~! ちょっと! バレちゃったじゃない!」
『それアタチのせいじゃない』
「まぁいいわ 顔ね顔・・・ それさえ気を付ければ何とかなるわよ もう取り繕う必要もないんだし それじゃとっとと樽になりなさいっ アネット! アネットは何処!? 出掛けるわよ準備してっ!」
素の部分が悪化してるわね。彼女と拘わる学園の子達が気の毒だわ。人前で演技は必要だろうけど才能に溺れて自滅してくタイプの典型を見てるみたい。
「────ほう それで妙案があると」
「『ええ 私は然程関心がありませんでしたけど 以前闘技場は趣向を凝らした見世物をしていたとか』」
「趣向・・・ああ モンスターか 確かに受けてはいたが・・・問題もあってな」
「『存じております モンスターが暴れて被害が出たとか・・・ 魔物さん アレが悪さをしたせいで御座いましょう?』」
「! それを・・っ ・・・知らぬ筈もないか 亡くなったプルトンの置土産 そのせいでモンスターの餌食になった者が多数出た それ以来その手の興業は鳴りを潜めたがね」
「『ならばもう一度当時の再現をしてみては如何がです?』」
「バカな 失敗を繰り返す気かね」
「『あれは魔物さんのオイタのせいですわ 今度は完全に人の手で・・・ね?』」
「可能なのか? そんな事が・・・」
「『できますとも だって公爵家にはアーキア人が作ったとされる誘引剤があるのですから』」
「・・・確かに 理論上可能ではあるが 薬にアーキア人 駒は揃っている つまりモンスターの調達を彼等に任せればいい・・・そう言う事だな」
「『ご明察です 我々はモンスター専門の闘技場を新たに建設すれば良いのですわ 全てのアドバンテージは此方にあるのです やらない手は御座いません』」
「そう だな・・・なる程なる程 分かった 私からセルマレイ卿に具申してみよう」
凄いわね・・・本当に貴族を説得しちゃったわ。裏でどんな事喋ってたのか敢えて見なかったけど、これならアーキア人を1組織にする事も可能かもしれない。
でも考えてみれば災害級と言われる“魔物さん”と同等の事ができるって、誘引剤も相当なものよね。違法薬物に指定されるのも頷けるわ。
・・・ん? 普通に納得しちゃったけどこれ止めないとダメなやつじゃない? まぁ馬車の車内で有頂天になってる今のこの子に何を言っても無駄でしょうけど。
「どう? 上手くいったでしょ? この程度私に掛かれば簡単だったのよ スキルさんは居て当たり前 もっと早くに契約してればよかったんだわっ」
「でもルディア 誘引剤使うって・・・ユシュタファ達が知ったらどう思うかな」
「言ったでしょう? 誘引剤はもう公爵家のものなの アーキア人は関係ないわ それに話が纏まれば彼等も職にありつける モンスターを素手で捕まえてこいって訳じゃないんだから簡単でしょう?」
「簡単? いやいや分かってないよ 僕は実際に追いかけられたからね? 使う方も使われる方も危険だからね?」
「ふん! 何事も慣れよ慣れ 危ないからってやらなければ いつまで経ってもできないじゃない さっ この調子で次に行くわよっ」
「──────ほう アーキア人の集落にねぇ」
「『ええ そこに賭場を作れば彼等はやらずにいられないと思うのです』」
よくもまぁつらつら言葉が出てくるものね。それも誰かが犠牲になるようなアイデアに関して嬉々として打ち込んでるのが表情から伝わるわ。
「『聞けば彼等アーキア人達はギャンブルに溺れて奴隷落ちした者も多いとか 依存症なのは分かりますが 全くの無菌状態と言うのも酷でしょう なので救済措置としての賭場をと』」
〔どうせギャンブルか何かで奴隷になったクズ共でしょう? だったら生かさず殺さず搾り取ればいいんだわ 連中バカだから喜んでお金を落とすわよ〕
「確かにウチの店に出入りする訳じゃないからダメージはない・・・考えたな だがその為には連中の集落が必要 か」
「『バランドール卿と私 双方に利のあるご提案です』」
〔互いに損する訳じゃないんだから乗らない手はないわよね?〕
「まぁあれだな その規模となると話は通さないといけない この旨は此方で公爵家に伝えるとしよう」
「『ありがとう存じます 日々の生活に娯楽は欠かせませんもの 彼等もきっと喜んで受け入れてくれますわ』」
〔当然よね 娯楽から逃れられない連中にとっては蟻地獄でしょうけど それがあいつ等の性なら仕方ないわよ 自業自得ってやつね〕
もう本音と建前じゃなく言葉を変えた本音よね。むしろそんな本音が通じる相手って言うのが考えものだわ。絶対録な貴族じゃないのは分かる。
「─────アーキア人の活用法ねぇ~」
「『はい 以前ファーブ卿は客を沸かせると仰っておられました そこで私一計を案じましたの そもそもアーキア人はこの街で嫌われている・・・ならばそれを利用します』」
「つまりアーキア人の首をハネるって事ぉ?」
「『いいえ 例えるなら美人局みたいなものですわ 謂れのない暴力に晒されたアーキア人を我々が助けるのです』」
「美人局・・・つまり暴行した加害者を捕まえるって事かしら」
「『はい 重要なのはここからです 処刑の場を1つの演目にしてしまいましょう 台本を用意し物語を演じてお客様に生死の判断を委ねるのです』」
「それってつまり・・エンターテイメントって事よねぇ 客に選ばせる・・・参加できるって事じゃない・・・ 演者が奏でる台本の中で磔にされた罪人から漏れる嗚咽と絶叫と怨嗟の呪詛・・・ ヒートアップしたクライマックスに舞う罪人の首
いい・・・いいじゃない イケるわ! 貴女天才ねっ!」
「それ程でもありませんわっ オホホホホ」
「その為にも色々準備が必要ね 集落だっけ? いいわ 我がファーブ男爵家は全面的に協力しようじゃないっ」
「『ありがとう存じます』」
何これ・・・これじゃ完全に悪だわ。わざわざ文字にして見る必要もないけど。て言うか見たくもない。流石の内容にアネットも絶句しているわ。
今更だけどこんな子に力を持たせるのは危険なのでは・・・




