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376・ミストリアの変装

前回のあらすじ


屋敷に留まる事になったアネット一行だが全員そこで使用人の如く扱われてしまう。そんな中ルディアがアーキア人を手中に納める為『常闇の奴隷館』のネイブラを訪ねるのだった。

「ブフッ・・・ウッハッハッハッハッハッハ!! 何だよそれ! おいおいマジかよっ ウヒャッハッハッハ!!」

「凄いな! 水魔法ってそんな事もできるんだ! にしたって・・・ウヒヒヒヒ」

「それにアネット! お前絶対女の子だろ どっからどう見たって女の子だ! 元が女じゃなかったらこうはなんないだろー!」


「ハッハッハ 女は化粧で化けるって言うけどよぉ お前のそれはもうバケモンじゃねぇか」



 僕とマルティナとミストリアで話し合った結果、ルディアに協力する方向で話が纏まった。当然彼女は外に出る事になるのだけど、面が割れてる僕達が堂々と外を歩ける筈がない。そこで単純ながら変装する事になった訳だ。


 その姿を見たユシュタファ達に腹を抱えて笑われてる訳だけど、ここまで笑われるなんて・・・自分がどんな格好になってるのかこの時ばかりは盲目なのが恨めしい。


 彼等が言うように僕は女の子にされている。マルティナ達が妙にノリノリだったのは置いといて、身バレ防止に“盲目さん”をお腹に隠して今は妊婦に扮している。


 まぁ僕はいいんだ・・・慣れっこだし。


 問題はミストリア。彼女は2人のスキルさんを隠さなければならない。さすがに2人分をお腹に隠すとなるとバランス的にも不自然だ。なので・・・



〔だったら不自然に見えなければいいのね〕



 と言うと、何と魔法で出した水で全身を被い始めてしまった。お腹を部分を中心にバランスを整えていった彼女は今はとてつもなくふくよかだ。


 このレベルの人がこの世にいるのか疑わしい程に・・・


 マルティナによると肌の色まで再現してるらしく普段から出してる水の文字も読みやすくする為か色が付いてる。なのでこれもやってやれない事でもないらしい。スキルって不思議だ。


 で、それがユシュタファ達のツボに嵌まり彼等の腹筋を崩壊させ、さっきから笑いの渦が絶えない訳だ。



「イヤだ! アッハッハッハッハッハ! あらあらあらあらっ お似合いじゃないのミストリアさん もうずっとその格好でいたらぁ~? プフッ アーッハッハッハッハ!」



 部屋に入って来たルディアはここぞとばかりにミストリアの変装を貶す。彼女も彼女で笑いの琴線に触れたようだ。もっとも言葉に悪意がなければ聞き流せる軽口なんだけど。



〔私がこんな格好になるのは自分達の為であって貴女の為じゃないわ〕


「まぁいいんだけど・・プフっ そんな豚さんを連れ歩く身にもなってほしいものだわね」


〔はぁ 人の外見を指差して笑うその人格を疑うわ この中で紳士なのはアネットとマルティナだけね・・・マルティナ? 何でさっきからこっちを見ないの?〕


「え その ごめん フフ・・・プフフ」


〔・・・・・・〕



 僕もその・・・意思を纏ったものは色付いて見える訳で・・・でもその事は黙っておこう。









 まぁそんな訳で僕達2人とロダリオはルディアの供回りとして彼女の外出に付き合う事となった。


 何度も言うけど好きでこんな格好をしてる訳じゃない。僕等のスキルでルディアの交渉を成功に導こうと言う魂胆がある。


 公爵家派閥のルンドレン家の影響と、取り分けルディアの名声がハルメリーにも及べば、商業派閥の人達も簡単には手が出せないのではないか、と言うのがミストリアの持論だ。


 貴族の事はよく分からないけど2人の意見が一致したのだから効果はあるんだろう。もっともルディアの僕達を意識する色がどうにも懐疑的なのが個人的に安心できないとこなんだけど・・・



「つまりルディア様は勢力拡大に一石を投じたい その一環としてアーキア人をと」


「そうよっ」


「お言葉ですが彼等に何を期待されてるかは存じませんが お薦めはしかねます」


「どうしてよっ 何か根拠でもあるのっ?」


「そもそも奴隷に落とされるにはそれなりの理由がありますし それにここのアーキア人を束ねられたところで 明確な活用方法が無ければ余計な出費をこさえるだけです」


「う・・・」


〔だったらアーキア人に特権を与えてみたら? 公爵家派閥傘下の1組織として認めるの そして貴女が舵をとれば良いのではなくて?〕


「・・・! それよっ!」


「でもミストリア ルディア個人とか伯爵家の・・とかじゃなくて公爵家派閥の1組織になんてできるの?」


〔認められるには課題は山積みでしょう でも「派閥の」と言う部分が重要よ 伯爵家ましてやルディア本人となると商業派閥の反感を一身に受ける事になるわ リスクは分散させないと〕


「となると認められる為にも有用性を証明しなくちゃだよね・・・ でもその前に彼等は話しに乗るのかな」


「街から出られない彼等に居場所 つまり人権を与えると言うのであれば可能性はあるでしょう しかし利益をあげられなければやはりお荷物でしかありません」


「利益 ん~・・・利益 利益利益利益・・・ね チッ 誘引剤をとられたのは痛手だわ あれに代わる薬はないものかしらっ」



 ルディアはどうにも短絡的な方に意識が向きがちだ。でもそっちにいってはいけない。



「あんな事があっても街のアーキア人はブランディーゴファミリーが囲ってるんでしょ? それを引き入れるって・・相手の顔にまた泥を塗る事になるよね・・・」


「あら? 奴隷契約は解除されてるんじゃなかったのかしら?」


「そうだけど・・・彼等にしてみれば自分のものを盗られたって気持ちになるんじゃない?」


「通常の契約であれば紙面に残しますが奴隷の場合は紋に刻まれます その強制力が裏切れない保証になりますからね 基本的には紋が消えれば契約は解除されたと同義になります」


「だったら問題ないわねっ」


「いや だから 気持ちの問題で・・・」


「後はどうやって実行するかね・・・それと派閥の連中にも・・・ブツブツ」



 ルディアの中ではもう確定事項のようで僕の言葉は耳に入らない。でもこのやり方は相手の恨みを買う事になりそうだけど大丈夫なんだろうか。


 扱う商品が人と言うのも考えものだけど、商売を潰しにかかるのと同じなのだから後々の禍根になるのは必至だ。


 そんな事は微塵も頭にないルディアの色は真っ黒け。政治と道徳は相容れない関係らしい。









「街の混乱は暴走したアーキア人が起こしたもの・・・と言う噂を吹聴しましょう」



 屋敷に戻ったルディアの第一声がそれだった。帰宅の途でずっと考え込んでたと思ったらこれだ。これにはミストリアも言葉を失う。



「アーキア人が問題となったら何とかファミリーも爆弾を抱える事になるんだから手放すしかないわよね? そこを私が掬い上げてやればいいんだわ」


「・・・ちょ ちょっと待って そんな噂が広まったら彼等がどんな目に遭うか───」

「もう決めたのっ それにアーキア人が救われる為の下準備なんだから 彼等だって文句は無いでしょう?」


「いやいやいや・・・文句しかないと思うけど」


「これは私が上に・・・街の縮図を変えるチャンスなの! 憐れなアーキア人を救う機会を見す見す逃す手はないじゃない」



 嬉々として宣うルディアの中は自分の出世でいっぱいなんだろう。言葉の節々に憐れむ気持ちが微塵も含まれないのは今更だけど、道具のように扱われるアーキア人が本当に憐れだ。



「彼等が混乱している最中に根回しをするわ まずはうちの派閥に新たな組織の設立を認めてもらうのよ これはそれまでの時間稼ぎだわ」


〔・・・やるならやるで早めにケリをつけた方がいいわよ この街の性質を考えると話が纏まるまで彼等が残ってる保証はないもの〕



 ミストリアもさらりと怖い事を言う。でも何だろう・・・僕は今悪に加担してる気持ちになっている。





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