375・ルディアの貴族的作戦
前回のあらすじ
商業派閥がルンドレン伯爵に来た事で話し合いを余儀なくされたルディア。街で起きた事件の擦り合いをした結果。矛先がアネットの闘技場での興行と言う方向に纏まった。
「は? ・・・え? ちょ・・・どう言う事よ・・・」
〔やってくれたわね〕
「人の事言えねぇけど お前も大概だよな」
「素直に付き合ってやる必要ないぜ? アネット」
商業派閥の人達と伯爵家の方々が話し合った結果。みごと僕達の正体がバレて僕は彼等に目を付けられてしまったらしい・・・
どこをどうすればそうなるのか分からないけど、彼等に捕まれば僕は街の闘技場で戦わされる事になる。もちろん見せしめ的な意味合いで・・・
「ここにいる事が連中にバレた訳じゃないんだろ? だったら隠れて街を出てけばいいじゃねぇか」
「そうね そうだけど 仮にそうなった場合 連中ハルメリーまで追ってくるわよ? 頭の中は損得勘定で回ってるから利益が出たと思うまで好き勝手やるんじゃないかしら」
「ちょっ・・・! 誰のせいでこうなったと思ってるの!」
「もちろんあなた達のせいよ? 私に歩調を合わせて動いてればこんな事にはならなかったのに 身から出た錆って言うのかしらね こう言うの・・・」
「くっ!」
こればかりはぐうの音もでない。もっともルディアが動けば必ず成功する保証も確証も全くないのだけど・・・
この自信がどこから出てくるのか不思議だ。
〔ナイームを引き渡せばよいのではなくて? ブランディーゴは兎も角 商業派閥の連中は要らないって言ってる訳ではないんでしょう?〕
「おい それじゃ元の木阿弥だぜ ナイームにはきっちり責任をとって貰う これはアーキア人にとって誘因剤から縁を切る禊なんだからな」
「そんなのっ・・ それじゃ・・ どうするのよ・・・」
「簡単よ 勝てばいいんだわ」
〔勝つ? 勝ってどうするの 連中の事だからアネットを手放さないわ 言われた通りに動いてたんじゃ終わりは来ないわよ 勝つは勝つでも 違う切り口で勝たないと・・・〕
「大袈裟ねぇ 連中だって匙加減はわきまえてるわよ アネットが私の庇護下にある以上 必要以上に手を出したりはしないわ」
「お前とは無関係の体で話が通ったんだろ? 都合良すぎだ」
「そんもの後付けでどうとでもなるわよ」
〔そんな甘えが通じる相手が組織を仕切れる訳ないでしょ ・・・ちょっと 考えるわ〕
「ふん!」
今回ばかりは単純に逃げる事ができない。ミストリアもさすがに頭を抱えたか部屋を出ていってしまった。
困った事になった・・・ 商業派閥がその矛先を変えれば今度はヤーデフさんが追われるし、逃げなきゃ僕が狙われる。
話の内容からここにアタリを付けてるだろうから外も歩けない。こうなるとルディアの出方次第で今後の命運が分かれそうだ。
白か黒。
行く先が針山か剣山にしか思えないのは僕だけだろうか・・・
「何をやっているのアネット お茶の出し方はそうじゃないでしょ ・・・ロダリオ お手本を」
「はい まずカップの出し方はルディア様の右側から スプーンは左手に持ち手がくるように」
「う うん・・・あ はいっ」
僕は今何をやってるかと言うと使用人の真似事・・・と言うか本物の使用人のごとく仕込まれている。
こう言うのは本当に本当の使用人の仕事なのに何故かロダリオも隣に並んでルディアの給仕に勤しんでいた。
この扱いに然も当然と疑わない彼は、たぶん普段からこんな扱いなんだろう。貴族なのに・・・
「ちょっと! アネットはここの使用人じゃないんだけど!」
「面が割れてるあなた達を匿う条件として金銭以外で支払えるものって私への奉仕しかないじゃない ちゃんと働けば給金まで出すと言ってるのよ? こんな旨い話があって? 私の寛容さに感謝なさい それよりも窓 汚れてますわよ マ ル ティ ナ?」
「くっ!」
そんな訳で僕達は今、全員で伯爵家邸内でこき使われ・・・労働に勤しんでいる。
僕はルディアの供回り。マルティナは清掃係。ユシュタファ達は力仕事。ミストリアは給水係だ。
適材適所と言えなくもないけど貴族様のお側に僕の存在はどうなんだろう。彼女の父君がこれを見たら罵詈雑言の怒鳴り声が屋敷中に響きそうだ。
「ところでその ルディア・・・様 これからの事はどの様に?」
「今日の予定? お稽古に それが終わったら昼食 その後は────」
「いえ 今後の事についてなんだけど・・あ ですっ」
「今後ねぇ あなたを差し出すのも悪くはないんだけど 嫌われて縁が切れてしまうのも勿体無いしぃ~・・・」
ルディアの僕に向ける感情とこの言い様が、何かこう・・手の上で弄ばれてる気がしてむず痒い。
そんな僕をチラチラ意識する度に背徳的な色が彼女を満たしていくと、僕の中の危機感も不本意ながらも同量に満たされていく。
〔貴女が権威を拡大して相手を黙らせれば型がつくのではなくて? そもそもそれが目的でユシュタファ達アーキア人に声を掛けたのでしょう?〕
「あら? たかだか給水係が貴族様に意見? フフ まぁでもそう言う事ね もちろん先の事は考えてあるわ ・・・奴隷よ 連中のとこにいる奴隷のアーキア達 あいつ等を引き入れるわ」
〔・・・こう言ってはなんだけど この街の奴隷にそこまでの価値があるのかしら 上手くいったとして せいぜい相手への嫌がらせ程度だと思うのだけど〕
「アーキア人はアーキア人で固まるならその性質を利用すればいいのよ スプリントノーゼ そしてハルメリー 両方のアーキア人達を私が掌握するの」
〔そんな簡単にいくかしら〕
「あら ハルメリーはチョロかったじゃない」
〔支配を望まないアーキア人だっている筈よ〕
「かもしれないわね 理想も結構だけど現実を受け入れられない連中なんて所詮は烏合の衆 外で好きなだけ囀らせておけばいいんだわ」
ユシュタファが聞いたらぶちギレそうな物言いだ。でも彼女のアーキア人に対する考え方が垣間見れた気はする。
そう言った価値観を諸々含めて、やっぱり両者の気は合わなそうだ。
「貴女だって思惑があるから協力的なのでしょう? できる事が水を出す以外にある事を期待するわ」
〔・・・それなら得意分野だわ〕
ミストリアの思惑──────
それは公爵家通しの抗争の回避なのだそうだ。商業派閥訪問後、僕達が屋敷に閉じ込められてるここの数日の間にミストリアの考えを聞いた事があった。
〔ケンカって些細な事でも起こるわよね〕
「うん そうだね」
〔ここの人達を見てきたけど ハルメリーの人達とそう変わらないわ もし誘因剤の事や貴方の事でハルメリーが突付かれたらどうなるかしら〕
「どうって ん~ 町通しで言い争いになる?」
〔子供のケンカならね でも大人になると何かを引き合いに出すものよ そして解決にお金とか権利を要求するのだわ〕
「確かに そんな感じするね」
〔問題は欲深いここの連中がハルメリーの中核まで食い込もうとする事よ〕
「中核? ・・・ああ ダンジョン資源」
〔隠し事なんて通しおおせるものでもないわ どこかのタイミングで私達が俎上に乗るでしょう そうなったら冒険者ギルドが ゆくゆくは貴族が出てくる事になる〕
「まあ 資源管理に口出しされたらそうなるかも」
〔連中の事だから形振りなんて構わないでしょうし それこそ何でもやるわ そうなった時私達にとってのネックは家族よ〕
「・・・」
〔だからこの問題を街の外に出したくないの 内々で片付けられるならそれに越した事はないわ だからルディアに協力しようと思うの〕
「・・・うん 分かった その・・・ごめんね 僕の我が儘で皆を巻き込んじゃって」
〔どのみちあの子がユシュタファに声を掛けた時点で問題が起こるのは確定事項だわ そうなったら貴方は助けたいと動くでしょう? 単純に遅いか早いかの話よ〕
僕の中でユシュタファの存在は無視できるものではなくなってるからね。でもルディアと言う問題児に協力するのは起爆剤を肥大化させるのと同じでは?
爆発するなら人気のないとこでしてほしいけど、僕の首には彼女の鎖が巻かれてる・・・
夢半ばで無理心中はごめん被りたいな───
「で でもルディア・・様 具体的にはどうのように? 相手だって相当警戒してると思うんだけど・・です」
「私だって直接乗り込むような真似はしないわ 外から埋めて自ら来たくなるようにさせるのよ」
「はあ・・・そんな手が」
「まぁ見てなさいアネット・・・って 見えないんだったわね ごめんなさい フフフ」
「それは難しいでしょうね」
「どうしてよっ!」
奴隷と言えば革新的手法で経営しているバードラットの支店『常闇の奴隷館』どうやらここにアーキア人達を押し付けようと言う魂胆だったらしい。
人のものは自分のもの。正しく貴族然とした鏡のような立ち振舞いだけど対処に当たるネイブラさんもこれには引いている。
「私達の店は人並みの給与に期間を設け 個人の育成を視野に入れた運営をしています なのでそんな大量に引き受ける事は経営的にも現実的も不可能です
それにこの街はほぼタダ同然の労働力で成り立っておりますので それを崩すとなると土台を崩すも同然 果たして静観する貴族様が居られるでしょうか」
「うっ・・・そ それを何とかするのが商人でしょう! そもそもあなた店がやってる事じゃない!」
「手前共は十分周囲に配慮しております 街で1番忌避されるのは均衡を崩す者 ブランディーゴファミリー内で起きた事件はバランスを崩すに足る出来事でした 彼等がタダで引く選択肢はないでしょうね」
「何がバランスよ! この私が大丈夫と言ったら大丈夫なの!」
何が大丈夫なのかは分からないけど、どうやら彼女の頭の中の貴族脳は万策尽きたようだ。的が外れて彼に当たり散らしてる。
〔全員を雇う必要はないんじゃない? 重要なのは奴隷=先がない と言う常識を覆す噂が立てばいいのよ 正直時間は掛かるけど色を変えるならゆっくりと・・・だわ〕
「そう言う事でしたら そ・・・ え? もしかして・・ミストリア 様?」
〔何かしら〕
あ~・・まぁ困惑するよね。僕達が屋敷の外に出る条件として正体がバレないよう変装してるんだから。
しかも不本意な姿に・・・




